施設研究ニュース

2018年6月号

鉄道沿線の強風箇所抽出方法

1.はじめに

 鉄道の強風災害を防ぐために沿線に風速計が設置され,この風速計で観測された瞬間風速値により運転抑止や徐行規制などの運転規制が行われています.また,特に風が強い箇所や車両の転覆耐力が低くなる箇所を中心に防風柵や防風壁などの防風設備が設置されています.これらの風速計や防風設備を設置するためには,鉄道沿線で強い瞬間風速が頻繁に発生する箇所(以下,瞬間風速の強風箇所)を線的あるいは面的に把握することが推奨されます.
 強風が吹きやすい箇所を調べるためには,鉄道沿線で長期間にわたり高密度な風観測データがあることが理想的です.しかしながら,鉄道沿線の風速計は数km~十数kmの間隔で設置されており,この間の風速値を知ることはできません.また,瞬間風速が長期間で観測・記録されている気象庁のアメダスのデータでも,最大瞬間風速の収録期間は多くの観測点でここ10年間程度であること,またアメダス観測点は必ずしも線路近傍にあるとは限らないことから,風速の観測データだけでは風速を面的に知ることや,瞬間風速の強風箇所を推定することは難しいと考えます.
 その一方で,コンピュータ技術の発展により,気象現象の数値シミュレーションを用いて風速を面的に求め,強風箇所が推定されています.例えば,風力発電の風車の適地選定においては地上30m~70m程度での風速値が面的に求められています.しかしながら,この風速値は時間的に平均された値であり瞬間的な風速ではないこと,また鉄道車両が走行する地上付近の風速値ではないことから,鉄道沿線での瞬間風速の強風箇所の抽出にこの方法をそのまま適用することは難しいと考えます.そこで鉄道総研では,数値シミュレーションで求める平均的な風速と,地形因子解析により求める突風率(平均風速から瞬間風速を求める指標)とを組み合わせ,鉄道沿線の瞬間風速の強風箇所を抽出する手法を開発してきました.本稿ではその方法について紹介します.

2.数値シミュレーションの利用

 強風が吹きやすい箇所を抽出するには,過去に発生した多くの強風事例での風速や風向の面的な分布を用いることが望ましいと考えられます.面的な風速や風向の分布を求める手法の一つに数値シミュレーションがあります.本手法では過去10年間に発生した強風事例100事例をもとに,数値シミュレーションを用いて強風箇所を抽出することとしました.
 まず,風,温度,湿度,雲の状態などの気象に関する物理量を計算する「気象モデル」を用い,数百km四方の領域において3km四方に区切った各格子での風向風速の分布を求めました.なお,ここで得られる値は3km四方の領域での平均的な風向風速となりますが,この3km四方の領域の中には尾根や沢といった地形があることもあり,風の吹き方は地形により異なります.そのため,気象モデルで得られた風速値について,地形の影響による風速の増加や減少の効果を見積もる必要があります.そこで,細かな地形での風の流れを計算し,その分布を求める「気流モデル」を用い,気象モデルで求めた3km四方の領域内における風速の増加や減少の度合を200m間隔で求めました.最後に,気象モデルと気流モデルの2種類のモデルの結果を組み合わせ,鉄道沿線における風向風速の分布を200m間隔で求めました.
 各強風事例で得られた200m間隔での風速分布をもとに,極値統計の手法を用いて平均風速の再現期待値(50年といったある期間で一度吹くような強風の風速値)を求め,平均風速が大きい傾向にある箇所を推定しました(図1).

3.瞬間風速での評価

 冒頭で述べたように,強風による鉄道の運転規制では瞬間風速が用いられていることから,瞬間風速が大きい傾向にある箇所を推定することが必要です.そのため,前節で求めた平均風速から瞬間風速へ変換する必要があります.これにはある時間内に観測された瞬間風速の最大値(最大瞬間風速)と平均風速との比を表す値である突風率を用いました.突風率は地形の影響を大きく受けるため,地形の状況(地形因子)と,風観測の結果で得られた突風率との相関の高さや寄与度を分析する地形因子解析を行い,地表面の起伏,地表面の凹凸具合,海と陸の領域の面積比などといった地形因子から突風率を求める推定式を作成しました.この推定式の作成には北日本の気象庁アメダスで得られた日最大瞬間風速と日最大風速,ならびに各観測点の周辺の地形因子を用いました.この推定式で求めた日最大瞬間風速と,実際に観測された日最大瞬間風速との関係を図2に示します.地形因子解析により求めた突風率から推定した最大瞬間風速が観測値を概ね表していることがわかりました.
 この結果を用いて,平均風速の再現期待値から最大瞬間風速の再現期待値を求めることができるようになり,この値が大きい箇所が瞬間風速の強風箇所であると考えられます.最大瞬間風速の再現期待値の算出例を図3に示します.図3のような情報を用いることで風速計や防風設備の設置箇所を客観的に評価できるようになります.

