電力ニュース

2026年1月号

鉄道用蓄電装置による余剰再エネ電力活用の実証試験

 電力ニュース123号(2024年2月)などでお伝えしたように、日本の目標である「2050年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現」に向けて、鉄道電力分野においても再生可能エネルギー(以降再エネ)の活用が不可欠と考えられます。そこで、直流き電系統に接続された複数の蓄電装置を集約して統括制御する手法を上記電力ニュースにおいて紹介し、電力系統の需給調整や余剰再エネ電力の有効活用に貢献できることをシミュレーション結果により示しました。

 上記の統括制御手法の有効性を確認するため、鉄道総研構内の直流1500Vき電の試験線において、地上側の「統括コントローラー」から送信された充放電指令に応じて、列車に搭載した「車上用コントローラー」が車載蓄電装置を制御する実証試験を実施しました。実証試験では、変電所および太陽光発電設備、車載蓄電装置を搭載した試験車両A、通常の列車として走行する試験車両Bの組み合わせを実装しました(図1)。

 試験結果例として、留置された試験車両Aの車上用コントローラーに充電指令を与えた際の車載蓄電装置における充電の状況を図2に示します。図に示した時間帯では、日射量の変化による発電電力の減少に伴い、指令値電流も減少しています。電池電流は指令値電流に応じて変化し、充電を継続しました。また、試験車両Bの回生ブレーキ使用によるき電電圧上昇を検出し、電池電流が大幅に増加して回生電力が充電されました。このように、統括コントローラーの指令値電流に基づいて、車載蓄電池に一部の再エネを充電しつつ、走行する別車両の回生電力の充電も必要に応じて可能であることを実証しました。

 なお、詳しい内容は、2026年1月15日(木)開催の「第379回 鉄道総研月例発表会」で紹介しました。期間限定ですが鉄道総研ウェブサイト内で発表資料を公開していますので、ご興味がございましたらアクセス頂けると幸いです。

(記事: き電 小西 武史)

汎用カメラによる電車線変位分布計測に関する基礎検討

 集電力学研究室では、研究開発の目的達成のための一手段として、汎用カメラによる電車線の振動計測に取り組んでいます。電力ニュース2025年1月号では、ステレオカメラ(2台の汎用カメラ)により電車線金具などのターゲットの3次元変位を計測する手法について紹介しました。本記事では、1台の汎用カメラで電車線設備の広い範囲の変位分布を計測する方法に関する基礎検討結果について紹介します。

 この検討では、1台の汎用カメラで1径間の半分程度の範囲のハンガ点の上下変位を計測することを目標としました。電車線側方から25mの区間を画角に収めて撮影すると、上下方向の微小な振動を捉えるほどの分解能が得られません。そこで、望遠レンズを取り付けたカメラの光軸を線路平行方向に近い角度に向くようにカメラを設置し、圧縮効果により1径間の半分程度の範囲のハンガを画角に収めることを試みました。当然、被写界深度に限界があるため25m程度の距離差があるハンガ全てにピントを合わせることができません。ピントが合わない特徴点を画像処理で追跡して変位を計測することは困難です。そこで、各ハンガに40mm×40mmの特徴的な模様を有するターゲットを取り付け、ターゲットを画像処理により追跡しました。画角の一例を図1に示します。カメラは第5ハンガから更に25m程度離れた位置に設置しています。この例の場合、第2ハンガ辺りにピントを合わせており、第5ハンガのターゲットが最もピントが合っていない状態です。

 図1の状態の電車線を人力により振動させ、カメラによる動画撮影(120fps)を行い、動画から各ターゲットの追跡を行って変位を求めた結果を図2に示します。図中の青線はターゲット近傍に設置した加速度計で計測された加速度を2回積分することで変位を求めた結果を示しており、赤線はカメラで撮影した動画からターゲットを追跡して上下変位を求めた結果を示しています。両者ともに0.01Hz~5.0Hzを透過するバンドパスフィルタ処理を施した結果であり、カメラによる計測結果には直流成分除去処理も施しています。両者は非常によく一致しており、低い周波数の現象の測定には十分活用できるのではないかと考えています。なお、ピントの合わないターゲットを追跡した結果に誤差が大きいことが確認されます。本測定では、ターゲットの1辺の実寸法が40mmであることを利用して画像内のピクセル値から変位値への変換係数を求めています。ターゲットの画像が不明瞭な場合、ターゲットの境界が正確に定まらないことに起因して変換係数の推定精度が低下している、あるいはターゲットの移動を追跡する際に誤差が生じている、などの可能性が考えられます。これらの対処については今後の課題です。

<div style="text-align:right">(記事: 集電力学 山下 義隆)</div>

改訂された架空電車線の国際規格「IEC 60913」の概要

 2024年4月8日に架空電車線の国際規格であるIEC 60913<sup> 1)</sup>が発行されました。発行された規格は第3版となり、第2版の発行から11年が経過しています。本稿では、IEC 60913の概要と、第2版からの変更点を示します。

 IEC 60913:2024 は、欧州の地域規格であるEN 50119<sup> 2)</sup>がベースとなる国際規格であり、以下の事項が規定されています。
  ・ 架空電車線路の設計に関する要求事項と試験
  ・ 支持物とその構造計算および検証に関する要求事項
  ・ 組立品および個々の部品の設計に関する要求事項
具体的には、導体の温度上昇や非加圧部との離隔、トロリ線とパンタグラフ間の接触力、トロリ線の許容引張応力、ちょう架線の許容引張荷重、トロリ線勾配などの電車線の配置、支持物と基礎の設計、張力調整装置や電車線金具(ハンガ、コネクタなど)の要求事項などが規定されています。この他、架空電車線の不等率や波動伝播速度の記載があります。この規格は、高速鉄道を含む電気鉄道、路面電車、トロリーバス、電気自動車用の架空電車線が架設された道路(電化道路)などを対象とし、サードレールは対象としていません。

