施設研究ニュース

2023年9月号

軌道変位データの同時分布に着目した木まくらぎ連続締結不良の検知手法

1.はじめに

 木まくらぎの腐朽等によって軌間保持機能が低下した(以下,締結不良)まくらぎが連続して存在すると,列車通過時に軌間が拡大し,軌間内脱線が発生することがあります.
 軌間内脱線は近年でも度々発生しており1),これを予防すべく行われるまくらぎの目視検査は徒歩で行われているため多大な労力を要します.そこで本研究では,軌道検測車により測定される軌道変位データを用いて,データの統計的な特徴から木まくらぎの連続締結不良を検知する手法を構築しました2,3)

2. 軌道変位データの基礎分析

 脱線にまで至る木まくらぎの連続締結不良箇所における軌道変位データの統計的な特徴を調べるために,軌間内脱線の発生直近に測定された軌道変位データの基礎分析を行いました.本分析で対象とする軌道変位項目は,実軌間の変位量である「軌間変位」のほか,図1に示す軌間拡大の発生メカニズムを鑑みて,内軌と外軌の「通り変位」とそれらの差である「通り変位内外差」としました.
 表1に,実際に脱線が発生した曲線(以下,脱線曲線)と同じ半径の急曲線区間内(緩和曲線を含む)の全データにおける軌道変位各項目の記述統計量を示します.いずれの項目も尖度が正規分布の3より大きいことから,分布の裾が厚い(平均から外れた値の発生する確率が正規分布で予想される確率よりも高い)ことがわかります.また,歪度が0より大きいことから,各データは分布が左右非対称ではなく,正値を右側とした場合,右側に外れ値を取りやすい特徴を持っていると考えられます.
 図2に,脱線曲線における軌道変位項目の組み合わせによる2次元分布を示します.ここでは,分布の形を見るために平均と標準偏差で標準化したデータを示しています.同図より,青で示す脱線箇所以外のデータは,グラフの45度線付近に集まっており比較的強い正の相関にあると言えます.一方,赤で示す脱線箇所のデータは,平均や正の相関から外れていることがわかります.

3. 木まくらぎ連続締結不良の検知手法

 前章で確認した脱線発生直近の軌道変位の2次元分布上の特徴を利用して,軌道検測車で測定される軌道変位データを入力に,木まくらぎ連続締結不良に対する異常度を出力する手法を構築しました.異常度の評価方法としては,図3で示すマハラノビス距離の距離尺度による方法と,図4に示す2次元分布形状を推定して確率的に評価する方法のいずれかを適用することを想定しています.分布推定を行う後者の方法は,前者の方法と比較して,適用対象とする線区の軌道変位データの分布を事前に詳しく調べる必要がありますが,分布の歪みや尖りを考慮して外れ値をより精度よく評価できると考えられます.

4. 実地検証

 基礎分析とは別の木まくらぎ構造を有する線区において,提案手法を適用して異常度を算出し後日実施した現地調査結果と比較することで,本手法による連続締結不良の判定結果の妥当性を確認しました.また,異常度が大きかった箇所については,図5で示すように列車前頭画像を用いた木まくらぎ劣化度判定システム4)によるまくらぎ連続不良の判定結果と整合することも確認しました.

5. おわりに

 本研究では,軌道変位データを用いて木まくらぎ連続締結不良を検知する手法を構築しました.今後は,構築手法のシステム化や上記の画像解析技術と連携した軌道管理手法について模索する予定です.

<参考文献>

1) 運輸安全委員会ダイジェスト第28号,
https://www.mlit.go.jp/jtsb/bunseki-kankoubutu/jtsbdigests/jtsbdigests_No28.html,2023年8月2日確認.
2) 昆野修平:軌道変位データの統計分析による木まくらぎ連続不良の検知手法,
日本鉄道施設協会誌,Vol.61,No.5,pp.354-357,2023.
3) 昆野修平,永原裕一:複数項目の軌道変位データの同時分布に着目した木まくらぎ連続不良の検知手法,
鉄道工学シンポジウム論文集,No.27,pp.9-16,2023.
4) 坪川洋友,糸井謙介,長峯望,合田航,前田梨帆:列車前方画像による木まくらぎの劣化度診断, RRR,Vol.79,No.7,pp.50-55,2022.
(https://www.rtri.or.jp/publish/rrr/2022/rrr07.html,2023年8月2日確認)

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 昆野修平

発生バラストの盛土材料への適用

1.はじめに

 バラスト軌道では,バラストの経年劣化が進行した場合や土砂災害により外部から土砂が流入した場合に,新品のバラストに交換され,発生したバラストは廃棄されています(以下,発生バラスト).この発生バラストを盛土材料として再利用することができれば,環境負荷の軽減とともに,産廃コストの削減が期待できます.
 しかし,発生バラストを盛土に用いた場合の列車荷重による累積沈下特性は明らかにされていませんでした.そこで,発生バラストに対する繰返し三軸圧縮試験の結果を用いて,盛土の累積沈下量を数値解析により推定しました.ここでは,推定方法および推定結果について報告します.

