施設研究ニュース

2020年7月号

山岳トンネルのモニタリングシステムと変状トンネル対策工設計ツール

1.はじめに

 山岳トンネルでは,地質や地形の条件によっては,地山から力を受けトンネルの内空断面の縮小や盤膨れが発生することがあります.変状の程度が大きい場合は,内空変位等のモニタリングを行い,その結果に基づき,裏込注入,ロックボルト,内巻工等の対策工を設計するのが一般的です.しかし,トンネルは狭隘空間であることから内空変位等のモニタリングにはコストがかかり,また,トンネルは効果を事前に予測したうえで対策工を設計することが難しいという課題があります.そこで,山岳トンネルを対象とし,無線とバッテリーにより低コストでモニタリングを行うシステムと,計測結果に基づき対策工の効果をPC上で簡易に予測できる対策工設計ツールを開発しましたのでご紹介致します.

2.モニタリングシステム

 対策工設計ツールに先立ち,無線によりモニタリングを行うシステムを開発しました(図1).計測ポイントに設置した無線子機から坑口に設置した無線親機まで坑内を無線で送信し,無線親機から携帯回線を用いて外部のデータサーバーにデータを送信するようになっています.子機~親機間の距離が長い場合は中継機を設置して送信距離を伸ばすこともできます.ケーブルを壁面で長い距離這わせたり天端や路盤下で横断させたりする必要がなく,配線の設置工事費やメンテナンスが不要となっています.
 無線子機については,IEEE802.15.4規格とZigBeePro規格を用いることにより省電力での多点計測が可能な計測子機を新たに開発しました.この子機は小型軽量で,子機1台あたり5測点までのデータの伝送が可能です.また,単2電池3本で約2年間動作します.
 無線親機については,ある程度の電力を必要とするので大容量バッテリーを開発しました.単1乾電池を用い基盤を用いて16×4本を並列接続することで4か月間以上の連続動作が可能となっています.
 開発したシステムを用い,地圧により変状を生じたAトンネルにて計測を行いました(図2).この事例では,計測器(レーザー変位計,地中変位計,πゲージ)を無線子機につなぎ,坑口の親機に無線でデータを伝送し,携帯電話回線でインターネットサーバーにアップロードすることで,計測データをリアルタイムに確認できるようにしました.従来の方法であればこのようなリアルタイムモニタリングを行うには多額のコストを要しましたが,本システムでは低コストでこれが可能となっています.

図1 開発したモニタリングシステムの概要
図2 Aトンネルにおける計測例

3.変状対策工設計ツール

 これまでの対策工の設計は,「変状トンネル対策工設計マニュアル」(1998年,鉄道総研)に基づき,あらかじめ規格化された対策工の「標準設計」を,トンネルの形状と内空の縮小パターンと縮小速度に応じて選択するという方法で行われてきました.この方法は簡便ですが,対策工がどの程度の変位抑制効果を発揮するのかわからないという課題がありました.
 そこで,鉄道総研では,PC上で動作する「変状対策工設計ツール」を開発しました.ここでは,過去に開発した「地山劣化法」を用いて,実務で想定される多種の条件(トンネル形状,変状モード,対策工の条件等)を設定して事前にパラメータ解析を行い,対策工の効果(具体的には,変位速度の抑制率)に関するデータベースを作成しておき,実際のトンネルの条件にあわせて,条件の近い解析結果を選択して,画面に変位速度の抑制率を表示するというものです.なお,データベースに条件が完全に合致した解析結果がない場合は,条件の近い解析結果を用いて補間して抑制率を表示します.また,変位速度に基づきこれまでのトンネルの変形量の累積を加味するようになっています.
 図3に,開発した対策工設計ツールの入力画面を示す.ツールでは,①構造条件(トンネル形状,巻厚,インバートの有無),②調査・計測結果の条件(背面空洞の有無,変形モード,地山強度(概略),トンネル変形(内空変位速度あるいは盤膨れ速度)のモニタリング結果,③対策工の条件(裏込注入,ロックボルト工(側方あるいは下向き),内巻補強)を入力します.すると,最も適切な解析結果を選択して,変位速度の抑制率が表示される様になっています.また,②においては,2.で開発したモニタリングシステムで計測したデータを取り込むことも可能となっています.
 図4に設計ツールを用いて対策工の諸元を検討した例を示します.内空変位速度3mm/年の単線トンネルに対して対策工を施工して変位速度を1mm/年以下として健全度Aを解消したいものとします.目的を達成したい場合は,裏込注入とロックボルト(3m×8本)が必要という結果となりました.

