電力ニュース

2019年8月号

空力音低減のための多孔質材の強度確認試験

 新幹線のさらなる高速化を実現するうえで、パンタグラフの舟体・舟支え部から放射される空力音を低減することは重要な課題となっています。電力ニュース107号(平成30年8月)では、パンタグラフの低騒音化手法として、多孔質材をパンタグラフのカバー類の表面に取り付ける(図1)ことで流れ場を変化させ、空力音を低減する手法について紹介しました。

 この多孔質材による空力音低減技術の実用化に向け、冬期の落氷雪に対する多孔質材の耐衝撃性及び接着強度の確認試験を実施しました。試験では供試体が破損するまで約 50g の氷塊を約 300km/h で衝撃させました(図2、図3)。また、供試体の設置角度は 20~90° の角度としました。試験の結果、FRP単体の供試体が破損する回数(青色の×)のばらつき(網掛け部)に対し、多孔質材接着貼付した供試体は、ばらつきの範囲内で破損する供試体(紫色の×)と、まだ破損・飛散していない供試体(紫色の○)がみられました(図4)。これは、多孔質材が潰れ氷塊の衝撃を吸収することでFRPの損傷を弱めるためで、多孔質材は凹みや多少の浮きが発生するものの、多孔質材の飛散は見られませんでした。

 今後は、浮きの許容量の検討を進めるとともに、浮きの発生を防ぐ対策(図5)についても検討を進めていきます。また、実機を想定した形状での強度確認試験や、パンチングメタルが空力音に与える影響を確認し、実機パンタグラフへ適用可能な多孔質材カバーを開発する予定です。

多孔質材適用例
図1 多孔質材適用例
絶縁抵抗と漏れ電流の測定結果
図2 絶縁抵抗と漏れ電流の測定結果
氷塊衝撃時
図3 氷塊衝撃時
供試体破損時の氷塊衝撃回数
図4 供試体破損時の氷塊衝撃回数
パンチングメタルを被せた場合の氷塊衝撃後の状況
図5 パンチングメタルを被せた場合の
氷塊衝撃後の状況

(記事: 集電力学 平川 裕雅)

新たなトロリ線偏位設定の検討

 すり板の交換時期は最大摩耗深さにより決まるため、取替コストなどの面から平均的に摩耗させることが望まれます。今回、すり板摩耗が中央部分に偏っている線区において、すり板摩耗を平均化させるとともに、現在の偏位設定に潜在している課題に対応する新たな偏位設定を検討しました。

 今回検討を行った線区において、すり板摩耗形状とトロリ線偏位分布を比較した結果、強い相関関係が認められ、すり板摩耗形状は概ね動的なトロリ線の偏位分布によって決まることが分かりました。トロリ線偏位分布を調査した結果、主に直線区間で分布が中央に偏っていたため、直線区間における新たな偏位設定を検討することとしました。この線区では現在、3径間半サイクルの偏位設定(図1)が導入されています。新たな偏位設定の検討にあたり、現在の偏位設定に潜在する課題を検討しました。

 潜在する課題の1つ目として、3径間かけて偏位 −150mm から +150mm まで直線で結ばれるため、偏位が ±50mm となる支持点では横張力が発生しません。横張力が発生していない状態では列車通過による振動で、曲線引金具のアーム支持金具側で振動が発生しやすくなります。そのため、横張力が発生している場合と比較して、接続用ボルトなどの摩滅が進行しやすくなる傾向があります。2つ目として、偏位設定ずれにより、曲線引金具を圧縮する方向に横張力が働いた場合、曲線引金具がトロリ線を押し下げて硬点を形成し、トロリ線摩耗や集電性能に影響を与える懸念があります。図1に示す標準状態から、距離 200m、400m の位置で +30mm ずれて偏位設定された場合の状態を図2に示します。200m 位置の偏位設定ずれでは 150m と 250m の支持点で、400m 位置の偏位設定ずれでは 400m と 450m の支持点で曲線引金具がトロリ線を押し下げてしまいます。このような状況になるとトロリ線摩耗や集電性能に悪い影響を与えてしまいます。そのため、可動ブラケット取替などの際にはシビアな偏位管理が行われています。

 以上を踏まえ、すり板摩耗の平均化を実現するための方策として、可動ブラケットの配列および偏位を変更して新たな偏位設定(図3)を検討しました。可動ブラケットの配列をI、O、I、OからI、I、I、O、O、Oへ変更し、偏位を +150mm、+90mm、−90mm、−150mm、−90mm、+90mm、+150mm としています。最大変位はトロリ線の摩耗抑制の面から従来と同様の ±150mm とし、中間部分の偏位は横張力の平均化を図り ±90mm としました。

 この偏位設定を適用しますと、すり板摩耗の平均化が図られるとともに、横張力や硬点に関する課題は概ね解決できます。また、偏位ずれに対する許容範囲が広く、偏位管理に裕度が生まれ、メンテナンス面でも有効に働きます。

現状の偏位設定
図1 現状の偏位設定
偏位設定ずれによる影響
図2 偏位設定ずれによる影響
新たな偏位設定案
図3 新たな偏位設定案

(記事: 電車線構造 新貝 英晃)

