施設研究ニュース

2020年11月号

早期運転再開のための洗堀被災橋梁の再供用可否判定法

1.はじめに

 近年気候変動に伴う局地的な豪雨により急激な河川増水の発生頻度が増加しており,河川橋梁の洗掘被害が続いています.鉄道システムは公共交通機関としての役割を担っているため,安全輸送の確保に加えて,仮に豪雨によって不可避な災害が発生しても早期に列車運行を再開するという高いレジリエンスが求められています.
 本稿では,洗掘によって傾斜・沈下が発生した河川橋梁橋脚を対象に,短時間で運行再開を行うことができる「再供用による応急復旧法」を概説します.

2.洗掘被災橋梁の再供用による応急復旧法と再供用可否判定フロー

 近年の豪雨災害においては,特に建設年次が古い河川橋梁が増水による洗掘を受け,被災する事例が続いています.被災の形態は様々ですが,流出や倒壊には至らないものの,橋脚が沈下・傾斜することで軌道に変位が生じ通常の列車走行ができなくなる中小規模の被災形態も多くみられます. このような中小規模の被災後には,橋梁全体を再構築するよりも残った桁や橋脚を最小限の補修のみで再使用すること(再供用による応急復旧法)で,早期に運行を再開できる可能性があります.
 ただし,洗掘を受けて沈下・傾斜した橋脚基礎の支持力が大きく低下して列車走行に対する性能を確保できなくなっている可能性がある一方で,地中にある基礎構造物の状態を直接目視により確認することは一般的には不可能であるため,その性能の確認には高度な技術を要します.そこで,重量物を用いた予備載荷試験ならびに列車走行試験を通じて被災橋梁の再供用可否を判定する手法を構築し,一連のフロー(再供用可否判定フロー)(図1)を提案しました.このフローにおける各段階の実施概要を以下に示します.
(1)現地調査計画
 はじめに,基礎,鋼桁,橋脚く体等の変状を抽出するとともに,再供用可否判定ならびに措置の検討に必要な情報,資料を収集することを目的として現地調査を行います.主な調査項目は,①橋梁全体の沈下・傾斜,②出水時の出水状況,③桁および支点部付近の変状,④橋脚く体の変状,⑤洗掘状況,⑥橋脚周辺の河川環境,となります.調査から得られた変状程度や周辺状況を基に,再供用可否の見通しを立てるとともに載荷試験の実施が可能かどうか判断します.
(2)予備載荷試験
基礎の支持性能を評価する場合,一般には地盤調査結果に基づく設計計算を行います.しかしながら,洗掘が生じて沈下・傾斜が生じている場合には細粒分の吸出し等により地盤の特性が変化している可能性があるため,改めて調査を行う必要がありますが,被災後に橋脚周辺の支持地盤の調査を行うことは困難な場合が多いのが実情です.そこで,本応急復旧法では,列車走行試験にて直接的に基礎の支持性能を確認する方法を採用しています.これに先立ち,予備載荷試験は①列車走行試験の安全な実施の確認,②橋脚の沈下の促進,を目的として実施します.載荷方法は,現場の状況に合せて入手しやすい重量物を用いることで,準備に時間を要さずに実施することができます.これまでの事例では,水タンクや敷鉄板を用いた静的載荷や(例えば図2),保守用車等の比較的重量の軽い車両を用いた載荷方法が過去に実施されました.この載荷時の沈下量や支承部の変位,桁応力を計測することで,安全に予備載荷試験が実施できるか確認するとともに,列車走行試験の実施が可能か判断します.
(3)列車走行試験
列車の走行により,橋脚には荷重が繰返し作用します.このときに橋脚の沈下や傾斜が進行する可能性は否定できません.そこで,列車走行に対する性能を確認するため,列車走行試験を行います.列車走行試験では被災橋脚上を列車が通過する際の橋脚や支点の変位を動的に計測し,①列車通過時の変位が一定レベル以内であること,②複数回の走行により変位が進行しないこと,を確認することで,橋脚の支持性能を確認します.また,制動・始動荷重に対する安全性を確認するため,ブレーキ試験も実施することを基本としています.

