施設研究ニュース

2026年10月号

最大瞬間風速をリアルタイムかつ面的に評価する手法

1.はじめに

 強風時には運転規制区間内に設置された規制用風速計で観測された瞬間風速の実況値に基づいて,運転抑止や速度規制といった運転規制を行うことで,列車の安全が確保されています.ここで「瞬間風速」とはある短い時間での風速の平均値を指し,気象庁では平均時間として3秒が採用されています1).また,一定期間内での最大の瞬間風速が「最大瞬間風速」です.近年,従来よりも強い風が広範囲に,また長時間にわたって吹く事例が見受けられるようになりました.このため,運転規制区間内だけでなく,これまで強風監視や運転規制を実施していなかった区間(無規制区間)でも風速情報をリアルタイムに把握する重要性が高まっています.そこで,部外の風速情報を活用して,最大瞬間風速と等価な風速をリアルタイムかつ面的に推定する手法(面的風速評価手法)を開発しました.

2.面的風速評価手法

 面的風速評価手法の概念図を図1に示します.あらかじめ,推定を実施する領域において気流解析を実施します[図1(a)].気流解析では,対象領域を3次元の解析格子に分割し,各格子上の風向,風速,圧力をコンピュータで解きます.本研究では,計算の対象領域に流入する風の風向を16方位で設定し,風向別に気流解析を実施しました.気流解析の結果からは図2のように各解析格子上で平均風速相当値と最大瞬間風速相当値が計算されます.風速情報が得られる気象庁アメダス地点近傍の解析格子を基準として(基準格子),基準格子での平均風速相当値に対する各格子上での平均風速の比URを求めます.次に各格子上での平均風速相当値と最大瞬間風速相当値の比uRを求めます.URとuRをかけ合わせることで,基準格子に対する風速増減率を得ることができます.つまり,風速増減率は基準格子での平均風速に対する各格子上での最大瞬間風速の比を表します.このような風速増減率をテーブルとして風向別に作成します[図1(b)].
 部外情報として,本手法ではアメダス地点で観測された風向風速データを用います[図1(c)].観測された風向に対応した風速増減率テーブルを用意し,10分間平均風速をテーブルに乗ずることで,最大瞬間風速に相当する風速推定値を面的に求めることができます[図1(d)].この処理は10分毎の観測値が入電されたら直ちに実行することができるため,リアルタイムに推定可能です.

3.観測結果との比較

 強風事例における面的風速評価手法の適用結果を図3に示します.誤差は3 m/s以内に収まっており,風観測値の時間変化を概ね良好に推定できているといえます.しかし,破線で囲んだ時間帯のように,推定値は風観測値のピーク値に対して過小評価となることがあり,他の強風事例でも同様の傾向を示しました.これは,面的風速評価手法を強風監視に用いた場合に,運転規制がかからない可能性があることを意味します.ピーク値の適正評価が今後の課題です.

4.建物の影響の考慮

 これまで述べた手法は風の流れに対する地形の影響のみを考慮していましたが,都市部など建物が密集する場合,建物が風の流れに大きく影響します.そこで,都市部から建物がほとんどない郊外へ延びる線区を対象として,地形に加えて建物の効果も考慮した気流解析を実施しました.図4は日最大瞬間風速25 m/s以上を観測した強風日に地形のみを解像した場合と,地形に加え建物も解像した場合の推定誤差を比較したものです.横軸に示した5つの風速計番号のうち,①~③が沿線都市部に位置するものです.建物も含めた解像により,推定誤差が改善されることを確認しました.

5.おわりに

 最大瞬間風速と等価な風速をリアルタイムかつ面的に評価する手法を紹介しました.本手法は無規制区間も含めた強風監視を実現させることで,将来的に運転規制の高度化に寄与し,列車の安全性を向上させることが期待されます.今後は精度向上の詳細な検討を行うとともに,予測技術の開発を進めていく予定です.

謝辞

 本手法の開発は東芝エネルギーシステムズ(株)(現(株)東芝)との共同研究により実施しました.

参考文献

1) 気象庁:風,https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kaze.html,2026年8月17日閲覧.