ACMセンサを用いた腐食環境評価

 高耐食性部材は溶融亜鉛めっき鋼に比べて高価なため、導入箇所をある程度限定する必要があります。しかし、現状では腐食環境を定量的に示す考え方や指標について検討した例は多くないため、各鉄道事業者において電車線路部材の過去の取替周期の実績などを基に導入箇所を決定しているのが実情です。そこで、ACMセンサ(Atmospheric Corrosion Monitor Sensor)を活用した腐食環境評価の可能性について検討した事例を紹介します。

 腐食環境を知るためには、対象とする金属試験片を暴露し、暴露前後の板厚減少量や質量減少量をISO 9223:2012の大気環境の腐食性分類や、日本の大気環境の腐食性分類(案)(文献1)に示されている分類に当てはめて暴露した地点の腐食環境を評価することが一般的です。ある環境の腐食の経時変化を追跡するためには、ある程度のサンプル数が必要となりますが、サンプル数は暴露する場所により制約を受けること、長期にわたる追跡ではサンプル自体が腐食で朽ち果てて正確な評価が難しいことが課題となります。それに対し、ACMセンサは、センサの定期的な交換や、電源の確保が必要になりますが、1枚のセンサで長期間にわたって環境の経時変化を追跡することが可能です。

 ACMセンサの出力(腐食電流)と降水の関係を図1に示します。概ね、降雨の時にセンサの腐食電流が流れていることが確認できます。そこで、約2週間にわたり、暴露試験用鋼板とFe–Ag型ACMセンサの大気暴露試験を行いました。試験開始日から終了日まで毎日1枚づつ採取した鋼板の質量増加率と、同じ期間で10分毎に出力されるACMセンサの腐食電流から算出した通過電気量の積算値の関係を図2に示します。鋼板質量増加率とACMセンサから算出した通過電気量には正の相関が確認できました(相関係数 R=0.74)。これは、ACMセンサを用いることにより腐食に対する設計指針や金属部材の取替周期などの策定に資する腐食環境データを取得できることを意味しています。

 今後は、ACMセンサから得た結果をISO 9223:2012などに示されている腐食性分類に当てはめるために必要な通過電気量と腐食量の関係を明らかにする予定です。

ACMセンサ腐食電流と降水量の関係
図1 ACMセンサ腐食電流と降水量の関係
鋼板質量増加率とACMセンサから算出した積算通過電気量の関係
図2 鋼板質量増加率とACMセンサから算出した
積算通過電気量の関係(文献2
※文献2の図を一部修正

〔参考文献〕

  1. 財団法人日本ウエザリングテストセンター編:大気暴露試験ハンドブック[Ⅱ]金属編、p.金-13、2007
  2. 臼木理倫、柴田直樹、今村英樹:簡易な方法による腐食環境評価の基礎検討、平成28年電気学会電力・エネルギー部門大会、No.333、2016

(記事: 集電管理 臼木 理倫)

直流高抵抗地絡事故の実記録データに対する考察

 直流電気鉄道の課題の一つに直流高抵抗地絡故障の検出があります。高抵抗地絡故障時の地絡電流は列車の負荷電流に比べて小さいため、変電所での検出が困難です。ひとたび高抵抗地絡故障が発生すると長時間にわたり地絡電流が流れ続け、場合によっては設備の溶損や火災を引き起こして大規模な輸送障害を引き起こします。

 今回、ある鉄道事業者の電車線設備に発生した高抵抗地絡故障について、故障点直近の変電所に導入された最新の情報計測装置によって得られたき電回線電流の提供を受けましたので、高抵抗地絡故障の検出方法提案にむけた分析と考察を行いました。

 当該高抵抗地絡故障時の概況を図1に示します。高抵抗地絡故障は12回線で発生しました。図2に記録波形を示します。各回線電流は変電所の情報記録装置により、1ミリ秒サンプリングで30秒間記録されていました。12回線の電流は0秒から29秒までの間、1500A~2000A 前後の値で推移しています。この間、コンクリート柱に取り付けられた電柱バンドや近傍の諸設備から激しいアークが生じていたことが確認されています。そして、29秒経過後に低抵抗の金属短絡故障に移行し直流高速度遮断器が自動遮断しました。

 故障が発生した12回線の電流には他の回線に見られない変動成分が見られます。そこで、11回線から14回線までの電流波形のうち、負荷電流の変動が少ない23秒から25秒までの2秒間を切り出して 0 ~ 500Hz 間において周波数分析を行いました。その結果を図3に示します。12回線の電流波形は、商用電源の整流リプルに由来する周波数成分(120Hz、240Hz、360Hz)のみならず、幅広い帯域で振幅が大きくなっていることがわかります。

 当該事象はアークを伴った比較的大きい地絡電流の例といえます。一方で、アークの有無に関わらず地絡電流が数十Aと小さい場合やアークを伴わない地絡故障の場合は、図2の12回線に見られるような変動成分も小さくなり、図3に示す12回線以外の回線と類似した結果になると考えられます。そのため、周波数分析だけでは必ずしも全ての高抵抗地絡故障を見つけられるとは限りません。今後、検出方法の研究を引き続き進めていく所存です。

事故概況
図1 事故概況
き電電流記録波形
図2 き電電流記録波形
記録波形の周波数分析結果
図3 記録波形の周波数分析結果

(記事: き電 樋口 靖展)

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