3.おわりに

 本稿では,洗掘被災橋梁を対象とした再供用による応急復旧法について概説しました.この内容は「洗掘被災橋梁の再供用による応急復旧マニュアル」として現在取りまとめを行っております.
 本手法が,今後河川災害からの復旧の一助になれば幸いです.

参考文献

1) 西岡英俊,篠田昌弘,角雄一郎,山手宏幸:洗掘により沈下した直接基礎橋脚に対する鉛直載荷試験および列車走行試験,第48回地盤工学研究発表会,pp.203-204,2013

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮
担当者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 小林裕介,井上太郎
    防災技術研究部  地盤防災      渡邉諭
    鉄道力学研究部  構造力学      徳永宗正

線支承の支持状態に応じたリベット桁端部の耐荷力

1.はじめに

 線支承は,端補剛材中心位置において荷重を線で支持することを想定した支承です.このため,図1に示すように,上沓と下沓との間に部分的に生じる隙間(以下,支点部の隙)や支承中心と端補剛材中心との位置ずれ(以下,支点移動)等の「支持状態の変化」を生じると,局所的な支持や設計上想定していない位置での支持により,端補剛材や腹板に応力が集中し耐荷力が低下することが懸念されます.
 支持状態の変化は,例えば豪雨等の急激な増水に起因した洗堀被害により,橋脚が沈下・傾斜することで発生します.豪雨災害の発生頻度やその程度は年々増している中で,公共交通機関である鉄道は,被災後に早期に復旧するというレジリエンスを高めることが求められています.これに対し,橋脚に沈下・傾斜を生じたとしても,橋脚の支持力や,支持状態が変化した鋼桁の耐荷力を適切かつ精緻に評価できれば,列車運行を応急的に再開することができ,復旧までの期間を短縮することが可能となります.
 本稿では,線支承の支持状態が変化した鋼桁端部の耐荷力を評価することを目的として,実橋の桁端部を模擬した試験体を用いて静的載荷試験を実施しましたので,その結果1)について報告します.

2.支点部の隙が耐荷力へ及ぼす影響

 試験体は,前述の増水による洗堀被害については,建設年次が古い河川橋りょうにおいて比較的多く発生しており,建設年次が古い河川橋りょうを参考に,標準設計上路鈑桁(リベット構造)の達1084号,L=12.9mの桁端部を模擬し製作しました.載荷試験は,図2に示すように,支持状態の変化を再現し,桁端部に鉛直荷重を終局状態まで漸増載荷しました.
 「支点正常」と「支点部の隙(隙量=8.8mm)」の載荷試験結果から,支点部の隙が耐荷力へ及ぼす影響について考察します.図3に示すのは,支持状態の変化をパラメータとした静的載荷試験から得られた荷重-変位関係です.「支点部の隙」の荷重-変位関係は,試験体が隙を埋めるような挙動に起因し,荷重が比較的低い範囲においては「支点正常」よりも剛性が低下する傾向にあることがわかります.一方で,上沓と下沓が完全に接触した800kN付近から剛性が増加し,座屈荷重,最大荷重は「支点正常」と同程度となりました.
 また,図4(a), (b)に示す試験体の変形状況は,「支点正常」,「支点部の隙」ともに桁端側の腹板端部において座屈しており,支点部の隙の有無によらず崩壊性状は同様となりました.つまり,支点部の隙は,隙の量に応じた変位は生じますが,耐荷力へ及ぼす影響は小さいと考えられます.

3.支点移動が耐荷力へ及ぼす影響

 次に,「支点正常」と「支点移動」の載荷試験結果から,支点移動が耐荷力へ及ぼす影響について考察します.なお,支点移動量は,ソールプレート幅の1/2(180mm)に対して常時の温度伸縮等(約15mm)を考慮し165mm,支点の移動方向は支間側と設定しました.図3に示す「支点移動」の荷重-変位関係は,支点反力に対しては十分に余裕を有しているものの,座屈荷重,最大荷重ともに「支点正常」と比較して低下することがわかります.
 また,図4(c)に示す「支点移動」の変形状況は,移動した支点直上の腹板下端において座屈を生じており,「支点正常」とは座屈位置が異なることもわかります.つまり,支点移動が耐荷力へ及ぼす影響は大きいと考えられます.
 なお,本稿における支点の移動方向は支間側の結果を示していますが,耐荷力の低下程度は支点が桁端側へ移動した場合の方が大きいこと,支点部の隙と支点移動が同時に生じた場合においても,支点移動の影響が支配的であることを確認しております2)