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 山本晃立
担当者:防災技術研究部 気象防災研究室 福原隆彰,京增顕文

桁式高架橋区間における鉄道振動に対する同調質量ダンパー(TMD)の効果

1.はじめに

 列車の速度向上に伴い,周辺環境への配慮の観点から,鉄道沿線における地盤振動が重要な課題となっています.これまでに列車高速走行時の桁式高架橋区間における地盤振動を対象として実施した数値解析1)から,列車速度が280 km/hから398 km/hに増加すると,4~5 Hzの低周波数帯域において地盤振動が顕著に増大することを確認しています.また,この振動増大は,列車走行による加振と桁の曲げ1次モードの共振に起因することを明らかにしています.したがって,桁式高架橋区間における地盤振動の対策として,桁共振を抑制する方法が有効であると考えられます.
 構造物の制振方法の一つとして,同調質量ダンパー(Tuned Mass Damper,以下TMD)があります.TMDは建築分野において広く利用されており,桁式高架橋を含む鉄道構造物への適用についても検討が行われています.既往研究では,TMDによる桁振動の低減効果が報告されている一方で,桁振動の低減が必ずしも桁の支点反力の低減には結びつかないことが指摘されています.また,これらの研究では,TMDが地盤振動に及ぼす影響については検討されていません.
 そこで本稿では,地盤振動増大の原因である桁共振をTMDにより抑制することで,地盤振動の低減が期待できると考え,既報<sup>1)</sup>で用いた桁式高架橋モデルにTMDを設置し,その低減効果を検証しましたので,その結果を報告します.

2.検証方法

 検証には,鉄道振動シミュレーションを用いました.解析モデルを図1に示します.桁はすべて単純支持された箱桁です.桁T2 の支間長は49 m,その他の桁(T1,T3,およびT4)の支間長は33 mです.橋脚P2およびP3は円形橋脚であり,それ以外の橋脚(P1,P4,およびP5)は壁式橋脚です.また,解析モデル両端の橋脚に不均衡な荷重が作用することを防ぐため,解析モデルの両端に支間長33 mのダミー桁を配置しました.P2およびP3の基礎形式は杭基礎であり,P1,P4,およびP5の基礎形式は直接基礎です.軌道構造はスラブ軌道です.構造物の物性値は,実験モード解析により得られたT4の曲げ1次モードの固有振動数と整合するように調整しました.地盤の物性値は,ボーリング柱状図および現地で実施した表面波探査の結果に基づいて設定しました.
 TMDは,曲げ1次モードにおいて変形が最大となるT1~T4の各桁の中央部に設置しました.各TMDの固有振動数は,設置対象である桁の曲げ1次モードの固有振動数に一致するように設定しました.減衰比ξは式(1)により設定しました.桁質量に対するTMD質量の比μは1%としました.各桁に設置したTMDの諸元を表1に示します.

3.検証結果

3.1 桁振動に対する低減効果

 TMD設置の有無におけるT2およびT3中央部の鉛直変位を図2に示します.まず,TMDを設置していない場合の結果に着目すると,列車通過中に,T2の振幅はほとんど変化しない一方で,T3の振幅は徐々に増大していることが分かります.この桁共振は,列車走行による加振(4.42 Hz)とT3の曲げ1次モード(4.56 Hz)によって生じています.
 次に,TMDの効果について着目します.T2では,TMDによる振動低減効果は認められません.一方,T3では,TMDにより振幅が明らかに低減していることが分かります.この振動低減効果は,列車通過後の自由振動だけでなく,列車通過中の強制振動に対しても確認できます.なお,T3と同じ支間長を有するT1およびT4についても,T3と同様に振動低減効果が確認されています.

3.2 地盤振動に対する低減効果

 TMD設置の有無における評価点No.1およびNo.2での地盤振動加速度の1/3オクターブバンドスペクトルを図3に示します.No.1では,TMDにより4 Hz帯域の振動加速度レベルが約5 dB低減しています.また,No.2では,4 Hzおよび5 Hz帯域の振動加速度レベルが約10 dB低減しています.No.1とNo.2で振動低減効果に差が見られるのは,評価点と共振桁の位置関係によると考えられます.No.1は,非共振桁であるT2と共振桁であるT3を支持する橋脚P3付近に位置しています.一方,No.2は,共振桁であるT3およびT4を支持する橋脚P4付近に位置しています.このため,No.2では共振桁の振動低減効果がより顕著に反映されたと考えられます。

4.おわりに

 列車走行による加振と桁の曲げ1次モードが共振することで地盤振動が増大する条件下では,桁式高架橋にTMDを設置することが,桁振動および地盤振動の低減に有効であることを示しました.今後は,実施工を視野に入れたTMDの研究開発を進めていきます.

参考文献

1) 權藤徹・野寄真徳・横山秀史:列車高速走行時における桁式高架橋区間の地盤振動の現象解明,鉄道総研報告,鉄道総合技術研究所,Vol35,No.6,47-52,2021.

