施設研究ニュース
2025年2月号
高速用分岐器における新たな軌道変位整備基準値の検討
1.はじめに
旧国鉄では,1981年に実施した分岐器速度向上試験で基準線側を最高速度120km/hで通過する分岐器(以下,「高速用分岐器」という)において,継目部やクロッシング部等で著大横圧の発生が確認されました.これを受け,高速用分岐器では対策として表1に示すような継目部の目違い,クロッシングの軌間,バックゲージの値に高速用分岐器以外の一般分岐器よりもさらに厳しい値が,また,軌道変位(高低,通り,水準)は一般区間の最上級線区の最も厳しい値が整備基準値として設定されました1).現在も一部の鉄道事業者で同じ値が用いられていますが,著大横圧の発生原因である継目部やクロッシング部は表1で示した個別対策により構造上,著大横圧が抑制可能となっていることを鑑みると,軌道変位(高低,通り,水準)の整備基準値は必要以上に厳しい値が設定されている可能性があります.
そこで本研究では,力学的根拠に基づいた軌道変位の整備基準値を検討するため,分岐器車両走行シミュレーションモデルを構築し,高速用分岐器における軌道変位が車両運動や分岐器部材の損傷に及ぼす影響を評価しました.
2.分岐器走行シミュレーションモデル
構築したシミュレーションモデルの概要を図1に示します.対象の分岐器は10番片開き分岐器としました.本研究では,軌道変位が車両運動に及ぼす影響については車両の挙動評価に広く用いられるマルチボディダイナミクスを用いたシミュレーションモデル(図1(a))を構築しました.また,軌道変位が分岐器部材の損傷に及ぼす影響については部材の応力や変位の評価に適する3次元動的FEMを用いたシミュレーションモデル(図1(b))を構築しました.なお,構築したシミュレーションモデルの妥当性は,現地試験結果との比較を行い,確認しました.
3.解析条件
2章で示したシミュレーションモデルを用いて,軌道変位をパラメータとした走行解析を実施しました.設定する軌道変位は高速用分岐器で厳しく設定されている高低,通り,水準変位とし,形状はコサイン波1波,波長は10m,振幅は5~25mm,走行速度は120km/hとしました.また,評価項目は,在来鉄道速度向上マニュアル2)に示されている項目を参考に,車両運動は走行安全性に関して脱線係数目安値超過時間,車両動揺に関して上下・左右動揺,分岐器部材の損傷は軌道部材に関してトングレール弾性部応力,レール締結装置応力,関節ポイントのポイント後端継目部(ヒール部)のレール締結ボルト応力(以下,「ヒールボルト応力」という),信号部材に関して鎖錠かん変位,スイッチアジャスタ応力,フロントロッド応力としました2).なお,軌道変位の設定位置は事前に試計算を行い,各項目の値が最大となる箇所としました.
4.解析結果及び考察
軌道変位が車両運動および分岐器部材の損傷に及ぼす影響の評価結果一覧を表2に示します.現行の整備基準値以下(高低13mm,通り13mm,水準11mm)においては,全ケースで限度値を下回っており,問題はみられないことがわかりました.次に,軌道変位が大きくなった場合の影響について,高低変位および水準変位は最大で25mmの条件においても,全ての項目で限度値を下回る結果となりました.ただし,通り変位では,図2に示すように,車両運動に関して脱線係数超過時間は18mm,左右動揺は22mm,分岐器部材の損傷に関してヒール部ボルト応力は21mm,鎖錠かん変位は18mmを超えると限度値を超過することがわかりました.これらの結果は,通り変位が存在する箇所を車両が高速通過することにより,車両が左右方向に変位し,トングレール先端部や関節ポイントヒール部に接触することで,著大横圧が生じることに起因しているものと考えられます(図2).
5.おわりに
本研究では,分岐器車両走行シミュレーションモデルを用いて,高速用分岐器における軌道変位が車両運動や分岐器部材の損傷に及ぼす影響について評価しました.その結果,高低変位および水準変位については最大25mmの条件においても限度値を下回っており,問題はみられませんでした.そのため,これらの整備基準値は一般分岐器と同程度(高低23mm,水準18mm)まで許容することが可能と考えられます.今後は,本研究で得られた知見を用いて,鉄道事業者における高速用分岐器の軌道変位整備基準値の改正を支援する予定です.
参考文献
1) 日本鉄道技術協会:高速化のための軌道管理手法の研究報告書,pp.188-197,1985.
2) 鉄道総合技術研究所編:在来鉄道運転速度向上マニュアル,pp.88-89,1993.
執筆者・担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 塩田勝利
縦まくらぎによるレール継目部の高低変位抑制効果
1.はじめに
縦まくらぎはバラストに対してレール方向に連続した面で接触するため,レール方向に離散的に接する一般的なPCまくらぎ(横まくらぎ)に比べて荷重分散性に優れています.このため,バラスト軌道の保守省力化を目的として,バラスト軌道の一般部だけではなく,構造物境界部やレール継目部など分岐器部を除く様々な箇所で敷設されています.近年では,構造物境界部における高低変位の2年間のモニタリングにより,高低変位進みが横まくらぎの1/5程度になることなどが実証されています1).一方,レール継目部については,敷設箇所数は増えているものの,その効果を定量的に検証した事例がほとんどないのが実態です.
