施設研究ニュース

2019年5月号

施設系研究開発特集号

 施設研究ニュースは,鉄道総研の施設関連の研究部,研究センター,研究室の技術的成果などを,JR 各社の皆様にタイムリーに分かりやすくお伝えすることを目的として発行しております.また,読者の皆様にさらに充実した情報をお届けできるように,随時改善を図っております.今後とも,施設研究ニュースをよろしくお願いします.
 さて今月号は,毎年恒例ではございますが,施設関連の各研究部,研究センター,研究室における今年度の研究開発計画をご紹介します.

構造物技術研究部

 構造物技術研究部は,「コンクリート構造」,「鋼・複合構造」,「基礎・土構造」,「トンネル」,「建築」の5つの研究室から構成され,職員34名,出向受入22名,研究補助6名,総勢62名を擁する大所帯です.部員一同,鉄道の運営に貢献する研究開発成果の発信と実用化展開を心がけています.具体的には,既設構造物の維持管理や耐震補強,リニューアルに関わる研究開発,駅構造・空間に関わる研究開発の他,新設構造物の建設に関する研究開発,技術基準整備などに取り組んでいます.

・今年度の主な活動
【維持管理】
 構造物のメンテナンスやリニューアル技術の研究開発を重点的に進めます.

【災害対策】
 河川橋梁等の既設構造物の耐災性向上に貢献する診断・補強技術や,早期復旧技術の開発に取り組みます.

【建設・改良】
 技術基準整備では,コンクリートの設計標準の改訂を進捗させ,トンネル設計標準(開削工法編)は通達後,速やかに講習会を実施します.新たに今年度より基礎構造物・抗土圧構造物の維持管理標準の手引き整備がスタートします.トンネル設計標準(シールド工法編,山岳工法編),コンクリート構造物の維持管理標準の手引きは,公開準備を進めます.

 鉄道の安全性向上と持続的発展のために,部員一丸となって研究開発業務を進捗させますので,ご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.

(メンバー:神田政幸,谷村幸裕,津野究)

軌道技術研究部

 軌道技術研究部は,軌道構造,軌道・路盤,軌道管理,レールメンテナンスの4研究室,計44名(うち出向受16名)の体制で研究開発を進めています.今年度もよろしくお願いいたします.
 当部は,【軌道の本質を追求し,独創的な発想で低コストで持続可能な線路を実現する】という目標を実現するために,①鉄道事業者に信頼される活動,②技術継承と脱技能化の促進,③軌道技術のグローバル化への対応,の3つを基本方針として研究開発を進めます.
 平成 31年度は,「持続可能な線路の実現」に向けて,以下の3項目を重点的に実施します.

(1)「バラスト軌道の限界状態設計法」や「被災したバラスト軌道の早期復旧方法」等のバラスト軌道の設計・保守に関する技術開発.

(2)「波状摩耗発生メカニズムの解明と対策」や「テルミット溶接法の強度向上」等のレールメンテナンスに関する技術開発.

(3)「低コストなリアルタイム軌道検測システム」や「線路自動巡視システム」等の,ICTを活用した軌道メンテナンスの省力化・自動化に向けた技術開発.
 
 また,軌道技術に関するISOの各種ワーキング活動や英語技術資料作成等,軌道技術の国際標準化活動における日本のプレゼンス向上に向けた取り組みにつきましても,積極的に進めて参ります.
 その他,軌道に関するご相談や調査等のご要望がございましたら,お気軽にご連絡ください.

(メンバー:片岡宏夫,細田充)

防災技術研究部

 防災技術研究部は,雨,風,雪などに起因する自然災害の防止・軽減を目的とした研究開発と,地盤,地質,地下水などに関わる調査・評価技術や列車走行に伴う地盤振動などに関する研究開発を行い,JR各社をはじめとする鉄道事業者の皆様方の業務に役立つ成果の提供に努めます.当部は,部長1名,気象防災研究室7名,地盤防災研究室8名,地質研究室7名の23名で構成されています.
 
 将来指向課題「鉄道の防災・減災技術の高度化」では,強大化する自然外力に対する減災技術の研究に取り組んでいます.今年度は,「局地的短時間強雨等による災害に関する減災技術」の実用化に向けた課題を検討するとともに,信号・情報技術研究部および鉄道地震工学研究センターと協力して「強大外力災害に対する減災手法」でテーマ全体の成果を取りまとめます.この他に防災技術研究部が主管する研究開発テーマとして,実用的な研究開発3件,基礎研究6件を設定しています.これらのテーマの内訳は,積雪地域を走る車両の着雪および落雪の評価,気象レーダーによる突風や降雪の検知への利用方法,切土斜面の劣化度評価手法,洗掘の評価,岩盤の劣化の評価,地盤振動の評価に関するテーマなど,多岐にわたっています.
 
