電力ニュース

2023年4月号

回生対策装置の伝導ノイズ電流の分析

 近年は、回生エネルギーを有効利用することによってエネルギー消費量やCO2排出量削減を行うため、回生対策装置(回生インバータや電力貯蔵装置など)の導入が推進されています。それらの導入の前に、装置動作(電力変換器のパワー半導体のスイッチング動作)によって発生する伝導ノイズ電流が信号設備の動作不良を引き起こさないことを確認するため、誘導障害試験が実施されることがあります。しかし、試験実施における試験列車の手配や、動作確認する信号設備が広範囲に及ぶことにより、試験に要する人的リソースの負担が大きいことが課題となっています。そこで、回生対策装置から発生する伝導ノイズの特徴および影響範囲を明らかにできれば、誘導障害試験を実施する区間を小さくできるものと期待されます。ここでは、回生対策装置の伝導ノイズ電流を測定し、その特徴を分析した一例を紹介します。

 一例として駅舎補助電源インバータの伝導ノイズ電流の測定例を図1に示します1)。図1(a)の(1)、(2)に相当するインバータ盤の筐体等の接地線の電流は4kHz以上の複数周波数において大きくなります(図1(b))。一方、トロリ線側(3)や帰線側(4)で伝導ノイズ電流を測定すると、4kHz以上の複数周波数において(3)と(4)に有意な差が現れ、この差はほぼ(1)、(2)の電流に相当します。以上の測定結果を分析すると、周波数帯に応じて以下のような伝導ノイズ回路構成が推定されます。

 

  • 4kHzまでは、主にトロリ線・レール間で循環する「ノーマルモード」の回路構成
  •  
  • 4kHz以上では複数周波数において、トロリ線あるいはレールと大地間の漏れインピーダンス、インバータ盤等の接地線を介して伝導ノイズ電流が循環する「コモンモード」の回路構成
  • [参考文献]

    • 1) 熊谷他:駅舎補助電源装置の高周波電流伝搬経路の評価、2022年電気学会産業応用部門大会、5-39、2022年9月

    (記事: き電 小西 武史)

    可動ブラケットが電車線のレール方向変位に与える影響

     電車線のレール方向変位は様々な要因で生じます。引留区間の両端に自動張力調整装置が利用されている場合、電車線のレール方向変位が片方の自動張力調整装置側に偏る場合があります。電車線流れもそのような現象の1つです。この現象の要因の1つとしてI形あるいはO形の可動ブラケットがまとまり連続することが挙げられていますが1)、その詳細については明らかではありません。本稿では、可動ブラケットが電車線のレール方向変位の偏りに与える影響を数値計算により調査した結果についてご紹介します。

     可動ブラケットのイヤー点における電車線のレール方向変位 x と電車線のレール方向に作用する力 f の関係は、電車線張力 T 、径間長 L 、曲線半径 R 、ブラケット長さ(ブラケット回転中心からイヤー点までの長さ) G を用いて次のように表されます1)

    f = ± ( T L / R G ) x  (+:I形の場合、-:O形の場合) (1)

    この式において、変位xの係数はばね定数とみなすことができるため、可動ブラケットは電車線のレール方向変位に対してばね要素として作用し、種類によって係数の正負が異なります。