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 權藤徹
担当者:防災技術研究部 地質研究室 野寄真徳

全方向レール温度測定法の開発

1.はじめに

 レール温度は,ロングレールの座屈防止において重要な管理項目ですが,敷設方向や周辺環境の影響を受けるため,同一線区内でも場所によって異なります.現在のレール温度管理では,限られた箇所に設置した温度計の測定値を用いることが一般的ですが,この方法では線区内の温度分布を十分に把握できない場合があります.そこで著者らは,任意方向のレール温度を推定できる「全方向レール温度測定法」を開発しました.本稿では,その基本原理,仕様検討および試験線での精度検証結果を紹介します.

2.全方向レール温度測定法の基本原理

 レール温度は敷設方向に応じて規則的に変化します.本手法では,複数方向のレール温度を測定し,その測定値を方向に関してスプライン補間することで,任意方向のレール温度を推定します(図1).

3.仕様検討

3.1 測定方向の数

 レール温度の測定方向数が温度推定精度に及ぼす影響を解析により検討しました.図2に示す○のプロットは,敷設方向φを5°刻みで変化させて求めたレール温度の解析結果(正解値)です.×のプロットは各測定方向の温度を模擬した解析値,点線はそれらを参照したスプライン補間結果であり,これらを仮想測定値と呼びます.
 図2より,レール温度の方向変化を適切に再現するためには,測定方向間隔Δφを90°未満とする必要があることが分かりました.また,測定方向数を増やすほど推定精度は向上しますが,その一方で測定に要する労力も増加します.本手法では,測定精度と運用負担のバランスを考慮し,60°間隔の3方向測定を採用しました.

3.2 標準仕様の策定

 任意方向の温度測定はカットレールを用いて行います.カットレールに関する種々の条件が測定結果に及ぼす影響を予備試験にて確認しました.その結果,カットレール長さは750 mm,バラストはレール底面高さまで充填する仕様としました.また,カットレール端面からの熱の出入りが測定結果に及ぼす影響は小さいことから,特別な端面処理は行わないこととしました.
 以上を踏まえ,図3に示す構成を標準仕様として採用しました.

4. 試験線での精度検証試験

4.1 試験概要

 図4に示すとおり,敷設方向が異なる6測点(T1~T6)において実レール温度を測定します.さらに,全方向レール温度測定法により取得した各測点方向のレール温度と比較し,その測定精度を検証します.試験期間は2025年8月23日から9月24日です.

4.2 試験結果

 図5に,快晴日であった2025年9月17日の実レールおよび全方向レール温度測定法の測定結果を示します.実レールでは,敷設方向が78°異なるT1とT6間で日最高温度に約5℃の差が生じるなど,敷設方向がレール温度に及ぼす影響の大きさが確認できます.一方,全方向レール温度測定法では,このような敷設方向による温度変化を概ね再現できており,各測点の温度変化傾向を良好に捉えていることが分かります.
 図6(a)に試験期間全体におけるレール温度測定結果の比較を示します.同図は,測点T2(敷設方向22°)を対象として,全方向レール温度測定法による測定値と,単一方向測定を想定したT6測定値を比較したものです.単一方向測定では,昼間の最高温度が実測値より低い傾向が見られます.図6(b)に,図6(a)の測定結果から算出した日中(6時~18時)のレール温度測定誤差(RMSE)を示します.単一方向測定では,日中のRMSEが最大約4℃となりました.一方,全方向レール温度測定法では誤差が大幅に低減され,RMSEは約1℃となりました.以上より,本手法により任意方向のレール温度を高い精度で測定できることを確認しました.

5. おわりに

 全方向レール温度測定法とその基本仕様を策定するとともに,実レール温度との比較により,その有効性と精度を検証しました.本法は,従来手法では困難であった敷設方向による温度差の把握を可能とします.今後は営業線での検証等を進め,レール温度および軸力管理の高度化に活用していく予定です.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 浦川文寛
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉

海底トンネルに敷設されたレールの疲労寿命

1.はじめに

 レールの損傷要因のひとつにレールの腐食があります.レールの腐食は,トンネルなどの腐食環境下で発生し,海底トンネルのような漏水の塩分濃度が高い箇所ではより顕著になります.腐食が発生すると,レール表面には肌荒れが生じ,著しい場合には孔食や断面欠損に至ります.孔食や断面欠損が生じた箇所では,列車荷重によってレール底部に発生する局所的な応力が増大します.その結果,腐食したレールは健全なレールに比べて曲げ疲労に対する耐久性が低下し,より少ない載荷回数で疲労破壊に至る可能性があります.そこで本研究では,過酷な腐食環境である海底トンネルに敷設されたレールを対象として曲げ疲労試験を実施し,その結果に基づいて走行車両条件を考慮したレールの疲労寿命を評価しました.