 このような研究開発のほか,災害時の復旧支援等コンサルティング業務や受託研究等のご依頼に対しても迅速・的確にお応えし,皆様のお役にたてるよう研究部一丸となって努力していきます.今年度もご指導,ご協力のほどよろしくお願いします.

(メンバー:太田直之,福原隆彰)

鉄道地震工学研究センター

 鉄道地震工学研究センターでは,『地震レジリエントな鉄道の実現を目指して,時間的・技術的・分野的にシームレスで高品質な地震対策技術と地震情報を鉄道事業者に提供する』を目標に,「研究」と「情報」の拠点を目指して活動をしています.当研究センターは,研究センター長1名,地震解析研究室6名,地震動力学研究室6名,地震応答制御研究室8名で構成されています.
 
 シームレスな地震対策とは,時間的にも分野的にも途切れのない地震対策のことです.
 まず,①【事前対策】については,次期耐震設計標準の改定を意識して,(i)より自由度の高い設計が可能な性能マトリクスを導入した耐震設計体系の構築や,(ii)地表断層変位に対する設計法の開発,さらには,(iii)盛土の損傷メカニズムを解明と照査方法の高精度化,等に取組みます.もちろん,昨年度終了した,危機耐性を向上させる対策方法についても導入サポートを行ってまいります.
 
 ②【緊急即時対応】では,海底地震計を活用した早期地震警報の高度化に関する研究を中心に取り組みます.
 
 ③【初動対応】については,新規に中小地震発生時の運転再開を支援するための情報活用に関する研究を開始します.また,既に運用している鉄道用地震情報公開システムの機能向上を行い,鉄道事業者の個別の路線毎の揺れの大きさや構造物の被害推定をリアルタイムで予測し配信するサービスを夏頃から開始する予定です.ご興味のある方はご連絡頂きたく存じます.
 
 個別の技術以外に,共通基盤技術として,鉄道地震災害シミュレータについても常に刷新をしています.本シミュレータを活用した,路線全線の地震時のストレステスト(受託業務)についても,これまで以上に高精度な予測が可能になっています.
 その他,今年度も第6回アニュアルミーティングを2019年12月6日に日本工業倶楽部で開催の予定ですので,是非,ご参加下さい.

(メンバー:室野剛隆,坂井公俊)

コンクリート構造研究室(構造物技術研究部)

 コンクリート構造研究室では,橋りょう,高架橋をはじめとするコンクリート構造物の設計,施工および維持管理に関する研究開発を担当しています.
 今年度は,以下の課題を中心に研究開発に取り組みます.

(1)技術基準類の整備
 「鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)」の改訂のための委員会を開催し,改訂に向けて,検討を着実に進めます.

(2)研究開発
 コンクリート構造物の設計,および維持管理に関する研究開発を関連研究室と連携しながら実施します.設計に関連する研究では,復旧しやすい橋りょう支承部の設計法のほか,橋りょう掛け違い部の耐震補強に関する研究,ラーメン高架橋のプレキャスト化に関する研究を行います.維持管理に関連する研究では,コンクリート構造物における変状や性能の将来予測に関する研究を行います.また,コンクリート構造物の設計や維持管理に活用するシミュレーション技術についての研究も行います.
 
 なお,既設構造物の変状調査,耐震診断,補修,補強ならびに新設構造物の設計,施工に関する受託,コンサルティング業務を,ご要望に応じて随時実施します.

(メンバー:田所敏弥,渡辺健,轟俊太朗,中田裕喜,宮本祐輔,荒木一徳,岡本圭太,西村脩平,平野悠輔,小林史,堂内悠吾,佐藤祐子,中村麻美)

鋼・複合構造研究室(構造物技術研究部)

 鋼・複合構造研究室は,鋼構造物および鋼とコンクリートの複合構造物の設計,施工,維持管理に関する研究開発を研究室メンバー10名(博士4名,技術士5名)で担当しています.今年度は以下のような研究開発に取り組んでいきます.