4.おわりに

 本稿では,線支承の支持状態が変化したリベット桁端部の耐荷力に関する評価結果を紹介しました.支持状態の変化が耐荷力へ及ぼす影響は,支点部の隙の影響は小さく,支点移動の影響は大きいと考えられます.
 本研究の一部は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

参考文献

1) 戸崎隆之,吉田善紀,中田裕喜,小林裕介:線支承の支持状態が変化した鋼桁端部の耐荷力評価,構造工学論文集 Vol.64A,pp.38-50,2018.
2) 井上太郎,戸崎隆之,中田裕喜,小林裕介,勝山真規:線支承の支点移動がリベット桁端部の耐荷性状に及ぼす影響,構造工学論文集Vol.66A,pp.114-126,2020.

執筆者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 井上太郎
担当者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 小林裕介

レール締結装置の試験の手引き

1.はじめに

 レール締結装置の性能確認試験の方法については,旧日本国有鉄道(以下,「旧国鉄」)の鉄道技術研究所においてその手法が確立され,在来線や新幹線のPCまくらぎ用レール締結装置をはじめとする旧国鉄開発のレール締結装置の性能確認に用いられてきました.しかし,本試験方法については旧国鉄が開発した日本国有鉄道規格(Japanese Railway Standards, JRS)には規定されておらず,また国鉄の研究開発部門を引き継いだ鉄道総研の内部規定として適用されてきたことから,公知の情報としてこれまで公表されていませんでした.
 また,2012年に発刊された「鉄道構造物等設計標準・同解説(軌道構造)」(以下,「軌道構造標準」と示します.)では,レール締結装置の性能として疲労破壊に関する安全性および電気絶縁に関する使用性の2つの性能を設定し,それぞれについて照査を実施することを規定しています.しかし,レール締結装置の安全性および使用性の両性能において,応答値の算定は試験による方法のみが認められている一方,その試験方法の詳細については軌道構造標準に明記されていませんでした.
 このような背景を踏まえ,レール締結装置の試験方法を整理し公知とすることを目的として,旧国鉄の鉄道技術研究所から鉄道総研に引き継がれてきたレール締結装置の性能確認試験の実施内容および条件を現在の技術水準から再検討したうえで整理し,レール締結装置の性能確認試験の手引きとして発行することとし,手引きに基づき実施した性能照査の例を照査例として併せて示すこととしました.
 本稿ではその構成や概要・特徴と併せて,手引きの作成に際し実施した性能評価試験の条件に関する一連の検討とその結果についてご紹介します.

2.レール締結装置の試験の手引きおよび照査例の構成

 今回作成したレール締結装置の試験の手引きは大きく分けて第I部「レール締結装置の試験の手引き」および第II部「レール締結装置の照査例」から構成されています.
このうち,第I部「レール締結装置の試験の手引き」は下記の構成となっています.
1.はじめに(目的・背景)
2.用語の定義
3.設計の一般(性能項目と性能確認試験,設計応答値の導出と設計限界値の設定) /
4.試験方法(組立,各種ばね定数,静的・動的載荷,電気絶縁抵抗,レールふく進抵抗)
また,巻末には各種試験で得られたデータの整理方法が示されています.
 一方,第II部には第I部に示された試験の手引きに基づき,具体的なレール締結装置を対象として性能照査を実施した事例を紹介しています.

3.試験手引きの概要と特徴

 従来レール締結装置の安全性の照査については,設計軸重と変動係数(変動輪重係数,変動横圧係数)から設計作用を算定することは明記されているものの,設計作用を試験にどのように適用して性能照査に用いる設計応答値を得られるのか具体的に明記されておらず,設計責任者の判断材料となる情報が限定されている状況にありました.
 そこで,今回作成した試験の手引きでは,疲労破壊に関する安全性の照査で実施する試験,具体的には組立試験,各種ばね特性試験,静的・動的二方向載荷試験の手順とその実施条件の詳細を整理し明記しました.また,直接照査の対象となる性能項目ではありませんが,レール締結装置の重要な機能の一つであるレールのふく進抵抗力を把握するための試験の手順・条件についても同様に明記しました.

