施設研究ニュース

2020年9月号

建築物と鉄道構造物が一体となる駅の設計の考え方

1.はじめに

 駅は,住宅やオフィスビル等の一般建築物とは異なり,高架橋やトンネル等の鉄道構造物の躯体を利用する場合があり,近年では鉄道構造物の上部に大型建築物が建設される建築・土木一体構造物となる駅もあります(図1).建築物と鉄道構造物は,工学的には類似した部分が多くありますが,準拠する法体系や設計における細かな仕様が異なることから,これらを一体的に建設する際には課題を生じることがありました.ここでは,建築・土木一体構造物を対象に,建築法令や土木基準における課題とその取扱いを解説し,基本的な考え方を紹介します.

図1 建築物と鉄道構造物が一体となる駅の例

2.建築法令や土木基準上の課題と取扱い

(1)建築基準法上の課題と取扱い

 建築・土木一体構造物を取扱うにあたり,建築基準法における構造審査の課題は大きく2つありました.1つ目は建築基準法の鉄道構造物の定義が明確でなかったこと,2つ目は鉄道構造物の建築基準における性能評価方法が明確でなかったことです.これらの課題に対して,鉄道総研が主体となって平成19年度に実施した検討委員会1)において検討が行われ,建築行政関係者が鉄道構造物の範囲を判断できること,平成11年度版以降の耐震標準による鉄道構造物が建築基準の耐震性能を満足すること等の結果が示されました.
 これを受けて,建築基準法上の取扱いが「建築構造審査・検査要領」2)に掲載されました.その基本的な考え方は以下の2点です(図2).①鉄道構造物は建築基準法の適用を受けず,鉄道構造物内部や上部を建築用途に利用する部分のみが建築審査の対象となります.②鉄道構造物と一体となる建築物の構造計算では,鉄道構造物部分を含む架構全体でモデル化して応答計算を行い,建築物と鉄道構造物の接合部および基礎の沈下量等も建築審査の対象になります.

図2 建築・土木一体構造物のモデル化と審査例
(「建築構造審査・検査要領—実務編 審査マニュアル—2018年版」2)のp.117より加工して引用)

(2)土木基準上の取扱い

 鉄道構造物は従前列車を支持する人工の工作物として定義されていましたが,平成24年に改訂された耐震標準3)では,この定義に加えて,「列車の走行空間を確保するための人工の工作物も含まれる」ことになりました.また,「例えば,線路上空建築物における列車走行空間を確保する階層部や跨線橋なども,地震に対して所要の安全性を満足させる必要がある.この場合,本標準を準用するか,あるいは本標準と同等の安全性が得られることが確認されている他の設計標準例えば4)を適用しても良い.」とも記載されました.つまりこの定義によれば,いかなる駅においても線路階の柱や直上の床や梁は鉄道構造物になり,土木として何らかの照査が必要になります.ただし,その要求性能は列車を支持する人工の工作物と必ずしも同じではなく,少なくとも列車走行空間の確保を所要の安全性として要求していることがわかります.

(3)列車走行空間に対する建築基準法上の取扱い

 (1)で示した検討会の成果によって,鉄道構造物は建築基準法の適用を受けないと整理されたと前述しましたが,これは,耐震標準に準拠した従前の鉄道構造物が建築法令の構造性能を満足していること等が前提となっています.このため,平成24年版で鉄道構造物の定義に追加された列車走行空間を確保するための人工の工作物についても,耐震性能が建築基準を満足していることを,建築基準に基づいた構造計算等により照査することが妥当になります.

3.建築・土木一体構造物の設計の考え方

 以上を踏まえ,建築・土木一体構造物の設計における基本的な考え方をまとめると,以下の通り3つの領域毎の取扱いに整理されます(図3).
・領域A「列車を支持する人工の工作物(従前からの鉄道構造物)」:土木構造物として照査が実施され,建築
 基準法の適用を受けません.
・領域B「列車走行空間を確保するための人工の工作物」:耐震標準に示された目標性能の担保と建築基準法に
 よる双方の確認が必要となります.土木側の設計法としては,耐震標準だけでなく橋上駅の設計標準4)も選
 択することできますが,当該構造物の構造条件を踏まえて,設計管理者が判断できます.また,後述の方法に
 よって,建築側の建築基準による照査も行います.
・領域C「建築用途の構造物」:建築基準法による構造安全性の確認が必要になります.その方法は,領域A・
 B・C一体架構モデルによる応答解析を実施し,領域Bを含む建築部分,接合部および基礎の支持力について
 照査を行います.

図3 建築・土木一体構造物の設計の考え方

4.おわりに

 建築物が鉄道構造物と一体的に建設される構造物について,建築および土木設計における取扱いの基本的な考え方を紹介しました.実際の設計においては,駅の構造形式や建築と土木の相互関係の違い,鉄道構造物が新設か既設利用か等,当該構造物の特性や条件によって様々に判断されますので,駅改良プロジェクトを進める上でお困りの際には問合せ下さい.