2.累積損傷度理論を用いた盛土の累積沈下量の推定方法

 累積損傷度理論は,列車荷重の応力増分による塑性ひずみの累積を考慮して盛土の剛性を軟化させることで,繰返し載荷による盛土の累積沈下量を推定する方法です.「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物(以下,土構造標準)」付属資料221)では,累積損傷度理論と二次元有限要素解析をハイブリッドさせた方法(以下,数値解析)が示されています.本研究では,数値解析による発生バラストの盛土の累積沈下量を推定しました.
 図1に数値解析による盛土の累積沈下量の推定方法を示します.手順1では,繰返し三軸圧縮試験により得られた載荷回数と鉛直ひずみに関する近似式より累積沈下特性パラメータa2およびmを設定します.ここで,a2は初期沈下に関するパラメータ,mは繰返し回数の影響に関するパラメータです.
 手順2では,手順1で設定した累積沈下特性パラメータを基に,まず,図2中の式(1)を用いて,応力増分に応じた繰返し載荷による累積ひずみε1pを算出します.ここで,a1は初期せん断応力比に応じて定まるパラメータ,Nは繰返し載荷回数,SRdは繰返し載荷によるせん断応力比,νはポアソン比です.次に,ε1pを図2中の式(2)に代入して累積せん断ひずみγpを算定し,繰返し載荷後の累積せん断ひずみγpmaxを図2中の式(3)に代入して軟化せん断弾性係数G*を求めます.手順3では,G*を用いて列車荷重を作用させた二次元有限要素解析から,列車走行による繰返し載荷後の盛土の累積沈下量を算出します.

3.盛土材料の累積沈下特性に関する繰返し三軸圧縮試験

 試料は,発生バラスト3種類に加えて,比較用として新品バラスト1種類および締固め度90%以上に締め固めることで容易にK30値が70MN/m3以上となる材料であるB群材料相当の稲城砂1種類の合計5種類としました.試料の粒度分布および締固め試験E-b法(JIS A 1210-2020)の結果を図3に示します.三軸圧縮試験に用いる供試体の寸法は,粒子の最大粒径を考慮して,新品バラストおよび発生バラストに対しては直径300mm×高さ600mm,稲城砂に対しては直径100mm×高さ200mmとしました.
 また,円柱供試体は最適含水比で締固め度90%を目標に作製しました.繰返し三軸圧縮試験の試験ケースおよび試験で得られた累積沈下特性パラメータを表1に示します.別途実施した三次元有限要素解析において,列車荷重(軸重160kN)により上部盛土表面に作用する鉛直応力が49kPaであったことから,繰返し三軸圧縮試験では応力振幅が50kPaとなるように荷重条件を設定しました.試験条件は,拘束圧20kPa,載荷周波数1Hz,載荷回数5万回とし,圧密排水条件としました.

 図4に繰返し三軸圧縮試験および近似式で推定した結果を示します.図4より,載荷回数1万回時の除荷時の鉛直ひずみは,ケース①(新品バラスト)が0.8%程度,ケース②(稲城砂)が1.6%程度,ケース③(発生バラスト)およびケース④(発生バラスト)が0.1%程度,ケース⑤(発生バラスト)が0.8%程度でした.