(1)技術基準の整備
 主に新設構造物を対象とする「鉄道構造物等設計標準」のうち,鋼・合成構造物や複合構造物に関連する技術基準類の整備を,関連研究室と連携して進めていきます.既設鋼構造物の維持管理に活用する「鋼構造物補修・補強・改造の手引き」を昨年度改訂しました.今年度は,改訂した手引きを公開し,鋼橋の維持管理に必要な情報を多く発信していきます.

(2)研究開発
 鋼・複合構造物の延命化,低コスト化,施工性の向上等をキーワードとして,既設構造物の診断,補修・補強等の維持管理に関する研究や,複合構造物(SRC構造物,CFT構造物)の設計法に関する研究を行います.研究開発テーマとしては,「レール継目による鋼橋の疲労への影響評価」,「エネルギー吸収性能を高めた橋桁防護工」等を推進します.また,構造物の新設設計から施工,維持管理までをシームレスに取り扱うことができるようなCIMの構築を,関連する研究室と連携して進めていきます.
 
 この他,現場のニーズに応じてコンサルティング業務,受託業務等も随時実施しています.また,国鉄時代の鋼鉄道橋の図面を一式取り揃えていますので,維持管理や設計の際に参考としてご利用下さい.

(メンバー:岡本大,小林裕介,仁平達也,斉藤雅充,蒲原浩平,吉田善紀,金島篤希,土橋亮太,井上太郎,増田雄輔)

基礎・土構造研究室(構造物技術研究部)

 基礎・土構造研究室は,地盤もしくは地盤と接する新設の構造物の調査・設計・施工のほか,既設の構造物の維持管理(検査・補修・補強)に関わるコンサルティング業務,技術基準の整備・普及業務,研究開発業務を担当し,地盤工学に精通した専門家14名(工学博士6名,技術士4名)で構成されます.以下に今年度の主な目標を紹介します.

(1)技術基準
 基礎・土構造研究室は,「土構造標準」,「基礎標準」,「土留め標準」および「開削トンネル標準」に付属する「掘削土留め工設計指針」等を所管します.今年度も各種計算例の「旧式土留め壁の耐震補強設計計算例」を発刊するなど,関連研究室と協力しながら設計実務をサポートする手引きや設計計算例のほか,設計プログラムの整備に向けた作業を着実に進めます.「鉄道構造物等維持管理標準」については,「基礎構造物・抗土圧構造物編」を所管します.今年度は「洗掘された橋梁の応急復旧マニュアル(仮称)」の作成を進めます.

(2)研究開発
 今年度も土構造物・基礎構造物の建設・維持管理に関する多岐に亘るテーマを実施します.土構造物に関しては崩壊土砂活用のための盛土の施工管理指標に関する研究を,基礎構造物に関しては地震後の基礎の残存耐力に関する研究を行い,災害後の早期復旧に貢献できる研究開発を進めます.このほか,盛土式ホームの耐震補強法の開発や,掘削土留め工の設計における地盤改良工による変位抑制効果の評価法の開発等を行います.

(メンバー:神田政幸,中島進,松丸貴樹,阿部慶太,佐名川太亮,牛田貴士,藤本達貴,笠原康平,中島卓哉,倉上由貴,尾﨑匠,白根岳,二村俊輔,杉山健太)

トンネル研究室(構造物技術研究部)

 トンネル研究室では,鉄道トンネルや線路下横断構造物の設計,施工,維持管理に関する様々な研究開発を担当しています.今年度は,以下のような課題を中心に研究開発に取り組んでいきます.

(1)技術基準類の整備
 「鉄道構造物等設計標準」については,遅れている開削標準(トンネル総論と開削工法編)の通達,発刊,講習会を予定しています.シールド工法編と山岳工法編については,昨年度末に最終原案を完成させ,今年度内に通達予定です.
 この他,開削標準に準拠した線路下カルバートの設計に関する手引き,計算例を開削標準の通達に合わせホームページにアップし,皆様に試行して頂く予定です.

(2)研究開発
 鉄道トンネルの維持管理に関する研究をメインに,関連研究室と協力して実施しています.昨年度に続き,塩害劣化したシールドトンネルの健全度診断法,山岳トンネル覆工健全度の数値評価法に関する研究開発を進めます.また,今年度から「れんが積みトンネルの長寿命化のための補修・補強工法」テーマを立ち上げました.
 一方,線路下横断工における角形鋼管エレメント推進時の地盤影響評価に関する研究開発も引き続き実施し,低コスト化に資する施工方法等を検討していきます.
 