4.おわりに

 今回述べた方法により得られる強風箇所は強風をもたらす気象現象や,尾根や沢といった地形が風の流れに与える影響は考慮されていますが,盛土や高架橋などの鉄道構造物や線路周辺の個々の建物が風の流れに与える影響は考慮されていません.今後は,これらの影響も考慮したうえで,強風に対して警戒を要する箇所を客観的に抽出する方法の開発を進める計画です.

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 福原隆彰      
担当者:防災技術研究部 気象防災研究室 高見和弥,荒木啓司

落葉による粘着力低下メカニズムの解明

1.はじめに

 山間線区の勾配区間では,秋季の落葉による車輪の空転・滑走が発生し,列車の定時運行に支障をもたらしています1).対策を講じるために,落葉による車輪の空転・滑走のメカニズムを明らかにする必要があります.本研究では,所内試験線において山間線区のレール面状態を再現した後,試験車両による力行試験とブレーキ試験を実施し,落葉による粘着力低下メカニズムを検討しました.

2.所内試験線における車輪すべり状況の確認

 図1に示すように,所内試験線の直線区間に全長約20mの試験区間を設定しました.試験車両は,R291系電車(2両編成)を使用し,各軸に滑走防止弁が取り付けました.力行試験とブレーキ試験条件は,表1に示すとおりです.走行試験を行う前に,多様な樹種の枯葉を混ぜたものをレール面に敷いて山間線区のレール面状態を再現しました(図2).計測値としては,動台車の軸速度や列車走行速度などを求めたほか,動台車(3軸目)の接線力係数相当値を求め,それの最大値を粘着係数と見なしました.

 レール面状態と車輪のすべり状況の関係を図3に示します.レール面に落葉や黒色付着物が存在する場合は,乾燥条件では車輪の大きなすべりは見られないが,湿潤条件では大きくすべる状況が確認されます.特に黒色付着物が濡れている状態では試験区間に留まらず,試験区間外にも頻繁に起こります.

3.レール面黒色付着物の粘着係数の評価

 レール面に生成する黒色付着物に着目し,乾燥および湿潤条件下の粘着係数を評価しました.レール面の黒色付着物をできるだけ均一の膜厚にする必要があるため,水と落葉を粉砕・混合したペーストを所定量(10mℓ/m)を試験区間(20m)にわたりレール面へ均一に塗布しました(図4).力行試験とブレーキ試験で得られた乾燥条件,湿潤条件と雨条件下の粘着係数の平均値を図5に示します.参考値として,レール面に黒色付着物が存在しない場合の粘着係数評価値も同図に示します.数回の走行試験で得られた粘着係数の平均値を見ると,乾燥条件下の粘着係数に比べて,湿潤条件下が大きく低下することがわかります.

4. 落葉による空転・滑走の発生メカニズムの検討

 所内走行試験で得られた結果より,落葉が粘着状態に及ぼすメカニズムは,次のように推定されます(図6).秋季の山間線区では,軌道内に舞い落ちた枯れ葉は,列車通過時に車輪とレールに挟まれ,踏みつぶされることでレール頭頂面に付着します.さらに,朝露,霜などの水分が適度に供給されることにより,葉に含まれる成分(タンニンなど)とレール鋼との反応が繰り返され,次第に強固な黒色付着物(タンニン鉄,リグニン,糖類などが含まれる)が形成され,時間が経つと共に黒色付着物の膜厚が大きくなります.雨天や早朝時間帯の結露,霜により,レール面に生成された黒色付着物は水分を吸収し,表面がペースト状態になるため,列車通過時に車輪とレール間の粘着係数が著しく低下し,空転や滑走を起こし易くなります.

5.まとめ

 ① 車輪とレールの間に落葉が介在する場合は,乾燥条件に比べて湿潤条件下の粘着状態が悪く,車輪の空転や滑走が発生し易くなります.さらに,レール頭頂面に黒色付着物が生成され,かつ湿潤状態になると,粘着係数が著しく低下し,車輪の空転や滑走が多発しやすい状態となります.一方,特定の区間に黒色付着物が生成されると,その前後の区間にも黒色付着物が車輪により転写されます.
 ② 落葉が粘着状態に及ぼすメカニズムについて,以下のように推定されます.車輪とレール間に落葉が介在した状態で列車が通過すると,落葉が潰されてレール面に付着します.その後,昼晩の温度差によるレール面状態の変化(乾燥⇔結露),およびレール面上で列車通過が繰返されると,葉の成分はレール鋼と反応し,黒色付着物が生成されます.湿潤条件下の黒色付着物の粘着係数は,乾燥条件下の粘着係数に比べると,半分以下になります.

