施設研究ニュース
2026年11月号
2台車検測車を用いた橋りょうの桁たわみ推定
1.はじめに
橋りょうの桁たわみは,走行安全性や健全性に直結する橋りょうの代表的な性能指標ですが,地上からの計測には,橋りょうごとに列車通過時の測定作業が必要です.日常的に取得される軌道検測データから桁たわみを把握できれば,こうした作業の省力化に加え,モニタリングも実現できます.今回,在来線で広く用いられている2台車検測車で得られる高低方向の軌道変位(以下,軌道変位)を用いて,連続する複数の桁のたわみを一括して推定する手法1)を開発しましたので紹介します.
2.軌道変位からの桁たわみ抽出原理
図1に,2台車検測車による軌道変位の計測原理を示します.1車両内の4車軸のうち,車軸1と4を結ぶ線に対する車軸2または3の相対変位として,124偏心矢軌道変位と134偏心矢軌道変位を計測します.これらの波形には,レールの凹凸やゆがみといった軌道の形状成分と,列車走行による桁たわみなどの変形成分が含まれます.偏心矢は距離遅れを含みそのままでは引き算ができないため,2種類の偏心矢軌道変位を10m弦正矢(124)および10m弦正矢(134)にそれぞれ変換したうえで両者を差し引きます.これにより,共通する軌道の形状成分を相殺し,列車荷重による変形成分のみを抽出できます.得られた軌道変位を動的軌道変位差分と呼び,列車走行による桁たわみの成分を含みます.
3.連続する複数の桁のたわみ一括推定法
桁が連続する区間では,線路方向に隣接している桁のたわみが2台車検測車で得られる軌道変位に混在するため,動的軌道変位差分の振幅のみから各桁のたわみを求められません2).そこで,有限要素解析と信号処理を組み合わせた桁たわみ‐軌道変位変換プログラムを構築し,同じ支間長の単純桁が連続する区間では,区間全体の動的軌道変位差分を各桁単独の波形の重ね合わせで再現できることを確認しました1).図2に,重ね合わせの性質を利用した桁たわみ一括推定手順を示します.まず,桁たわみ‐軌道変位変換プログラムにより,1連の桁たわみ(「基準桁たわみ」)に対応する動的軌道変位差分を「基準波形」として計算します.次に,各桁の位置に基準波形を配置し,重ね合わせた波形が実測波形の振幅に合うように,各桁の振幅比を最小二乗法で求めます.この振幅比に,基準桁たわみを乗じることで,各桁の最大たわみを一括して推定します.
4.実路線での検証
支間長12.3mの鋼2主デックガーダーが多数連続する区間のうち5連を対象に桁たわみ推定法を検証しました(図3).軌道は鋼直結軌道であり,列車進入側から桁T5,T4,T3,T2,T1と呼びます.当該区間を約50km/hで走行した2台車検測車のデータに本手法を適用し,地上で接触式変位計により計測(以下,地上計測)した支間中央最大桁たわみと比較しました.
2台車検測車で得られる,10m弦正矢(124)および10m弦正矢(134)(図3 (a))は,軌道の形状成分の影響で桁ごとに振幅が異なります.これらの差分が動的軌道変位差分であり,軌道の形状成分が相殺されて各桁でおおむね同じ特徴の波形が得られます(図3 (b)).この実測波形に対して,数値解析を併用して各桁の振幅比を推定し,各桁の成分に分離した結果が図3 (c)です.図3 (d)に,推定された各桁の最大たわみを示します.ここでは検証の都合上,桁T4のたわみを1とした相対たわみとし,地上計測した桁たわみと比較しています.桁T2の絶対誤差は12%でしたが,その他の桁は地上計測と誤差3%程度で一致しました.桁T2と桁T1の間には支承あおりがあることを地上計測で確認しており,基準波形で支承あおりを考慮していないために誤差が増加した可能性があります.
5.おわりに
本手法により,同じ支間長・形式の単純桁が連続する区間で,2台車検測車で得られる軌道変位から,隣接する桁の影響を考慮した桁たわみの一括推定が可能となりました.各桁のたわみを比較することで,検査や補修の優先順位付けへの活用が期待できます.今回の検証は,支間長約12mの鋼直結軌道を有する桁群を,約50km/hで走行する条件で行っています.今後,鋼橋の主要な変状である支承あおりの影響を考慮した推定法を検討するとともに,支間長や軌道構造が異なる橋りょう,高速走行時などへの適用性を検証します.