4.試験の実施条件に関する検証

 本手引きを作成するにあたり,単純にこれまで行われてきた試験方法や条件を明文化するだけでなく,その実施条件(荷重速度,散布条件,等)が応答値に及ぼす影響を検証しました.具体的には,表1に示す各種試験について,主に以下の2点の検証を実施しました.
①先端ばね定数試験,鉛直ばね定数試験,横方向ばね定数試験およびふく進抵抗試験について載荷速度が応答値に及ぼす影響
②静的・動的な二方向載荷試験(図1)について,レール締結装置一組あたりの設計荷重(A荷重およびB荷重)の載荷順序および最小荷重の影響
 ①については,現行条件に対して異なる載荷速度を複数設定し,各条件で得られる応答値の比較・検証を行いました.その結果,いずれの試験についても載荷速度が応答値(各種ばね特性やふく進抵抗力)に及ぼす影響はほぼないことを確認しました.
 また②について,静的な二方向載荷試験時の荷重の載荷順序を,表2に示す設計A荷重(P1)とB荷重(P2)を最大値(P1max,P2max)まで各3回ずつ載荷する場合と交互に載荷する場合の2パターンを設定し影響を検証した結果,変位や締結ばね応力といった応答値への影響が生じないことが分かりました.一方,静的および動的載荷試験のいずれも,載荷側とは逆側のアクチュエータから載荷する最小荷重(P1min,P2min)を標準の10kNから変更して載荷試験を実施した場合に,特にレール変位に及ぼす影響が無視できないことが分かりました.この原因として,実際の軌道での状況と異なり,安定した載荷のために二方向から載荷していることや載荷角度の影響等が考えられます.
 これらの結果を踏まえ,静的載荷試験については従来の二方向載荷に加えて,試験レールに対して設計A荷重およびB荷重を単独で載荷し,その応答値を合算して設計応答値として性能照査を実施してもよいこととし,動的載荷試験については従来通り,二方向からの交互載荷のみを認めることとしました.また,静的・動的ともに二方向載荷試験の実施にあたっては,応答値,特にレール小返りが大きく安全側評価となることが確認されたことを論拠として,これまで適用されている逆側最小荷重10kNを標準として採用してよいこととしました.以上の結果は今回作成した手引きに反映されています.

5.今後の活用について

 レール締結装置の試験の手引きおよび照査例については,本稿発行時点(2020年11月)で鉄道総研・鉄道技術推進センターの会員向けに公開され,その内容について意見照会を行っており,頂いたご意見・ご指摘を踏まえて改訂し,正式に完成に至る見通しです.完成後はレール締結装置について試験により性能照査を実施する際の指針として活用していただけることが期待されます.

執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 弟子丸将
担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 楠田将之,本村裕基,太田晋一,山本智之

日陰の影響を考慮可能な広域レール軸力分布予測法

1.はじめに

 実軌道では,建物等の陰により,レール温度と軸力が局所的に変動します.既往研究1)にて,GISデータ使用した日射量解析と熱解析の弱連成により,レール温度分布を,日陰を加味して予測する手法を開発しました.本稿では,図1のように,レール温度分布を読み込み,軌道の一次元構造解析を実施し,日陰に起因するレール軸力分布を,延長数十kmの広範囲で予測する手法を開発したので,その概要と予測計算例を紹介します.

