電力ニュース

2019年4月号

電気鉄道用がいしの火山灰付着による絶縁性能の低下

 近年は日本各地で火山噴火が発生するニュースを度々耳にします。将来大規模な火山噴火が生じた場合、鉄道の電気設備にも降灰による多大な影響を及ぼす懸念があります。鉄道運行に直接関わる電気設備への影響の一つに電力設備の絶縁性能の低下が挙げられます。そこで、電気鉄道用がいしに火山灰を付着させ、絶縁性能への影響を調べました。

 今回使用した火山灰は、鹿児島県桜島の火山灰で、425µm メッシュを通過したものです。火山灰の電気導電率は、含水比 20% の条件で 0.0137 S/m 以下です。火山灰の付着条件として、単位面積当たりの火山灰質量(降灰密度)および付着面積を変化させ、絶縁性能低下を評価しました。降灰密度は、桜島の降灰地域の平均降灰量に近い 0.2 kg/m2(厚さ 0.2mm 相当)と、同地域において高配設備の地絡事故が発生したときの降灰密度とされる 1.2 kg/m2(厚さ 1.2mm 相当)の2通りを設定しました。がいしに関しては ⌀180mm を代表として用い、付着面積はがいしの表面の 1/41/1(全体)、ならびに両面(表面・裏面)の 1/41/1 の計4パターンを設定しました(図1)。

 火山灰付着時のがいしの絶縁抵抗と交流課電(10kV)時の漏れ電流を測定した結果を図2に示します。火山灰の付着範囲と降灰密度の増大に応じて絶縁抵抗は低下し、交流課電時の漏れ電流は著しく上昇しました。例えば降灰密度 1.2 kg/m2 でがいしの両面全体に火山灰を付着させた場合、絶縁抵抗は 1MΩ を下回り、10kV 印加時の漏れ電流は 100mA に達して、絶縁性能が著しく低下することが分かります。今後、がいしの絶縁性能に影響を及ぼし得る降灰条件を整理し、火山に関する公的情報を活用した降灰時の鉄道の対応方法を検討する予定です。

(記事: き電 小西 武史)

3次元パンタグラフシミュレーションモデルの作成

 現在、鉄道総研では架線とパンタグラフの3次元運動シミュレータの改良を進めており、架線の左右偏位や吊り金具の傾き等を表現した運動シミュレーションが可能になっています.しかし、このシミュレーションで用いられているパンタグラフモデルは,図1のような質点とばねからなる単純なモデルであり、接触点の左右偏位や舟体のローリング運動等の影響が考慮できません。

 一方、パンタグラフ単独のシミュレーションモデルとしては、図2のように舟体のローリングを再現可能なモデル等が開発されましたが、パンタグラフの枠組の曲げやねじり変形は考慮できません。

 そこで、3次元柔軟マルチボディダイナミクス(以下、FMBD)を用いたパンタグラフモデルを作成しました。図3は在来線用シングルアームパンタグラフの計算モデルを示しています。各部材の伸縮・曲げ・ねじり変形を考慮した3次元的な変形・運動を計算することができます。

 計算モデルを作成する際には、モデルを構成する各部材の質量や剛性に関わるパラメータを決定する必要があります。パンタグラフの図面を参照すれば各部材のパラメータを概算することができます。しかし、計算モデルは形状等を実機に比べて簡略化するため、図面からの計算だけでは実機と計算モデルの動特性は正確には一致しません。また、減衰等のパラメータは図面から把握することができません。そこで、図4のようなパンタグラフの加振試験を行い、計算モデルのパラメータを同定します(文献1)。図5は作成したパンタグラフモデルの 7.1 Hz における振動形状を計算した結果です。天井管がローリングするような変形が生じており、パンタグラフ上枠のねじれ変形が表現できていることが分かります。本計算モデルを用いることによって、パンタグラフの各部材の剛性や質量等のパラメータの変化がパンタグラフの動特性に与える影響を把握することができます。

 今後は3次元架線モデルに対して本FMBDパンタグラフモデルを適用することで、高精度なパンタグラフの走行シミュレーションを実現し、新たな電車線・パンタグラフの開発や事故の原因調査へ活用することを目指しています。

〔参考文献〕

  1. 長尾恭平, 小山達弥, 池田充: 実機パンタグラフ加振試験による3次元パンタグラフシミュレーションモデルのパラメータ同定, J-RAIL2018 講演論文集, 1309, 2018

