第4回 鉄道総研研究発表会(第359回鉄道総研月例発表会)

日時 2022年09月30日(金) 10:00~17:00
場所 国立研究所・講堂
主題 防災/構造物/鉄道地震工学に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

セッション1 さまざまな防災技術と沿線環境  
(司会:防災技術研究部 地質研究室 室長 横山 秀史)

10:00~10:15
橋脚の固有振動数を同定する常時微動計測システム

橋脚の固有振動数を同定する常時微動計測システムの実用化を図るため、低コストの計測センサが利用できるように開発済みのシステムにおける固有振動数を同定するアルゴリズムを改良した。この改良アルゴリズムの適用性を大型模型実験や現地計測にて検証し、センサ種別や計測条件など低コスト化に向けた計測システムの仕様を策定した。また、固有振動数同定アルゴリズムの基本原理とともに、常時微動計測システムの設置・計測方法や計測結果の評価方法を示したマニュアルを作成したので紹介する。

発表者
防災技術研究部 地盤防災研究室 室長 渡邉 諭

10:15~10:30
流出土砂量推定を含めた土石流の要注意渓流の抽出手法

本研究では、流出土砂量を加味した土石流の要注意渓流の抽出手法の提案を目的として、土石流による鉄道の被災事例と数値標高モデルを用いた地形の分析を行い、花崗岩類が分布する渓流について、土石流が発生した渓流の地形・地質条件と流出土砂量との関係を明らかにした。そしてそれをもとに、簡易な地形計測により土石流が発生する可能性がある渓流を抽出する手法および流出する土砂量を推定する手法を提案したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.4「推定流出土砂量を用いた土石流要注意渓流の抽出方法」

発表者
防災技術研究部 地質研究室 主任研究員 長谷川 淳

10:30~10:45
泥質軟岩の含水比の変化がロックボルトの付着力に与える影響

泥質軟岩は乾燥とその後の吸水により著しく強度が低下することが知られている。しかし、このような泥質軟岩の含水比の変化が、ロックボルトの付着力、すなわち地山とロックボルト定着材との周面摩擦抵抗力に及ぼす影響については十分には明らかになっていない。そこで鉄道総研では、ロックボルトの付着力を室内試験によって測定できる方法を考案した。さらに、この試験方法を用いて泥質軟岩の含水比の変化がロックボルトの付着力に影響を与えることを明らかにしたので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.4「泥質軟岩の含水比変化がロックボルトの付着力に与える影響」

発表者
防災技術研究部 地質研究室 副主任研究員 西金 佑一郎

10:45~11:00
軌道面の流れを再現した物体飛散が可能な風洞試験

新幹線が走行する際の軌道面には、列車の通過に伴う流れが誘起される。バラスト軌道面では、この流れによりバラストが飛散しないように、樹脂の散布やバラストスクリーンの設置等の対策が行われている。現状では、これらの対策により、バラストが飛散することはないが、今後の新幹線の延伸や更なる速度向上を考慮すると、対策方法の改良や新たな開発が求められる。そこで本研究では、地上側敷設物の飛散現象の解明などに活用できる、物体飛散に対応した風洞試験方法を開発したので、その内容を紹介する。

 鉄道総研報告Vol.23No.7「車両側および地上側からの計測による車両床下流れの評価」
 鉄道総研報告Vol.29No.5「新幹線車両の床下流れの特性」
 RRR Vol.79 No.3「大型低騒音風洞における鉄道の技術開発の変遷」

発表者
環境工学研究部 車両空力特性研究室 副主任研究員 井上 達哉

11:00~11:15
質疑応答①

11:15~11:30
単線トンネルにおける火災時熱気流の予測

山岳トンネルには換気設備がないため、火災時の避難誘導方法を検討する際には熱気流の流動を予測する必要がある。予測には数値計算(CFD)が有効であるが、計算コストの点から様々な状況に対して用いるには不便である。そこで火災時の避難が最も困難であると考えられる単線トンネルにおいて実物大規模のCFDを実施し、伝播速度と温度に関する既存の予測式と比較して熱的パラメータを同定した。その結果、火源からの距離および火源規模に対する熱気流の伝播速度・温度のデータベースを作成することができたので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.35No.6「数値解析による単線トンネルの火災時熱気流の挙動評価」

発表者
環境工学研究部 熱・空気流動研究室 研究員 細井 裕貴

11:30~11:45
沿線地盤振動の支配的な振動特性の抽出とそれを用いた振動対策の検討方法

列車走行時の沿線地盤振動は、沿線環境保全のため必要に応じて振動低減対策が実施されることがある。しかし、振動低減対策は低減効果が定量化されていないものが多いため、対策の検討は既往の事例や技術者の経験的な判断により行われることが多い。本発表では、列車走行を考慮した沿線地盤振動シミュレーションにより、地盤振動に支配的な振動特性を抽出し、その結果に着目して対策を検討する方法を提案したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.29No.5「3 次元振動解析による地盤および建物振動の予測シミュレーション手法」

