電力ニュース

2020年12月号

多分割平滑化舟体と舟支え部の改良によるパンタグラフの空力音低減策

 新幹線のさらなる高速化を実現するうえで、パンタグラフの空力音低減が重要な課題となっています。鉄道総研では、主要な音源部位である舟体および舟支え部の空力音低減に着目した研究を行っており、電力ニュース101号では舟体・舟支え部の形状改良による空力音低減手法を、電力ニュース107号では頂点カバーへの多孔質材適用による空力音低減手法を紹介しました。本項では、それらの研究成果を基に実機の舟体・舟支え部を開発し、風洞試験で空力音低減効果を確認した結果について紹介します。

 今回開発した舟体・舟支え部の空力音低減策の概要図を図1に示します。舟体については、断面形状の平滑化を行うとともに、舟体前後に貫通する孔(貫通孔)を設けることで空力音低減を図りました(図1①)。ここで、舟体の追従機構として、良好な集電性能を実現する新たな機構として提案した多分割舟体機構を適用しました。この機構では、舟体をまくらぎ方向に9分割し、分割した舟体要素において、舟体とすり板(図1①の赤色部分)が一体となって、芯材(図1①の青色部分)に対して上下動作する機構を構成しています。このとき、すり板や舟体には軽量な材料を使用するとこで、良好な集電性能を実現しています。また、この機構では、追従機構の動作による舟体断面形状の変化が生じないことから、揚力特性の安定化を図るうえで有利な機構となっています。舟支え部については、舟体位置を上流側に移設する改良舟支え(図1②)と、金属多孔質材付き頂点カバー(図1③)を開発しました。

 図2はこれらの空力音低減策を適用した場合の空力音低減効果を、風洞試験において確認した結果を示しています。図2に示すように、多分割平滑化舟体の適用により、現用パンタグラフに対して1.9dBの空力音低減効果が得られること、また、改良舟支えや金属多孔質材付き頂点カバーと組み合わせることで、最大で2.7dBの空力音低減効果が得られることを確認しました。今後は、これらの空力音低減策の実用化に向けた検討を進めていく予定です。

(記事: 集電力学 光用 剛)

ダンパハンガの保全管理について

 在来線高速区間の合成シンプル架線は経年が20年以上となる箇所もあり,今後金具類の計画的取替が必要になると考えられます。合成シンプル架線は図1のように支持点前後のハンガにダンパハンガと呼ばれるばね要素および減衰要素を持つハンガを適用した架線のことを言いますが,これまで使用されているダンパハンガの取替指標や保全管理方法は明確にされていませんでした。そこで,経年25年の撤去品ダンパハンガ21個および新品ダンパハンガ6個に対して各種の性能試験を行い,今後のダンパハンガの保全管理手法と取り換えの目安を検討しました。

 撤去品ダンパハンガの外観の例を図2に示します。全ての撤去品ダンパハンガについてシリンダ部には有害なキズや腐食は確認されませんでした。また,ピストンロッドには付着物を確認したものの,有害なキズや変形等は確認されませんでした。

 新品および撤去品ダンパハンガにおいて自由振動試験を行った際の代表的な結果を図3(a)に示します。新品ダンパハンガの場合,自由振動開始後少なくとも第2極値まで観測されましたが,撤去品ダンパハンガの場合,自由振動開始後,第1極値の絶対値が小さく,それ以降の極値が観測されない場合が見受けられました。このような減衰性能の差を定量化するため,各ダンパハンガの自由振動試験結果から測定された初期変位a[mm]と第1極値b[mm]の比a/bを求めました。a/bは新品の場合1.7~2.2の間でしたが,撤去品では1.5~13.0の間で大きくバラついており,経年の影響を受けていると考えられます(図3(b))。a/b値の差はダンパハンガ単体の減衰性能の差と考えることが出来,これを粘性減衰に換算すると,新品21.7~32.0[Ns/m],撤去品17.9~86.1[Ns/m]となりました。

 次に,鉄道総研の集電試験装置に新品,撤去品および一般のハンガをそれぞれ架設し,走行試験を行った際の離線率測定結果を図4に示します。ハンガ条件による顕著な差は見られず,撤去品ダンパハンガを用いた場合の離線率は目安値の5%に対して十分余裕がありました。

 また,ダンパハンガ単体の減衰性能の変化が集電性能に与える影響を検討するため,営業速度130km/hの条件で減衰係数を変化させ,集電性能をシミュレーションしました。その結果を図5に示します。なお,離線率は常に0%でした。本結果より,ダンパハンガの粘性減衰が変化したとしても,押上量や支持点ひずみの値は多少変動しますが,目安値(押上量70mm,ひずみ500μ,離線率5%)を満足する性能を維持すると予測されます。したがって,保守・点検に関しては一般ハンガと同様に目視による異常の有無の確認を行うことでよいと考えられます。取替に関しては目視による点検とトロリ線の摩耗状態を監視し,通常と異なる摩耗が認められた時点で再度検討することが考えられます。
 
 

(記事: 電車線構造 佐藤 宏紀)