     図1に曲線半径4000mの曲線路内にある引留区間内の電車線(径間数20、径間長全て50m、電車線張力39200N、ブラケット長さ全て4m)に対して,I型およびO型の可動ブラケットの配置が気温変化(+20℃)に対する張力調整装置のストローク(以下、単にストローク)変化に与える影響を計算した結果を示します。なお、引留点にはばね式自動張力調整装置を簡易的に模擬した6000N/mの線形ばねを導入しています。同図には比較対象として直線区間(図中⓪)の計算結果も示しています。直線は曲線半径が無限大であることと等価であるため、式(1)より可動ブラケットのばね要素としての作用は無視できるほど小さくなります。I形とO形を交互に配置した①のケースでは両側のストローク差は認められず、それぞれストローク量は直線区間のものとほぼ同等です。図1中の②~⑤のケースは上述のI形あるいはO形の可動ブラケットがまとまり連続する配置に相当しますが、全てO形あるいはI形を配置した②と③のケースでは、両側のストローク差は認められません。引留区間の半分にI形あるいはO形のいずれかの可動ブラケットを連続して配置した④と⑤のケースについては、両側のストローク差が大きくなっており、O形可動ブラケットが集中する側のストローク量が大きい様子がわかります。ここでは示していませんが、引留区間内の可動ブラケットの種類・配置を同一とし、引留区間の前半と後半で曲線半径を変えたケースでも、両側のストロークに差が生じることがわかっています。これらの計算結果より、可動ブラケットの種類や線路条件により決まるばね定数(式(1)の x の係数)の引留区間内における分布の非対称性が電車線レール方向変位の偏りに影響していることがわかります。この結果は、引留区間内のばね定数の分布を対称にすることでレール方向変位の偏りを解消できることを示唆するものであり、設計時において可動ブラケットの配置を検討する場合や流止装置の設置の対策が必要と判断された場合に最も効果的な設置位置を検討する場合などに役立つ知見であると考えます。

    [参考文献]

    • 1) 日本鉄道電気技術協会、鉄道技術者のための電気概論電車線路シリーズ3電車線装置、pp.109-112、2003

    (記事: 集電力学 山下 義隆)

    集電系材料を用いたしゅう動接点間におけるアークの振る舞い

     アーク放電の精緻な観察には、現象が短時間であることから高速度カメラが必要不可欠です。しかし、実際に列車走行時のアーク放電を観察することは、列車の屋根上に高速度カメラを設置する必要があり、極めて困難です。したがって、集電系材料を用いたしゅう動時に生じるアーク放電の振る舞いについては、ほとんど知見がありません。そこで、集電系材料を電気接点に用い、しゅう動アークを任意の位置で発生させることのできる移動電極開閉装置を開発し、しゅう動アークの観察を試みました。

     図1に移動電極開閉装置の模式図を示します。架台にトロリ線を水平に固定し、その下をアクチュエータに取り付けられたすり板が水平に、500mm/sで移動するとともに、任意の点で鉛直下向きに150mm/sで移動します。トロリ線を陽極、すり板を陰極として、直流電圧を印加しています。電圧はトロリ線とすり板が開放した状態で50V~100V、電流は短絡した状態で電流45A~140Aとしました。また、しゅう動アークの観察に移動電極開閉装置から約500mm離して設置した高速度カメラを用いました。

     図2に電圧100V、電流140Aにおけるカーボン系すり板使用時の陽極点と陰極点の軌跡を示します。なお、図中にはトロリ線の位置とすり板の軌跡を破線で示しています。またすり板のイメージも示しています。カーボン系すり板使用時は、消弧直前で陽極点が陰極点から遅れること、陰極点とすり板の軌跡がほぼ一致することが分かります。このような傾向は、他に銅系すり板、純カーボンすり板でも観測されました。

     図3に電圧100V、電流140Aにおける鉄系すり板使用時の陽極点と陰極点の軌跡を示します。先ほどと同様に、図中にはトロリ線の位置とすり板の軌跡やすり板のイメージも示しています。鉄系すり板使用時は陽極点がほとんど動いていないこと、陰極点とすり板の軌跡が一致しないことが分かります。この陰極点とすり板の軌跡の不一致は、陰極点がすり板上の1点に留まらないために生じております。この傾向は他の鉄系すり板1種類でも観測されました。

     このような違いは陰極材料の電子放出機構だけでは説明が付かないため、今後、メカニズムの解明を進める必要があります。しかし、集電系材料を用いた際のアーク放電の振る舞いについて新たな知見を与えるものです。

    (記事: 電車線構造 早坂 高雅)

    太陽の高度・方位が光切断法を用いたトロリ線形状の計測に及ぼす影響

     光切断法は、帯状のレーザー光を計測対象に照射し、反射光をカメラで撮影して対象物の断面形状を計測する手法です。この手法をトロリ線に適用することで、トロリ線の摩耗断面積を計測し、残存直径に換算することも可能です。ただし、この手法ではトロリ線を下からカメラで撮影するため、太陽光の外乱を抑制する必要があります。

