第366回 鉄道総研月例発表会
日時 | 2024年02月21日(水) 13:30~17:00 |
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場所 | 日本工業倶楽部会館2階 大会堂 |
主題 | 環境工学に関する最近の研究開発 |
プログラムと発表内容
列車の走行にともなって騒音やトンネル微気圧波などの沿線環境問題や、走行風による雪の舞い上がりなどの安全性にかかわる問題、走行抵抗による発熱に起因するトンネル内の温度上昇などの快適性の問題など、さまざまな問題が発生する。環境に優しい快適な鉄道の実現をはかるためにはこれら諸課題を解決する必要がある。本発表ではこれらの課題に対する最近の研究事例を報告する。
- 発表者
- 環境工学研究部長 斉藤 実俊
新幹線車両の着雪対策として、走行風を利用した台車内の着雪低減技術を開発した。模型列車走行装置の軌道上に模擬雪を堆積させた実験から、着雪対策に有効な形状を開発し、その効果を検証した。また、対策形状を用いて降雪風洞実験と着雪シミュレーションを実施し、実験と計算のいずれについても対策効果が得られることを確認したので報告する。
<参考文献>
・高見創,新木悠斗,室谷浩平,石井秀憲,鎌田慈:走行風を利用した新幹線台車周りの着雪対策,鉄道総研報告,Vol.36, No.9, pp.5-10, 2022
・H.TAKAMI, Y.ARAKI, K.MUROTANI, H.ISHII, Y.KAMATA: Measures Against Snow Accretion Around Shinkansen Bogies Using Running Wind, QR, Vol.64, No.2, pp.129-134, 2023
・高見創,新木悠斗: 空力を利用した車両の着雪対策, RRR, Vol.80, No.6, pp.20-25, 2023
- 発表者
- 環境工学研究部 車両空力特性研究室 上席研究員 高見 創
強風時、多くの鉄道事業者では列車の安全を確保するため、徐行や停止といった運転規制を実施している。これは、列車速度が低いほど車両の転覆耐力が向上し、安全性が向上すると考えられていることによる。しかし、徐行速度は経験的に定められたもので、鉄道事業者によって統一されていない。そこで、本発表では不確実に変化する風の強さ(外力)も考慮に入れ、車両の転覆耐力と外力の大小関係を評価することで、より安全性の高い徐行速度を試算したので、報告する。
<参考文献>
・乙部達志,鎌谷研吾:走行速度の違いによる強風時の安全性を評価する,RRR,Vol.77,No.10,pp.24-27,2020
- 発表者
- 環境工学研究部 車両空力特性研究室 主任研究員 乙部 達志
都市トンネルの温熱環境対策として換気装置が設置される場合がある。その必要容量を見積もるには、トンネル内の温湿度を予測する必要があり、そのためにトンネル内温熱環境シミュレーションを開発してきた。その基礎方程式の解析解とシミュレーション結果、および模型実験結果とシミュレーション結果の比較により数値計算誤差が小さいことを確認した。また、模型実験の測定結果とシミュレーションの計算結果の差の原因を調べた。本発表では温熱環境シミュレーションの概要とその検証結果について報告する。
<参考文献>
・斎藤寛之,梶山博司,斉藤実俊:理論解析と模型実験によるトンネル内温熱環境予測手法の検証,鉄道総研報告,Vol.34,No.3,pp.17-22,2020
・斎藤寛之,梶山博司,斉藤実俊:模型実験によるトンネル内温熱環境予測手法の検証,鉄道総研報告,Vol.30,No.7,pp.23-28,2016
・梶山博司:地下鉄道の温熱環境シミュレーション,鉄道総研報告,Vol.11,No.10,pp.41-46,1997
- 発表者
- 環境工学研究部 熱・空気流動研究室 主任研究員 斎藤 寛之
鉄道車両が曲線を通過する際に発生するきしり音の現象把握や発生メカニズムの解明を目的として、在来線の曲線区間においてきしり音に関する測定試験を行った。曲線内に設定した測定点において列車が通過した際の騒音データと、同時に測定した車輪・レールの推定接触位置や通過速度等との関係性から、きしり音が発生しやすい条件を整理した。本発表では、測定により得られたきしり音の特徴と、きしり音が発生しやすい条件について報告する。
- 発表者
- 環境工学研究部 騒音解析研究室 主任研究員 末木 健之
高速で走行する新幹線車体のパンタグラフから発生する騒音の低減は、沿線環境保全の観点から重要な課題となっている。騒音低減対策に向けた開発を効率的に行うためには、パンタグラフ騒音が沿線観測点に伝播する際の影響を考慮する必要がある。本発表では車体や屋根上に取り付けられているパンタグラフ用遮音板等が騒音伝播に与える影響を考慮した3次元音響数値計算を行い、沿線観測点におけるパンタグラフ用遮音板の騒音低減効果を評価する手法を開発したので報告する。
- 発表者
- 環境工学研究部 騒音解析研究室 主任研究員 山崎 展博
高速鉄道の主な騒音源として台車部で発生する空力音が注目されている。過去には台車部空力音の低減対策として台車を格納する空間(台車キャビティ部)の四隅を埋める対策が提案され、風洞試験でその効果が確認されてきた。本研究では、その詳細なメカニズムを調査するため、台車部付近における流れの数値シミュレーションを実施した。その結果、四隅の対策有無により、台車キャビティ部で生じる渦が変化する様子を確認したので、その結果について報告する。
<参考文献>
・長倉清,善田康雄:新幹線沿線騒音予測手法,鉄道総研報告,Vol.14,No.9,pp.5-10,2000
・飯田雅宣:高速化のための沿線環境の評価・対策,RRR,Vol.72,No.7,pp.44-47,2015
・宇田東樹, 北川敏樹:音響透過板を用いた台車部空力音の測定および評価手法,鉄道総研報告,Vol.34,No.3,pp.29-34,2020
- 発表者
- 環境工学研究部 騒音解析研究室研究員 兎内 龍也
鉄道の空気力学に関する研究開発では、大型低騒音風洞(米原)が重要な研究開発ツールとなっており、毎年200 日以上の高い稼働率でさまざまな風洞実験を実施している。風洞実験のより効率的かつ高度な実施を実現するために、風洞実験を数値シミュレーションで再現する「数値風洞」を開発した。数値風洞には、効率的な計算手法、レーザースキャナーを用いた形状モデリング等を導入した。本発表では、開発した数値風洞の特徴および計算例について報告する。
- 発表者
- 鉄道力学研究部 計算力学研究室長 中出 孝次