発表者
防災技術研究部 地質研究室 研究員 野寄 真徳

11:45~12:00
トンネル坑口周辺部の沿線騒音の特性と評価

トンネル坑口周辺部における鉄道沿線騒音は、列車がトンネル坑口付近を通過する際に音源となる車両がトンネル内外ともに存在するため、明かり区間側の車両から発生する音とトンネル内の車両から発生してトンネル坑口から放射される音の両方が含まれる。そこで、現車試験及び模型実験によりトンネル坑口周辺部の騒音の平面的な分布を測定し、トンネル坑口周辺部の騒音予測手法の精度について検証したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.35No.6「車両の影響等を考慮したトンネル坑口周辺部の騒音予測」

発表者
環境工学研究部 騒音解析研究室 副主任研究員 佐原 孝紀

12:00~12:15
質疑応答②

12:15~13:00
休憩

セッション2 既設鉄道構造物の維持管理から災害復旧まで
(司会:構造物技術研究部 建築研究室 室長 山本 昌和)

13:00~13:15
感潮河川付近に位置する地下構造物の塩害予測法

感潮河川付近に位置する地下構造物において、塩分を含む漏水に起因して外的塩害が発生しており、そのなかには繰返し補修が必要となって維持管理の大きな負担となっている事例もある。しかし、漏水が発生するまでは劣化環境が判断できないため、事前対策の判断が難しい状況にある。それに対して地盤中の塩水移動を評価できる劣化環境の予測法を提案するとともに、地下構造物の劣化速度に影響が大きい漏水状態等を評価できる劣化速度の予測法を提案したので報告する。

発表者
構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 副主任研究員 牛田 貴士

13:15~13:30
スラブの一体化の効果を考慮したラーメン高架橋上層梁の耐震診断法

ラーメン高架橋の耐震診断において、上層梁の曲げ耐力やせん断耐力が不足し、補強が必要と判定される場合がある。一方、上層梁の耐力にはスラブの効果があることは指摘されていたものの、設計への反映には至っていない。そこで、既往の実験や有限要素解析による検討に基づき、スラブの影響を考慮した耐力の算定法を構築した。本発表では、この算定法と、算定法に基づく上層梁の耐震診断法について紹介する。

発表者
構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 主任研究員 中田 裕喜

13:30~13:45
高架橋および上家の非線形性に対応した高架上旅客上家の耐震診断法

既発出の「鉄骨造旅客上家の耐震診断指針」には、高架橋および高架上旅客上家(以下、高架上家)の線形モデルに基づく高架上家の地震力設定法が示されている。しかし、高架上家の耐震診断で想定する大地震時において、実際には高架橋および高架上家が降伏することが想定されるため、高架橋の降伏によって、高架上家の地震力が低減することが考えられる。そこで、高架橋および高架上家の非線形性に対応した地震力設定方法を開発し、これを踏まえて耐震診断指針を改訂したので紹介する。

発表者
構造物技術研究部 建築研究室 研究員 石川 大輔

13:45~14:00
質疑応答③

14:00~14:15
3次元画像を活用した構造物の目視検査支援システム

鉄道構造物の目視検査では変状箇所の写真と変状に関するコメントのみを記録していることが多い。そこで、構造物の3次元画像を活用し、構造物の状態や周辺環境をいつでも3次元で直感的に確認でき、かつシステムが変状抽出や記録の作成を支援することができる目視検査支援システムを開発した。本発表では、開発したシステムの概要について報告する。

 RRR Vol.77 No.9「構造物の三次元モデル化により目視検査を支援する」
 RRR Vol.78 No.5「3Dデジタル可視化技術で鉄道構造物の目視検査を支援する」

発表者
構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 研究員 櫛谷 拓馬

14:15~14:30
れんがトンネルの劣化の種類に応じた補修工法

れんがトンネルの中には目地やせやれんが母材のはく落等の変状が認められることがあり、補修が必要なものも存在する。しかし、これまでは、補修の速度やコストに課題があった。そこで、目地やせに対して、施工速度が速く低コストで補修可能なエポキシ樹脂目地充填工法、れんがのはく落に対して、軸力導入型バサルト帯板接着工法を開発した。また、れんが積みトンネルの劣化予測、診断結果に基づく補修工の選定法を提案したので紹介する。

発表者
構造物技術研究部 トンネル研究室 室長 野城 一栄

14:30~14:45
崩壊土砂を活用した盛土の災害復旧技術

盛土が豪雨で崩壊した場合、崩壊後の土砂は多量の水を含んでいるため、再度締固めて復旧することは困難である。また、既設盛土は現行の土構造標準の規定を満足しない材料で構築されている場合が多い。このような理由から、被災後の復旧には購入土が使用されることが多く、工期・コスト・環境負荷の面で課題があった。そこで、石灰改良による脱水効果と締固めによる土の強度増加を活用し、崩壊土砂を再利用した盛土の復旧法を提案したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.35No.7「崩壊土砂を用いた盛土の施工管理指標」

