電力ニュース

2020年6月号

新幹線区間に対応するCPSトロリ線(その1:化学組成と定置試験結果)

 東北新幹線(八戸・新青森間)以降に開業した整備新幹線には、高速用架線向けに開発した、引張強度と導電率を両立するクロム・ジルコニウム系銅合金( PHC :PHCは三菱マテリアルの登録商標です)トロリ線が導入されています。しかし、PHCトロリ線は製造工程において鋳造と圧延を個別に行う必要があるため、製造時の最小ロットが大きく( 200トン、トロリ線の長さで約 200km )、鉄道事業者のトロリ線張替計画にきめ細かく対応した供給ができないことが課題となっています。そこで、PHCトロリ線と同等の高速性能を有しつつ、連続鋳造圧延による製造を可能とすることにより小ロットでの製造を実現したコバルト・リン系銅合金( CPS )トロリ線を開発しました。製造工程の変更により CPSトロリ線は、PHCトロリ線に対するコストの低減も可能です。

 今回は CPSトロリ線の化学組成および定置試験結果をご紹介します。CPSトロリ線の外観を図1に、化学組成を表1に示します。CPSトロリ線の材料は、コバルト( Co )、リン( P )、すず( Sn )を主な合金元素とする銅合金であり、それらの元素記号から CPSトロリ線と名付けました。また、PHCトロリ線と同じく、単一の材質であるためリサイクル性が高いことから使用後の環境負荷も小さいことも特長の1つです。

 鉄道総研内で行った定置試験結果をご紹介します。トロリ線の摩耗特性を図2に、すり板の摩耗特性を図3に示します。無通電の場合、トロリ線、すり板共に摩耗量は CPSトロリ線の方が、PHCトロリ線と同等かわずかに少ないこと、200A 通電の場合、トロリ線、すり板の摩耗量は両方とも CPSトロリ線の方が少ないことを確認しました。次に疲労特性を図4に示します。トロリ線に同じひずみが生じるよう曲げ変形を与えた時に疲労破断に至る回数が CPSトロリ線の方が多いことから、CPSトロリ線は、PHCトロリ線より疲労特性が優れていることを確認しました。これらの結果を踏まえ、新幹線区間で敷設試験を行いました。その結果は次号でご紹介します。

 なお、CPSトロリ線の開発は三菱マテリアル、三菱伸銅、菱星尼崎電線との共同研究にて実施しました。

CPSトロリ線
図1 CPSトロリ線
化学組成
表1 化学組成
トロリ線の摩耗特性
図2 トロリ線の摩耗特性
図3 すり板の摩耗特性
疲労特性
図4 疲労特性

(記事: 集電管理 臼木 理倫)

交流き電回路地絡時の信号設備損傷 その2

 前回、交流き電回路で地絡事故時に発生する大きなレール対地電位(以下、レール電位)で信号機器に設備される耐雷用保安器(以下、保安器)が焼損する原理について解説しました。今回は、実際に保安器が焼損する過程や、その対策例について解説します。

 図1は、試験装置にて模擬のレール電位を保安器に印加した瞬間の様子です。印加電圧は前号に示した人工地絡試験の実績から 1500V とし、通電時間は地絡検出から遮断器解放までに見込まれる時間として 100ms と設定しました。なお、試験装置の都合上、直流電圧の印加としましたが、保安器の特性上、商用周波数交流の印加と直流の印加はほぼ同等とみなせます。

 印加の瞬間には、端子部や蓋の隙間から火花や放電光が認められますが、図2の左側に示すように印加後の外観はわずかに煤の付着がみられる程度で、正常時との変化に気付くことは困難です。しかしながら、図2の右側に示すように、蓋を開けた内部は全体的に著しく炭化しています。この状態では保安器としての機能はもはや失われ、炭化した素子によるトラッキングで短絡状態となります。

 保安器が短絡状態になると、電源線であれば信号機器の電源装置の短絡故障になりますし、信号線であれば信号異常となってしまうため、結局は信号機器の故障となります。なお、炭化度合によっては電源線の電圧( 20V 程度)やテスターによる抵抗値チェック等ではある程度の抵抗値を示してしまい、異常が見過ごされる可能性があります。この場合も、列車負荷等によるレール電位が繰り返し印加されることで保安器の焼損は徐々に進展し、やがては電源短絡等の故障に至ってしまいます。

 このような事象に対する対策は、端的に言えば「地絡時に保安器を不要動作させない」ことに尽きます。具体的方法としては、①地絡時のレール電位を抑制する、②保安器の動作開始電圧を上げる、③信号機器(信号回路)を非接地化する、④地絡時にレールと信号機器を等電位化する等があります。①は、そもそもの原因であるレール電位を抑制する抜本的対策ですが、数Ω以下の極めて低い抵抗値でレールを接地しなければ、大きな効果は見込めません。②は耐雷性能(雷撃時の制限電圧)に対する要求と相反するため、信号機器の耐電圧や気象条件(多雷地区か否か等)を十分に考慮する必要があります。③は信号設備全体(例えば駅構内全体等)で徹底的に実施しなければ効果がなく、接地するか否かは耐雷性や人体防護、各種法規類との整合に関わるため、レール電位対策の観点だけでは決められません。④のように、地絡時は一時的にレールと信号機器の接地を短絡し、等電位化することで信号機器への故障電流の進入を防止する装置(図3)も考案されていますが、基本的には保護対象の機器毎に設備する必要があります。