参考文献

1)鉄道総合技術研究所:鉄道土木構造物と複合した駅施設等の構造評価,鉄道建築ニュース,Vol.730,pp.8-26,2010.9
2)日本建築行政会議編:建築構造審査・検査要領-実務編 審査マニュアル-2018年版,建築行政情報センター,2018.3
3)国土交通省鉄道局監修,鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震標準(平成24年9月)
4)鉄道総合技術研究所編:線路上空建築物(低層)構造設計標準2009,2009.7

執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将
担当者:構造物技術研究部 建築研究室 三木広志

軟弱地盤上のラーメン高架橋に対するシートパイル補強による地盤振動低減効果

1.はじめに

 新幹線の更なる高速化を検討する際,沿線地盤振動の増加が問題となる可能性があります.過去に軟弱地盤上のラーメン高架橋区間において行われた速度向上試験結果のうち,列車速度 251 km/h と 361 km/h における,高架橋から 5 m と 10 m 離れた地盤上の 1/3 オクターブバンドスペクトルを図1に示します.結果から,列車速度 300 km/h 以上において 4Hz 前後の低周波数帯域の地盤振動が大きく増加する現象が報告されています1)
 この現象の要因として考えられるのが,この区間における軟弱地盤です.地盤のS波速度構造を図2に示します.図2より,深さ 40 m 程度までS波速度 110 m/sの層があり,この区間が非常に軟弱な地盤であることが分かります.
 本稿では,このような軟弱地盤上のラーメン高架橋を対象とし,一般的に難しいとされている低周波数帯域の地盤振動対策として,耐震補強工法であるシートパイル補強を施工して地盤による支持性能を向上した場合の振動低減効果の検討例を紹介します.

図1 地盤振動の周波数解析1)
図2 地盤 S 波速度構造

2.軟弱地盤の影響について

 軟弱地盤の影響を検討するため,杭基礎の支持力を付加した高架橋と走行列車の相互作用を考慮した移動加振解析を行いました.解析には車両走行振動解析プログラム DALIA((株)構造計画研究所)を用いました.地盤振動では一般的には鉛直方向のみを対象とするため,線路直交方向の応答を考慮しない2次元モデルを作成しました.移動加振解析モデルを図3に示します.車両は標準的な新幹線車両(8両編成)とし,列車速度は 250 km/h,320 km/h,360 km/h を想定しました.また,軌道はスラブ軌道としました.杭基礎の支持力条件は2つのパターンで実施しました.パターン(ⅰ)は軟弱地盤を想定して杭基礎の鉛直支持を小さく設定し,パターン(ⅱ)はパターン(ⅰ)における杭先端の鉛直支持を100倍,杭側面の鉛直せん断支持を2倍にして杭基礎の鉛直支持を大きく設定しました.
 パターン(ⅰ),(ⅱ)の受信点における加速度のフーリエスペクトラムを図4,5に示します.図4より,杭基礎の鉛直支持を小さく設定した場合,速度向上にともないピーク周波数は高い方にシフトし,振幅は大きくなることが分かります.一方,図5より,杭基礎の鉛直支持を大きく設定した場合,速度向上にともないピーク周波数は高い方にシフトするが,振幅は変わらないことが分かります.以上の結果から,4 Hz 前後の地盤振動が急激に増加する現象の要因は,軟弱地盤の影響により杭基礎の鉛直支持が小さいことにある可能性が分かりました.

図3 解析モデル (移動加振解析)
図4 フーリエスペクトル(パターン(ⅰ))
図5 フーリエスペクトル(パターン(ⅱ))

3.シートパイル補強による地盤振動低減効果

 2章の結果を踏まえ,シートパイル補強を施工して地盤による支持性能を向上した場合の地盤振動低減効果を検討しました.ここでは,走行列車・構造物系の移動加振解析と構造物・地盤系の振動伝播解析を結合した予測手法を用いました2).移動加振解析には2章の DALIA を用い,列車速度は 360 km/h を想定しました.振動伝播解析には次元動的相互作用解析プログラム SuperFLUSH/3D((株)構造計画研究所)を用いました.振動伝播解析モデルを図6に示します.
 対策を行う前後の受信点における振動加速度レベルを図7に示します.図7より,4 Hz 前後において,10 dB 程度の振動低減効果が確認できました.また,高架橋脇や軌道中心から 25 m の地盤上においても同様の結果が得られました.以上の結果から,軟弱地盤の影響により杭基礎の鉛直支持が小さい高架橋に対してシートパイル補強を行うと,地盤振動を低減できる可能性が分かりました.

図6 解析モデル (振動伝播解析)
図7 地盤振動の周波数解析 (補強前後)

4.おわりに

 今後は,軟弱地盤における基礎の支持状態と地盤振動の関係などを理論的に整理することで,シートパイル補強を用いた地盤振動低減対策工法の提案を目指します.