 この他,新幹線トンネルの設計・施工法や,既設トンネルの健全度評価と対策,近接施工の影響評価,地盤振動対策など,トンネルの設計,施工,維持管理に関する様々な課題については,受託・コンサルティングを通じて随時対応していきます.

(メンバー:岡野法之,野城一栄,津野究,仲山貴司,浦越拓野,水谷真基,滝川遼,藤田輝一,木下果穂,秋元優太郎)

建築研究室(構造物技術研究部)

 建築研究室では,駅を主とした鉄道建築の構造・計画・環境分野において安全性,利便性の向上を目指した研究開発を研究室メンバー5名(博士(工学)2名,一級建築士1名,環境計量士1名)で担当しています.今年度は以下のような課題を中心に業務に取り組んでいきます.

【安全分野】
 鉄道建築物の地震対策では,土木構造物上に建設されている旅客上家の動的相互作用を検証し,地震時の旅客上家から土木構造物への荷重設定手法の開発に着手します.また,風荷重を受けるホームドア支持部の設計法に関する研究を推進します.

【旅客サービス分野】
 駅構内の旅客流動に関して,旅客のサービスレベルに関する研究開発に着手します.また,既存センサーの情報を活用して,駅構内における旅客分布を推計する手法の開発にも着手します.

【環境分野】
 昨年度に引き続き,弱視者を想定した駅トイレ衛星器具の視認性評価手法の開発,高速列車の速度向上に伴う地盤振動の低減に対する影響要因の評価技術の深度化,駅空間の快適性評価技術を活用した鉄道車両における快適性評価に関わる課題を進めます.
 
 これらの他,鉄道建築や鉄道沿線環境に関わる課題について,コンサルティングや受託等を随時実施していきます.

(メンバー:山田聖治,清水克将,石突光隆,三木広志,対馬銀河)

軌道構造研究室(軌道技術研究部)

 軌道構造研究室は,レール締結装置,接着絶縁レール,分岐器,伸縮継目などの軌道材料やロングレールの座屈安定性評価に関する研究・開発,軌道材料に関するコンサルティングおよび受託業務などを担当しています.今年度は,以下の研究開発テーマを重点的に取り組みます.

(1)供用条件及び維持管理を踏まえたバラスト軌道の限界状態設計法の開発
 現在の性能照査型設計法では,経験に基づいた知見も多く,まくらぎ間隔等,経験のない領域の軌道への適用に対しては限界があります.そこで,軌道の安定性および部材の耐久性の限界を見極め,軌道の有する冗長性,時間強度を把握した上で,供用条件や,管理方法・レベルに応じたバラスト軌道の設計法を提案することを目指します.

(2)転換装置を内蔵した分岐まくらぎの開発
 現在の分岐器のポイント部には,転てつ棒や控え棒がまくらぎとまくらぎの間にあるため,バラストを十分に挿入することができず,さらに,軌道の保守作業の際にバラストの突き固めができません.また,トングレールと基本レールの隙間の検査や調整の作業には労力を要します.そこで,制御とモニタリングを両立した新しい転換装置を内蔵した分岐まくらぎを開発します.
 
 この他,低温時のロングレール保守作業制限の見直しの検討,簡易渡り線構造の開発,レール締結装置の試験の手引き及び照査例の作成なども行います.軌道材料やロングレール等の軌道構造に関することでご相談等ございましたらお気軽にご連絡ください.

(メンバー:及川祐也,弟子丸将,西宮裕騎,玉川新悟,清水紗希,楠田将之,本村裕基,太田晋一,三原輝久,山本智之)

軌道・路盤研究室(軌道技術研究部)

 軌道・路盤研究室は直結系軌道(スラブ軌道,弾性まくらぎ直結軌道,既設線省力化軌道),バラスト軌道および路盤・路床(列車荷重を受ける地盤)を中心とした研究開発を担当しています.主に直結系軌道を担当するコンクリート工学・構造工学を専門とするメンバーと,主にバラスト軌道を担当する地盤工学を専門とするメンバーで構成されています.今年度はスラブ軌道およびバラストの維持管理,ならびに高速走行に対応した防振スラブ軌道を中心に,以下の研究開発テーマに取り組みます.

