人間科学ニュース

2018年3月号(第214号)

機械と人間の共生

 N. Wiener がサイバネティクスを提唱し、機械が大型化・高機能化し、電子制御が導入されはじめた1960年代に、まだ十分に知性の発達していない機械と高い技能を持つ人間とをどのように協調させるかという視点から人間と機械の共生という表現がよく用いられた。その後半世紀を経て機械の性能や知性はますます進歩したのに対して、人間は便利さに慣れて、むしろ退化したように見える。
 さらに最近では、情報ネットワークの普及とI.o.T.利用により機械も相互に接続されて、人間から見た場合に裏に隠れて見えない機械の存在も人間と機械の関係に影響を与えている。人間は優れもの機械や見えない機械とどのように協調を図っていけば良いのだろうか。
 鉄道では施工、保守や異常の発生時に作業員や監督者の検査や判断の能力に起因するトラブルが続いている。技術継承の不備や技術レベルの低下が指摘されているが、より本質な問題として高度・複雑化した機械に人間がどのように共生すべきかが問われているように感じている。
 優れものの機械や見えない機械に対応するには人間の側の機能を拡張するのも解決策であろう。アシストスーツ、五感を精密に測定評価するセンサー、人間の体に着装するディスプレイなど人間の能力を拡張できる装置技術は整ってきている。心理的にも行動面でもこれらの装置を人体の一部のように使いこなせれば、優れた機械や見えないシステムと共生するのは容易になろう。装置開発と並んで人間科学の側面から適切な使いこなしの研究が進められるのを期待している。
(鉄道総合技術研究所  会長 正田 英介)

踏切歩行者の停止/進入判断タイミング

はじめに

 鉄道の運転事故の中で踏切事故は未だ大きな割合を占めており、鉄道事業者などでは継続的に取り組みが進められています。これにより自動車の踏切事故件数は漸減傾向にありますが、歩行者の踏切事故件数は、ほぼ横ばいの状況が続いており、運転事故に占める割合は増加しています1)

歩行者の踏切進入状況

 歩行者の踏切事故の3/4が、列車が接近しているにもかかわらず、踏切道内に進入した(以降、直前横断と呼ぶ)ことが原因となっています1)
 踏切警報が鳴動しているにも関わらず、歩行者が踏切に進入するのは、踏切の存在や警報音に気づかない場合もあるかも知れませんが、警報中であることを知りながら意図的に踏切に進入している場合も多いのではないかと推測されます。
 しかし、警報中の踏切に進入することは危険であり、警報が鳴り始めたら踏切に進入しないことが基本ルールとなっています2)。このような危険な行為を行う歩行者が、踏切に進入せずに止まるという判断をするようにはなれないでしょうか。
 そこで、歩行者の直前横断による事故防止に注目し、実験によって、どのような状況やタイミングで歩行者が踏切への進入や停止を判断しているかの把握を試みました3)

停止/進入判断実験

 実験では、被験者に、踏切に向かって歩いていく歩行者視点のCG動画(図1)を視聴しながら、踏切への進入や停止を判断したタイミングでボタンを操作してもらいました。この際、警報が鳴動し始めるタイミングを、踏切からの距離によって6条件、歩いているときの状況を、教示により“ふだん”と“急ぎ”の2条件に設定しました。
 実験の結果(図2)、警報鳴動時の距離が10.0m以下では、走って進入判断する人数が多く、反対に12.4m以上では停止判断をする人数が多いことが分かりました。また、中間の距離(11.2m)では、進入判断がやや多いものの、停止と走って進入のどちらにも大きく偏っていないことから、停止/進入の判断を迷いやすい距離だと考えられます。

図1 歩行者視点で踏切に接近するCG動画
図2 警報開始時の踏切からの距離ごとの停止/進入判断の割合
(急ぎ条件、n=38名×4試行)

歩行者による意図的な直前横断対策に向けて

 以上の結果を踏まえて、意図的な直前横断を防止するために、どのような対策が必要か考えてみました。
 まず、警報鳴動時に踏切に進入しようとする歩行者が多い、踏切からの距離が近い場所に対しては、歩行者の進入判断を覆させるため、物理的に進入を妨害したり、心理的に強い抑制を働きかけたりする対策が必要となります。しかし、一旦歩行者が決心した進入判断を覆すのは容易ではないと考えられます。そのため、歩行者が、踏切の至近距離に至る前の停止/進入判断を迷っている状態で、対策することが効果的だと考えられます。
 このとき、人の判断を変えさせる対策としては、判断を変えることに利益を与える方法と、判断を変えないことに不利益を生じさせる方法があり、両方とも検討してゆく必要があると考えています。