図3 対策工設計ツールの入力画面
図4 検討結果の例

4.おわりに

 これまでは,対策工の設計は,マニュアルや過去の事例を参考にして設計,施工し,その後の計測結果を用いて効果を再度判定して,不十分と判断されるようであれば対策工を追加するという方法で行われていましたが,本ツールを用いることで,事前に期待する効果が見込まれる対策工を設計でき,対策工設計の省力化や,対策工の設計の根拠付けが可能となると考えられます.
 本ツールは,鉄道総研が鉄道事業者の皆様から依頼を頂き実施している変状トンネルの対策工の検討に関する技術支援業務で今後活用する予定です.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 野城一栄
担当者:防災技術研究部  地  質研究室 嶋本敬介

公民鉄向けの保線管理システム「LABOCS-MATE」の開発

1.はじめに

 軌道保守管理データベースシステム「LABOCS」1)は,鉄道総研が開発し,(株)ジェイアール総研情報システム(以下,JRSI)が販売している,軌道検測データ等を処理するソフトウェアで,JR旅客会社や一部の民鉄,さらには軌道保守会社や鉄道関連メーカー等に導入され,主に保線業務に活用されています.今回,LABOCSが得意としてきた軌道変位(軌道狂い)や列車動揺といった波形データ処理に関する機能のみを,GUIも含めてパッケージ化して安価でご提供し,これらに関連する定型業務を支援することを主目的とした,「公民鉄向けの保線管理システム(LABOCS-MATE)」を開発しましたので,以下に紹介します.LABOCS-MATEは,鉄道総研とJRSIの共同開発品で,この度,販売を開始します.

2.LABOCS-MATEの開発経緯

 LABOCSが導入されている大手事業者では,独自の保線管理システムを開発し,そのシステムの一部としてLABOCSが組み込まれ,軌道検測データ等を管理・分析して基準値・目標値の管理や,軌道整備に活用している場合が多いようです.一方,地域鉄道等の中小の鉄道事業者では,デジタルの検査データが得られているにも関わらず紙ベースで管理されている場合があり,このような事業者では,保線管理システムの導入に興味はあっても導入できるだけの経済的体力がないという事情もあるようです.
 そこで,このような事情を抱える事業者でも導入できるような,LABOCSをベースとした低コストな保線管理システムの開発を進めてきました.図1のようにGUIも含めてパッケージ化することで,複雑なデータ処理の知識を必要とせず,画面操作のみでLABOCSの機能を使用可能になります.
 LABOCS-MATEは,保線管理で一般的に使用される機能を標準機能として実装しており,その他,各事業者で必要な機能を個別オプションとして1機能単位で追加実装できます.以下に,標準機能とオプション機能それぞれの代表的な機能を紹介します.

図1 LABOCS-MATEメイン画面

3.LABOCS-MATEの標準機能紹介

(1)軌道検測データや列車動揺データの読み込み・チャート表示

 軌道検測データや列車動揺データをシステムに読み込ませ,チャート表示できます.図2は,軌道検測チャートの表示例です.同チャートには「軌道環境データ」と呼ばれる,線路線形や構造物等の各種台帳データを同時描画できますので,例えば構造物境界で軌道変位が大きい等ということをチャートから瞬時に読み取ることができます.
 また,任意の2検測分のデータを重ね合わせて表示できますので,例えば前回と今回のチャート比較により,軌道変位が進んだ箇所の把握や,軌道整備実施箇所の効果確認等を容易に行えます.
 なお,鉄道構造物等維持管理標準(軌道編)で必須と定められていない列車動揺測定については,実施していない事業者向けに列車動揺データ関連の機能を除外して提供することも可能です.

