第1回 鉄道総研研究発表会(第356回鉄道総研月例発表会)

日時 2022年05月18日(水) 10:15~16:30
場所 国立研究所・講堂
主題 人間科学/信号・情報通信技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

10:15~10:26
人間科学に関する最近の研究開発

鉄道総研の人間科学研究分野では、鉄道システムに関わる人の視点から安全で、便利で、快適な鉄道を考えるヒューマンファクター研究を行っている。ここでは,最近の取り組み全体を概観しながら、鉄道従事員のヒューマンエラー防止、安全マネジメント等の安全性向上策および鉄道利用者の安全・安心に関する取組などのいくつかの代表的成果について紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.1「鉄道における最近の人間科学研究」
 鉄道総研報告Vol.34No.1「鉄道における最近の人間科学研究」
 鉄道総研報告Vol.33No.1「鉄道における最近の人間科学研究」

発表者
人間科学研究部 部長 水上 直樹

セッション1 安全と安心の人間科学 (司会:人間科学研究部 人間工学研究室 室長 斎藤 綾乃)

10:26~10:42
失念防止法(先取喚呼)の教育ソフトウェア

し忘れ等の失念は重大事故につながる場合があり、その防止は重要である。失念防止法の1つに先取喚呼がある。これは、予定を実施しているところを頭の中でイメージして記憶を強化したり、予定の内容を断続的に喚呼し、意識上に予定を保持し続けたりすることで失念を防ぐ方法である。作業員に対する、この先取喚呼の教育は重要であるが、その手法は確立されてこなかった。そこで、先取喚呼のやり方やその有効性を学ぶことができる教育ソフトウェアを開発した。本発表ではそのソフトウェアについて紹介する。

 鉄道総研報告Vol.34No.1「先取喚呼を利用した速度超過防止法」

発表者
人間科学研究部 安全心理研究室 主任研究員 佐藤 文紀

10:42~10:58
生理指標による運転士の心身状態変化の検出

安全な列車運行を維持する上で、一人で乗務する運転士の心身が常に良好な状態であることが重要である。そこで、生理データからパニック等の過緊張あるいは体調不良や眠気など安全運行に影響する可能性のある状態を検出する手法を提案した。この検出手法は比較的容易に計測できる心拍と呼吸を用いるため、現場への実装に適している。また、複数指標を個人ごとに最適化した総合判定法を考案し、推定精度の向上を実現した。

発表者
人間科学研究部 上席研究員 中川 千鶴

10:58~11:14
レジリエンスの実現のための職場活動評価手法

大雨や局地的豪雨等は激甚化の傾向にあるが、その被害を最小にするために、レジリエントな職場づくりが求められている。そこで、「降雨災害時の早期回復のための職場活動の評価手法」を開発し、早期回復ができた職場では、この評価値が有意に高いことを確認した。さらに、職場活動の評価結果の提示方法と改善の程度の関係を分析した結果、評価値を定量的に提示されるだけよりも、低評価の結果についてコメントを付加した方が改善の程度が大きいことを確認したので、報告する。

発表者
人間科学研究部 安全心理研究室 室長 宮地 由芽子

11:14~11:30
微生物を対象にした鉄道の環境衛生モニタリング技術

昨今の情勢から鉄道の環境衛生の維持・向上が課題となっているが、現状では清掃・消毒等の対策は経験に頼らざるを得ず、より的確な対策のためには、環境中の微生物の分布などを明らかにし根拠とする必要がある。そのため、微生物の種類、特徴や分布を「見える化」するためマイクロバイオーム解析を導入し、微生物の遺伝子情報を活用した環境衛生モニタリング技術を構築した。このモニタリング技術により得られた、旅客列車の設備表面に分布する微生物の種類の違い等の基礎的な知見を合わせて報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.1「マイクロバイオーム解析を用いた列車内の環境衛生評価のための基礎研究」

発表者
人間科学研究部 快適性工学研究室 主任研究員 吉江 幸子

11:30~12:00
質疑応答①

12:00~13:20
休 憩

13:20~13:40
デジタル技術による鉄道システムの革新に向けた取り組み

COVID-19収束後も鉄道を維持・発展させていくためには、デジタル技術の活用によってさらに安全で柔軟な列車運行を、できるだけ少ない設備と要員で実現していく必要がある。本発表では、RESARCH 2025において取り組んでいる「列車運行の自律化」「デジタルメンテナンス」を中心に、鉄道システムの革新に資するためのデジタル技術活用研究の加速に向けた取り組みを紹介する。

発表者
信号技術研究部 部長 新井 英樹/情報通信技術研究部 部長 福田 光芳

セッション2 メンテナンスのデジタル化(司会:信号技術研究部 運転システム研究室 室長 武内 陽子)