そこで本研究では,営業線のレール継目部に縦まくらぎを敷設し,1年間のモニタリングにより高低変位抑制効果を実証したのでご紹介します.
2.縦まくらぎの構造概要
(1) 縦まくらぎ長さがまくらぎ下面圧力に及ぼす影響に関する数値解析による検討
近年わが国で広く普及している縦まくらぎの標準的な長さは6m程度です.縦まくらぎによる荷重分散効果を十分に発揮するにはある程度の長さが必要であると考えられますが,一方で施工性の観点から短い方が軽量で有利となります.そのため,レール継目部のみに縦まくらぎを1体だけ敷設する場合などは,6mよりも短い縦まくらぎが敷設されることがあります.しかしながら,バラスト軌道におけるバラストの沈下の進行と相関があるまくらぎ下面圧力などに着目した検討が行われているわけではなく,その妥当性については未検証でした.そこで,縦まくらぎ長さがまくらぎ下面圧力に及ぼす影響をFEMによる数値解析により検証することにしました.
図1に構築したFEMによる数値解析モデルを示します.レール,まくらぎははり要素,軌道パッド,路盤はばね要素,バラストはソリッド要素でモデル化しました.縦まくらぎのレール締結間隔は0.625mです.列車は近年の一般的な在来線車両(輪重40kN,軸距2.1m,車両長20m)とし,速度90km/hで走行させました.レール継目はモデル中央に設けました.
図2に縦まくらぎ長さが6.15m(レール締結数:10締結)の場合のまくらぎ下面圧力の最大値の分布を示します.当然のことながら,レール継目直下のまくらぎ下面圧力が最も大きくなり,そこから離れるにしたがって小さくなっていくことが分かります.
図3に縦まくらぎ長さがまくらぎ下面圧力に及ぼす影響を示します.縦まくらぎ長さは6.15m(10締結)から3.03m(5締結)まで変化させて解析を実施しました.図より,縦まくらぎ長さが変化してもまくらぎ下面圧力への影響は小さいことが分かります.以上より,本研究では縦まくらぎ長さを標準的な長さ6.15mより短くし,3.65m(6締結)にすることとしました.
(2) 縦まくらぎの設計
図4に縦まくらぎの概要を示します.前節の検討より,縦まくらぎ長さは3.65mとしました.今回の設計では列車荷重をEA-17とするとともに,これらに対して動的・衝撃成分による割増を考慮する変動輪重係数,および縦まくらぎのバラストによる支持状態が通常より悪化することを想定した不支持区間を設定して設計曲げモーメントを算定しました.具体的な変動輪重係数の値はひび割れ(外観)に関する使用性の照査では2を,曲げ破壊に関する安全性の照査では4としました.また,不支持区間の長さは2締結分(1.25m)としました.以上の条件で求められた設計曲げモーメントに対して,使用性の照査ではひび割れ発生モーメント,安全性の照査では鋼材降伏モーメントおよび終局モーメントを設計限界値として縦はりの断面を決定しました.具体的には,高さ185 mm,幅460mmの長方形断面で,公称径4.22mmの3本鋼より線が18本配置されています.締結装置はレール継目直下には継目部用,その他の箇所には一般部用の板ばねとしました.
3.縦まくらぎによるレール継目部の高低変位抑制効果
図5に縦まくらぎ敷設前後の状況を示します.定尺レール直線区間に縦まくらぎを敷設しました.当該箇所は年間1~2回つき固め等の補修を実施している比較的多頻度の保守箇所でした.列車の年間通トンは1140万トン程度です.縦まくらぎの敷設においてはクレーン等は使用せず,山越器により横移動し,レールの破線等は行わず,バラストの肩部を掘削して施工基面側より縦まくらぎを挿入しました2).なお,まくらぎ交換に合わせてバラストの交換も実施しました.
図6に縦まくらぎと横まくらぎの高低変位の比較を示します.軌道整備を行った日の高低変位を0mmとしました.その結果,横まくらぎでは敷設後240日で高低変位が8mm程度進行したのに対し,縦まくらぎでは敷設後390日で高低変位が3.5mm程度に抑えられ,縦まくらぎによるレール継目部の高低変位抑制効果を実証することができました.なお,この効果にはバラストの交換による影響も含まれていると考えています.
4. おわりに
本研究で縦まくらぎによるレール継目部の高低変位抑制効果を定量的に示しました.縦まくらぎの営業線への敷設,高低変位の取得においては東日本旅客鉄道株式会社殿の多大なるご協力をいただきました.ここに感謝の意を表します.