参考文献

1) 菅原 衛:“山間線区における空転や滑走に関する研究”, 土木学会第67回年次学術講演会, VI-495, pp.989-990,2012.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 陳 樺

防水天井から吊られた仕上天井の設計用地震力算定法

1.はじめに

 鉄道駅は不特性多数の方が利用されることから,駅舎天井の耐震安全性を高めることは重要です.一方,平成25年の建築基準法改正に伴って,法の解釈や技術上の留意事項が取りまとめられた天井耐震設計法1)が示されました.しかし,駅舎天井にこの天井耐震設計法を適用するためには,駅舎天井が一般建物とは異なる天井支持構造形式となる点を考慮して設計用地震力算定法を算定する必要があります.その中の一つとして,高架下駅のように,漏水対策のために高架下に防水折板(以下,防水天井)を設置し,仕上天井をこの防水天井から吊り下げる二段天井形態となっている場合がありますが(図1),仕上天井の地震時応答が不明なため,設計用地震力算定が困難でした.そこで,防水天井から吊られた仕上天井の動的振動実験を実施し,設計用地震力算定法を提案したので報告します.

2.振動台実験

 振動台上に設置した支持架構に,二段天井を設置し,振動台実験2)を行いました.試験体の概要を図2に示します.加振方向は仕上天井の層剛性の異なる2パターン(野縁受け方向,野縁方向)です.入力地震動は位相の異なる建築告示波3波(ランダム、八戸、神戸)です.実験により得られた支持架構の最大加速度と,防水天井および仕上天井の最大加速度の関係を図3に示します.同じ支持架構最大加速度で比較すると,入力地震動の位相の違いによりばらつきはあるものの,仕上天井の最大加速度は防水天井よりも大きく,二重振り子となって仕上天井の応答が増幅していることが分かりました.

3.二段天井の設計用地震力算定法

 実験結果から防水天井と仕上天井の連成の影響を考慮した設計用地震力を算定する必要があることが分かりました.厳密にはモーダルアナリシスを行う必要がありますが,ここでは簡便に算定することを目的に,防水天井の設計用地震力については,連成固有周期をもつ1質点系として求めた設計用震度に防水天井と仕上天井の合計質量を掛け合わせることとしました.また,仕上天井は,防水天井からの増幅を建設省告示第1793号のせん断力係数の高さ方向の分布係数(以下,Ai係数)を用いて算定することとしました.算定法の具体的な流れを図4および以下に示します.
① 2質点系の連成1次および2次モード固有周期(mT1,mT2)を求めます.仕上天井および防水天井それぞれ単体の固有周期(Tw,Tc)が既知の場合には,以下の式(1)により連成固有周期を求めます.

ここに,

② 天井耐震設計法に示す応答スペクトル法から各モードの設計用震度(kh1,kh2)を算出します.
③ 防水天井の設計用地震力Qwを以下により求めます.
mT2mT1≦0.1sの場合:天井耐震設計法の天井が剛である場合の設計用震度にMw+Mcを乗じます.
上記以外の場合:Qw=max(kh1,kh2)・(Mw+Mc)
④ 仕上天井の設計用地震力QcをAi係数を用いて以下により求めます.
 Qc=Ai・Qw・Mc/(Mw+Mc)

4.算定法の精度検証

 二段天井を模擬した振動台実験結果と,上記算定法によって算出した設計用地震力の比較を表1に示します.比較するにあたっては,振動台実験の天井支持架構の応答加速度を入力動と想定しています.算定法と実験値を比較すると,概ね近い値で安全側に層せん断力を評価できていることが分かります.

5.おわりに

 防水天井から吊られた仕上天井の応答増幅効果を振動台実験により確認し,防水および仕上天井の設計用地震力算定法を提案しました.今後は,本検討の内容やその他の駅舎天井特有の事項の検討結果を併せて,駅舎天井の耐震設計に資する資料として取りまとめる予定です.

参考文献

1) 国土技術政策総合研究所,建築研究所:建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説(平成25年10月版),2013
2) 山田聖治,清水克将,三木広志:防水折板と仕上天井を有する高架下二段天井の振動台実験 その1~2,日本建築学会大会(中国)学術講演梗概集,pp.553-556,2017

執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将
担当者:構造物技術研究部 建築研究室 三木広志
    鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 山田聖治