参考文献
1) 服部紘司,松岡弘大,田中博文:2台車検測車で計測された軌道変位に基づく複数連橋りょう群の桁たわみ推定法,鉄道総研報告,Vol.40,No.2,pp.31-41,2026.
2) 服部紘司,松岡弘大,田中博文:軌道変位に基づく桁たわみ推定のための桁たわみ-軌道変位変換プログラムの構築,土木学会論文集,Vol.80,No.15,23-15047,2024.
執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 服部紘司
担当者:情報通信技術研究部 情報解析研究室 松岡弘大
軌道技術研究部 軌道管理研究室 田中博文
供用条件に基づいた軟弱地盤上の路床改良の検討
1.はじめに
土構造物の路盤・路床を新設する際は,一般に「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」1)に基づき設計・施工が行われます.路床範囲(路盤表面から深さ3mまで)にN値4未満の軟弱層が存在する場合,原則としてこれらの軟弱層の全てを地盤改良する必要があり,広範囲に分布する場合は建設コストが大幅に増加します.
一方,車両基地のように空車の旅客車両のみが低速で走行する軌道では,本線と比較して列車荷重や衝撃荷重が小さい特徴があります.また,路盤表面の動的な変位量とバラスト軌道の高低変位進み量には高い相関がある2)ことから,路盤表面の変位を適切に抑制できれば,保守頻度も同程度に維持できると考えられます.このため,軟弱層の全てを改良するのではなく路床表層部のみの路床改良を採用できれば,建設コストの大幅な低減が期待できます.
今回の検討箇所の地盤にはN値4未満の層が含まれるものの,十分な過圧密状態にあり,列車荷重により生じる応力レベルでは供用後の残留沈下はほとんど生じないと考えられました.さらに,本線ではなく車両基地が対象であり,列車本数が少なく,仮に年間で5mm程度まで3)の軌道沈下が発生した場合でも保守で対応可能な条件です.そこで,車両基地の特性を踏まえた合理的な路床改良方法および建設発生土の有効活用を検討しました.また,設計した改良厚による試験施工の結果,設計時の解析値を上回る性能を確認しましたので,その概要を紹介します4).
2.車両基地の供用後の状態を考慮した路床改良厚の検討
2.1 路床改良厚の設計方法
本検討では,保守頻度が増加しないよう,新設線における標準的な層構成における路盤表面の変位量と改良後の路盤表面の変位量が同等となるように,路床改良厚を設計しました3).まず,土構造標準に示されている「性能ランクⅢ相当の路床および砕石路盤」の層構成のモデル(図1(a))に対して,軸重170kN(軌道標準5)のEA荷重を参考)を載荷した際の路盤表面の変位量(以下,基準変位量)を求めました.次に原地盤の改良厚さを変数とした層構成のモデル(図1(b))に対して,車両基地における列車荷重を載荷した際の路盤表面の変位量(以下,改良後変位量)を求めました.改良後変位量が基準変位量以下となる最小改良厚さを,設計改良厚としました.
路床改良には路床置換工法を適用し,置換材料には建設発生土と粒度調整砕石を混合した材料(以下,発生土混合材料)またはクラッシャランを用いました.スクリューウエイト貫入試験の結果から,軟弱層(N値4未満の層)の厚さは最も深い箇所で2.7mであり,最低N値は3.0であったことから,軟弱層厚は深さ2.7mと設定しました.また,深さ2.7m以深については,N値=50の一様な層と設定しました.なお,原地盤表面より上の0.3mはクラッシャランで構築する砕石路盤としました.
改良後変位量を算出するための列車荷重は,入線予定の車両の軸重,車両基地内の最高速度25km/h,定尺レールの継目部での速度衝撃率1)を考慮して,112.5kNと設定しました.