【直結系軌道】
・高速走行に対応した新幹線用防振スラブ軌道の開発
・既設スラブ軌道のてん充層劣化予測手法の開発
・超微粒子セメント(SFC)グラウトを用いた既設線省力化軌道の明かり区間への適用
・既設線省力化軌道用の路盤改良工法の開発

【バラスト軌道】
・バラストの破砕・細粒化の過程を考慮した劣化メカニズムの解明
・大規模降雨で土砂混入したバラスト道床の性能評価と対策工法の開発
 
 さらにS型弾性まくらぎ直結軌道,超微粒子セメントグラウトてん充道床軌道,噴泥したバラストのポリマー安定処理工法,発生バラストを活用した路盤改良工法,軌道支持剛性測定装置(RFWD),レベルキーパー等,既開発技術の普及を推進しますので,導入の際は是非ご連絡をお願いします.

(メンバー:桃谷尚嗣,高橋貴蔵,中村貴久,栗原崇,伊藤壱記,渕上翔太,吉川秀平,岡崎新,福中力也,三澤祥文,木次谷一平,稲葉紅子)

軌道管理研究室(軌道技術研究部)

 軌道管理研究室は,「車両が軌道上を走行した際に発生する現象の把握・予測・改善」をキーワードに,軌道変位(軌道狂い)やレール凹凸等の検査・確認(Check),診断・改善(Action),保守計画(Plan),保守(Do)に関わる研究開発を担当しています.
 今年度は,以下のテーマ等について重点的に実施する予定です.

(1)軌道の管理サイクルの信頼性向上のための軌道状態の測定,評価,保守技術の普及・実用化
 営業車や保守用車に搭載できる,低コスト型リアルタイム軌道検測システムを実用化するために,営業線で走行試験を行う他,無人測定に必要な走行位置の自己推定技術の開発を進めます.また,列車巡視支援システム向けに,画像処理技術を活用した建築限界支障物や沿線環境変化の自動抽出技術を開発します.更に,クラウド環境での使用を想定した軌道の検査・診断・保守計画ツールを開発します.特に,軌道の検査等に関わる膨大なデータを効率的に分析し,適切な保守の工種や時期を提案する手法やシステムを開発します.

(2)軌道管理に関わる現象の解明と対策法の提案
 波状摩耗の発生・成長メカニズムを現地試験や解析,シミュレーション等により解明し,波状摩耗の抑制策や効率的なレール削正法を提案します.また,車両の諸元や特性を考慮した軌道変位の管理指標や管理方法を提案します.

(メンバー:三和雅史,古賀誠,矢澤英治,坪川洋友,田中博文,清水惇,川崎恭平,吉田尚史,須藤雅人,糸井謙介,西島悠太,石川智行,梶原和博,昆野修平)

レールメンテナンス研究室(軌道技術研究部)

 レールは重要な部材であり,検査や交換・補修といったメンテナンスが欠かせません.このような中,レールメンテナンス研究室では,レール溶接法やレールきずの補修法,さらにレールおよびレール溶接部の探傷技術等のレールの維持管理全般に関する研究開発に取り組んでいます.今年度は,以下の研究テーマを重点的に実施します.

(1)レール頭部補修方法の施工困難箇所への適用法
 レール頭部補修方法は,低コストなレールきず補修工法として,一部の鉄道事業者において適用が開始されていますが,本研究では,本工法の適用拡大を図るため施工性の向上等に取り組みます.

(2)軌道回路に代わるレール破断検知システムの開発
 近年,一部の鉄道事業者において,列車位置検知を従来の軌道回路を用いる方式から,無線式の列車制御方式へ移行することが検討されていることから,軌道回路に代わるレール破断検知システムの開発に取り組みます.

(3)テルミット溶接部の曲げ疲労強度向上方法の開発
 テルミット溶接は施工性に優れた現場溶接法ですが,現在,新幹線高速区間では使用が制限されています.そこで,同区間での現場溶接法の選択肢の一つとなるよう,テルミット溶接部の曲げ疲労強度向上方法を提案します.
 
 その他,レール溶接技術者の技量検定試験,各種講習会を通じた技術支援,レールおよびレール溶接部の損傷原因調査等,コンサルティング業務も行います.

(メンバー:山本隆一,寺下善弘,伊藤太初,細田充,水谷淳,井筒宏樹,相澤宏行)

気象防災研究室(防災技術研究部)

 気象防災研究室では,主として強風災害,雪氷害などの気象災害の防止・軽減に向けた研究開発を行っています.

