施設研究ニュース
2026年3月号
車上データに基づく軌道座屈安定性の簡易評価手法
1.はじめに
夏季の酷暑時に発生する軌道座屈を限られた保線技術者で防止していくためには,座屈が懸念される箇所の効率的な抽出手法を開発していく必要があります.近年,軌道検測車に設置されたレーザーの反射時間から距離を測定できるLiDARセンサにより取得された線路周辺形状により,建築限界測定が可能となっており,レール面の位置や道床形状も把握できる環境が整備されつつあります.そこで本研究では,これらの車上データから軌道座屈安定性を簡易に評価可能な手法を構築しました.
2.道床横抵抗力の推定
軌道座屈を防止するためには,道床横抵抗力を線区全体で安定して確保することが必要となります.その道床横抵抗力は,道床バラスト不足と浮きまくらぎの影響を評価して推定します.まず,道床肩のバラストの不足箇所の判定については,既開発の列車による建築限界測定手法から得られるデータを基に推定します.この手法は,軌道検測車に搭載された複数のLiDARセンサの情報を基に,軌道中心基準で三次元点群を得る手法です.得られた道床肩部の三次元点群データから,道床横抵抗力を推定するアルゴリズムを構築しました.その手順は以下の通りです.
(1)線路長手方向1m区間の三次元点群を抽出する
(2)抽出した点群を線路横方向の二次元断面と見なすことで処理負荷を軽減する
(3)雑草や杭等の誤検知防止のため,線路横方向50mm毎に点群の鉛直方向の高さの中央値を道床表面と推定する
(4)推定した道床表面に対し,予め設定した道床形状区分との形状マッチングを行う
(5)判定した道床形状区分の道床横抵抗力を出力する
ここで,道床形状区分は,道床形状と道床横抵抗力との対応関係を示します.三次元点群から本アルゴリズムで判定した道床形状区分の一例を図1に示します.
判定した道床形状で期待できる道床横抵抗力は,極限釣り合い法に基づく手法により推定し,その妥当性を1/5模型を用いたまくらぎの1本引き試験で確認しました(図2).模型試験の結果,標準的な道床形状で約10%,まくらぎ端部が露出している箇所で約20%の誤差で予測できることがわかりました.この手法を用いて,想定される多数の道床形状に期待できる道床横抵抗力(道床形状区分)を予め求めておくことで,道床横抵抗力を推定することが可能となります.本研究では,道床肩幅,余盛の有無および道床肩不足を変数とし,各変数が道床横抵抗力に与える変化割合が10~15%となるよう,96パターンの道床形状区分を設定しました.
3.座屈危険度の算定
推定した道床横抵抗力と軌道検測結果を基に,座屈安定性を簡易評価します.通常のロングレールの設計と保守管理では,飛び移り経路が存在せず,座屈の恐れがない温度に相当する最低座屈強さ(図3,C点)を用いていますが,通り変位による座屈安定性の低下を受けにくい基準となります.本研究では,通り変位による影響を考慮して保守の優先度を決める観点から,飛び移り座屈が発生する座屈発生温度を基準としました(図3,A点).この座屈発生温度は,道床横抵抗力と通り変位から求められる軌道平面曲率の最大値に基づく推定手法1)を用いて推定します.図4に軌道の最大平面曲率と座屈発生温度の関係を示し,この関係から座屈発生温度を簡易に求めることが可能となります.
座屈が相対的に懸念される箇所を示す指標として,新たに「座屈危険度」を提案しました.この指標は,推定した座屈発生温度に対する想定される最高レール温度上昇量の比として定義し,実質的な座屈安全余裕の低下を示すことになり,保守を優先的に投入する必要がある箇所を効率よく抽出できると考えます.
本手法による抽出例を図5に示します.例では,線区で軌道の平面曲率が高い箇所を抽出し,その周辺区間において得られた道床形状から道床横抵抗力を推定し,最大曲率に基づき座屈発生温度を求めて座屈危険度を算出しています.本手法により,座屈危険度が高い箇所を抽出し,座屈が発生しやすい酷暑期の前までに保守を投入する計画を立てることが可能となり,これにより座屈に対する安全性を高めることができます.
4.おわりに
本研究では,車上データに基づく軌道座屈安定性の簡易評価手法を構築しました.本手法を活用していくためには,軌道変位の検測頻度,検測波長帯域および曲率を定義する波長を適切に設定する必要があります2).適用範囲拡大に向けて,今後はこれらの残された課題について評価を継続する予定です.
