第2回 鉄道総研研究発表会(第357回鉄道総研月例発表会)

日時 2022年05月20日(金) 10:00~17:00
場所 国立研究所・講堂
主題 軌道技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

10:00~10:15
軌道の維持管理の自動化・省力化技術

少子化・高齢化や労働人口の減少が進むに従い、鉄道従事者の確保が困難になりつつあることから、軌道の維持管理業務において、省力化、省人化、低コスト化のニーズは極めて高い状況にある。これらを実現するためのキーワードは、検査や診断、保守工種選択、保守計画策定といったPDCAサイクルの各ステージにおける自動化、省力化である。そこで、鉄道総研で開発を進めている検査・診断の技術や装置とデータ管理・保守計画ツール等を紹介する。

発表者
軌道技術研究部 部長 桃谷 尚嗣

セッション1 バラスト軌道 (司会:軌道技術研究部 軌道構造研究室 室長 及川 祐也)

10:15~10:30
セメントと高分子材料を用いた劣化バラストの軌道沈下対策工法の開発

経年劣化によりバラストの破砕・細粒化が進行すると高含水状態時にバラストの強度が低下して、沈下が増大しやすくなる。劣化したバラストを新品に交換することで保守量を低減できるが、道床交換はコストが高いことから安価な沈下対策が求められている。そこで、破砕・細粒化が進行したバラスト軌道に対して、つき固め補修時に超速硬セメントと高分子材料を既存のバラストに混合することで沈下を抑制する超低強度安定処理工法を開発したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 主任研究員 中村 貴久

10:30~10:45
道床つき固めおよび安定作業時の道床横抵抗力の変化要因の検討

バラスト軌道における道床横抵抗力は、つき固め補修作業により低下する一方、スタビライザを用いた加振による道床安定作業により回復することが経験的に知られている。しかし、これらの作業により道床横抵抗力が変化する要因については、これまでに十分な検討が行われておらず、未解明な点が多い。そこで、1/5スケールの小型模型試験により、各作業後の道床横抵抗力特性および作業中のバラストの変形挙動を評価し、道床横抵抗力が変化する要因を検討したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 研究員 早川 容平

10:45~11:00
まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計法

バラスト軌道では、安全性向上のため木まくらぎのPCまくらぎ化が進められている。また、保守管理コストの低減のため、PCまくらぎ化と併せてまくらぎ間隔を拡大するニーズがあるが、拡大によりまくらぎ本数が減少すると、軌道部材への負荷が増加して損傷が生じる等、軌道の安定性を損なう恐れがある。そこで、従来の軌道構造の設計手法を補完する位置づけとして、既設線のバラストや路盤条件,管理レベルなどの供用条件を反映し、まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計手法を提案したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.3「まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計法」

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 主任研究員 弟子丸 将

11:00~11:15
保守効率化を目的とした低温時のロングレール保守作業制限の評価法

多くの鉄道事業者では、在来線のロングレール区間において、レール内方変位を防止するために低温時の軌道保守作業を制限している。ただし、その制限は1980年代に定められたものを基本としており、作業の機械化や保守計画の効率化により、施工可能な延長が当時より増加している近年の状況を必ずしも想定していない。本研究では、特に効率化の支障となっている道床交換を対象とし、低温時の保守作業が軌道に及ぼす影響を把握し、科学的な根拠に基づく保守作業制限の評価法を開発したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.3「低温時のロングレール保守作業制限の見直しの提案」

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 主任研究員 西宮 裕騎

11:15~11:30
構造物境界部におけるラダーマクラギの高低変位抑制効果

構造物境界部で問題となる軌道の高低変位に対するラダーマクラギ適用効果について、バラスト軌道を模擬した3次元数値解析モデルを構築し、ラダーマクラギの荷重分散性能を定量評価した。その結果、ラダーマクラギは従来の横まくらぎに比べてまくらぎ下面圧力が7割程度に低減されること、構造物境界部を跨いで敷設するとまくらぎ下面圧力の低減に効果的である可能性を示した。また、ラダーマクラギを営業線の構造物境界部に敷設し、1年程度の経過調査により、高低変位抑制効果があることを実証したので報告する。

発表者
鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員 渡辺 勉

11:30~12:00
質疑応答①

12:00~13:00
休 憩

セッション2-1 スラブ軌道(司会:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 室長 山本 隆一)