参考文献
1) 渡辺他:構造物境界部における縦まくらぎ軌道による変位抑制効果,鉄道総研報告,Vol.36,No.7,pp.51-57,2022
2) 山下他:営業線敷設試験による継目用縦まくらぎの軌道変位抑制効果の検証,新線路,pp.37-39,2024.4
執筆者・担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉
ラーメン高架橋の柱梁接合部の照査と配筋合理化
1.はじめに
鉄道RCラーメン高架橋の柱梁接合部(以下,接合部)は,一般に鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)1)(以下,コンクリート標準)等に規定された構造細目に従って設計がなされています.構造細目に従うことで照査を省略でき,設計作業が省力化されます.しかし,接合部に求められる特性が今まで明らかとなっていなかったため,構造細目に従うことで過剰な量の鉄筋の配置を余儀なくされていた可能性があります.
本稿では,非線形有限要素解析(以下,FEM)を用いた,接合部の照査方法の構築や,その方法に基づいた構造細目の見直しによる配筋の合理化について紹介します.
2.FEMによる柱梁接合部の照査
検討には,図1に示すように,ラーメン高架橋の接合部と,その周辺の柱および梁を取り出した3Dモデルを用いました2).このモデルは,一般的なRCラーメン高架橋の諸元のおよそ半分の寸法を有し,荷重に対する変位や鉄筋のひずみが実験結果と整合することを確認しています2).輻輳して配置されている接合部の鉄筋は,定着確保のためのフックや隅角部の折り曲げ(曲げ内半径)加工がなされており,これらの形状が接合部の耐力に影響することから,こうした鉄筋の形状を再現した離散鉄筋要素を用いています.
構造物を構成する接合部は,設定した作用に対して構造物が安全性,使用性,復旧性を満足するように,照査する必要があります.図2に,本検討で設定した,要求性能に対する接合部の限界状態を示します.
図3に,ハンチの無いモデルで,閉じる側載荷時の解析結果と,各イベントにおける実験のひび割れ図を示します.図中には,図2に示す損傷の状態1)に従い,定めた部位・部材の損傷レベルを示しています.ここで,正規化累加ひずみエネルギーーWnとは,コンクリート標準に示される損傷指標であり,ーWn=1500µとなる時が,コンクリートの圧縮損傷に対応します.使用性(保守)および復旧性(修復性)の限界状態は,修復の難易性を考慮して,損傷レベル1に設定することとし,その限界値を「鉄筋の降伏」としました.また,安全性の限界状態は破壊とし,その限界値を「接合部の着目した領域のコンクリートがーWn=1500µに達した時」としました.また,図3より,ーWn=1500µに到達した時は,概ね荷重が最大値に達した時と一致しています.すなわち,柱や梁と同一の指標や限界値を用いて,接合部の状態を評価できることを確認しました.
以上,設定した損傷レベルに対して,接合部をFEMにより照査する方法を示しました.この方法は,開く側載荷時や他の諸元に対しても適用可能です.
3.柱梁接合部の配筋合理化
2.で示した方法を用いて,接合部の構造細目の見直しを検討します.接合部に存在する鉄筋に関する構造細目は,梁や柱の鉄筋の定着確保や,柱や梁に対して接合部が先行して損傷しないように定められてきました.これにより,RCラーメン高架橋の骨組解析では,接合部は一般に剛域に設定して実施します.ここでの剛域とは,接合部の剛性が,柱や梁の剛性に比べて十分に大きい状態を指します.そこで,本検討では,接合部のせん断変形角が急増する点を,接合部の剛性が低下する点と捉え,柱や梁の軸方向鉄筋の降伏が,接合部のせん断変形角の急増に先行すれば,剛域が保持できるとみなしました.
FEMにより,ハンチ鉄筋量や帯鉄筋量,曲げ内半径の大きさ等に着目してパラメータスタディを行い,接合部の耐荷機構や耐力を確認しました.一例として,図4に,ハンチ鉄筋量が異なるケースの解析結果を示します.開く側載荷時には,ハンチ鉄筋が引張力を負担し,引張側の軸方向鉄筋と同等の役割を担うため,ハンチ鉄筋の本数が少なくなるにつれて,耐力が小さくなります.また,ハンチ鉄筋が3本以上配置されていれば,接合部の破壊に対して柱の軸方向鉄筋の降伏が先行するため,接合部は剛域を保持できることを示唆しています.一方で,閉じる側載荷時には,ハンチ鉄筋は圧縮側となるため,ハンチ鉄筋の本数は影響がありません.
パラメータスタディの結果から,2.で示した要求性能を満足し,接合部が剛域を保持できる諸元を整理し,鉄筋に関する構造細目を見直しました.図5に,従前の配筋例と本検討で提案する配筋を示します.帯鉄筋量およびハンチ鉄筋量ともに,概ね従前の半分程度に削減することが可能となりました.
4.おわりに
本稿では,FEMを用いたRCラーメン高架橋の柱梁接合部の照査および,配筋の合理化について紹介しました.接合部の新しい配筋は,「配筋の手引き」を通して活用できます.
参考文献
1) 国土交通省監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物) 第Ⅱ編 橋りょう,2023.
2) 鈴木瞭,中田裕喜,渡辺健,村田裕志:直交するはりの諸元がRCラーメン高架橋の柱はり接合部の耐荷機構に及ぼす影響,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,Vol.24,2024.
執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 鈴木 瞭
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田 裕喜,渡辺 健
発行者:後藤 恵一 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:大石 知希 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道管理】