2.対象レールの敷設環境

 当該トンネルは海峡直下の海底部とそれ以外の地底部に分かれています.そのうち,海底部のほうがレール間に設置されたセンタードレンを流れる排水中の塩化物イオン濃度が高いことが知られています1).そこで,本研究では,当該トンネルの海底部に敷設されたレールについて各種試験を実施しました.対象区間の軌道構造は,レール種別が60kgレールであり,短まくらぎを用いたコンクリート道床となっています2).当該トンネルはレールやレール締結装置に塩害が発生しやすい環境であるため,レール交換は概ね5年周期で実施されており1),維持管理上の大きな課題となっています.

3.レール曲げ疲労試験

 レール曲げ疲労試験の概念図を図1に示します.試験では支点間距離を1300 mm,載荷点間隔を150 mmとし,片振り4点曲げによる疲労試験を実施しました.荷重条件はレール底部における応力振幅が,380,320,260,200,140 MPaとなるように設定しました.載荷荷重は最小荷重が41.3 kNとし,最大荷重がそれぞれ564.7,482.1,399.4,316.8,234.2 kNの正弦波による片振り引張荷重としました.載荷周波数は3.0 Hz,最大載荷回数は200万回としました.試験は海底部で実際に使用された60kgレール6本について行いました.
 疲労試験結果を図2に示します.明かり区間に敷設された経年レールのS-N曲線(図2中の黒点線)3)と比較して,同じ応力条件でもより少ない載荷回数で破断していることが分かります.この結果から,当該トンネルの海底部に敷設されたレールは一般的な明かり区間に敷設されたレールと比較して疲労強度が低下していることが示されました.

4.レール寿命評価

 前述の疲労試験結果を用いて,レール疲労寿命を推定しました.寿命推定条件は先行研究4)を参考に,図3に示すフローチャートに従って評価を行いました.
 まず,列車通過時にレール底部で発生する応力については,表1に示す車両条件を用い,各車種に対する応力を同表の値として仮定しました.次に,疲労試験結果から求めた海底部レールのS-N曲線(図2中の水色線)を基に,破壊確率0.1%のS-N曲線を算出し,寿命推定に用いました.この破壊確率は,過去の寿命推定事例3)に基づき,在来線の管理条件を想定して設定しました.
 さらに,レールがトンネル内に敷設されると継続的に腐食が進行すると考えられるため,腐食の影響を簡易的に考慮しました.具体的には,レールが一定速度で腐食すると仮定し,S-N曲線の傾きは維持したまま切片のみが経年的に低下するものとしました4).切片の低下速度は,明かり区間の経年レールを表す図2の黒点線が,5年間で海底部レールを表す水色線まで低下するように設定しました.
 また,レール温度は平均20℃,標準偏差1℃,ロングレール設定温度を20℃としました.年間通トン数は1500万トンとし,車両通過割合は,普通列車32%,貨物列車68%と設定しました.
 以上の条件でレール寿命を評価した結果,海底部に敷設されたレールの推定寿命は6.1年となりました.この値は実際のレール交換周期である5年と概ね同程度です.そのため,海底部についてはレール交換周期の大幅な延伸は難しいと考えられます.一方,地底部では腐食が比較的軽微なレールも確認されており,今後,地底部レールの疲労強度を評価することで,区間ごとの管理基準のあり方について検討できる可能性があります.

5.おわりに

 ある海底トンネルを対象とし,敷設されたレールの曲げ疲労試験および寿命評価を行いました.その結果,海底部のレールは明かり区間のレールと比較して疲労強度が低下していること,また推定寿命は6.1年となり,実際の交換周期と概ね一致することが確認されました.このことから,海底部レールの交換周期の大幅な延伸は難しいと考えられます.本研究の実施にあたっては,九州旅客鉄道株式会社より多大なるご協力をいただきました.ここに深く感謝申し上げます.

参考文献

1) 佐古武彦:関門トンネルのレール腐食に関する考察,新線路,Vol.58,No.5,pp.52-55,2004.
2) 原田稔:関門トンネルの安全・安定輸送を支える門司保線所の取り組み,新線路,Vol.79,No.2,pp.72-73,2025
3) 弟子丸将,片岡宏夫,阿部則次,大野宗伸:経年ロングレールの疲労寿命推定,鉄道総研報告,Vol.20,No.4,pp.5-10,2006.
4) 水谷淳,細田充,山本隆一:極値統計法による腐食レールの最大さび厚の推定および腐食程度毎のレールの疲労強度の解明,保全学,Vol.20,No.1,pp.87-92,2021.

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 水谷淳
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 髙山大陸

発行者:嶋本 敬介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:田渕 麻衣 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 トンネル】