2023年度10月号

車上計測した軌道変位による桁たわみ推定法

1.はじめに

 鉄道橋の維持管理では,その性能を把握するために,列車通過時の橋りょうのたわみ(以下,桁たわみ)の計測値が利用される場合が多くあります.一方,地上からの桁たわみの計測は桁下状況によっては多くの手間と時間を要するため,より効率的な手法として橋りょう上を走行する列車上で得られたデータによる桁たわみの推定法の開発を進めています.ここでは,すでに日常の保線業務で利用されている営業車検測で得られた先頭および最後尾車両の2つの軌道変位を用いた桁たわみ最大値の推定手法について紹介します.

2.軌道変位による桁たわみ推定の基本原理

 まず,編成列車の先頭と最後尾で計測した軌道変位から桁たわみを推定する原理を説明します(図1).図1は編成列車の先頭と最後尾台車近傍で軌道変位を計測する場合の概念図を示します.先頭車両が橋りょうに進入したとき,先頭車両よりも前には車両はいないため,桁たわみは先頭台車分の荷重のみとなります.その後ある時点で後方の台車が橋りょうに進入するため,2台車分の荷重が作用し,桁たわみは増大します.このため,先頭台車で計測した橋りょう上の軌道変位は後半に増大します.対照的に,橋りょう進入時にすでに前方に荷重が存在する最後尾の台車で計測した軌道変位は,前半に桁たわみが増大します.桁たわみが軌道変位に及ぼす特徴を模式的に示したものが図1下段です.この原理により,先頭と最後尾車両で計測した軌道変位の差は,桁たわみの一部であり,各荷重の大きさと荷重間隔(車軸配置)がわかれば,先頭と最後尾の軌道変位の差分から桁たわみを理論的に導出できます.

3.先頭と最後尾の軌道変位による桁たわみ推定法

 上記の基本原理を念頭に,図2の理論モデルにより先頭および最後尾の軌道変位の差分と支間中央の桁たわみ最大値の関係を理論的に分析しました.その結果,桁たわみが準静的であると仮定すれば,桁たわみを含む先頭と最後尾の軌道変位の差分最大値は,支間中央の桁たわみ最大値に比例すること,その比例係数は桁剛性に依存せず,桁支間長のみに依存することが判明しました.このため,各支間長において図2の理論モデルにより軌道変位の差分最大値と桁たわみ最大値を計算し,その比(変換係数K’)を算出しておけば,実測された先頭と最後尾の軌道変位の差分に変換係数を乗じることで桁たわみ最大値を推定できます.また,桁たわみ以外の軌道変位は先頭と最後尾で変化しないため,差分処理によりこれらは相殺されます.これにより,桁たわみ以外の軌道変位の影響を抑制したうえで桁たわみの推計が可能です.
 図3は台車装架型の軌道検測装置を対象とした場合の変換係数の例を示します.ここでは波長20~80mの復元波形を対象としています.

4.実路線検証の結果

 本手法は数値解析,および実路線での検証を行っています.ここでは実路線での車上・地上計測による検証結果の一例を示します.
 図4に先頭および最後尾車両で計測した橋りょうA(コンクリート桁)付近通過時の軌道変位とその差分を示します.理論と同様に支間中央対称に正負の差分値が見られ,軌道変位の差分最大値は0.48mmとなります.橋りょうA(支間長58m)の変換係数7.21を乗じることで桁たわみ最大値は3.47mmと推定されます.
 表1に橋りょうAを含む2橋りょうでの桁たわみ推定値と地上計測による検証結果を示します.先ほどの橋りょうAの地上からの桁たわみ実測値は3.22mmであり,誤差8%程度で軌道変位から推定できています.また,支間長の異なる橋りょうB(支間長21m)においても推定値の誤差は10%以下であり,良好な精度で桁たわみ最大値を推定できることを確認しています.

5.まとめ

 本稿では営業車検測で得られた先頭および最後尾車両の2つの軌道変位を用いた桁たわみ最大値の推定手法の原理と実路線検証結果について紹介しました.なお,本手法は準静的な梁理論に基づくため,列車通過時に共振が生じるような共振橋りょうは適用対象外となっています.現在は,共振橋りょうに対応した軌道変位からの桁たわみ推定法への拡張とともに,より一般的に利用されている2台車方式の軌道検測車で得られた軌道変位を活用した桁たわみ推定法の構築を進めています.

参考文献

1) 松岡弘大,田中博文:車上計測された軌道変位に基づく鉄道橋の準静的な桁たわみ推定法,土木学会論文集,Vol.79,No.15,22-15051,2023.

