鉄骨造旅客上家の耐震診断法

1.概要

特定鉄道施設の地震に対する安全性を向上させるための耐震補強の実施について努力義務を課す耐震省令が平成25年4月1日から施行され、旅客上家(図1)がその対象となりました。しかし、既存の鉄骨造旅客上家に対して、耐震性能の評価方法はこれまで定まっていませんでした。

そこで、構造の形態や種別に応じた検討を行い、「鉄骨造旅客上家の耐震診断指針」としてまとめました。この指針は、2017年に鉄道技術推進センターで公開して以来、鉄道事業者で広く運用されています。

2.鉄骨造旅客上家の耐震診断指針の特徴

鉄骨造旅客上家の耐震診断指針は、想定される大規模地震時に既存鉄骨造旅客上家の倒壊を防ぐ性能を確保することを目的とした耐震診断に適用します。 旅客上家は地平上家と高架上家を対象としています。地平上家は地震被害事例が少なく復旧対応が高架上家に比べて容易ですが、高架上家は高架橋との連成を考慮した高度な診断が要求されることから、それぞれ異なる耐震診断ルートとしています(図2)。

3.旧国鉄標準タイプ旅客上家の耐震性能評価

旧国鉄では、「昭和44 年度版旅客・貨物上家標準図」および「昭和58 年度版小型旅客上家標準図」において設計された旅客上家が140パターンあり、いくつかの架構形状に分類されます(表1)。 これらの標準図から、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」に準拠した耐震診断を実施した結果、ほとんどが耐震診断基準を満足することがわかりました。そのため、現地調査で設計標準との整合性を確認することで診断を省略してよいこととしました。また、旅客上家に特徴的な柱梁接合部の耐震診断における評価事例を取りまとめました。

4.高架上家における地震力設定法

一般建築物では、建築物へ作用する地震力の算定方法に略算法と精算法があります。高架橋と高架上家のように鉛直方向の質量や剛性が大きく異なる場合には、略算法では危険側の評価になる可能性がありますが、精算法の算出過程は煩雑でした。そこで、高架上家の特徴を考慮した簡便な地震力設定法を提案しました(図3)。

また、耐震診断の結果によっては、高架上家に作用する地震力が過大に設定され、耐震補強量が大きくなる事例がみられています。耐震診断で対象とする大地震時においては、高架橋が降伏に至ることで、高架上家への入力が低減すると考えられます。そこで、耐震補強量の軽減を目的に、高架橋の降伏を考慮したより合理的な設定法を開発し2022年6月に「鉄骨造旅客上家の耐震診断指針第3版」を公開しました(図4)。

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参考文献

  1. 公益財団法人鉄道総合技術研究所編:鉄骨造旅客上家の耐震診断指針、2017
  2. 三木広志、石川大輔、清水克将:旅客上家の影響を考慮した鉄道高架橋への地震力の設定手法、鉄道総研報告、第36巻、第4号、pp.55-61、2022