本検討では,多層弾性解析プログラムGAMES5)を用いました.GAMESでは,載荷条件,変形係数(MPa),ポアソン比,層厚(cm)を設定し,解析結果として3成分(X,Y,Z)の変位,応力,ひずみが出力されます.GAMESは,計算負荷が小さく,路床改良の設計方法としても採用されています3).解析モデルのイメージを図2に示します.路盤表面の変位量に基づいて設計を行うため,列車荷重がレール,まくらぎおよびバラスト道床により分散され,路盤表面に伝達する状況を模擬する必要があります.また,GAMESでは,載荷直径と荷重を設定し,円形等分布荷重を作用させることとなります.そこで,直径1mの円形等分布荷重を2つ並べて,荷重を与える方法を採用しました4).
土質材料の変形係数はひずみレベルに依存するため,列車荷重作用時に生じる原地盤のひずみレベルに応じた変形係数を用いることで精度の高い結果を得ることができます.土構造標準1)の付属資料48を参考に,路盤表面からの深さ3mまでをひずみレベル10-4,3m以深をひずみレベル10-5としました.
2.2 路床改良厚の算出結果
路床改良厚を算出した結果,発生土混合材料では160mm,クラッシャランでは130mmとなりました.なお,土構造標準1)では施工性を考慮し,路床の最低改良厚として300mm程度を推奨しています.解析の結果,いずれも最小改良厚300mmを下回りました.そのため,最終的な路床改良厚は300mmとしました.これは,N値が4未満の層を全て地盤改良する場合と比べ,9分の1の改良厚となり,建設コストを大きく削減できることが期待できます.
3.車両基地における建設発生土を用いた路床改良の試験施工
発生土混合材料またはクラッシャランを用いて,2章で設計した路床改良厚で路床改良の試験施工を実施し,設計した路床改良厚で想定される路床のK30値を満たすことを確認するため,直径750mmの載荷板を用いて平板載荷試験を実施しました.また,GAMESを用いて今回設計した路床改良後の平板載荷試験(φ750mm)で得られるK30値を,平板載荷試験の再現解析により算出しました.平板載荷試験においては,載荷板の直径の3倍程度の深さまで荷重が伝達していること,路床のひずみレベルは10-3程度となることが知られています1).そこで,平板載荷試験の再現解析における深さ方向のひずみレベルについては,2mまでを10-3,2mから3mまでを10-4,3m以深を10-5としました.原地盤の変形係数については,スクリューウエイト貫入試験の結果から設定しました.
路床改良の試験施工において実施した平板載荷試験の結果と,平板載荷試験の再現解析の結果を図3に示します.K30値の解析結果が土構造標準1)の性能ランクⅢの適合みなし仕様である70MN/m3を上回っており,適合みなし仕様を満たす設計となっていることを確認しました.また,測定結果が,解析結果に対して同程度以上の値となったことから,十分な路床剛性が発揮され,期待する性能が得られていることが確認できました.なお,測定結果の方が大きい理由として,解析での想定よりも,試験施工時の締固め度が高かったことが考えられます.本稿で紹介した手法で路床改良厚を設計することで,路床改良厚および地盤改良厚を大きく削減でき,建設コストを大幅に削減できる可能性があります.
参考文献
1) 財団法人鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説-土構造物,丸善,2007.
2) 関根悦夫,村本勝己:営業線路盤の支持力特性に関する研究,鉄道総研報告,Vol.9,No.7,1995.
3) 廣尾智彰,伊藤壱記,中村貴久:バラスト軌道を支持する路床の改良に関する設計方法の検討,第80回年次学術講演会,土木学会,2025.
4) 川崎直哉,廣尾智彰,讃岐賢太,伊藤壱記:供用条件に基づいた車両基地の路床改良厚に関する検討,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.30,2026.
5) 舗装工学委員会編:多層弾性理論による舗装構造解析入門,土木学会,2005.
執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 川崎直哉
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 伊藤壱記
ウェブ地図を用いた土石流の発生危険度評価手法
1.はじめに
近年,鉄道沿線でしばしば発生している土石流災害に対する取り組みとして,机上調査による土石流の発生危険度評価について検討しています.既報1)では,鉄道沿線での土石流災害事例がとくに多かった花崗岩類が分布する地域に適用可能な,「土石流の要注意渓流の抽出手法(案)(以下,手法案と称します)」を提案しました.その後,異なる地質が分布する地域においてこの手法の適用性を検討し,様々な地質条件に適用可能な「土石流の発生危険度評価手法」を提案しました2).本稿では,この新たに提案した手法についてご紹介します.