13:40~13:55
鉄道におけるメンテナンスデータ用統合分析プラットフォームの開発

鉄道の各系統で収集・蓄積されるメンテナンスデータを系統間で共有・活用するために、異なるデータ形式や位置情報を統一的に扱えるデータベースと、分野横断的な分析を実現する分析基盤の機能を持つ、「メンテナンスデータ用統合プラットフォーム」を提案した。また、提案したプラットフォームに基づき、鉄道総研所内で収集されるデータを対象とした小規模なプロトタイプシステムを開発し、機能確認を実施したので紹介する。

発表者
情報通信技術研究部 通信ネットワーク研究室 副主任研究員 流王 智子

13:55~14:10
ハンディカメラによる列車前方映像を用いた信号設備の管理支援システムの開発

信号通信関係の設備は線路沿線に点在しているため、各設備の位置や種別の把握、個別の検査に大きな労力を要する。そこで、列車添乗の際にハンディカメラで撮影した動画像から、キロ程の推定、設備の認識、台帳の生成ができるシステムを開発した。さらに、認識した設備に対して、外観の劣化度を推定できる手法を開発し、管理を行うための基盤を作成したので、全体システムについて紹介する。

発表者
情報通信技術研究部 画像解析研究室 研究員 向嶋 宏記

14:10~14:25
使用環境センシングによる信号用電子機器の寿命予測手法

新たなメンテナンス手法として,近年の通信技術の進展とともに,従来の時間基準保全から状態基準保全(CBM)への転換を図るための技術開発が進んでおり,鉄道沿線に点在する信号設備についても様々な取り組みが行われている。一方,電子機器のように劣化の兆候を捉えることが困難な機器においてはCBMの適用に課題がある。そこで,これまでに構築した信号用電子機器の寿命評価手法を基に,対象機器の使用環境をセンシングすることで,機器の寿命予測を行う新たな手法を構築したので報告する。

発表者
信号技術研究部 信号システム研究室 主任研究員 藤田 浩由

14:25~15:00
質疑応答②

セッション3 利便性向上と省エネ化・低コスト化(司会:情報通信技術研究部 情報解析研究室 室長 深澤 紀子)

15:00~15:15
汎用通信技術の適用に向けた無線式列車制御システムの構成手順

公衆通信回線などの汎用通信技術を無線式列車制御システムに適用する手法について提案する。汎用通信技術を適用する場合、従来の列車制御システムと比べて保安装置の間の情報伝送にコントロールできない伝送回線を介在する点が異なる。そこで、伝送回線に依らず安全を担保する技術を適用できるシステムを構築するため、列車制御機能と情報伝送を独立させた構成を示す。さらに、列車制御機能の観点で情報伝送機能から与えられる脅威と対策の要件を示すとともに、現在の技術水準でその要件を満たす実装方法を紹介する。

発表者
信号技術研究部 列車制御システム研究室 副主任研究員 北野 隆康

15:15~15:30
回生電力融通を考慮した省エネブレーキの効果的な適用方法

回生ブレーキをより有効に活用する省エネ運転が様々検討されている。そこで、車両の回生ブレーキ特性や列車間での回生融通を考慮した消費エネルギー計算が可能な列車運行電力シミュレータを用いて、複数のブレーキ扱いに対する試算とエネルギー分析を実施した。また、これらのブレーキ扱いの効果的な適用方法を検討するため、各列車の各停車駅間に対するブレーキ扱い設定ルールを複数提案し、終日の列車ダイヤに対してその省エネ効果を比較した結果、0.1~0.8%の省エネ効果がみられたので紹介する。

発表者
信号技術研究部 運転システム研究室 室長 武内 陽子

15:30~15:45
都市鉄道における鉄道路線イメージと沿線居住意向の関係の定量化

近年、特に都市鉄道の沿線居住者の維持・増加を図るため、鉄道事業者は路線のイメージアップを目的とした施策を実施している。しかし、個々の鉄道路線のイメージと、路線ごとの沿線居住意向の関係についての知見の蓄積は進んでいない。そこで、それらの関係を明らかにするための調査と分析を実施した。本発表では、調査結果の概要や、分析を通して実施した鉄道路線イメージと沿線居住意向の関係の定量化について報告する。

発表者
情報通信技術研究部 情報解析研究室 副主任研究員 渡邉 拓也

15:45~16:00
動画解析と数理モデルを用いた駅構内の分布交通量推計手法

駅施設の改良や適切な誘導案内計画等による駅サービスの向上を検討するためには、駅構内の分布交通量(どこからどこへ何人の人が移動しているのか)を把握する必要があるが、アンケート調査の実施等が必要であり、高コストな調査となっていた。そこで、駅の出入口等における動画解析を用いた断面交通量の自動計測と数理モデルにより、低コストで駅全体の分布交通量を推計できる手法を開発したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.7「駅改良のための構内における旅客の分布交通量推計手法」
 RRR Vol.78 No.7「AIと数理モデルにより駅における人の流れを推定する」

発表者
構造物技術研究部 建築研究室 主任研究員 柴田 宗典

16:00~16:30
質疑応答③