第372回 鉄道総研月例発表会

日時 2025年01月15日(水) 13:30~16:40
場所 日本工業倶楽部会館2階 大会堂
主題 防災技術および環境工学に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:30~13:40
防災技術に関する最近の研究開発

 強雨による土砂災害や台風による強風災害など、雨や風による災害は激甚化している傾向が認められる。また、年間の降雪量は減少傾向にあるものの、短期的な大雪による災害の危険性は残ることが予測されている。したがって、気象災害の防災に関する研究開発は今後ますます求められる。一方で、少子化に伴う働き手不足に対応するためには、防災対策を効果的・効率的に実施可能とすることも求められる。そこで本発表では、こうした背景を踏まえて実施している防災技術に関する最近の研究開発の概要を報告する。

発表者
防災技術研究部長  布川 修

13:40~14:05
鉄道車両に生じる着雪量推定手法および落雪推定手法の開発

 冬期に積雪寒冷地帯を走行する鉄道車両には雪が付着し、付着した雪が落下することで地上設備に被害を生じさせることがあり、鉄道事業者は様々な着雪対策を実施している。着雪対策の効率化に資することを目的に、実験結果と気象観測データをもとにした車両着雪量推定手法を開発してきた。更に、落下現象をモデル化することで、着雪量推定の精度を向上するとともに落雪の発生箇所を推定する手法を開発したので報告する。

<参考文献>
・鎌田慈,高橋大介,栗原靖,横倉晃,飯倉茂弘:軌道上の雪質を考慮した車両台車部の着雪量予測手法,鉄道総研報告,Vol.29,No.1,pp.11-16,2015
・鎌田慈,宍戸真也,佐藤亮太:沿線の気象情報を利用した新幹線台車の着雪量推定手法,鉄道総研報告,Vol.35,No.1,pp.11-16,2021
・鎌田慈,辻滉樹,高橋大介:鉄道車両からの落雪現象を模擬した落雪実験とモデルの作成,鉄道総研報告,Vol.38,No.1,pp.9-15,2024

発表者
防災技術研究部 気象防災研究室 研究員  辻 滉樹

14:05~14:30
常時微動を用いた洗掘が懸念される鉄道河川橋脚の固有振動数推定手法

 近年、極端な降雨事象が増加しており、河川増水に伴う鉄道橋脚基礎周辺の洗掘が頻発化している。その対応として、増水中の洗掘事象を捉えるために、橋脚基礎の健全度を連続的に評価することが可能な常時微動による固有振動数の推定手法を実橋脚に導入するためのマニュアルを作成している。ここでは、この導入マニュアルを概説するとともに、同マニュアルに記載した固有振動数同定アルゴリズムに基づき、洗掘の進行過程を模擬した大型模型実験における連続的な固有振動数の計測例について報告する。

<参考文献>
・渡邉諭,欅健典,内藤直人,湯浅友輝:河川橋脚の天端部両端での微動計測による固有振動数の自動算定手法,鉄道総研報告,Vol.33,No.9,pp.11-16,2019
・渡邉諭,入栄貴,藤原将真:常時微動計測による橋脚の固有振動数同定システムの導入マニュアルの概要,鉄道総研報告,Vol.37,No.12,pp.35-40,2023

発表者
防災技術研究部 地盤防災研究室長  渡邉 諭

14:30~14:55
山岳トンネルにおける盤ぶくれのメカニズム判定方法と危険度評価方法

 山岳トンネルでは完成後に盤ぶくれが顕在化し、維持管理上の問題を生じる場合がある。盤ぶくれのメカニズム区分は従来から提案されているが、実務に適用するには区分の判別が難しいうえ、判別結果を維持管理に活用しにくいことが課題であった。そこで、本研究では既往の盤ぶくれ事例を分析し、その結果をもとに維持管理に活用しやすいメカニズム区分を提案するとともに、その判定方法およびメカニズムごとの危険度評価方法を考案したので報告する。

<参考文献>
・西金佑一郎,浦越拓野,嶋本敬介,今泉光智哲:泥質軟岩の含水比変化がロックボルトの付着力に与える影響,鉄道総研報告,Vol.36,No.4,pp.17-22,2022

発表者
防災技術研究部 地質研究室 副主任研究員  西金 佑一郎

14:55~15:15
休憩

15:15~15:25
環境工学に関する最近の研究開発

 列車の高速化にともない、騒音やトンネル微気圧波、列車によって誘起される列車風や圧力変動などが大きくなり、沿線環境や快適性、安全性にかかわる問題が顕在化する。そのため、列車の速度向上の際には沿線環境負荷軽減のための低減対策方法の検討や、構造物や車体に作用する空力的な荷重を正確に予測する必要がある。本発表ではこれらの課題に関する最近の研究事例を報告する。

発表者
環境工学研究部長  斉藤 実俊

15:25~15:50
気動車の屋根上における排気流れの数値シミュレーション

 気動車の排気が原因と考えられる車両の汚損や、排気が客室内に流入する事象が確認されている。車両屋根上の排気流れの現象解明と汚損の低減策検討のために、排気の流れを数値シミュレーションによって可視化した。排気管や屋根上機器の配置によっては、排気が車間部に滞留して車両全体にまとわりつくように流れ、汚損が起こりやすくなる可能性があることがわかった。これらの結果をもとに、排気管や屋根上機器の効果的な配置について検討したので報告する。

発表者
環境工学研究部 車両空力特性研究室 研究員  原田 夏輝

15:50~16:15
新幹線曲線部騒音に対する車両の左右方向走行位置の影響

 曲線区間を列車が通過する際には、直線区間の転動音よりも高い周波数の音(曲線部騒音)が放射されることがあり、25m点騒音へ影響する場合がある。このような曲線区間で発生する騒音に関しては、様々な条件下における特性が十分に把握されておらず、発生機構も未解明な部分が多い。そこで、新幹線の営業線の曲線区間において発生する騒音の調査を行い、新幹線車両のまくらぎ方向の走行位置や通過速度が曲線部騒音の発生に与える影響を整理したので報告する。

<参考文献>
・末木健之,清水康博,新田琢磨,髙井健太郎:鉄道の曲線区間におけるきしり音・高周波音の発生条件,鉄道総研報告,Vol.38,No.7,pp.9-16,2024

発表者
環境工学研究部 騒音解析研究室 研究員  清水 康博

16:15~16:40
トンネル内に静止した燃料電池車両からの水素漏洩に関する数値解析

 鉄道の脱炭素化に向けた取り組みの一つに、燃料電池鉄道車両の開発がある。燃料電池鉄道車両の実用化のためには安全性の確認が必要であり、その課題としてトンネル内で水素が漏洩したときの水素濃度の評価がある。そこで、在来線の単線山岳トンネルを対象に、トンネル内で静止した鉄道車両の屋根上機器からの水素漏洩時の流れを数値解析により調べた。数値解析結果より、漏洩した水素の流動性状が明らかになったので報告する。

<参考文献>
・小川賢一,米山崇,須藤貴幸,柏木隆行,山本貴光:燃料電池ハイブリッド試験電車の高性能化,鉄道総研報告,Vol.34,No.5,pp.5–10,2020

発表者
環境工学研究部 熱・空気流動研究室 上席研究員  福田 傑

※本発表会の資料の著作権は鉄道総研に帰属します。

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