発表者
構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 副主任研究員 笠原 康平

14:45~15:00
質疑応答④

セッション3 地震レジリエンス向上のための早期警報・運転規制・耐震設計技術
(司会:鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 室長 井澤 淳)

15:00~15:15
複数の海底地震観測点情報による広域への地震警報手法

近年、公的機関から海底地震計情報を受信し、列車の制御を行うシステムが実用化された。現行の警報手法では、単独の観測点ごとに設定された地震動しきい値を超過する揺れが検知された場合、列車を停止させる。一方、海底地震観測網が設置された海域では巨大地震の発生が懸念されていることから、複数観測点の海底地震計情報に基づき、大規模地震の発生検知を行う手法を開発したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.36No.4「海底地震計情報を活用した早期地震検知の即時性向上」
 RRR Vol.76 No.3「海底地震計データを早期地震警報に使う」
 鉄道総研報告Vol.29No.1「鉄道の早期地震警報への海底地震計情報活用に向けたデータ処理」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 副主任研究員 野田 俊太

15:15~15:30
早期地震警報の信頼性を高める地震計の位置選定方法

即時的な警報出力に向けた早期地震諸元推定では微弱なP波を利用するため、地震計の設置環境が推定精度に影響を与えることが予想される。しかし、地震計の設置環境の影響程度は明らかとなっていない。本発表では、早期地震諸元推定における震央位置推定の精度向上を目的として、地震観測点サイト特性と震央位置推定誤差の関係を明らかにした上で、誤差を低減させる観測点の位置選定方法を提案したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.35No.5「早期震央位置推定の精度を向上する地震計位置の選定方法」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 室長 岩田 直泰

15:30~15:45
構造物・地震情報を活用した運転規制基準値設定法

地震時の運転規制基準値は、過去に発生した地震被害発生箇所の地震動強さの下限値に基づいて設定されている。そのため、耐震補強や地震計の増設等の各種地震対策の効果を運転規制基準値に陽な形で反映させることは難しい。そこで、地震発生後の早期運転再開を実現させるための運転規制基準値の設定方法を提案し、試算に基づいて手法の有効性を確認したので紹介する。

 鉄道総研報告Vol.36No.4「線区情報を活用した地震時運転規制基準値の更新手法」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 副主任研究員 和田 一範

15:45~16:00
質疑応答⑤

16:00~16:15
基盤面が傾斜した不整形地盤における設計地震作用の設定法

耐震設計上の基盤面が傾斜する不整形地盤箇所では,基盤面が水平な水平成層地盤箇所と比較して地表面地震動が局所的に増幅する場合がある。鉄道構造物の耐震設計では、このような局所的な増幅の影響を評価する必要があるが、構造物の動的解析を実施するなど、実務的に煩雑な作業を必要とする。そこで、構造物を静的解析するための所要降伏震度スペクトルを補正することで不整形地盤箇所の影響を評価可能とし、実務的に取り扱い易い設計手法を構築したので報告する。

 鉄道総研報告Vol.35No.5「不整形地盤箇所における設計地震動の簡易評価法の提案」
 RRR Vol.79 No.2「不整形な地盤に建設する鉄道構造物の地震時安全性を高める」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 研究員 杉山 佑樹

16:15~16:30
中規模地震に対する鉄道構造物の復旧性照査法

鉄道構造物の耐震設計では、震度6弱~6強程度の地震に対して性能が設定されておらず、このような地震発生時には被害状況の把握と運行再開までに時間を要する場合がある。そこで、地震後の早期運転再開を実現するために、地震後の鉄道の復旧日数を照査指標とした性能照査手法を提案した。さらに提案手法に基づいて構造物の復旧日数の評価、設計が可能であることを確認したので紹介する。

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 室長 坂井 公俊

16:30~16:45
橋りょう支承の免震化による地震時走行安全性と復旧性の向上

支承の免震化により、地震時の橋りょうの損傷を軽減させて復旧性の向上は図りやすいが、橋軸直角方向の支承部の変形が大きくなるため地震時走行安全性の確保が課題となる。そこで、免震化を積極的に導入できるようにするため、地震時走行安全性と復旧性の向上の両立を実現できる、免震化の有効性の評価法を開発した。本発表では、免震化による地震時走行安全性の基本メカニズムを述べるとともに、走行解析により支承や構造条件の相違が走行安全性等に及ぼす影響を示し、評価法について紹介する。

 RRR Vol.79 No.5「免震・制震装置で補強された鉄道橋りょうの地震時走行性を確保する」

発表者
鉄道力学研究部 構造力学研究室 主任研究員 徳永 宗正

16:45~17:00
質疑応答⑥