(記事: 集電力学 長尾 恭平)

アーク検知を目的としたAS複合架線の保護線ひずみ測定

 電車がエアセクション(以後、ASと呼ぶ)箇所に停車したことで生じるトロリ線の断線を防止するために、電車線構造では「AS複合架線」を考案しました。AS複合架線はトロリ線の上方に保護線を取り付けた構造で、停車中のパンタグラフとトロリ線のわずかな空隙にアークが発生すると、トロリ線および保護線がたわみ、アークを消弧することができます。一方で、ASにおけるトロリ線の断線を防ぐことができるが故に、ASでの停車時にアークの発生に気づかない恐れがあります。また、AS複合架線はアークの消弧可能な空隙が数mm以内という制約もあります。

 前述したようにAS複合架線は、トロリ線の断線を防ぐことができます。しかし、アークが発生するため、トロリ線にダメージが加わります。そのため、ASに電車が停車するたびに係員の点検が必要となる可能性があります。また、このAS複合架線の適用範囲を広げることを考えると、留置線に停車中のパンタグラフへの冠雪および降下に伴うトロリ線の断線防止があります。しかし、この場合、AS複合架線のアーク消弧可能な空隙距離を越える恐れがあります。そこで、係員の点検回数を削減するとともに、AS複合架線の適用範囲を広げるために、アーク発生時にAS複合架線の保護線がたわむことを利用し、アークの有無を検知することを検討しています。

 図1に示すように、トロリ線と保護線の把持金具の間隔を 500mm としたAS複合架線の保護線ひずみをひずみゲージによって測定しました。アーク発生によるたわみは、トロリ線を局所的に加熱することで模擬しました。トロリ線を 180℃ まで加熱し、たわみが 5mm 程度に達するまでの保護線ひずみの変化を図2に示します。トロリ線の温度上昇に伴い、加熱点直上の保護線ひずみ(ひずみ①)や加熱点と隣接した把持金具間の保護線ひずみ(ひずみ②、ひずみ③)も増加することを確認しました。しかしながら、さらに離れた把持金具間の保護線ひずみ(ひずみ④)には変化がほとんど見られませんでした。したがって、今回の測定において、温度上昇に伴うトロリ線のたわみが保護線ひずみに影響を及ぼす範囲は、加熱点から前後 0.5m 程度であると考えられます。そのため、1m 毎で保護線ひずみの変化を捉えることで、アークの有無を検知できると考えられます。今後は、外乱(気温差や風圧等)を誤検知しないような保護線ひずみの閾値やその他の検知手法についても検討を進める予定です。

(記事: 電車線構造 近藤 優一)

リアルタイム離線集計装置「パンタステーション3」

 新型車両の導入や速度向上に際し,集電性能の評価のためパンタグラフの離線測定がしばしば行われます。この離線測定の効率化を目指したリアルタイム離線集計装置「パンタステーション3」(図1・表1)を開発・商品化しました。離線集計の自動化による測定の省力化を実現するとともに、リアルタイム集計により、速度向上試験など速報が求められる場面にも対応しています。

 パンタステーション3の主な特徴は以下の3点です。

  • 電車線のオーバラップキロ程を登録したデータベースを事前に作成することにより、離線集計作業の自動化が可能
  • オーバラップ通過ごとにリアルタイムに離線率・最大離線時間を集計するため、集計結果を直ちに確認可能
  • 交流区間で電流式離線測定を行う場合、従来必須だった専用ハードウェアが不要となり低コスト化・省スペース化が可能

 このほかにも、オーバラップのデータベースが無くてもパンタグラフ監視映像を見ながら一度押しボタンによる手動離線集計を行えば、次の同区間の測定からは集計作業を自動化することが可能な集計キロ程学習機能や、1km ごとにパルス信号を入力してキロ程の自動補正を行う機能などを備えています。また、IEC 62486(パンタグラフと架空電車線間の相互作用の技術基準)に則した離線測定も可能です。

 離線集計を行うと各パンタグラフの離線率・離線回数・最大離線時間・最大離線が発生したキロ程をcsvファイルに記録します。この集計結果は図2に示すように画面上にも表示され、走行後にソート機能を用いて並び替えることにより、最大離線率や最大離線時間などを確認できます。

 パンタステーション3は株式会社ジェイアール総研電気システムが販売します。詳細はジェイアール総研電気システムへお問い合わせください。

(記事: 集電管理 松村 周)