     電力ニュースNo.117(2021年12月号)にて太陽光による外乱を抑制するには、バンドパスフィルター(BPF)が有効であることを報告しました。今回はBPFを含む、太陽高度と方位の変化を模擬できる計測系を構成し、快晴時におけるトロリ線断面形状の計測が可能な範囲を調査しました(図 1、図 2)。

     調査した結果、カメラの画角内に太陽が映っていない場合は計測可能でした。図 3のように画角内に太陽が映っている場合は、トロリ線No.1の背後に太陽はありませんが、トロリ線No.2の背後には太陽が写っており、トロリ線上のレーザーの輝線が太陽光で一部かき消されています。断面形状計測の結果、トロリ線No.1はトロリ線の形状が欠けることなく取得できており、計測精度への影響はありません。一方、トロリ線No.2の左側は太陽光の外乱により輝線の一部が見えなくなっているため、取得したトロリ線形状に一部欠けている部分があります(図 4)。そのため、トロリ線No.2においては、正確な計測ができません。今回の調査結果では、トロリ線表面のレーザーの輝線がカメラから見て太陽中心からカメラ水平方向の画角で約±3°以上離れていれば計測が可能でした。

     今回の調査は快晴時に行ったため、画面上に映る太陽光の最大輝度は高いが高輝度の範囲が狭いという特徴があると考えられます。一方、曇天時の場合は、画面上に映る太陽光の最大輝度は快晴時よりは低いが、雲による光の拡散のため高輝度の範囲が広くなると考えられます。そのため、曇天時の方が太陽光の外乱により計測不可能な範囲が広がる可能性もあるので、今後は曇天時の調査も進めていきます。

    (記事: 集電管理 平良 優介)

    【ワンポイント講座】がいし汚損と等価塩分付着密度の測定方法

     がいし等の絶縁物に汚損物が付着すると絶縁性能が低下します。設備設計値以上に汚損物が付着した場合、短期的には閃絡、長期的には材料劣化に繋がるため、汚損に対して十分な設備設計を行う必要があります。

     がいしに付着する汚損物質は、電解性物質と非電解性物質の2つに大別されます。電解性物質は、海塩や工場から排出される硫黄等があり、これらががいし表面で水分に溶解することで絶縁性能が低下します。非電解性物質は土砂やセメント粉末等があり、それら自体は絶縁性を示すことが多いですが多孔質ないし微細粉であるため、がいし表面に多く付着するとそこに水分、ひいては電解性物質も付着しやすくなります。日本においては、一般に両者の付着量は比例関係にあること、冬期季節風や台風襲来に伴い非常に多くの海塩が付着することから、電解性物質のみを対象とした測定を行い、耐汚損設計をすることが多いです1)。その中でも特によく用いられるのが、付着した汚損物を蒸留水に溶かして水溶液中に含まれる電解性物質の総量を、それと同じ導電率を与える塩化ナトリウムの量に換算する、等価塩分付着密度(以下ESDD)測定1)という方法です。

     ESDDの測定を多数回(複数年・季節)行った上で、得られた最大値を表1のように区分して汚損区分の設計値として使用することが一般的です。ESDDは導電率計と蒸留水を準備すればどこでも測定できるため、現在に至るまで、簡単に汚損環境を把握する方法として、広く普及しています。

    <ESDDの測定方法の一例>
    ①対象地域においてがいしを一定の期間曝露する。
    ②がいし表面に付着した汚損物を一定量の蒸留水(脱イオン水)に溶かす(図1参照)。
    ③得られた水溶液の導電率を導電率計で測定する。
    ④(1)式を用いて、導電率と蒸留水量、がいしの表面積から単位面積あたりの塩分付着密度に換算する。

    Y =( A × B ×10)/ S ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

      Y :ESDD(mg/cm2
      S :汚損がいしの測定面積(cm2
      A :蒸留水の容量(ml)
      B :塩分濃度(%)、下記の(2)式による
      B=((5.7×10-4×σ20 )1.03)/10・・・・・・・・・・・・・・・(2)
     σ20:20℃における汚損液の導電率(μS/cm)、使用計器の仕様に応じて温度補正を行うこと。

    [参考文献]

    • 1) 加覧俊平:電車線路用がいしの海塩汚損管理、鉄道技術研究報告No.788、1971

    (記事: き電 柴田 直樹)