第319回 鉄道総研月例発表会

日時 2018年04月18日(水) 13:30〜17:00
場所 日本工業倶楽部 大会堂
主題 軌道技術に関する最近の研究開発 

プログラムと発表内容

13:30~13:40
軌道技術分野における鉄道総研の国際標準化活動

鉄道のインフラに関する国際規格については、ISOのTC269(Technical Committee、鉄道専門委員会、2012年設立)が国際標準化活動を受け持っており、インフラストラクチャを担当するSC1を含む3つのSC(Subcommittee)が2016年6月に活動開始した。それ以降、SC1においては、発足から1年で3つのWG(Working Group)と2つのAHG(Ad Hoc Group)が設立されるに至っている。本報告では、前記5つの部会での取り組みを主体に、軌道技術分野における鉄道総研の国際標準化活動を紹介する。

発表者
軌道技術研究部 部長 村本 勝己

13:40~13:57
新幹線軌道のロングレール破断時開口量の限度値の緩和

直結系軌道を高架橋上に敷設すると、温度変化による桁伸縮に伴い、レール軸力が変動するため、ロングレールの破断時開口量が限度値70mmを満足せず、伸縮継目を撤去できない箇所が存在する。限度値を緩和するためには、軌道変位や車両不整の影響を考慮した上で、開口量部の走行安全性を評価する必要がある。そこで、本発表では新幹線の直結系軌道の伸縮継目の撤去を目的として、走行シミュレーション手法により、軌道変位や車両不整を考慮した走行安全性の評価を実施した結果を報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 西宮 裕騎

13:57~14:14
車両の振動特性を考慮した水準変位管理手法

車両の振動特性に対応する軌道変位による輪重減少や横圧増加が、車両の走行安全性の低下の要因になることがある。例えば、周期的な水準変位と速度から求まる加振振動数が車両のローリング固有振動数と合致すると、共振現象が生じることにより輪重が減少する。そのため、さらなる走行安全性の向上を図るには、車両の振動特性に関係のある周期的な水準変位を管理することが有効である。本発表では、シミュレーション技術を用いた、車両の振動特性を考慮した水準変位の管理値の設定方法について報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 主任研究員 坪川 洋友

14:14~14:31
画像を活用した軌道のリスク・ベース・メンテナンス

脱線事故の発生時には、車両の挙動に応じて被害が拡大するため、各箇所での想定被害を考慮して軌道の維持・管理計画を策定することは、鉄道の安全性向上に有効である。そこで、沿線に存在する被害拡大要因をデータベース化する手段として、列車の先頭画像から脱線後車両の転落,構造物・公衆への衝突可能性が高い箇所を抽出するリスク・センシング技術を開発し、またリスクと経済性を考慮した軌道変位の管理値や検査間隔の設定法を開発した。本発表では、これらに基づくリスク・ベース・メンテナンス法を紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 副主任研究員 清水 惇

14:31~14:46
休 憩

14:46~15:03
分岐器における走行安全性および部材強度の評価手法

新しい分岐器構造を提案するためには、走行安全性と部材強度の評価を実施する必要がある。分岐器をソリッド要素でモデル化し車両走行解析を実施することで、これらを同時に評価することは可能であるが、計算負荷が大きく、また、構造を再検討する際はモデルを再構築する必要があり非効率である。そこで、分岐器の線形のみを考慮した簡略モデルによる走行安全性の評価と、評価対象の分岐器部材をソリッド要素でモデル化した詳細モデルによる強度評価を分けて実施する手法を提案したので、その概要を紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 主任研究員 及川 祐也

15:03~15:20
実験的研究による熱処理レールのき裂進展速度の推定

レール損傷の中で、発生が多い形態として頭部の転がり接触疲労損傷が挙げられる。近年では、熱処理レールにおいて、ゲージコーナき裂を起点とした横裂による折損も発生しており、熱処理レールのき裂進展速度に関する研究が進められている。本研究では、各種実レールを用いた横裂進展試験を実施し、熱処理レールにおける横裂進展速度を把握した。試験を模擬した横裂進展解析を行い、解析精度について検証したのち、各種軌道条件を考慮した横裂進展速度の試計算を行ったので報告する。

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 副主任研究員 細田 充

15:20~15:37
レール頭部補修方法の熱処理レールへの適用及び熱間矯正作業の脱技能化

テルミット溶接法を用いたレール頭部補修方法は、シェリングきずに対してレール交換を必要としない簡便なレール補修方法としてJR各社において試験施工や本格導入が進められている。しかしながら、現場施工に伴い、熱処理レールへの適用条件および熱間矯正作業の作業性の改善などが求められている。本報告では熱処理レールの溶接試験結果および提案した溶接施工条件、さらに開発した熱間矯正機の定量制御機構を用いた各種試験結果について説明する。

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 副主任研究員 伊藤 太初

15:37~15:52
休 憩

15:52~16:09
模型バラスト軌道の加振試験による地震時座屈安定性

橋台背面盛土のような構造物境界部は、地震時に橋台背面の盛土が沈下しやすく、バラスト軌道に局所的な沈下が生じて道床横抵抗力が低下する恐れがある。特に夏季のレール温度が高い状態では、レール軸力が高くなり地震時において軌道座屈の発生リスクが高くなる。そこで、橋台背面盛土区間におけるバラスト軌道を想定した縮尺模型を構築し、構造物と軌道の連成挙動を考慮した加振試験を実施し、地震によって生じる橋台裏背面の盛土の沈下を再現するとともに、バラスト軌道の地震時座屈安定性を検討したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 研究員 吉川 秀平

16:09~16:26
細粒土混入バラストの造粒化による軌道補修工法の開発

バラスト軌道は、経年により破砕・細粒化が進行して道床内の細粒分含有率が高くなると、つき固め補修を行っても軌道沈下が生じやすい。そのため、抜本的対策として道床更換を行う必要があるが、維持管理コストの観点から道床更換によらない補修方法が望まれる。そこで、現地において細粒土が混入したバラストにグラウトを浸透させ、固化した後に破砕することで、細粒土混入バラストを造粒化する補修工法を開発した。本報告では、要素試験および実物大模型試験により本工法の沈下抑制効果を検討したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 研究員 伊地知 卓也

16:26~16:43
敷設環境に応じたPCまくらぎの設計荷重係数の提案

PCまくらぎの設計では衝撃作用の影響を変動輪重係数で、線路長手方向の荷重分散の影響を分散係数により考慮する。本研究では、現地試験(在来線3線区)によりそれらの妥当性を実証するとともに、数値解析により、各種パラメータが変動輪重係数や分散係数に及ぼす影響について分析を行った。その結果、従来の値に比べて、敷設環境によっては変動輪重係数を低減できる可能性があること、まくらぎ敷設間隔を拡大する場合には分散係数は増加する可能性があることなどを明らかにしたので報告する。

発表者
鉄道力学研究部 構造力学研究室 主任研究員 渡辺 勉

16:43~17:00
軌道スラブの限界状態に基づくてん充層の補修箇所の選定

寒冷地の明かり区間の一部では、てん充層に隙間が生じている。今後、隙間が拡大した場合、軌道スラブに損傷が生じる可能性もあるが、隙間が軌道スラブの限界状態に与える影響については十分な検討が行われていなかった。そこで、スラブ軌道模型供試体に対する載荷試験を実施し、隙間が軌道スラブの限界状態に与える影響を評価した。さらに、非線形有限要素解析によって輪重と軌道スラブの変位の関係を算出し、軌道スラブが限界状態に達する際の変位からてん充層の補修箇所を選定する方法を提案したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 主任研究員 高橋 貴蔵