おわりに

 今後は、判断の変更や停止/進入行動について検討するとともに、防止対策によって歩行者の判断がどのように変化するかも検証していくことで、より効果的な踏切の安全対策につなげたいと考えています。

参考文献

1)国土交通省:鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成19年度~28年度)
2)国家公安委員会:交通の方法に関する教則、2017
3)畠山ら:踏切歩行者の進入または停止判断に関する実験結果(1)、日本信頼性学会第30回秋季信頼性シンポジウム発表報文集、pp.95-98、2017
(安全性解析グループ  畠山 直)

駅の環境や状況とお客様とのトラブルの関連

はじめに

 お客様と駅係員の揉め事を見かけることがありますが、それには様々な理由がありそうです。ここでは、揉め事の低減に向けた基礎的な知見を得るため、揉め事の発生と駅の環境や状況との関連について調査分析した結果について紹介します。

駅の環境や状況と揉め事との関連

 個別の揉め事の発生には、お客様自身の個々の事情(急いでいる、飲酒、喧嘩、運賃不足、等)が大きく影響します。そのため、発生の背景にある駅の環境や状況の影響を分けて把握することは通常困難です。
 そこで、我々は、駅を日常的に利用するお客様の評定から揉め事と駅の環境や状況との関連の全体的な傾向を把握することを試みました。
 ここでは、お客様の評定による駅の環境や状況の3つの指標と、揉め事の目撃率(“5年以内に、普段利用している駅で、駅係員に他の利用者が大声をあげている行為の目撃率”)の関連を紹介します(図1)。3つの指標は、(a)駅の利便性(駅の混雑の程度や、券売機、改札機器の使いやすさ等への評定が高いほど高い)、(b)輸送サービス(路線の遅延や運休の頻度や、列車の案内等の評定が高いほど高い)、(c)経路の利便性(駅で利用する列車の運行本数や、経路選択の自由度等の評定が高いほど高い)です。

(a)駅の利便性と揉め事との関連

 関連の傾向を示す回帰線(図中の破線)が右下がりとなり、駅の利便性が高いほど、揉め事が少なくなる傾向がみられました。そして、平均的な評定の駅(0点)と比較して、駅の利便性の程度により約±10%揉め事が増減する結果でした。
 駅の立地や構造等に依る部分の利便性の改善は容易ではありません。しかし、係員対応等を含めた総合的な駅の利便性を改善することにより、お客様との揉め事を低減できると考えられます。

(b)輸送サービスと揉め事との関連

 関連を示す回帰線(図中の破線)が右下がりとなり、輸送サービスが高い駅ほど、揉め事の発生が少なくなる傾向がみられました。そして、平均的な評定の駅(0点)と比較して、輸送サービスの程度により約±20%揉め事が増減する結果でした。
 よって、路線の遅延や運休の減少や、遅延や運休への適切な案内等による輸送サービスの向上が可能であれば、揉め事の低減の効果は、(a)駅の利便性の改善よりも大きいと考えられます。

(c)経路の利便性と揉め事との関連

 関連を示す回帰線(図中の破線)が右上がりとなり、これまでの指標とは逆に、経路の利便性が高い駅ほど、揉め事の発生が多い傾向がみられました。
 これは直観に反して解釈が難しい結果ですが、経路の利便性が高い駅は、乗り継ぎの利用者数も多く、他の駅や車内でのトラブルも持ち込まれやすくなっているようです。もし、通過列車の増加や、運行本数の減少等があれば、駅での揉め事も自然と減少する傾向にあると考えられます。

図1 駅の環境や状況の評定と揉め事の目撃率との関係

おわりに

 ご紹介しました調査結果は、お客様と駅係員の揉め事の発生の全体的な傾向についての基礎的な資料としてご参照下さい。今後は、駅係員の対応方法と揉め事の関連等についても検討を進める所存です。

参考文献

岡田ら:係員と利用者の揉め事の関連要因の探索—駅利用者の認知に基づく調査の試行—、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.117、No.100、pp.25-28、2017
(安全性解析グループ  岡田 安功)