図2 軌道検測チャート例(黒:前回,赤:今回)

(2)基準値・目標値管理表の出力

 図3のように,各社で定められた基準値および目標値を設定することで,これらの管理値の超過箇所一覧表を出力できます.この表を基に軌道整備が必要な箇所を抽出した上で,前述のチャートを確認して整備の優先順位や整備方法を検討する等,システムの出力結果を相互に活用することで効率的かつ効果的な軌道整備が可能になると考えられます.

図3 基準値・目標値管理表出力例
(通り基準値超過検出例)

(3)区間統計量(σ値・P値)の算出

 図4のように,任意のロット長のσ値とP値を出力できます.表計算ソフトで確認できるので,軌道状態が悪い箇所の順位付け等を容易に行えます.また,σ値やP値については図5のように,チャート出力も可能です.
 例えば上記(2)で抽出した軌道整備必要箇所付近のσ値を確認することで,σ値が小さければ超過箇所の前後数m程度のむら直し,σ値が大きければMTTによる軌道整備とする等の検討に活用できます.

図4 σ値・P値算出例(100mロットの例)
図5 σ値チャート表示例(100mロットの例)

4.LABOCS-MATEのオプション機能紹介

(1)乗心地レベル算出:列車動揺データから乗心地レベルを算出する機能です.
(2)軌道状態推移確認:軌道検測の履歴データを用いて,線区全体のσ値およびロット毎のσ値の推移を出力する機能です.
(3)復元波形算出:10m弦正矢波形から実際の軌道形状を復元する機能で,復元波形を用いた長波長軌道整備を実施している(実施を検討している)事業者向けの機能です.

5.おわりに

 提案手法では従来手法よりも6基多い合計10基の橋脚において固有振動数の同定が可能であり,同手法により常時微動計測による固有振動数評価の適用性が大幅に向上できることを確認しました.本手法では固有振動数を自動的に同定することができ,計測者の判断が不要です.
 本稿で紹介した機能はLABOCSおよびLABOCS-MATEの機能の一部です.システム導入の際には各事業者で必要となる機能をカスタマイズできます.詳細につきましては,JRSIのLABOCSのポータルサイト2)にてご確認いただけます.ご興味をお持ちいただけましたら,下記担当にご相談下さい.

参考文献

1) 田中博文:軌道保守管理データベースシステムLABOCS(ラボックス)の機能紹介と新バージョンのリリース, 新線路, Vol.69, No.7, pp.24-26, 2015.7
2) LABOCSポータルサイト:http://www.jrsi.co.jp/labocs/index.html
※LABOCS/マイクロラボックスは鉄道総研の登録商標です.

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 吉田尚史
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 田中博文,西本正人

鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)と盛土の被害ランク推定

1.はじめに

 地震時に強い揺れが観測や予測された場合は,安全を確保するためにまず列車を停止し,その後,必要に応じて施設点検を行い運転再開となります.しかし,点検範囲によっては運転再開までに時間を要する場合があります.そこで鉄道総研は,地震後の点検範囲の適正な判断を支援する目的から,地震直後に鉄道沿線の地震動や鉄道構造物の被害ランクを推定するシステム(DISER)を防災科研と連携し開発しました.本稿ではシステムの概要と,盛土を対象とした被害ランク推定の流れについて説明します.

2.鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)の概要1)

 DISERは公的機関により公開される地震情報を,鉄道事業者が列車運転再開の判断などへ使いやすいように加工し,素早く提供することをコンセプトとしています.以下にDISERの特徴を述べます.
・地震直後に公開される緊急地震速報とK-NET観測データなどの公的な地震情報を利用する.
・鉄道総研が作成した地盤データベースを用いる.
・強い地震動が作用した場合の地盤の特性変化を考慮して,地震動の面的な分布を推定する.
・対象とする路線に沿った地震動や,その地震動に対する構造物の被害ランクを推定する.
・推定した情報を鉄道事業者へ即時的に配信する.
 これらにより,鉄道事業者が地震計を設置していない区間においても,地震動の分布を普段用いる地震動指標(警報用最大加速度,SI値,計測震度)で確認できます.なお,路線に沿った地震動推定や構造物被害ランク推定を行うには,事前に路線情報と構造物情報をシステムへ登録する必要があります.
 DISERの地震動の面的分布推定は,気象庁の緊急地震速報(震源データ)に基づく方法と防災科研のK-NET(観測データ)に基づく方法を独立して別々に行います.ここではより推定精度の高いK-NETに基づく方法を述べます(図1).