 今年度の主な研究開発テーマとして,「車両の耐力に応じた強風対策支援手法」では,風外力マップの作成手法やマップを用いた強風対策支援手法の構築に取り組みます.今年度から始まる「鉄道の強風災害に対するPRA手法」では,確率論的なリスク評価手法(PRA)を用いた鉄道の強風災害のリスク評価手法の確立に向けた課題に着手します.また,「車両着落雪推定手法」では,車両の着雪量の推定手法の高度化の一環として,走行中の着雪の融解や落下現象を考慮したモデルの開発に着手します.昨年度から始まった「偏波レーダー情報を用いた気象ハザードの面的評価」では,降雪の種類(乾湿や密度など)や降雪量を面的に評価する手法の開発とともに,ダウンバーストなどの突風の検出手法の開発を目的として,新潟平野に設置した3基の小型偏波レーダーを用いた降雪や突風観測を続けていきます.

 これらの研究開発テーマの他,当研究室では風や雪・寒冷に起因した災害の調査,風速計の適正設置や雪氷調査方法に関する技術指導などのコンサルティング業務や,鉄道沿線での気象,降・積雪観測,雪崩危険度評価,および新幹線の雪害対策を検討するための現地試験などの他,新潟県南魚沼市にある塩沢雪害防止実験所の各種の試験装置を用いた試験などの受託業務を行っております.

(メンバー:飯倉茂弘,鎌田慈,荒木啓司,福原隆彰,佐藤亮太,高見和弥[国立在勤],高橋大介[塩沢在勤])

地盤防災研究室(防災技術研究部)

 地盤防災研究室では,斜面災害や河川災害に関する研究や土工設備,河川設備の維持管理技術に関する研究開発を進めています.以下に今年度実施する主な研究テーマをご紹介します.

 斜面災害関連のテーマとして,「のり面工背面地盤の劣化度評価手法」では,のり面工背面地盤において風化等により強度低下した範囲(深さ)を簡易に現場で調査する方法を開発します.また,「倒木危険箇所の抽出方法」では,現場でレーザースキャナーを用いて樹木の形状を取得し,この結果をもとに倒木の危険性が高い樹木を抽出する方法について検討します.
 河川災害関連のテーマとして,今年度から実施する「橋脚洗堀の外力・耐力特性評価」では,外力である河川水位の確率的な算出方法を検討するとともに,外力と橋脚の構造条件や河床条件等から洗堀のしやすさを表す指標を提案することを目標として検討を進めます.
 
 当研究室では,研究開発以外に斜面崩壊,土石流等の斜面災害および橋りょうの局所洗掘,河川氾濫等の河川災害に関するコンサルティング,あるいは現地調査に基づく鉄道沿線の盛土・切土及び自然斜面の健全性評価および適切な対策工の提案,解析による広域的な斜面の耐降雨性評価等の受託業務を行っております.何時でもお気軽にご相談ください.

(メンバー:布川修,渡邉諭,高柳剛,児島達也,進藤義勝,馬目凌,内藤直人,藤原将真)

地質研究室(防災技術研究部)

 地質研究室は,鉄道施設の建設・保守に関連した地形・地質および材料の問題に関する研究開発,受託,コンサルティングを行っています.具体的には岩盤に関係する斜面の防災,トンネルの建設・供用時の変状問題,土木工事に係る地下水問題,地盤振動,道床バラストの石質に関する問題などに取り組んでいます.
 
 今年度実施する主なテーマを紹介します.2年目となる「風化による岩石の強度劣化メカニズムの解明」では,昨年度に実施した風化を模擬した岩石試験結果を踏まえた実験条件を設定し,岩石の強度劣化と風化との関係解明を進めます.今年度から開始する「地盤振動に支配的な構造物振動特性の抽出方法」では,地盤振動に支配的な構造物特性を解析と少数点での測定から抽出する手法の提案を目指します.また,昨年度に終了したリアルタイムなハザード予測手法の開発や火山灰が鉄道の電気設備に及ぼす影響解明に関するテーマで得た成果の展開に努めるとともに,他のテーマについて関連研究室と連携しながら着実に研究開発を進めます.

 様々なテーマも進めながら,災害への迅速な対応や的確な受託研究の推進を心掛けておりますので,関連技術に関するお問い合わせを含め,お気軽にご連絡ください.