13:00~13:15
打音試験と機械学習を用いた軌道スラブ-てん充層間の空隙検知手法

近年,敷設から約40年以上が経過した寒冷地のスラブ軌道において、軌道スラブ底面とてん充層上面の間に空隙を生じる事例が報告されている。このような空隙を放置すると、軌道スラブの耐荷性能が低下することが懸念される。ゆえに、スラブ軌道の維持管理では、空隙を速やかに検知し、適切な補修を行うことが重要である。本検討では、打音試験と機械学習を用いた、軌道スラブ・てん充層間の空隙検知を試みたので報告する。

 RRR Vol.78 No.8「打音試験でスラブ軌道てん充層の劣化状態を検査する」

発表者
軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 研究員 稲葉 紅子

13:15~13:30
アンカーボルト腐食対策工の追跡調査

敷設から10年以上経過したタイプレート式レール締結装置において、タイプレートを固定するアンカーボルトに断面減少を伴う腐食の発生が報告されている。この場合、レールの締結機能が十分に発揮されず、列車の走行安全性へ影響することが懸念される。そこで、本発表ではアンカーボルトの腐食原因に関する調査結果を述べるとともに、その結果に基づいて提案した腐食対策工について、営業線に敷設した追跡調査結果を踏まえて報告する。

発表者
材料技術研究部 防振材料研究室 主任研究員 坂本 達朗

13:30~13:45
損傷低減型レール高低調整用可変パッドの開発

新幹線などのスラブ軌道では、直結8形などのレール締結装置において、レール高さを調整する部材として可変パッドが用いられている。この可変パッドには耐久性の高い樹脂材料が使用されているが、レールの温度伸縮などの影響による損傷事例が一部で発生している。そこで、可変パッドの損傷低減に向けた要求特性の見直しを検討するとともに、液晶ポリエステル系補強繊維、および環状オレフィン系樹脂を使用した2つの損傷低減型可変パッドを開発し、その実用性能の評価を実施したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.33No.11「損傷低減型レール高低調整用可変パッドの開発」

発表者
材料技術研究部 防振材料研究室 副主任研究員 枡田 吉弘

セッション2-2 検査・管理ツール(司会:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 室長 山本 隆一)

13:45~14:00
列車前方画像を用いた軌道材料状態把握手法の開発

軌道材料の状態検査の効率化、省力化を目的に、市販の4K程度の解像度を有するビデオカメラを用いて撮影した列車前方画像から、AI技術を用いて木まくらぎの劣化度を判定する低コストなシステムの開発を進めている。本システムの実用化に向けて、判定精度向上や結果表示用ビューアの機能追加を行うとともに、新たにレール締結装置の脱落検知等のその他の軌道材料の状態把握手法を検討した。本発表では、システムの概要、適用事例の紹介と現地試験から得られた精度検証結果について報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 室長 坪川 洋友

14:00~14:15
デジタル画像解析技術による線路VR空間の構築と軌道検査・工事の省力化

保線分野では、各種検査の実施や工事の際の事前調査等、現地作業が必要な業務が多くあり、これらの省力化や効率化、安全性の向上が大きな課題となっている。このような課題をデジタル技術により解決する方法として、営業列車前頭に設置したステレオカメラにより撮影した画像を解析することで、各種検査や事前調査等を実施する方法について検討したので報告する。また、本検討の過程において、軌道周辺の高精度な3次元空間を構築する技術を開発したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.3「列車巡視支援のための線路周辺画像解析エンジンの開発」

発表者
鉄道力学研究部 軌道力学研究室 副主任研究員 箕浦 慎太郎

14:15~14:30
MTTと小型つき固め機械を組合せた保守計画支援システムの開発

近年、作業労力の軽減や保守効率の向上を目的として、人力による保守の機械化を推進する機運が高まりつつある。特に道床つき固め作業においては、軌陸バックホウを用いた4頭TT等をはじめとする小型つき固め機械の導入により、継目部や溶接部等スポット的な保守を機械化することが可能となり、今後は4頭TT等による保守も想定した効率的な保守計画を作成することが求められている。そこで、既存の軌道変位保守計画システムを拡張した4頭TT等保守計画支援システムを開発したので紹介する。