 このように、いずれの対策も一長一短があり、単体では十分な効果を上げられないこともあります。したがって、電力分野と信号分野双方の要請事項をよくすり合わせ、保護協調に対する統一的な方針を明確にしたうえで①~④の対策を組み合わせることになります。鉄道総研においても、効果的なレール電位の抑制方法や、耐雷性能との協調のあり方などの研究に引き続き取り組んでまいります。(完)

試験電圧印加の瞬間の保安器
図1 試験電圧印加の瞬間の保安器
試験電圧印加後の保安器
図2 試験電圧印加後の保安器
信号用地絡保護装置
図3 信号用地絡保護装置
(出典:サンコーシヤHP)

(記事: き電 吉井 剣)

温度変化を考慮した架線・パンタグラフシミュレーション

 架線やパンタグラフの開発・設計支援、および架線・パンタグラフ系事故の原因究明に活用することを目的として、鉄道総研では継続的に架線・パンタグラフの3次元運動シミュレータの改良を進めています。今回は、温度変化に伴う線条の伸縮を考慮した計算例をご紹介します。

 図1に架線・パンタグラフシミュレーションの概略図を示します。本例では、有限要素法によってモデル化した3次元の架線に対して、ばね・質点系としてモデル化したパンタグラフが走行します。この架線モデルでは、温度変化量と線条の線膨張係数を与えることで、架線要素の温度伸縮による架線の静構造の変化を評価することができます。

 気温 15℃ のときにトロリ線が水平になるように架線を架設した後に、気温が -10℃ まで低下したとして、架線の静構造変化を計算した結果を図2に示します。架線モデルは全長 300m のシンプル架線であり、ちょう架線は両端を直留めし、トロリ線は自動張力調整装置により張力が一定に保たれる条件としています。気温の低下に伴って各線条が収縮し、図2の青色線のようにトロリ線の高さが変化します。

 温度変化前後の各架線をパンタグラフが走行したシミュレーション結果を図3、図4に示します。図3はパンタグラフ高さを、図4はトロリ線とパンタグラフの間の接触力をそれぞれ示します。両者ともにちょう架線の支持点付近をパンタグラフが通過する際に減少し、径間中央付近にかけて再び増加する傾向が見られますが、温度が -10℃ の条件の方がその変動量がより大きくなります。これは、-10℃ の条件ではトロリ線がホグ状態となるためです。

 以上、温度が変化したときの架線の静構造変化と、その変化が集電系に与える影響を評価した例を示しました。今後もシミュレータを改良し、架線・パンタグラフの開発や集電系における現象の解明に活用していく予定です。

架線・パンタグラフシミュレーションの概略図
図1 架線・パンタグラフシミュレーションの概略図
温度低下時の架線の静構造計算結果
図2 温度低下時の架線の静構造計算結果
温度変化がパンタグラフ高さに与える影響
図3 温度変化がパンタグラフ高さに与える影響
温度変化が接触力に与える影響
図4 温度変化が接触力に与える影響

(記事: 集電力学 長尾 恭平)

地震荷重に対応したピンヨーク型装柱金具

 2016年熊本地震では、九州新幹線の電車線設備のうち、支持物にはほとんど被害が発生しなかった一方で、ばね式テンションバランサ(以下、STB )装柱用電柱バンドの破断やハンガの変形など、電車線金具には多くの被害が発生しました。とくに、STB 装柱用電柱バンドの破断は、STB 多用区間で初めて大規模地震が起きたことにより顕著化したもので、仮に STB が落下した場合は重大被害に至る可能性があります。本稿では、この対策として考案したピンヨーク型装柱金具について紹介します。

 従来の三角ヨークを用いた装柱金具は、電柱バンドに対する STB の水平面内の回転は拘束されています。そのため、地震により STB が水平方向に大きく動揺した場合、ヨーク金具と電柱バンド間および STB 間の連結部分に大きな曲げ荷重が作用します(図1(a))。2016年熊本地震では、この荷重が過大となったために、電柱バンドの破断が生じました。そこで、図1(b)に示すように、ヨーク金具にピン構造を設けることで STB 動揺による曲げ荷重を低減させ、耐震性能を向上させたピンヨーク型装柱金具を考案しました。本開発品は、既存の三角ヨークを置換するだけで導入可能な構造となっています。

 ピンヨーク型装柱金具の効果を検証するために、従来品との比較試験を行いました。比較試験では、実際の装柱状態を模擬した試験系を組み(図2参照)、地震による STB 動揺状態を静的に再現し(図1のように電柱バンドに対して角度をつけて STB に標準張力を印加)、このときの電柱バンド、ヨーク金具、STB クレビス部の各所に生じるひずみを測定しました。

 図3に比較試験結果(電柱バンドに対する STB の引張角度と発生ひずみの関係)の一部を示します。三角ヨークの場合は、いずれの測定箇所においても、回転角度の増加と共にひずみが増加し、とくに電柱バンドとヨークの連結部(2016年熊本地震における破断箇所)では圧縮側のひずみ増加が顕著であり、電柱バンドの連結部や三角ヨークで変形が見られました。一方、ピンヨークの場合は発生ひずみが 1/2~1/5 程度に低減されており、ピンヨーク型装柱金具の地震荷重低減効果が示されました。

従来品と開発品のSTB動揺時挙動の概念図
(a) 従来品(三角ヨーク) (b) 開発品(ピンヨーク)
図1 従来品と開発品のSTB動揺時挙動の概念図
ピンヨーク装柱時外観
図2 ピンヨーク装柱時外観
電柱バンド(図2①)
(a) 電柱バンド(図2①)
ヨーク(図2②)
(b) ヨーク(図2②)
STB(図2③)
(c) STB(図2③)

図3 従来品と開発品の比較試験結果

(記事: 電車線構造 中村 琢)

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