(メンバー:川越健,横山秀史,長谷川淳,嶋本敬介,野寄真徳,河村祥一,権藤徹)

軌道力学研究室(鉄道力学研究部)

 軌道力学研究室では,車両・軌道・構造物あるいは機械・土木工学等の様々な面から境界問題と相互作用を扱っており,列車走行安全性確保のための鉄道固有問題の解決に取組んでいます.また,将来に向けた研究開発「バーチャル鉄道試験線の構築」の中で,バラスト軌道の劣化現象を数値解析により再現することを目指した「バラスト局所構造および劣化解析モデルの構築」に取り組んでいます.

<車輪とレールの接触問題>
 山間線区の勾配区間で秋から初冬にかけて落葉に起因する車輪の空転・滑走を抑制するための基礎試験,ならびに有効な対策法の検討を行います.また,在来線の半径800m付近の曲線外軌において車輪/レール接触状態を緩和させる手法について検討し,ゲージコーナき裂の発生を抑制する対策法を提案します.

<軌道の劣化現象,座屈安定性評価>
 バラスト局所構造および劣化解析モデルを構築し,バラストの減衰機構のメカニズム解明,および軌道構造変化箇所での劣化現象評価を行います.また,離散体バラスト軌道モデルを用いた道床沈下・流動解析モデル「DEMCS-track」を用いて,USPまくらぎ導入区間の道床沈下進みを評価すると同時に,継目用まくらぎのUSP種別およびまくらぎ形状の選定基準を提示します.さらに,温度・軸力・軌道条件に対応した座屈安定性を評価し,軌道の諸条件に応じた管理法,軌道の弱点箇所の抽出法を提案します.

(メンバー:陳樺,相川明,河野昭子,辻江正裕,浦川文寛,石坂啓,木村成克)

構造力学研究室(鉄道力学研究部)

 構造力学研究室は,車両走行安全性向上,維持管理効率化,災害低減,環境調和,トータルコスト低減を可能とする構造物や軌道のあるべき姿を追求することを主な研究目的とし,これを実現させるために必要なシミュレーション解析技術,構造物のセンシング・モニタリング技術およびこれらによる評価・診断技術,解析や実験に基づく新たな構造の開発等に取り組んでいます.

(1)シミュレーション解析による評価技術の向上
 地震時における構造物上の車両走行安全性をはじめ,脱線車両の挙動や車輪と軌道部材の衝撃挙動,脱線後の被害低減対策の効果,軌道と構造物との地震時動的相互作用,列車走行による地盤振動と構造物音など動的課題を評価できる解析プログラムの開発を行っています.また,開発した解析プログラムを活用して,地震時の走行安全性の評価法の開発に取り組んでいます.

(2)測定評価技術の構築
 構造物,沿線岩盤斜面のセンシング技術の効率化・高度化を目的として,レーザ計測,画像計測,ならびにUAV(無人航空機)などを応用した遠隔非接触測定システムを開発しています.また,PCまくらぎの損傷検知技術や健全度評価法,ベイズ理論を応用した列車通過波形に基づく鉄道橋の状態評価技術などを検討しています.

(3)新たな構造の開発
 在来線一般部用の新しい縦まくらぎ構造の開発や,軌道およびRC床版にフローティング構造を採用することにより構造物騒音を低減できる新形式サイレント鋼鉄道橋の開発などを行っています.

(メンバー:池田学,渡辺勉,徳永宗正,松岡弘大,成田顕次)

地震解析研究室(鉄道地震工学研究センター)

 地震解析研究室は,地震に対する鉄道のレジリエンスの向上を目指して,地震発生時の対応・対策,地震発生直の対応・対策についてソフト的なアプローチから,研究開発,受託業務,コンサルティング業務を行っています.
 
 地震発生時の対応・対策として,一昨年度に実用化された海底地震計を活用した早期地震警報について,さらに即時性を向上させる技術開発を行っています.また,直下で発生する地震に対して早期地震警報の性能を向上させるための警報手法の研究も実施しています.地震発生直後の対応・対策に関連し,地震直後から逐次収集される地震データ・センシングデータを用いて早期運転再開のため情報を作成し,これを提供するための技術開発を行っています.以上の成果は,新幹線の早期地震防災システムや鉄道総研の鉄道用地震情報公開システムなどに反映される予定です.
 
 このほか,受託業務として,鉄道の早期地震防災システムの整備や地震動評価,コンサルティング業務として,地震計の設置・移設や地震時の運転規制に関する調査・解析等を行っています.また,事業推進室と連携して,早期地震警報や鉄道用地震情報公開システムの開発・運用を行っています.
 地震解析研究室は,常時微動から地震動・津波まで,揺れを扱う専門家集団として現場のご要望に対して迅速にお応えしたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします.

