第3回 鉄道総研研究発表会(第358回鉄道総研月例発表会)

日時 2022年09月28日(水) 10:00~16:40
場所 国立研究所・講堂
主題 車両/浮上式鉄道/電力技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

セッション1 鉄道車両に関する設計・評価技術 
(司会:車両技術研究部 車両運動研究室 室長 真木 康隆)

10:00~10:15
新幹線車両機器冷却のための走行風取り込み口形状の評価

新幹線車両の機器冷却に関して、送風ファンを用いず走行風を直接取り込みラジエータ等の冷却に利用する手法がある。本件では走行風を利用した着雪対策で得られた知見を応用して、取り込み量が多く、かつ空力音が小さくなるような走行風取り込み口の形状を風洞実験により評価した。その結果、取り込み量と空力音にはインテークの開口形状と開口深さが大きく影響を与えることが分かった。また、排気側開口部の上流側に突起やくぼみをつけることによって取り込み量が増加するという新たな知見が得られたので紹介する。

発表者
環境工学研究部 車両空力特性研究室 研究員 新木 悠斗

10:15~10:30
微気圧波低減のための多段型列車先頭部形状

微気圧波低減のため、高速列車の先頭部中央部は断面積変化率が一定となる滑らかな形状が望ましいとされてきた。近年、従来形状に比べて先頭部中央部に段を設ける多段型先頭部の微気圧波低減効果がより高いことが明らかとなった。本発表では、多段型先頭部の微気圧波低減メカニズムと従来先頭部形状との微気圧波低減効果を比較した実験結果について紹介する。

 RRR Vol.78 No.11「高速列車の先頭形状を多段化してトンネル微気圧波を低減する」

発表者
環境工学研究部 熱・空気流動研究室 主任研究員 宮地 徳蔵

10:30~10:45
高速走行する列車から発生する低周波圧力変動

明かり区間を列車が高速走行すると、家屋の建具のがたつきを生じやすい5~20Hz成分を含む低周波の圧力変動が発生するが、先頭、後尾部を除く中間車両から発生する空気力学的な圧力変動は、その発生メカニズムが明らかになっていない。そこで、現地試験を実施した結果、低周波圧力変動は台車部や車両間間隙部から発生することが明らかになった。また、大型低騒音風洞にて台車部を対象とした縮尺模型試験を実施し、台車キャビティ内の形状の変更によって、有効な対策があることを確認したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.31No.9「高速走行する新幹線における低周波空力音の特性」
 RRR Vol.76 No.5「新幹線車両の低周波空力音を解明する」
 鉄道総研報告Vol.36No.9「列車走行時に発生する低周波圧力変動の発生源の解明」

発表者
環境工学研究部 騒音解析研究室 副主任研究員 阿久津 真理子

10:45~11:00
実車を用いたきしり音の特性評価

鉄道車両が急曲線区間を通過する際に発生するきしり音は、沿線騒音に対する苦情の原因のひとつであり、その低減が求められる。しかしながら、実車を対象としたきしり音に関する研究例は少なく、その特性は明確ではない。そこで、実車において発生するきしり音の特性調査を目的とした走行試験を実施し、車上と地上において振動・騒音測定を行った。さらに、車輪およびレールからの放射音を推定し、きしり音の音源別寄与度を評価したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.35No.6「実車を用いたきしり音の特性に関する実験的検討」

発表者
環境工学研究部 騒音解析研究室 研究員 清水 康博

11:00~11:15
質疑応答①・休憩

11:15~11:30
ハイブリッドシミュレータを用いた滑走制御アルゴリズムの性能評価手法

滑走制御において現車試験での性能確認は不可欠であるが、車輪・レール間のすべりやすさを一定に保ち、それを再現して繰り返し試験を行うことは容易ではない。そこで現車試験を補う新たな台上試験環境として、実機と計算機を組合せた滑走制御シミュレータを開発した。実物の空気ブレーキ機器によりその応答性を再現したうえ、計算機により車輪・レール間のすべりやすさを任意に指定できる特長を持つ。本研究では、開発したシミュレータを用いて滑走制御の性能評価を実施したので紹介する。