①K-NETの地震動データ(観測点の地表における最大加速度,最大速度等)を防災科研から受信する.
②空間補間によって地表の地震動の面的分布(面的地震動)を推定し,最大加速度,最大速度から経験的な指標の変換式を用いて地表の警報用最大加速度,SI値,計測震度を計算し,地図に表示する(図2).
③面的地震動から路線に沿った地震動を抽出して構造物被害ランクを推定し,横軸をキロ程,縦軸を地震動または被害ランクとしてグラフ表示する.
④推定した情報を,インターネットを通じて登録鉄道事業者へ配信する.
 ここで,図1の②で,地図表示は暖色系ほど地震動が強く,寒色系ほど小さいことを表します.また,地表では表層地盤の条件によって地震動が大きく変化するため,空間補間はその影響を取り除いた基盤の上で実施します.地表の地震動から基盤の地震動を推定する手順および,その逆の手順(図2の②と④)では,地盤の増幅特性を考慮します.その際,地中から伝わってきた地震動の周期と表層地盤の周期の関係,および地中から伝わってきた地震動の大きさから,地盤の特性変化を評価することで,弱い地震動から強い地震動まで,地盤の増幅特性を適切に扱うことができます.

図1 DISERの処理の流れ
図2 面的地震動推定の流れ

3.盛土の被害ランク推定

 現時点のDISERの構造物被害ランク推定は橋りょう,高架橋および盛土が対象です.ここでは盛土を対象に,被害ランク推定の流れ(図1の③の構造物被害ランク推定の詳細)について述べます.
 まず,盛土の降伏震度Kyや特性値χ(円弧半径R等をまとめたもの)の情報を事前にシステムに登録します.これらの情報は,計算書があれば,そこから抽出可能です.計算書がない場合でも,事前に盛土高さ,のり面勾配などを多数変化させて構築したデータベース(表1)から近い諸元の値を適用することで,対象箇所の盛土高さ,のり面勾配などの簡易な情報のみから推定できます.

表1 降伏震度,特性値のデータベースの概要

 続いて,これら盛土の情報と地震動の情報を用いて,盛土の被害ランクを判定します.この時,各箇所の沈下量を詳細に算定するのではなく,多様な条件において沈下量を予め計算し,これをもとに地震動の最大加速度PGAや盛土の降伏震度Ky等から盛土の沈下量δを簡易に算定可能とした手法3)を用います.具体的には,図2で求めた面的地震動の情報と,計算書または表1のデータベースから求めた盛土の降伏震度,特性値を当てはめることで,各地点の沈下量が即時的に算定されます(図3).最後に,各盛土の沈下量に応じて被害ランクを判定し,登録鉄道事業者へ情報を配信します(図4).

図3 沈下量算定の概要
図4 被害ランク判定

4.おわりに

 地震直後に路線に沿った地震動や構造物被害ランクを推定し,その情報を速やかに配信するシステムであるDISERの概要と,盛土に対する被害ランク推定の流れについて紹介しました.今後も推定精度向上を図るとともに,鉄道事業者などの意見を反映し,より活用しやすいシステムを目指します.

参考文献

1) 岩田ら:鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)を利用して素早く運転を再開する,RRR, Vol. 77, No. 2, 2020年2月. 
2) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物, 丸善, 2007. 
3) 坂井ら:鉄道盛土の地震被害簡易推定手法の提案,土木学会論文集A1(構造・地震工学),Vol. 68, No. 3, 542-552, 2012.

執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室  土井達也
担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 坂井公俊

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:渡辺  勉 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学】

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