(メンバー:山本俊六,岩田直泰,是永将宏,津野靖士,野田俊太,丹羽健友)

地震動力学研究室(鉄道地震工学研究センター)

 地震に対する鉄道構造物への影響を評価するには地震による地盤内の挙動を正確に求めることが重要となります.地震動力学研究室は「土」と「地震」をキーワードに地盤調査から地震動評価,土構造物や地下構造物における地震時挙動等,実務的な研究開発に取り組んでいます.具体的には震源で発生した地震波の基本的な特性から,地盤等に与える影響,地盤や土構造物等の耐震対策に至るまでの幅広い領域(増幅などを考慮した地震動の特性の評価や地震波により発生する液状化現象の評価・対策など)の研究開発を行っています.

(1) 将来を見据えた研究開発
 地盤調査においてはコスト削減,リソース不足,技術力低下が懸念されています.地盤調査は調査以降に実施される構造物の設計を大きく左右することがあり,離散的なデータの評価やデータの質の評価などに対して課題があります.そこで,地震時にそれぞれの地点リスクを考慮した調査箇所・調査内容の最適化に関する研究を進めています.また,地震動評価については震源近傍において強非線形性などを含んだ観測記録から基盤入射波を推定する手法の開発に取り組んでおり,耐震設計・耐震対策に関して中長期的な観点に立った研究開発を進めております.

(2) 実務的な耐震技術
 軟弱地盤における地震時の地盤挙動,不整形地盤における地震動など,耐震設計に直結した課題に取り組んでいます.また,低コストでかつ合理的な液状化対策(脈状地盤改良工法)や盛土の耐震補強工法(ジオセルと地山補強材による補強工法(RRS工法))を開発し,既に適用していただいています.その他,国内外において地下構造物の耐震設計に関する検討も実施しています.

 鉄道技術推進センターや構造物技術研究部,鉄道力学研究部等とも連携を取り,設計地震動の設定やトンネル等の地盤内構造物の地震時挙動,地震時における復旧対策や被災要因の究明等,耐震設計や耐震対策・復旧業務等など,鉄道事業にお役に立てるような対応・体制作りを進めております.

(メンバー:小島謙一,井澤淳,田中浩平,土井達也,神澤拓,山本昌徳)

地震応答制御研究室(鉄道地震工学研究センター)

 地震応答制御研究室では,構造物や付帯設備,車両などを含む鉄道システム全体の安全性,復旧性,さらには危機耐性向上に資する技術開発を行っています.

(1)地震対策技術の開発
 想定外地震に対しても人命損失などの破滅的な状態を回避し,新設および既設構造物の「危機耐性」を高める工法として,倒壊を防止する自重補償構造,倒壊までの挙動を制御する倒壊方向制御構造の2種類を開発しました.これらの工法の設計法や計算例など,設計に必要なツールを用意しており,重要道路と交差・並行する箇所など,危機耐性向上が求められる箇所への導入を積極的にサポートします.また,地震後の運転再開にあたって必要な設備点検を支援するため,高所・狭あい箇所で点検に時間を要する支承部の変状をセンサー等で監視・把握するシステムの開発に取り組みます.

(2)鉄道地震災害シミュレータによる地震ストレステスト
 鉄道地震災害シミュレータを活用した受託業務として,震度を増加させて鉄道路線の弱点箇所を抽出する地震ストレステストや,特定の地震シナリオでの被害推定などを実施しており,耐震対策が必要な箇所の抽出や優先順位付け,地震後の復旧戦略の策定などに利用できる基礎資料を提供しています.新たに開発したインベントリー法などを用いることで,一般図程度の少ない情報でも効率的に橋りょう・高架橋や盛土の被害推定が可能です.さらに,鉄道用地震情報公開システムと連携し,地震後の即時被害予測を可能とするシステムの構築を進めます.

(3)耐震設計法に関する技術開発および耐震設計業務サポート
 中小規模地震の後から大規模地震まで,幅広い地震作用に対する要求性能マトリクスの構築など,次期耐震設計標準の改訂を意識した新しい設計体系について検討を進めます.また,地盤と基礎の非線形動的相互作用を考慮した耐震設計の合理化や,免震・制震装置を用いた補強設計の支援など,耐震設計標準に関わる技術サポートも継続的に行います.

(メンバー:豊岡亮洋,原田智,坂井公俊,川西智浩,押田直之,布川博一,伊藤公二,小野寺周,名波健吾)