執筆者:鉄道力学研究部   構造力学研究室 松岡弘大
担当者:情報通信技術研究部 情報解析研究室 服部紘司
    軌道技術研究部   軌道管理研究室 田中博文

線路近傍の植生が秋季のレール結露に及ぼす影響

1.はじめに

 車両の空転・滑走の要因の一つであるレール結露は,レール温度が露点温度を下回ることで発生します(図1).夜間のレール温度は周囲の地物が発する放射熱が少ないほど放射冷却により低下しやすいため,線路近傍の植生とレール結露は密接に関係すると想定されます.本稿では,車両の空転・滑走対策の一環として,山間部のレール温度,露点温度,気温,湿度,および周囲からの放射熱を測定し,線路近傍の植生がレール結露に及ぼす影響を検証しました.

2.測定方法

 測定期間は2021年11月3日~12月14日,測定箇所は図2に示す2箇所です.箇所①は左側が山の法面に面していますが,右側は道路と河川で視界が開けた箇所です(図2(a)).箇所②は箇所①から300m下り方で,左側が山の法面,右側が雑木林に面しています(図2(b)).
 図3に示すとおり,レール温度はレール頭部側面に貼付けた熱電対とデータロガーにて,気温と湿度は線路脇に設置した温湿度計にて,測定期間中に10分間隔で継続して測定しました.また,図1に示すとおり,露点温度TDを気温TAと湿度の測定値から推定し,さらに,露点温度とレール温度の差TEを求め,レール結露の評価指標としました.周囲からの放射熱は,図4に示すサーモグラフィカメラによる天空の放射熱分布の測定装置1)をレール頭頂面に据付け,11月3日の早朝に測定しました.

3.測定結果

 図5にレール温度,気温,気温と湿度から算定した露点温度,およびレール結露の評価指標TE(=露点温度-レール温度)を示します.TE>0はレール温度が露点温度より低い,つまりレールに結露が生じていることを意味します.レール温度は概ね日出直前に最も低くなり,11月初旬の日最低レール温度は約10℃でした.その後レール温度は徐々に低下し,11月末では日最低レール温度は5℃以下となりました.線路右側が道路である箇所①と雑木林である箇所②とを比較すると,箇所①の方が箇所②より日最低レール温度は約2℃低い傾向が見られます.また,気温とレール温度は概ね近い値であり,レール温度ほど顕著ではないですが,箇所①の方が箇所②より日最低気温が低い傾向が得られました.測定期間中のレール結露の発生時間(TE:露点温度-レール温度>0となった時間)は箇所①が258時間,箇所②が30時間と,箇所①の方が10倍近くレール結露が発生していたことが分かります.
 図6に,夜間の最低レール温度と最低気温の比較を天候別(晴,曇,雨)に示します.同図より,最低レール温度は最低気温と概ね一致しますが,箇所①では最低気温より低い傾向が見られ,特に気温が4℃以下の低温ではその傾向が顕著となりました.図1に示すとおり,露点温度は気温以下であり,レール結露はレール温度がその露点温度よりさらに低い場合に発生します.よって,レール温度が気温よりも低い箇所①は,箇所②よりもレール結露が発生しやすい環境であると言えます.
 図7に,周囲から受ける放射熱分布の2時ごろと4時ごろの測定結果を示します.箇所①では線路右側(方位角φ=-90°~90°)に樹木等が存在せず,道路と河川を挟んで山から赤外線を受けますが,箇所②では近傍の雑木林から放射熱を受け,この範囲の放射熱が大きくなりました.図7の放射熱分布を積分してレールが受ける放射熱の総量を算定したところ,箇所②は箇所①の約1.1倍となりました(図8).

4.まとめ

 以上の結果より,線路近傍の植生が少ない箇所①では,レールが周囲から受ける放射熱が小さいため,夜間のレール温度が低く,かつレール温度が気温よりも下がりやすくなり,レール結露が頻繁に発生することが分かりました.今後は,3D地形データや植生マップデータ,および気象情報からレール結露の発生状況を予測し,車両の空転・滑走対策に役立てる予定です.

参考文献

1) 浦川文寛,渡辺勉,辻江正裕:沿線地物の赤外線量分布の測定及びその夜間レール温度 との関係,第29回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2022),S2-7-2,2022

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 浦川文寛
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 辻江正裕,幸野真治

数値シミュレーションを用いた沿線地盤振動の低減対策の提案フロー

1.はじめに

 沿線環境保全のため,必要に応じて列車走行に伴う地盤振動(以下,鉄道振動という)の振動低減対策が実施されることがあります.振動低減対策には,主に車両対策,軌道対策,構造物対策,地盤対策があり,それぞれ多くの事例があります.しかし,振動低減対策を現地で実施する際の対策工の選定は,既往の事例や技術者の経験的な判断に依存するところが大きく,対策工を施工したとしても想定の振動低減効果が得られないことがあります.
 そこで,対策工施工時の振動低減効果のばらつきを抑制することを目的として,振動増大の要因への対策に基づく沿線地盤振動の低減対策の提案フローを作成しました.