4.供用期間中の盛土の累積沈下量の推定

 発生バラストを用いた盛土の累積沈下量を推定するため,土構造標準に示されている実軌道の三次元解析モデルを参考に,数値解析を行いました.数値解析には,図5に示す二次元解析モデルを用い,盛土ののり面勾配を1:1.8,高さを6mとし,単線のバラスト軌道としました.路盤はクラッシャラン,上部盛土は3章で検討した5種類の試料,下部盛土は稲城砂としました.盛土材料の累積沈下特性パラメータには,表1に示した値を使用しました.
 なお,盛土内の年間の含水比の条件は,3章と同じ最適含水比を想定しました.その他の物性値には図5中に示した値を使用し,年間累積通トン数は,640万トン(年間の通過軸数56.5万回)としました.作用荷重は,列車速度100km/hにおけるレール継目部の衝撃係数1)1.5および軌道長手方向のレール等による荷重分散を考慮して,奥行き1mあたりに換算して設定しました.解析結果を図6に示します.100年後の上部盛土の累積沈下量は,ケース①(新品バラスト)が4.7mm程度,ケース②(稲城砂)が3.0mm程度,ケース③(発生バラスト)が0.6mm程度,ケース④(発生バラスト)が0.8mm程度,ケース⑤(発生バラスト)が5.2mm程度でした.

5.おわりに

 発生バラストを用いた盛土の累積沈下量を数値解析に求めたところ,100年後の累積沈下量は,盛土内の含水比が最適含水比であるとした場合に,最大で5.2mm程度であり,軌道変位に与える影響が小さい結果でした.

参考文献

1)(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物,2013.7.
2) Goto et.al: A simple gauge for local small strain measurements in the laboratory, Soils and foundations, 31(1), pp. 169-180, 1991.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 景山隆弘
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 中村貴久

鉄道土木構造物の健全度の判定手引き(橋りょう編)の一部改訂について

1.はじめに

 鉄道土木構造物の健全度の判定手引き(橋りょう編)(以下,本手引き)は,平成19年制定の「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)」1)に示されている健全度の判定例を,図解や変状の写真等を活用し具体的に表現した,健全度判定を支援する資料として,平成31年に鉄道技術推進センターより発刊され,鉄道事業者の維持管理業務に活用されています.
 一方,「鉄道コンクリート構造物の維持管理の手引き」2)が令和2年に発刊され,それに対応した「鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物 —令和4年付属資料改訂版—」3)(以下,維持管理標準(令和4年版))が発刊されるなど,維持管理の実務に資する新たな知見が蓄積されています.
 そこで,本手引きのコンクリート構造物に関連する箇所について,維持管理標準(令和4年版)への準拠および内容の充実化を行いましたので,報告します.

2.健全度の判定手引きの概要

 本手引きの目次構成を表1に示します.本手引きは,健全度の判定の手順,方法および判定目安について記載されています.図1に本手引きの主な改訂事項を示します.維持管理標準(令和4年版)の参照先の明記に加え,改訂前は0.2mmの判定が不明確であったひび割れ幅の記載方法を設計で用いるひび割れ幅の限界値0.3mmを判定基準とした記載方法に変更する等,改訂を行いました.
 また,重点調査箇所として,水掛かり箇所等の追加を行いました.水掛かり箇所は,桁受け部や電柱基礎部など,降雨後も乾きにくい箇所を想定しています.
 さらに,近年,老朽化によりコンクリート片のはく落による第三者被害が問題となっている高欄を対象として追加し,健全度の判定例の数を増やしました(図2).

3.「付属資料(健全度の判定例の根拠)」の追加

 本手引きの付属資料として,「健全度の判定例の根拠」を追加しました.図3に例として,RC桁の記載事項を示します.健全度の判定例は,変状の種類・程度だけでなく,進行性や想定される変状原因,それによる残存耐力の低下,公衆安全性などを考慮して設定されています.全般検査は,目視で確認される変状情報のみで健全度を判断いたしますが,根拠を理解することで,同様の変状の見落としを防ぐことが期待できます.
 本資料では,健全度の判定例の「状態の例」の記載に対して,想定される変状原因や,変状による耐荷力の余裕等について記載することで,健全度の判定を行う際に参考となる資料としました.

4.おわりに

 本手引きのうち,今回ご紹介したコンクリート構造物に関する改訂を反映させた一部改訂版を,鉄道技術推進センターのウェブサイトより2023年度中に掲載予定です.また,今後,鋼橋りょうの改訂および基礎・抗土圧構造物の追加を予定しています.本手引きが,鉄道コンクリート橋りょうの健全度判定に少しでも役立てば幸いです.

<参考文献>

1)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物,2007.1
2)鉄道総合技術研究所編:鉄道コンクリート構造物の維持管理の手引き,2020.3
3)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)
コンクリート構造物—令和4年付属資料改訂版—,2022.5

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 石橋奈都実
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 渡辺健,山上晶子

発行者:柴田 宗典 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:北川 晴之 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 構造力学】