8. 前後乗り心地と救援運転時の安全性を向上する旅客車用シリコン緩衝器

 現行の旅客車用ゴム緩衝器は、乗り心地を考慮して初圧がないものが一般的ですが、一方で、列
車救援における列車座屈のリスク低減には、緩衝器の吸収エネルギを増加させる初圧の付与が有効
です。このように乗り心地向上と座屈リスク低減では相反する緩衝器特性が求められ、これらを両
立できる緩衝器の開発が望まれています。本研究では、車両相互の前後運動状況に応じて適切な減
衰力を得るため、緩衝器内部に減衰要素を封入した旅客車用シリコン緩衝器を開発しました(図1)

 鉄道総研所内において2 両編成の車両にシリコン緩衝器を取り付け、このうち1 両(T 車)のブ
レーキをカットして走行試験を行い、車両の前後振動が素早く減衰することを確認しました(図2)。
また、現行のゴム緩衝器と比較して前後振動の乗り心地レベルが最大約6.5dB 低減しました。さ
らに、8 両編成同士の救援運転を模擬した数値解析の結果、速度10km/h から非常ブレーキ相当の
減速度を与えた厳しい条件でも、すべての連結部位で連結器に作用する前後力(自連力)の最大値
が低下するとともに、車体が浮き上がって脱線に至る部位がなくなり、空気ばねを排気しない条件
での救援運転時の安全性が向上することを確認しました(図3)。このように、現行のゴム緩衝器
を開発したシリコン緩衝器に置き換えることで、前後乗り心地向上と列車座屈のリスク低減の効果
を得ることが可能となります。