 RRR Vol.79 No.1「列車ブレーキ時の滑走制御性能を評価する」

発表者
車両技術研究部 ブレーキシステム研究室 副主任研究員 土方 大輔

11:30~11:45
可搬型潤滑油分析装置による気動車駆動用機器の異常診断

エンジンや変速機の内部に発生する異常摩耗などの兆候を検知する手段として、潤滑油中に混入した鉄粉の濃度を分析する方法がある。しかし、現在の分析装置は大型で価格が高く、操作やデータ解析に習熟を要し、分析装置を配備できる箇所が拠点工場などに限定される。そのため、採油した試料を分析場所まで輸送する必要があり、分析結果を得るまでに時間を要していた。そこで、車両近傍において、取扱いが容易で、容器に採油せずに油中の鉄分濃度を分析可能な潤滑油分析装置を開発したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.34No.10「可搬型潤滑油分析装置による気動車エンジンおよび変速機の異常診断」

発表者
材料技術研究部 潤滑材料研究室 主任研究員 鈴村 淳一

11:45~12:00
スリップリングレスPQ測定システム

現行の輪重横圧測定では、アナログ信号を伝送するためノイズによる測定障害が生じやすい、測定ケーブルの敷設作業が煩雑である、など、スリップリング装置の機能や構造に起因したいくつかの課題があり、走行試験の円滑な実施の妨げとなっている。そこで、測定精度の向上、試験仮設作業の省力化、走行試験の効率化などを図るため、スリップリング装置に代わる測定信号の伝送装置として、ディジタル計測技術と無線通信技術を活用したスリップリングレスPQ測定システムを開発したので紹介する。

発表者
鉄道力学研究部 車両力学研究室 主任研究員 鈴木 貢

12:00~12:15
サーモグラフィカメラを用いた車輪/レール間の接触位置モニタリング手法

車両の運動特性の把握には、車輪/レール間の接触部に働く接線力特性を正しく理解することが重要で、そのためには走行中の車輪/レール間の接触位置を正確に知る必要がある。しかし、車輪/レール間の接触位置は目線をレール面高さ程度まで下げなければ確認することができないため、特に走行中の確認は困難であった。本発表では、車輪がレール上を滑るときに生じる摩擦熱の残像をサーモグラフィカメラで捉えることで、車輪/レール間の接触位置およびそこで作用する著大横圧を評価する方法を提案したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.32No.6「サーモグラフィカメラを用いた車輪とレールの接触位置の特定」

発表者
鉄道力学研究部 計算力学研究室 主任研究員 山本 大輔

12:15~12:30
新幹線車両の着雪量推定手法

新青森駅に設置した高速度カメラ画像を分析して得られた新幹線車両台車部の着雪伸長量測定データならびに新幹線高架橋上での気象観測データと雪の舞い上がり量測定データを用いて、沿線の気象情報から台車部端部フサギ板の着雪伸長量を推定する手法を開発した。本手法による推定値と測定値を比較した結果、推定値は着雪量多寡の時間変化とよく一致し、編成の平均着雪伸長量を約3㎝の誤差で推定できることを確認したので紹介する。

発表者
防災技術研究部 気象防災研究室 室長 鎌田 慈

12:30~12:45
質疑応答②

12:45~13:30
休憩

セッション2 浮上式鉄道と高温超電導の技術  
(司会:浮上式鉄道技術研究部 磁気浮上研究室 室長 田中 実)

13:30~13:45
インバータレス励磁方法を活用したリニアレールブレーキ

鉄道車両の非粘着ブレーキである渦電流レールブレーキは、緊急時の制動距離短縮に有効である。しかし、停電時における電源確保などの課題があるため、当該ブレーキにリニア誘導モータの発電制動を応用することで、ブレーキ動作に必要な電力を自己発電で確保できるリニアレールブレーキを開発している。この自己発電による励磁を行う制御装置のコスト低減のため、インバータを用いずにコンデンサ自己励磁現象を用いる励磁方法を考案した。この考案した励磁方法を軌条輪試験で調査し、良好な結果を得たので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.6「リニアレールブレーキに向けたインバータレス励磁方法の開発」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 電磁気研究室 室長 坂本 泰明