2.一次元構造解析ツール(機能と特徴)

①レール温度分布をそれに応じた軸力分布に変換します
②無道床橋りょうとレールの相互作用を考慮可能
 無道床橋りょうでは,桁の温度伸縮によりレールに付加軸力が加わりますが,これを考慮可能です.
③Excelによる簡単な操作
 Excel VBAで作成されており,図2のようなExcelシートから,軌道条件に応じたばね特性や,構造物,そのたパラメータが指定でき,簡単にモデル作成が行えます.また,Excel以外の専用ソフトウェア等は不要です.
④計算負荷が小さい⇒広域計算に対応可能
 延長15km,5時~21時のレール軸力分布を,オフィス用のPC(CPU:Intel® Core™ i7-6700,実装メモリ:8GB)にて,1mピッチ,10分間隔で計算した場合の所要時間は約30秒でした.
⑤ふく進の計算,ふく進を加味した軸力分布の計算が可能
 レール-下部構造間のばねはバイリニア弾塑性であり,レール軸力分布と同時にふく進(レール長手方向の塑性変形)も計算できます.また,解析の初期値として,ふく進を入力すれば,これを加味した軸力分布を計算できます.

3.実軌道(ロングレール不動区間)でのレール軸力予測試験

 予測モデルの妥当性検証のため,日中に建物等によりレールの一部が日陰となる箇所でレール温度と軸力を測定し,予測値と比較しました.図3に試験箇所の状況と測点を示します.試験日は2019年1月21日で,当該箇所の天候は快晴でした.S1~S10の10測点でレール温度と軸力を10分間隔で測定しました.レール温度は,フィールドコーナー(FC)側のレール腹部に熱電対(T-FFF(M),福電)を設置して測定しました.軸力は,フィールドコーナー(FC)側とゲージコーナー(GC)側の中立軸にそれぞれクロスゲージ(WFCA-6-11-5LDBB,東京測器)を1枚設置して4ゲージを組み,試験日の7時の時点からの変動を測定しました.また,レール温度予測に使用するため,ウェザーステーション(Vantage pro 2,DAVIS社製)をS1付近の沿線の,地面から高さ1mの位置に設置し,気温と風速を測定しました.測定日の最高気温は10℃,最大風速は3.1m/sでした.
 図4にレール温度の測定値と予測値の比較を示しますが,提案した手法により,日陰箇所の温度低下を含む実軌道のレール温度分布を再現できていることがわかります.このレール温度の予測値を,一次元構造解析ツールに入力し,7時~20時のレール軸力の予測値を0.25時間毎に計算しました.レール-下部構造間の耐力γy(道床縦抵抗力に相当)は,8kN/m,4kN/mの2通りを用いました.図5に,10時~15時のレール軸力分布(7時の軸力をゼロとした変動分)の測定値と予測値の比較を示します.S8,S9は建物2の日陰となる箇所であり,日向と比較して約15℃レール温度が低くなりますが(図4),レール軸力の測定値,予測値の両方で,日向箇所(S1)と比較して約200kN,レール軸力が小さくなりました(図5).レール長手方向の軸力の勾配を比較すると,道床縦抵抗力を8kN/mとした場合の予測値は測定値よりも勾配が急であり,4kN/mとした場合の予測値は測定値とよく一致しています(図5).道床縦抵抗力4kN/mは,ロングレールの設計計算等で広く使用されている値(6kN/m~10kN/m)と比較して小さいです.これは,列車通過時の振動が原因の一つとして考えられますが,これについては今後の課題としたいと思います.

4.日陰に起因するふく進の進展解析

 7時~20時のレール温度上昇・下降を10回繰り返し付加し,ふく進(レール-下部構造間ばねの塑性変形量)を計算しました.道床縦抵抗力は4kN/mを用いました.図6(a)に,20時におけるふく進の解析結果を示します.対象はロングレール不動区間でしたが,建物2によって日陰/日向の境界となるx=300m付近では,1回目の温度負荷時に0.22mmの微小なふく進が生じました.ただし,2回目以降は,同じ温度上昇・下降を与えても,これ以上ふく進は進展しませんでした.図6(b)に,レール温度上昇・下降を10回繰り返した後のふく進による付加軸力(温度換算)を示しますが,日陰/日向の境界となるx=300m付近で0.6℃の付加軸力が生じました.

5.今後の展望

①気象予報データを活用したリアルタイムレール温度・軸力予測システムの開発
②レール温度・軸力分布の予測値に基づく,効率的な座屈管理法の検討

参考文献

1) 浦川文寛, 他:GISデータを使用した広域レール温度予測法, 鉄道総研報告, Vol. 34, No.4, 2020

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 浦川文寛
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺 勉

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:大原 勇  【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 トンネル】