2.沿線地盤振動の低減対策の提案フロー1)

 図1に今回作成した沿線地盤振動の低減対策の提案フローを示します.このフローは,地盤振動対策を検討している箇所(以下,検討箇所という)において,対象線区の平均的な地盤振動と比較して地盤振動を増大させる要因(以下,振動増大の要因)を抑えることで鉄道振動を低減するという考えに基づいて作成しました.
 これまでの研究により,①数値シミュレーションの結果を基に,振動源の特性,構造物の振動特性,地盤の波動伝播特性の3つを評価することで,着目した周波数帯域の振動増大の要因を抽出できること,②抽出した振動増大の要因に対し,数値シミュレーションにより繰返し計算を行うことで振動低減対策の提案につながることの2つが明らかとなったため,その成果をまとめたものが今回の提案フローです.

3.提案フローの実施手順

 まずこのフローでは,検討箇所の鉄道振動を測定し,対策の必要性の有無を判断します.対策が必要な場合には,その検討箇所の鉄道振動を再現したシミュレーションモデルを作成します.そのモデルを基にシミュレーション解析を行い,検討箇所の振動源の特性,構造物の振動特性,地盤の波動伝播特性の3つ特性を評価します.
 次に,評価した3つの特性のうち,いずれの特性に振動増大の要因があるかを判断し,その振動増大の要因を抑える対策案を決めます.
 さらに,対策案の効果をシミュレーションにより確認し,必要な振動低減効果が得られる場合にはその対策案を実施する対策として提案します.また,必要な振動低減効果が得られない場合には,対策案を加えたモデルで振動源・構造物・地盤の各特性を再度評価し,新たな振動増大の要因を判断します.
 このように,抽出した振動増大の要因に基づき振動低減対策を検討することで,検討箇所に合った振動低減対策を提案することが可能です.

4.提案フローの実施例

 図2に示すラーメン高架橋が連続する区間を検討箇所として,提案フローを使用し振動低減対策を検討した例を示します.この箇所では,16Hzおよび20Hz帯域の地盤振動が卓越していたため,それらの周波数の振動の低減を目的に対策工を検討しました.
 数値シミュレーションにより求めた検討箇所の振動源の特性,構造物の振動特性,地盤の波動伝播特性の3つ特性を図3~図5に示します.図3~図5をみると,構造物の振動特性の14.0Hzおよび20.0Hzにピークがあり,これが振動増大の要因の可能性があります.そこで,対象のラーメン高架橋の14.0Hzおよび20.0Hzの振動形を確認し,スラブ端部と中間スラブ(図2)の変形が大きいことがわかりました.
 次に,対策として隣り合う高架橋同士のスラブ端部を剛結した場合と,剛結した上で中間スラブの剛性を5倍とした場合について検討を行いました.図6に対策前の地盤振動と2つの対策案を想定した場合の地盤振動の相対振動レベルを,対策前の16Hz帯域を0dBとして示します.図6から,2つの対策ではいずれも16Hzおよび20Hz帯域の地盤振動を低減できていることがわかります.
 今回の沿線地盤振動の低減対策の提案フローでは,以上のような流れで,検討箇所において卓越する周波数の振動を対象に低減対策の検討を行います.

5.おわりに

 今後は,提案フローの簡易化や適用事例を増やすことにより,実務での適用性の向上を進めたいと考えています.

参考文献

1) 野寄真徳,横山秀史:数値シミュレーションを用いた列車走行に伴う地盤振動の低減対策の提案方法,土木学会論文集,79巻,2号,論文ID:22-00197,2023