13:45~14:00
電磁加振試験による浮上案内コイルの振動特性評価

浮上案内コイルは、超電導磁石を搭載した台車の通過によって振動するため、振動特性評価が重要である。走行時と等価な振動を再現するため、高温超電導磁石の磁場中で地上コイルを通電して加振する電磁加振試験がある。しかし、地上コイルのうち浮上案内コイルは8の字結線となっており、走行時と等価な電流を外部から通電することが困難であった。本発表では、任意の通電ができるように浮上案内コイルに機械加工を行った。さらには、解析および実験により振動特性を評価し、想定どおりの加振ができることを確認したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.6「浮上案内コイルの電磁加振試験による耐振動特性評価」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 磁気浮上研究室 副主任研究員 池田 遼平

14:00~14:15
鉄道車両用非接触給電システム

走行中・停車中を問わず、鉄道車両に対し接触なしに電力を送ることができる非接触給電システムの性能向上を実現した。本システムは、レール間に設置される地上給電コイルに高周波交流を通電することで、車両床下の車上集電コイルに対し電力伝送を行うものである。新たな開発品は地上-車上コイル間離隔を2倍に拡大しつつ、集電電力密度を3倍に向上することで、より実用的で省スペースなシステムを実現できる。また、この設計を基に試験用コイルを製作し、給電試験にて設計の妥当性を確認したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.6「車上集電電力密度を向上した鉄道車両用非接触給電システム」
 鉄道総研報告Vol.33No.5「高電力密度非接触給電システム用コイルの設計」
 鉄道総研報告Vol.29No.11「鉄道車両用非接触給電装置の電力供給性能検証」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 磁気浮上研究室 副主任研究員 依田 裕史

14:15~14:30
高電流密度を有する高温超電導線材およびバルク材の製造・特性評価

高温超電導材の製作から各種応用に向け、一貫した研究開発に取り組んでいる。超電導材を線材や円盤状のバルク材などの形態に加工して、応用機器に用いることができる。各種機器に適応した形状や性能に合わせ、超電導材の製作や改良を行うことにより、機器の高性能化、信頼性向上につながる。発表においては、鉄道の送電応用などの電力応用、そのほか磁場応用に使用できる、ビスマス系やレアアース系などの高温超電導材の製作方法について紹介するとともに、磁場特性など電磁気特性の評価結果についても紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.6「高磁場特性を有する高温超電導材料の製作と特性評価」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 超電導・低温研究室 副主任研究員 赤坂 友幸

14:30~14:45
超電導き電ケーブルの保護回路と過電流や過電圧に対する電気特性評価

超電導き電システムを鉄道システムへ適用するためには、異常時に設備を保護するための保護回路を構築するとともに、鉄道システムからの要求仕様を満足し、鉄道の故障に耐える性能を有する必要がある。本発表では超電導き電ケーブルの鉄道システムへの導入に関する検討として、高密度線区における実使用を想定して開発した400m級の超電導き電システムの保護回路と要求仕様について紹介するとともに、鉄道における過電圧や過電流を想定した超電導き電ケーブルの耐電圧特性や通電特性など電気特性評価結果について報告する。

 RRR Vol.78 No.1「超電導き電システムを利用して鉄道に電力を供給する」
 鉄道総研報告Vol.36No.6「超電導き電ケーブルの電気特性評価」

発表者
浮上式鉄道技術研究部 超電導・低温研究室 主任研究員 福本 祐介

14:45~15:05
質疑応答③・休憩

セッション3 電力設備の信頼性・効率を向上させる技術  
(司会:鉄道力学研究部 集電力学研究室 室長 山下 義隆)