参考文献
1) 山岡大樹,他:通り変位を考慮したロングレールの座屈発生温度の推定法,施設研究ニュース,No.394,2023.6
2) 斉藤大樹,他:著大通り変位発生箇所における通り変位の経時変化の分析,第32回鉄道技術連合シンポジウム(J-RAIL2025),S2-5-5,2025
執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 西宮裕騎
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 中村貴久
軌道技術研究部 軌道管理研究室 斉藤大樹
地中梁の有無が群杭の水平地盤抵抗に与える影響
1.はじめに
地震による影響などの水平力に対する杭基礎の設計においては,杭の水平地盤抵抗を地盤ばねでモデル化することが一般的です.地盤ばねの剛性は水平地盤反力係数によって評価されますが,杭間隔が狭い群杭基礎の場合には,群杭効率と呼ばれる地盤を介した杭同士の相互干渉の影響(群杭効果)を表した低減係数が,考慮されます.この群杭効率の評価法は,各設計基準において提案されていますが,一般的な条件である地中梁もしくはフーチングがある条件を対象として整理されています.一方で,図1に示すような,橋上駅等の線路上空建築物やパイルベント構造を用いた高架橋等のような,地中梁の無い条件を対象とした研究は行われていませんでした.
そこで本稿では,地中梁やフーチングの無い杭基礎おける群杭効率を評価することを目的に,遠心載荷実験および3次元弾塑性有限要素法(以下,「FEM」)による解析を行い1),地中梁の有無が群杭効率に与える影響とそのメカニズムを明らかにしたので報告します.
2.遠心模型実験
表1に実験ケース,図2に模型の概要図を示します.模型は1/50スケールです.Case Aは地中梁の無い条件,Case Bは地中梁のある条件を想定したケースで,Case A-S,Case B-Sは単杭(2本杭),Case A-G,Case B-Gは群杭(6本杭)です.なお,単杭は,群杭と杭頭固定度を揃えるために,杭間隔を広くして群杭効果を小さくした2本杭としています.地中梁が無い場合,杭と柱が一体として挙動するため,Case Aの模型は杭と同じ断面・材料の柱も含めています.Case BはCase Aと根入れ深さが揃うように,杭先端をかさ上げしています.
3.FEMによる模型実験の再現解析
図3に解析モデルを示します.解析領域は土槽の実大スケールと同様として,対称条件を考慮した1/2モデルとしています.解析モデルや実験模型の詳細については文献1)をご覧ください.
図4に,実験と解析で得られた各ケースの載荷点での荷重—変位関係を示します.どのケースにおいても実験結果に対応する解析結果が得られ,解析モデルの妥当性を確認しました.また,図5に各ケースの群杭効率を示します.実験と解析の両者で,地中梁のあるCase Bと比較して,地中梁の無いCase Aの方が群杭効率が大きく,地中梁の有無が群杭効率に影響することが分かりました.
4.地中梁の有無が群杭効率に与える影響の分析
解析結果を基に,地中梁の有無で群杭効率が変化するメカニズムを考察しました.図6に杭中心を通る鉛直断面における地盤のvon Mises応力分布を示します.Case B-Gと比較して,Case A-Gの方が高い応力を生じる深さが浅いことが分かります.群杭効果は,各杭周辺の地盤応力が干渉することで生じるため,高い応力が浅い範囲に集中しているCase Aの方が,干渉する領域が減ることで群杭効率が大きくなっていると考えられます.また,この応力分布の変化の根本的な原因は杭の変形モードの影響と考えられます.図7に示す杭の変位分布を見ると,Case B-Gの方が深くまで変位が生じていることが分かります.
5.おわりに
本稿では,地中梁の無い杭基礎における群杭効率を評価することを目的に,遠心載荷実験およびFEM解析を実施し,地中梁が無い場合に群杭効率が大きくなること,そのメカニズムが杭の変形モードの違いによることを明らかにしました.今後は,群杭効率の評価法の構築を進めていく予定です.
参考文献
1)土井一朗,野原隆雅,山本剛史,佐名川太亮,田村修次:突出杭の群杭効果に関する遠心載荷実験および解析的検討,地盤工学ジャーナル,Vol.20,No.3,pp.353-366,2025
執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 土井一朗
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮
洗掘被災橋梁の緊急復旧法
1.はじめに
近年の豪雨の頻発化や激甚化により,図1に示すような鉄道河川橋りょうの洗掘被害が多発しています.洗掘により沈下や傾斜が発生した橋脚では,変状規模に応じ復旧工事が必要となりますが,河川内では施工期間が限定されるため,特に大規模な補強が必要な場合,施工完了までに時間を要するのが現状です.そこで,洗掘で被災した橋脚の支持性能を,列車運行時に徐行不要なレベルまで緊急的に回復させるための復旧法を提案したので,その概要と実証実験の結果を報告します.