2.手法案の適用性の検討と新たな手法の提案
手法案では,花崗岩類が分布する地域において土石流が発生する可能性がある「要注意渓流」を抽出する条件として,「平均渓床勾配≧11度かつ流域比高≧76m(以下,手法案の条件と称します)」を提案しました2).この手法案を汎用的なものとするため,地形・地質条件が異なる地域において手法案の適用性を検討し,土石流の発生危険度評価手法を開発しました(図1).
本手法では,手法案の条件に加え,「沖積錐の有無」と「流域面積」を採用しました.沖積錐とは,渓流から流出した土砂が堆積して形成される緩やかな傾斜の扇形の地形で,過去に土石流が発生したことを示唆します.土石流は同じ渓流で繰り返し発生する傾向があり,本研究で調査した渓流でも沖積錐が認められた渓流で実際に土石流が発生していたため,沖積錘ありの条件に合致する渓流の危険度をもっとも高く設定しました.また,花崗岩類以外の地質が分布する渓流において,手法案の条件に合致しない渓流でも土石流が発生している場合があり,それらの渓流は流域面積が14,000m2以上であったため,これも土石流の発生危険度評価の条件に加えました.
3.土石流の発生危険度評価の概要と手順
本手法では,国土地理院が公開しているウェブ地図である「地理院地図(https://maps.gsi.go.jp/)」を使用します.地理院地図上で評価対象とする渓流を選定し,「沖積錐の判読」と「地形の計測と地形量の計算」を行い,土石流の発生危険度を4段階(Ⅰ~Ⅳ)で評価します(図1).
3.1 沖積錐の判読
沖積錐の判読には,「地形判読」という専門技術が必要です.一方で,沖積錐はほかの地形と見分けやすい特徴(渓流の出口に形成される傾斜が緩やかで扇状の地形)があります.このため,地形の傾斜や形状を表す地図を重ね合わせることで,沖積錐を判読しやすい地図を作成できます.図2は,地理院地図の「標準地図」に「傾斜量図」と「色別標高図」を合成した図で,扇形の沖積錐(図2の点線内)を見やすく表示できます.このように,まず,対象渓流の出口の沖積錐の有無を調べます.
3.2 地形の計測と地形量の産出
次に,対象渓流の「平均渓床勾配」,「流域比高」,「流域面積」を算出します.ここで,計測対象とする範囲(流域)は,鉄道との交差部よりも上流方(鉄道と交差しない場合は渓流の出口よりも上流方)とし,地理院地図上で次の地形量を計測します(図3).
・最低点高度(Hmin):流域内の最低標高点(鉄道と渓流の交点)の標高値
・最高点高度(Hmax):流域内の最高標高点の標高値
・本流最高点高度(Hm):流域内で最長の流路(本流)の始点の標高値
・本流長(Lm):水平面に投影した本流の流路長
上述の地形量の計測値を以下の式(1),式(2)に代入し,流域比高(Rb)と平均渓床勾配(θm)を求めます.
流域面積については,地理院地図の「面積」の計測機能を使用し,流域の境界部(尾根線)を描画して計測します.
3.3 土石流の発生危険度評価
以上の結果をもとに,対象渓流における土石流の発生危険度を4 段階(Ⅰ~Ⅳ,Ⅰが最も危険度が高い)で評価します(図1).本手法については複数の線区において検証を行い,過去に土石流が発生した渓流は危険度が高い「Ⅰ」・「Ⅱ」に区分されたことから,本評価はおおむね妥当であると考えられます.
4.今後の予定
本稿では,新たに開発した土石流の発生危険度評価手法をご紹介しました.今後は土石流の影響度の評価について,引き続き検討を行って参ります.
参考文献
1)長谷川淳・西金佑一郎:簡易な地形量計算による土石流要注意渓流の抽出手法,施設研究ニュース,No.392, pp.4-6,2022
2)長谷川淳・西金佑一郎:ウェブ地図を用いた土石流の発生危険度評価手法,日本応用地質学会令和8年度研究発表会講演論文集,2026(印刷中)
執筆者:防災技術研究部 地質研究室 長谷川淳
担当者:防災技術研究部 地質研究室 長谷川淳,浦越拓野,西金佑一郎,原田浩伸
発行者:嶋本 敬介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:土井 一朗 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 駅空間】