15:05~15:20
鉄道への大規模蓄電装置適用による余剰再エネ吸収手法の提案

脱炭素社会の実現に向けた再エネの導入拡大が期待されるものの、再エネの連系量が需要電力を上回ると再エネ出力を制限しなければならない。このため蓄電装置を適用して余剰再エネを吸収する対策が考えられる。そこで、鉄道に大規模蓄電装置を適用した場合に想定される余剰再エネの吸収効果を紹介する。さらに、再エネ吸収と回生エネルギー吸収を両立する充放電制御を提案し、交流系統側の電力潮流を考慮した列車運行電力シミュレーションで両立の効果を把握したので報告する。

発表者
電力技術研究部 き電研究室 主任研究員(上級) 小西 武史

15:20~15:35
しゅう動摩擦に対する架線・パンタグラフの安定性評価手法

パンタグラフすり板とトロリ線のしゅう動面が荒損して摩擦係数が高くなると、両者間に作用する摩擦力によってパンタグラフに著大な上下方向の振動が発生することがある。この不安定挙動に起因したアーク放電によるしゅう動面の摩耗等を防ぐためには、不安定挙動を表現するパンタグラフの解析モデルを構築し、安定性を評価する必要がある。本発表では、しゅう動摩擦に起因したパンタグラフの不安定挙動を表現する解析モデルと安定性評価手法について、不安定挙動の再現試験結果を交えながら紹介する。

 鉄道総研報告Vol.35No.9「高速パンタグラフ試験装置の開発」
 鉄道総研報告Vol.36No.7「パンタグラフの不安定振動に対するしゅう動摩擦の影響の解析的検討」

発表者
鉄道力学研究部 集電力学研究室 主任研究員 小林 樹幸

15:35~15:50
集電系材料のアーク放電発生直前に生じる溶融金属柱の大きさの定量化

トロリ線の離線アークに起因する摩耗は、アーク放電発生直前にトロリ線とすり板間で形成される溶融金属柱の影響を受けると考えられている。これまでの研究ではアーク放電発生後のトロリ線の凹部を観測することで定性的な溶融金属柱の影響を示していた。一方で、本研究では集電系材料の溶融金属柱の大きさを観測し、その定量的な影響について研究を進めてきた。本報告では、在来線や新幹線で用いられているすり板とトロリ線との間での溶融金属柱の大きさの電流依存性について紹介する。

発表者
電力技術研究部 電車線構造研究室 室長 早坂 高雅

15:50~16:05
光切断法によるトロリ線摩耗計測手法と偏摩耗検出手法

電気検測車で用いる現行のトロリ線摩耗計測手法は、しゅう動面幅から残存直径を算出しているが、摩耗限度付近や偏摩耗箇所において計測誤差が大きくなることが知られている。そこで、光切断法によりトロリ線のしゅう動面形状を取得し、その形状に関わらずトロリ線の摩耗を計測可能な手法を開発した。本発表では、光切断法を用いた摩耗計測原理と、摩耗限度までの計測や偏摩耗箇所を特定するアルゴリズムを紹介する。

発表者
電力技術研究部 集電管理研究室 研究員 平良 優介

16:05~16:20
電車線の振動解析に基づく電車線コネクタの振動耐久試験方法

電車線コネクタは、パンタグラフ通過に伴う電車線振動によって疲労断線する場合があり、コネクタの疲労性能を適切に評価可能な振動耐久試験方法の確立が望まれている。そこで、コネクタの疲労損傷モードが「電車線相対変位による変形」と「コネクタの共振による変形」の2種類存在することに着目し、各モードにそれぞれ対応する2種類の振動耐久試験を提案した。さらに、電車線の振動解析や、電車線コネクタの振動周波数特性に基づき振動試験条件を提案したので、結果を紹介する。

 鉄道総研報告Vol.28No.10「有限要素法を用いた電車線コネクタの疲労寿命推定手法」
 鉄道総研報告Vol.32No.4「電車線コネクタの疲労対策」

発表者
電力技術研究部 集電管理研究室 副主任研究員 小原 拓也

16:20~16:40
質疑応答④