執筆者: 防災技術研究部    地質研究室 野寄真徳
担当者: 防災技術研究部    地質研究室 横山秀史

鉄道構造物に用いる流動化処理土の設計施工法マニュアルの改訂

1.はじめに

 流動化処理土は,発生土の再生利用の促進を図る,環境に配慮された工法であるとともに,施工時の流動性の良さ(図1)から狭隘な箇所の埋戻しに適用が可能であるなど汎用性の高い工法です.1990年代以降,一般的な土木工事において地下構造物の埋戻しや,地下空間の空洞充填などに使用されてきました.鉄道分野では,開削トンネルの上部埋戻しやトンネルインバート部の埋戻し等に流動化処理土が適用され,鉄道総研は2005年に「鉄道構造物に用いる流動化処理土の設計施工法マニュアル」(以下,「旧マニュアル」)を発刊しました.旧マニュアルでは,鉄道盛土材料としての適用はなく,列車荷重が作用しない地下空間への埋戻しに限定されていました.列車荷重が作用する条件下では,コンクリート材料の代替としてのトンネルインバート部への適用のみと使用範囲が限定されていました.
 近年の建設土工事では,狭隘箇所の盛土あるいは災害時の盛土復旧工事など,盛土材料を締固めるために必要な重機を搬入・使用することが困難な現場が増加しております.このような盛土材料の締固め作業が困難な現場に対する急速化・省力化施工を実現する盛土構築法として,まき出し・転圧による締固め作業が不要となる流動化処理土を用いた盛土構造物としての適用性を検討してきました.今回,流動化処理土の鉄道土構造物への適用を拡大し,マニュアルを改訂しました(以下,「改訂マニュアル(案)」).

2.改訂の概要(土構造物への適用拡大)

 改訂マニュアル(案)の目次構成を表1に示します.旧マニュアルでは,列車荷重が作用しない地下空間への埋戻しと,列車荷重が作用する条件下としてはトンネルインバート部のみに適用が限定されていました.今回の改訂マニュアル(案)では,適用範囲を「列車荷重が作用する土構造物」に拡大し,「列車荷重を受ける部位への埋戻し土」および「型枠等を利用して地上部での鉄道盛土材料の代替材料」として適用する場合の仕様を,近年の研究成果に基づき示しました.図2に,その適用例を示します.なお,流動化処理土を土構造物に用いる場合には,有道床軌道での使用を対象としております.
 列車荷重を受ける鉄道盛土への適用としてトンネルインバート部と同仕様とすると非常に高強度であり,製造できるプラントが限られ,調達性に課題がありました.盛土材料の代替としての調達性や,鉄道盛土の路床改良における安定処理土や一般的な地下空間の埋戻し土として用いる場合の強度を考慮したうえで,列車荷重に対して十分な変形性能が得られる盛土材料の代替となる流動化処理土の仕様を構築しました.なお,トンネルインバート部への流動化処理土の適用条件は,コンクリートの代替機能という特性から従来通りとし,見直しはしていません.
 流動化処理土を地上部で使用した場合には,乾燥による強度低下が懸念されるため,長期的な湿潤状態が維持されるように流動化処理土の表層に粒度調整砕石による保護層を設けることで乾燥から防護する構造を提案しました(図3).また,流動化処理土を地上部の盛土として施工する場合には,乾燥による強度低下に加えて,型枠が必要となり施工性が劣るため,これまで地上部での適用は殆どありませんでした.今回,流動化処理土を用いた盛土の急速施工を目指し,簡易かつ残置可能な型枠構造についても検討し,その一例を参考資料に取りまとめました.さらに,狭隘な箇所での盛土施工を実現させるため,袋体型枠と定着用補強材を併用した,のり面の急勾配構造についても提案し,参考資料に取りまとめました(図4).
 これまでの検討結果より,列車荷重を受ける埋戻し土や盛土部として用いる場合には,表2に示す要求品質を満足するように配合設計をするように規定しました.設計基準強度は,載荷応力比(列車荷重による鉛直応力/流動化処理土の一軸圧縮強さ)が0.15以下となるように設定します.また,水浸状態においても変形量を微小に留めるため,設計基準強度に加えて処理土密度を1.60g/cm3以上と密度に関する基準を新たに設けました.
 また,盛土の災害復旧等での活用を想定し,既設盛土等の既設土構造物や既設地山・素地との接続部が,構造弱部とならないように留意点を整理し,構造の一例を参考資料に取りまとめました.

3.おわりに

 改訂マニュアル(案)は,鉄道総研の検討結果に基づき,流動化処理土の適用範囲拡大による土構造物施工の省力化を実現するために作成いたしました.一方で,列車荷重が作用する条件下での実施工・利用実績がまだ少ないことからマニュアルは暫定案として刊行しています.今後は,実施工やその後の動態観測結果などを踏まえて,広く鉄道事業者のご意見を伺い,必要に応じて改正を図ることとして,タイトルに(改訂案)を付しています.意見照会期間は2026年3月までとしております.今後,ご利用していただく過程で,疑問等がありましたら,担当研究室にご連絡頂ければと思います.本改訂マニュアル(案)が,鉄道事業者に広く用いられ,開削トンネルの上部埋戻しやトンネルインバート部の埋戻しに加えて,列車荷重作用下での埋戻し土としての適用や,被災した盛土の災害復旧としての適用などに少しでも役立てば幸いです.

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 倉上由貴
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 中島進

発行者:柴田 宗典 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:西脇 博也 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災】