ユーザーによる評価の際の注意点

 製品やサービスを使いやすいものとするために重要なこととして、仕様検討の初期段階からユーザー(その製品やサービスを使う人)が参加することがあげられます(JISZ8530「インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス」他)。鉄道分野にもこの考え方が浸透してきていて、ユーザーによる評価が積極的に行なわれています。そこで、そうした評価を計画する際に気に留めておくべき点を、人を対象とするという特徴から整理してみたいと思います。

参加者の負担と属性を考慮する

 例えば、A案・B案・C案という3つの仕様案を比較したいとします。まず決めなくてはならないのは、1人の参加者に1案だけ評価してもらう方法と、すべての参加者にすべての案を評価してもらう方法のどちらにするかです。一般に前者の評価方法は、参加者数を多く必要としますが、参加者1人の負担は軽くなります。得られる結果は、仕様案による差と、各案を評価した人による差が入り混じったものとなるので、参加者の属性を各案でなるべくそろえておく必要があります。例えば運転士であれば、運転経験や経験車種などを各案でそろえるようにします。
 一方、後者の評価方法は、参加者の属性による差を無視できるので案の差を検出しやすく、参加者数も少なくてすみますが、参加者一人の負担が大きくなります。また、後述するように評価の順番などに配慮が必要となります。
 どちらが良いかはケースバイケースですが、「操作スイッチを見つけられるかどうか知りたい」というように、調査の目的上、1人につき1回しか実施できない場合に後者を選ばないよう注意が必要です。

実施順を考慮する

 全員がA案・B案・C案をすべて評価する場合には、実施順を何種類か設ける必要があります。機械による測定であれば、A案、B案、C案と順番に実施しても問題ないかと思いますが、人間は疲れたり、気分が変わったり、学習したりするので、問題が生じます。例えば、A案は最初なので皆はりきって取り組み、だんだん疲れてC案ではやる気や作業能力が低下した、ということであれば課題の成績や「使いやすさ」の主観評価はA案で過大に評価されるでしょう。逆に、最初に実施したA案では不慣れであったのに、だんだん慣れたりコツをつかんだりしたという場合は、最後に実施されたC案が過大評価されるでしょう。参加者が疲労しないように日を分けて実施したり、充分な練習の機会を設けたりといった工夫も必要ですが、表1のように3種類の実施順を設けて、各仕様案で順番(最初、2回目、最後)のバランスを取ることが基本です。そうすれば、はりきった状態も、疲れた状態も、慣れた状態も、各仕様案で等しくなることが期待できます。
 直前に体験した条件の影響を受けることも、人の特徴です。例えば、同じ糖度の果物でも、甘いものの後とすっぱいものの後では、人が感じる甘さは異なります。表1ではこの点が考慮されておらず、B案はA案の次にだけ実施され、C案の後には実施されません。表1と、その逆順の6種類を実施すれば、直前に出現する案も均等となり、より純粋な仕様案の差をみることができます。案が4つの場合、実施順は4つで済みますが、案の数がさらに多くなると厳密に実施順を検討するのは難しくなるので、乱数を利用して複数の実施順を作成し、上記の偏りをなくすのが現実的です。

表1 実施順の例

おわりに

 ある仕様案の評価が良いという結果を得たとしても、案によって熟練者の割合が異なっていたり、特定の案だけが有利な条件で評価されたりしていては、結果の解釈に困ってしまいます。事前に気をつける点を整理してみました。鉄道総研では、このようなユーザー評価の計画に関するご相談もお受けしていますので、ご活用いただければ幸いです。
(人間工学グループ  斎藤 綾乃)

体の一部の暑さ/寒さと快適性

はじめに

 冬季に暖房の効いた列車内で、首筋に風を感じたり、ドアが開いた際に足元が冷えたりして不快と感じたことはないでしょうか?体の大部分が暑くも寒くもない状態でも、ほんの一部分の温冷感が影響して、不快感(局所不快感)が生じることが知られています。列車内においても、より快適な温熱環境を実現するためには、この局所不快感の発生要因を的確に捉えることが重要です。ここでは、乗客の温熱快適性に影響する局所的な温熱環境要因についてご紹介します(図参照)。