発表者
軌道技術研究部 軌道管理研究室 研究員 鈴木 惇平

14:30~15:00
質疑応答②

セッション3 軌道部材(司会:軌道技術研究部 軌道管理研究室 室長 坪川 洋友)

15:00~15:15
輪重測定結果に基づくPCまくらぎの疲労寿命評価

プレストレストコンクリート製のまくらぎ(PCまくらぎ)は寿命が30~50年程度と考えられているが、既に敷設から50年以上を経過したものも多く存在しており、その寿命をより正確に予測可能な手法の構築が求められている。そこで本研究では、輪重測定結果および数値解析を組み合わせることにより、PCまくらぎ内部に配置されているPC鋼材の疲労寿命の観点からPCまくらぎの寿命評価を行う手法を開発したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.3「輪重測定結果に基づくPCまくらぎの疲労寿命評価」

発表者
鉄道力学研究部 構造力学研究室 主任研究員 後藤 恵一

15:15~15:30
レール損傷箇所の繰り返し走行時の耐久性および走行安全性の評価法

無線式列車制御システムの導入により軌道回路が撤去された場合にレールの損傷検知ができなくなる可能性があり、そのような状況下では損傷が検知されるまでの間に車両が繰り返し走行することが想定される。そこで、レール損傷箇所走行時の衝撃荷重を再現した重錘落下試験により軌道部材の耐久性を確認するとともに、車両走行シミュレーションにより損傷箇所走行時の走行安全性を評価する方法を提案した。また、提案する方法を用いて、対策を要する軌道条件を判断できる評価表を作成したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 塩田 勝利

15:30~15:45
トンネル内に敷設されたレールの健全度評価方法

腐食によりレールの疲労強度は低下するため、腐食量による管理が行われているが、軽微な腐食であっても損傷が発生することがある。その要因として、レール頭頂部の漏水滴下箇所を繰り返し列車が走行することで生じる局所的な頭頂面凹凸による輪重変動、かつ浮きまくらぎの存在によりレール曲げ応力が増大することが考えられる。そこで,腐食量データのみでなく、軌道検測データ等で得られる頭頂面凹凸量や浮きまくらぎ量から、トンネル内に敷設されたレールの健全度を評価する方法を提案したので報告する。

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 主任研究員 細田 充

15:45~16:00
シミュレーションを活用したレールガス圧接法の作業性向上手法

近年、生産人口の減少などに伴い、鉄道システムの省人化が進められており、特に、特殊な技能を要するレール溶接施工の機械化・脱技能化が強く求められている。これまで、レールガス圧接法に着目し、接合状態を精度良く解析可能な数値解析手法を構築してきた。ここでは、信頼性を確保しつつ作業性を向上可能なレールガス圧接条件について、上記解析手法を用いた検討および実レールガス圧接部による検証結果について報告する。

発表者
軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 主任研究員 伊藤 太初

16:00~16:15
車輪/レール間の接触面圧低減によるゲージコーナき裂対策

半径600-800mの曲線外軌に敷設した熱処理レールにおいて、ゲージコーナき裂の発生が多くの現場において確認されている。本研究では、レール断面形状を変更することで車輪/レール間の接触面圧の緩和を図り、ゲージコーナき裂の発生を抑制することを目的とした。そこで摩耗進展によって接触面圧が低下する点に着目し、摩耗進展解析によってレールの摩耗形状を予測した。さらに得られた摩耗形状を用いた車輪/レール接触解析を実施し、き裂発生に対する抑制効果を検証したので報告する。

発表者
鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員 辻江 正裕

16:15~16:30
通過トン数別のレール表面層の転がり影響評価

レール表面で転がり疲労き裂が生じる可能性がある部分を除去するレール削正は、通過トン数5,000万トンにつき0.1mm削正することが一般的に用いられる。レール表面の材質劣化の程度や深さを定量的に評価することができれば、効率的なレール削正作業を実現させるための適切な削正量や削正周期の検討に資することができる。転がり疲れに影響する表面層の評価手法として検討している回折X線解析を用いて、1~7 億トンまでのレールの転がり疲れの影響深さを評価したので紹介する。

 RRR Vol.76 No.2「経年したレールの内部を診る」
 鉄道総研報告Vol.28No.6「X線フーリエ解析法を用いたレール転がり疲労層評価」

発表者
材料技術研究部 摩擦材料研究室 主任研究員 兼松 義一

16:30~17:00
質疑応答③