ちょう架線・補助ちょう架線の疲労寿命評価

 ちょう架線や補助ちょう架線は、主に腐食劣化に基づいた取替標準により経年管理されています。しかし、これらの線条はパンタグラフ通過時の電車線振動によって特に支持点箇所に曲げ変形が加わるため、疲労損傷する可能性があります。これまでの研究で、コネクタに使用されているより線を、それと同じ動特性をもつ仮想的な単線に置き換えてシミュレーションすることで、より線のひずみ推定および疲労寿命推定が可能となりました1)。そこで、ちょう架線や補助ちょう架線についてもこの手法を適用し、パンタグラフ通過による疲労損傷の懸念の有無を確認しました。

 今回対象としたのは、新幹線においてちょう架線や補助ちょう架線として用いられている硬銅より線PH150(図1左)です。まず、PH150に対して動特性同定試験を実施し、実物のPH150と曲げや減衰の特性が合うように仮想的な単線モデルを作成しました(図1右)。次に、架線-パンタグラフ系シミュレーションにおいて、上記単線モデルをちょう架線として設定し、パンタグラフ通過時の単線モデルのひずみ波形を算出しました。ここでは、PHCシンプル架線(ちょう架線:PH150、トロリ線:PHC110、それぞれ張力19.6kN)の例を示します(図2)。列車通過速度は50~360km/hとしました。

 続いて、単線モデルの疲労特性を把握するため、図3に示す線条・金具振動試験機を使用して、PH150の振動疲労試験を行いました。単線モデルの直径が定まることで、実物のより線の疲労試験結果から単線モデルの疲労寿命曲線を求めることができます。図4に試験結果から作成した疲労寿命曲線を示します。

 最後に、先ほど求めた単線モデルのひずみ波形と、疲労寿命曲線から、修正マイナー則という疲労損傷度を評価する手法を適用して、PH150の疲労寿命を推定しました。その結果、いずれの列車通過速度条件においても、推定疲労寿命は一般的な疲労限度の基準である107回以上となりました。これより、PH150を上記のPHCシンプル架線で用いた場合、360km/hまでの列車走行に対して疲労損傷の懸念は小さいと考えられます。

 今回ご紹介した手法を用いて、様々な架線構成における電車線線条の疲労損傷の懸念を確認する予定です。

〔参考文献〕

  1. 山下主税・小原拓也:電車線コネクターの疲労寿命を予測する、RRR、第72巻、第1号、pp.24~27、2015

(記事: 集電管理 小原 拓也)

高圧避雷器劣化表示器の提案

 鉄道の高圧配電線路には、信号保安装置や踏切保安設備に電力を供給する自動信号高圧配電線路と、駅の照明や沿線の保守設備に電力を供給する電灯電力高圧配電線路の2種類があります。いずれも、列車の運行に直結する設備やバリアフリー設備、自動券売機、自動改札機など重要度の高い負荷へ電力を供給しています。このため、高圧配電線路に対する電力安定供給の要求は高まり続けており、故障時のダウンタイム縮小が求められています。一方で、高圧配電線路の亘長は長いもので数十キロメートルに及ぶ箇所もあり、故障時のダウンタイムを縮小するためには、故障点探索を容易にすることが重要です。

 故障点の特定に対して、変電所内では地絡過電圧継電器や地絡方向継電器を設置し、地絡故障の発生した回線の特定に利用されています。外線側では高圧ケーブル故障検知器、変圧器絶縁破壊検知器、避雷器切り離し装置のような各種検知器で個々の設備の地絡電流を検知し、保守作業員が故障した設備を発見できるようになっています。特に直流電気鉄道の沿線で用いられる非接地系高圧配電線路の地絡電流は負荷電流と比べて小さく、地絡による損傷痕の目視判断が難しいため、各種検知器に課せられた役割は大きいと言えます。

 ここで、図1を基に避雷器内部の劣化による地絡が発生した場合を考えてみます。例えば133mAの地絡電流が流れると地絡方向継電器は概ね数百ミリ秒から数秒で動作し、高圧配電線路を停電させます。一方、避雷器切り離し装置は劣化避雷器を接地部から切り離すまでに約70秒かかるため、期待するような切り離し動作が実際にはできません。

 そこで、動作最小電流を133mA、動作開始時間を0.2秒とした高圧避雷器劣化表示器(以下、劣化表示器)を製作しました(図2左)。内蔵のマイコンが地絡電流を検知すると、表示窓に赤の蛍光色が表示されます。マイコンの電源にはリチウム一次電池を使用しており、最長20年動作します。

 この劣化表示器を人為的に劣化(吸水)させた避雷器の接地側に取り付けて、実際の高圧配電線路において動作試験を行い、動作最小電流で動作することを確認しました。また、この劣化表示器は地絡方向継電器の動作よりも早い段階で動作すること、さらに地絡方向継電器動作が動作しないレベルの地絡電流に対しても動作できることを確認しました。以上のことから、提案する劣化表示器は、故障避雷器の特定のみならず、避雷器の絶縁低下等、劣化の予兆把握への活用も期待されます。

〔参考文献〕

  1. 樋口他:高圧配電線路用避雷器の劣化表示手法、鉄道総研報告、Vol.34、No.9、pp.47-52、2020

(記事: き電 樋口 靖展)