図 快適性に影響する局所的な温熱環境要因

ドラフト

 気温20℃~26℃付近では、低い風速の気流でも、身体の一部、特に首筋に風を感じた際に寒い不快感が生じます。この「望まれない局所気流」をドラフトといいます。建物室内を対象とした温熱快適性評価の国際規格であるISO7730では、ドラフトと不満足者率(温熱環境に満足できない人の割合)の関係が示されており、例えば、気温24℃、平均風速0.2m/s、気流の乱れ度40%(風速の標準偏差/平均風速×100で計算)の環境での不満足者率は2割程度となります。列車内では、空調の吹出口からの風や、通勤列車で採用されている横流ファンからの風がドラフトとなる可能性があります。ドラフトは、季節に関わらず注意が必要です。上下温度差
 頭と足との間で高い上下温度差がある場合、特に足の気温が頭より低い場合(頭寒足熱の逆の場合)に不快感が生じます。ISO7730では、頭と足との間の上下温度差を3℃以内とすることが推奨されています。一般に、冬季は床付近の気温が低く、上方ほど気温が高くなるため、上下温度差による不快感が生じやすい状況にあります。さらに、通勤列車の場合は、駅停車時にドアが開いた際、冷たい外気が直接客室内に侵入し、暖かい空気が上方へ押し上げられることで、より高い上下温度差が生じる可能性があります。

不均一放射

 壁面と体表面の温度に差があると、壁から熱を受けたり、もしくは熱を奪われたりします。このような熱の授受を放射といいます。周囲の天井や床、壁面の温度に偏りがあると、体の一部が受ける放射をより強く感じて不快感が生じます。ISO7730では、暖かい天井に対する不均一限界を5℃以内、冷たい窓面・壁面に対する不均一限界を10℃以内としています。列車内では、冬季に窓際の座席に座っている乗客は、窓に面した体の一部(首や顔など)の熱が奪われて、不快に感じる可能性があります。

床表面温度

 床の表面温度が低すぎる、または高すぎると、足部の温冷感により不快感が生じます。ISO7730では、床表面温度19℃~26℃が推奨されています。列車内では、低い床面温度は冷たい外気の侵入等の影響により生じ、高い床面温度は、日射や床下機器からの伝熱等の影響により生じる可能性があります。

局所温熱環境による不快感の軽減の可能性

 前述した4つの局所不快感の発生要因は、いずれも体の大部分が暑くも寒くもない状態を前提としています。一方、体の大部分に暑さ/寒さを感じるような環境では、局所的な温熱環境をうまくコントロールすることで、不快感を軽減できる可能性があります。例えば、夏季の通勤列車内では、高温環境下での横流ファンの風は「望まれる局所気流」となり、乗客の暑い不快感を軽減する効果が期待されます。また、冬季の通勤列車内では、低温環境下での腰掛下ヒーターによる腰部の加温は、乗客の寒い不快感を軽減する効果が期待されます。ただし、両者とも周囲気温等との関係により、快にも不快にもなり得るため、乗客の快適性の観点からの適切な管理が重要となります。
(人間工学グループ  遠藤 広晴)

情報伝達ミス防止訓練教材のご案内 ~復唱・確認会話スキルの向上を目指して~

 聞き間違いや思い込み等により認識のずれが発生するコミュニケーションエラーの防止は安全上重要な課題の1つです。
 コミュニケーションエラー防止対策として良く知られている方法は「復唱」です。また最近では「確認会話」という方法も注目されています。いずれも有効な確認方法なのですが、そもそも会話内のどの情報を確認すべきなのかが分からなければ肝心な情報の確認が抜けてしまう事があります。また、確認会話は実施方法が明確になっていない場合もあります。そこで、鉄道総研では、復唱や確認会話で確認すべきポイントに気づく能力の向上と、復唱や確認会話の効果的な実施方法を学ぶことができる教材を開発しました。本教材は2018年4月に発売予定です。また、この教材を用いて教育現場で実践する指導者向けの研修にも対応しております。

図 教材の構成

【教材の特徴】

 集団研修・個人学習のどちらにも対応。
 鉄道現場だけではなく幅広い職種の訓練に活用可能。
 コミュニケーションエラー要因学習、復唱学習・確認会話学習の所要時間はそれぞれ15分程度。

問合せ先:株式会社テス 営業部

☎042-573-7897 email: support@tess.co.jp

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