<参考文献>

1) 岩田直泰・横山秀史・芦谷公稔:新幹線高速走行時の地盤振動特性,地盤環境振動の予測と対策の新技術に関するシンポジウム,地盤工学会,2004.
2) 横山秀史・伊積康彦・渡辺勉:3 次元振動解析による地盤および建物振動の予測シミュレーション手法,鉄道総研報告,Vol.29,No.5,pp.41-46,2015.

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 權藤徹
担当者:防災技術研究部 地質研究室 横山秀史

凍害環境下のAEコンクリートを用いていない経年PCまくらぎの性能評価

1.はじめに

 現在製造されているPCまくらぎには,AE剤と呼ばれる混和剤を使用することで耐凍害性を確保していますが,過去にはAE剤未使用のPCまくらぎが製造され,凍害の危険度が高い地域にも敷設されてきました.
 図1に凍害による影響を受けたと考えられるPCまくらぎ(以下,凍害PCまくらぎ)の例を示します.AE剤未使用のPCまくらぎの一部には,現在図のような凍害とみられる変状が散見されており,このようなPCまくらぎを対象とした維持管理指標や交換計画の策定が求められています.
 そこで本研究では,凍害PCまくらぎの維持管理効率化のための基礎検討として,凍害危険度の高い地域に敷設されたPCまくらぎの実態調査を実施しました.そしてその結果を踏まえ,目視による凍害PCまくらぎの診断基準の提案を行いました.

図1 凍害PCまくらぎの例

2. PCまくらぎの実態調査

 図2に対象としたPCまくらぎを示します.本研究では,日本国有鉄道規格(JRS)に規定される3号プレテンション式PCまくらぎ(3PR)を対象とした調査を実施しました.この形式のPCまくらぎは在来線の直線区間および半径800m以上の曲線に敷設されるものです.
 図3にPCまくらぎの外観調査図の例を示します.収集したPCまくらぎに対し,表面を洗浄後にスケーリングやひび割れ等の変状を確認し,外観調査図に記録しました.
 図4にPCまくらぎの曲げ試験方法を示します.収集したPCまくらぎの耐荷力を評価するために,JIS E 1201(プレテンション式PCまくらぎ)に規定された曲げ耐荷力試験を実施し,レール位置での正曲げの曲げ破壊荷重を調査しました.この曲げ試験は,列車荷重によりPCまくらぎに生じる曲げモーメントを想定しています.
 図5に外観調査図からスケーリング発生箇所を抽出した例を示します.スケーリングの発生量(スケーリング量)を定量的に評価するために,外観調査図を画像処理することでスケーリングが発生した箇所を抽出し,その面積を算出しました.スケーリング量は,PCまくらぎの全表面または各部位の面積に対する割合で評価いたしました.

図2 PC3号まくらぎ
図3 外観調査図の例
図4 PCまくらぎの曲げ試験方法(正曲げ)
図5 スケーリング箇所を抽出した例(赤い部分がスケーリング)

3.調査結果

 図6にPCまくらぎの各面でのスケーリング量の平均値を示します.この図より,PCまくらぎ上面にスケーリングが発生しやすいことが確認され,目視が容易なPCまくらぎの上面のみでもある程度凍害PCまくらぎの診断が可能であると考えられます.
 図7にPCまくらぎの曲げ耐荷力と各位置で発生したスケーリング量の関係を示します.図7(a)より,上面のスケーリング量が増加するにしたがって曲げ破壊荷重が低下し,上面全体の約50%にスケーリングが生じるとJIS規格値を下回るという傾向が得られました.また図7(b)より,レール位置付近の約40%にスケーリングが生じるとJIS規格値を下回る傾向にあり,レール位置でのスケーリングは耐荷力への影響が比較的大きいことが確認されました.これはまくらぎ上面レール位置のコンクリートは,曲げ破壊に対して圧縮縁となり,曲げ耐荷力への影響が大きかったためと考えられます.
 表1に凍害PCまくらぎの診断基準の例を示します.図7より,上面のスケーリング量とその発生位置とPCまくらぎの曲げ耐荷力と相関がみられることが確認されました.これにより,徒歩巡視等でPCまくらぎ上面の目視検査により凍害まくらぎの健全度を容易に評価できると考えられます.

図6 PCまくらぎの各面でのスケーリング量
図7 PCまくらぎ各位置でのスケーリングと曲げ破壊荷重(正曲げ)の関係
表1 PCまくらぎの健全度評価基準の例

4.おわりに

 本研究では,凍害PCまくらぎの維持管理効率化のための基礎検討として,凍害危険度の高い地域の既設PCまくらぎの実態調査を行いました.その結果,PCまくらぎ上面のスケーリング量及び位置とPCまくらぎの耐荷力との間に相関がみられることが確認され,これによりPCまくらぎ上面の目視検査から健全度を評価できる可能性が示されました.今後は周辺環境の影響等も考慮した維持管理指標の開発に取り組んでいく予定です.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 箕浦慎太郎
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:藤原 将真 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災】

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