 IEC 60913 Ed3.0:2024 は、IEC 60913 Ed.2.0:2013 に対して以下の技術的な変更がありました。
  (1) タイトルの変更:“Electric traction overhead contact lines”から“Electric traction overhead contact line systems”に変更
  (2) 都市鉄道システム(urban rail system)に関する要求事項の追加
  (3) 剛体架空電車線(rigid overhead contact line (ROCL))に関する要求事項の追加
  (4) 新しい用語の追加:“flexible overhead contact line (FOCL)”(非剛体架空電車線、つまりカテナリ式電車線や直接ちょう架式電車線
    をいう)、“rigid overhead contact line (ROCL)”(剛体架空電車線)、“urban rail system”(都市鉄道システム)などの追加
  (5) 架空電車線のクリアランスと配置の改善
  (6) 都市的側面の追加:壁面アンカーに関する記載の追加
  (7) 新しい装置に関する要求事項:トンネル内での緊急時の接地や車両基地などにおける日常的な接地を安全に行うための自動短絡装置や、
    架線やパンタグラフのデータ収集やこれらのメンテナンスに活用するための監視装置が追加
  (8) 電化道路におけるパンタグラフを搭載した電気自動車用架空電車線(例えば文献3))に関する要求事項

 IEC 60913は海外の鉄道において参照される代表的な国際規格の一つであり、海外で電気鉄道を建設する際の仕様書で参照されることがあります。このような場合、日本の鉄道に関する技術基準(鉄技)との違いを把握しておく必要があります。

[参考文献]

  • 1) International Electrotechnical Commission: IEC 60913 Ed 3.0:2024 Railway applications - Fixed installations - Electric traction overhead contact lines system, 2020.
  • 2) CENELEC: EN 50119:2020 Railway applications - Fixed installations - Electric traction overhead contact lines, 2020.
  • 3) Markus Staub : eHighway - Aktualisiertes Systemdesign des dynamischen Ladens im Straßengüterverkehr, Electrische Bahnen, No.122, vol.7, 2024.

<div style="text-align:right">(記事: 電車線構造 小山 達弥)</div>

気象・地形データに基づく新幹線トンネル区間のがいし汚損度推定手法          (その1:推定アルゴリズム)

 前号(2025年8月発行 第128号)において、新幹線トンネル内で取得した磁器がいしの汚損度測定結果をご紹介しました。本号では、その測定結果などを基にして構築した新幹線トンネル区間のがいし汚損度推定手法をご紹介します。

 海上や沿岸で発生した海塩粒子がトンネル内に持ち込まれ、がいし表面に付着するまでの概念図を図1に示します。トンネル坑口付近(明かり)の気中塩分密度の推定手法は既に確立しており(図1の①~④)、坑口付近の気中塩分がトンネル内に持ち込まれる部分を新たに構築しました(図1の⑤、⑥)。

 本研究では、前号で紹介した測定結果(実測値)の半数を推定アルゴリズムの構築に用いました。推定値(計算値)と実測値の相関が最も強くなるよう繰り返し計算を行い、構築した推定式の係数を決定しました。最終的に構築したトンネル区間のがいし汚損度推定アルゴリズムを図2に示します。

 推定精度の検証と本手法の活用例については、機会を捉えて今後の電力ニュースにてご紹介します。

<div style="text-align:right">(記事: 集電管理 臼木 理倫)</div>

【ワンポイント講座】抵抗分圧器・高電圧測定用プローブとオシロスコープの接続

 電気測定では、ある測定対象信号を、複数の波形記録装置・波形分析装置等に同時入力したい、という需要が頻繁にあります。例えば、ある1箇所の電圧を測定するにあたり、生波形記録にオシロスコープやPC接続形A/Dコンバーター、周波数分析にFFTアナライザーを使用する、という状況です。

 このとき、測定対象箇所に直接接続するものが、抵抗分圧器や高電圧プローブである場合(電池等の電源を要しない「パッシブプローブ」に分類されるもの)は、その出力を安易に分岐してはいけません。理由は、それらパッシブプローブは記録計等の入力インピーダンスとの組み合わせによってはじめて所望の換算比を得る内部構造になっているものが多いからです(例外もあります)。

 ここでは、ある高圧用抵抗分圧器を例にとって説明します。この抵抗分圧器の本来の使用法に則り1台のオシロスコープを接続した場合を簡略化した等価回路は図1のようになり(一般的なオシロスコープの入力抵抗は通常1MΩ)、全体として所望の分圧比(1/400)を得ています。ここで、ありがちな間違いとして、図2のように、この抵抗分圧器1台の出力を分岐して2台のオシロスコープを接続すると、本来とは異なる分圧比になってしまいます。なお、本稿では省略しますが、オシロスコープの入力部内部回路やケーブルに存在する静電容量の影響により、周波数特性も大幅に狂ってしまいます。最も簡単な解決方法は本来の使用法に則ること、すなわち抵抗分圧器を2台用意することです。

 正しい測定のためには、測定器の取り扱い・組み合わせを正しく行う必要があります。

<div style="text-align:right">(記事: き電 森本 大観)</div>