2.被災メカニズム
被災事例の実態分析から,局所洗掘により河川橋脚が変状する事例の殆どは,河川上流側において,橋脚周辺の地盤が流出することで基礎の支持力が低下し,上流側に傾斜する形で生じることを確認しています.また,残存している地盤でも,河川の流水により土の骨格から相対的に細かい粒子が洗い流され,間隙が増加して地盤の剛性が低下している恐れがあります.この場合,流出部分の充填のみでは基礎の支持性能が十分に回復せず,特に列車運行再開後に変状が進行する恐れがあります.そこで,これらの被災メカニズムに対応し,緊急的に被災橋梁の支持性能を回復可能な復旧法を開発しました.
3.復旧法の概要
図2に復旧法の模式図を示します.前述した被災メカニズムを踏まえ,2種類の復旧法を考案しました.1つ目は,基礎底面に及ぶまでの洗掘への対応を可能とする復旧法で,袋体型枠を流出部に設置し,無収縮のモルタル等で充填する方法です(復旧法①).短期間での施工が可能で,地盤材料と異なり埋戻し時の転圧が不要,かつ一般的なコンクリート打設と異なり充填材の流失の恐れがない点が特徴です.2つ目は,袋体型枠への無収縮モルタルの充填と杭打設を併用した復旧法で,残存した地盤が吸出し等により緩い状態となっている恐れがある場合での実施を想定しています(復旧法②).
4.検証実験・結果
提案した復旧法の効果を検証することを目的として,実規模橋脚模型を用いた検証実験を実施しました.復旧法①および復旧法②における実験概要を図3に,復旧法②における実験状況を図4に示します.
本実験では直接基礎形式の橋脚模型(重量約313.5kN)を用いて,洗掘を受けた状態を模擬して上流側の橋脚基礎下の支持地盤を幅450mm(基礎幅の15%)まで段階的に掘削し,列車による繰返し載荷を模擬した載荷試験を実施しました.載荷には動的起振器を使用し,載荷荷重を±20kN,40kN,60kNと段階的に漸増させ,各載荷ステップで1万回の繰返し載荷を実施しました.これらの載荷試験により,橋脚模型には上流側に31.6mradの傾斜,基礎中心において121.8mmの沈下が生じました.
その後,復旧法①を施工し載荷試験を行い,復旧法①を撤去後に復旧法②を実施し再度載荷試験を実施する手順で試験を実施しました.載荷周波数について,復旧法①では10Hz,復旧法②ではそれぞれの載荷荷重に対して段階的に8Hz,10Hz,15Hzと周波数を増加させて載荷しました.列車の軸距が2.0mの場合,8Hz,10Hz,15Hzの周波数は,それぞれ列車速度58km/h,72km/h,108km/hに相当します.
図5,図6に残留変位の推移を示します.復旧法①における沈下は,上流側の基礎の2角(NEとSE)の沈下量が下流側の2角の沈下量よりも大きいことが確認され,袋体にはひび割れや変形は確認されませんでした.これより,袋体直下の地盤沈下により補強した橋脚模型が上流側に沈下したと推察されます.
復旧法②における実規模橋脚模型の沈下は,復旧法①と異なり,上流側の基礎2角(NEとSE)の沈下量が下流側の基礎2角(NWとSW)の沈下量よりも小さく,傾斜は下流側へ推移したことを確認しました.これは,袋体直下への杭施工により,良好な地盤に荷重伝達され,袋体直下の地盤変形による沈下が抑制された結果と考えられます.
60kN載荷時の沈下量(基礎4角の平均沈下量)を抜粋して比較した結果を図7に示します.同図には復旧法施工前の,洗掘前後の試験結果も併せて示しています.ここで,「鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物」の使用性(短期支持性能)の制限値の目安である沈下量20mmを指標とすると,図7より繰返し載荷実施後の沈下量について,洗掘後の無補強時ではこれを大きく超える71.2mmの沈下が生じています.これに対し,復旧法①では2.4mm,復旧法②では0.6mmに沈下を抑制できており,洗掘前の状態で繰返し載荷を実施した際の沈下量である0.2mmと比較すると大きい値ではあるものの,提案復旧法により十分な支持性能の回復が期待できることを示しています.
5.おわりに
本稿の載荷試験は国土交通省の鉄道技術開発・普及促進制度の委託を受けて実施しました.
執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 中島進
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮,丹羽祥矢
発行者:田中 博文 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:佐藤 和志 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学研究室】
