施設研究ニュース

2021年2月号

コンクリート構造物の維持管理手引きの発刊

1.はじめに

 平成19年に刊行された鉄道構造物等維持管理標準1)(以下,維持管理標準)では,検査から措置,記録までの維持管理について,性能規定化の流れを踏まえて体系化がなされたとともに,検査および措置の標準的な方法が示されました.一方で,構造物に発生する変状,検査や措置の方法は,多種多様であり,また,維持管理標準発刊以降,実務に役立つ多くの研究が行われてきました.このような背景のもと,鉄道コンクリート構造物の効率的な維持管理を目的に平成28年度から3年間にわたり,学識経験者,鉄道事業者,鉄道総研等の関係者で構成される「鉄道コンクリート構造物の維持管理に関する検討会」が設置され,「鉄道コンクリート構造物の維持管理の手引き」(以下,本手引き)がまとめられました.

2.維持管理手引きの概要

 本手引きは,維持管理標準の構成にしたがって,最新の維持管理に関する知見や具体の検査,措置の方法について記載しました.本手引きの目次構成を表1に示します.本手引きでは,維持管理標準の付属資料のうち,技術の進展があった事項の更新,および維持管理標準の付属資料に記載のない事項を新たな資料としてまとめました.具体的には,各種調査や措置の方法,最近発生した地震の復旧事例を踏まえた地震後の検査および措置の方法の紹介,また,維持管理標準にしたがった維持管理事例,さらに,実構造物における代表的な変状事例について写真を用いて紹介しました.以下に,本手引きの内容の一部を紹介します.詳細については,国交省の各運輸局より配布の本手引きをご覧ください.

3.全般検査

 全般検査は,構造物の変状の有無およびその進行性等を把握し,性能を低下させる変状,またはそのおそれのある変状を抽出することを目的に2年ごとに実施する検査です.そのため,鉄道事業者における負担が大きく,効率化がもとめられています.本手引きでは,維持管理標準の健全度の判定例の更新と判定例の解説を記載しました(本手引き4.1).健全度の判定例のうち,RC桁の記載の一部を表2に示します.本手引きでは,状態の例におけるひび割れ幅,アルカリシリカ反応の記載方法,支承部の状態の例および構成などについて,現行の維持管理手標準の判定例を更新しました.さらに,公衆安全を脅かす剥落に着目し,検査の着目点と変状が発生しやすい箇所を整理しました(本手引き4.2).

4.個別検査

 本手引きでは,かぶり測定に関して,維持管理標準の発刊以降に開発された鉄筋探査機の適用性について,電磁誘導法(渦流式)による筋探査機の適用性や留意事項をまとめました(本手引き5.1).また,コンクリートの表層品質を非破壊で測定する方法(本手引き5.2),桁に大きな異常がないことを簡易に把握する指標となる列車載荷時のたわみ測定の活用法や評価例,留意点(本手引き5.3)をまとめました.

5.随時検査

 本手引きでは,地震後,早期に列車運行するため,近年の地震における復旧事例を踏まえ,ラーメン高架橋および橋りょうを対象とした健全度判定,応急復旧と本復旧の方法をまとめました(手引き6.2).また,過去の地震で被災した構造物の復旧事例を調査し,損傷状態,健全度判定,復旧方法の実事例を図や写真をできるだけ多く用いて,まとめました(手引き6.3).

6.おわりに

 鉄道事業者および検査,措置等の実務に関わる技術者において,本手引きが,鉄道コンクリート構造物の維持管理に少しでも役立てば,幸いです.最後に,本手引きの刊行にあたり,ご尽力いただいた委員各位,貴重な情報を提供いただいた鉄道事業者各位のご協力に対して,深く感謝します.

参考文献

  • 1)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)コンクリート構造物,2007.1

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 田所敏弥

スラブ軌道てん充層の額縁補修

1.はじめに

 スラブ軌道において凍害などで劣化した既設てん充層の額縁補修では,スラブ軌道各部補修の手引き1)に示されている通り,側面および端部から100mm程度の深さまでをはつり取り,そこにCAモルタル系あるいは樹脂系の補修材を注入しています.CAモルタル系の補修材(以下,CA補修材という)を用いる場合は,脆性破壊が生じないように耐アルカリガラス繊維マットにより補強しています.しかし,補強材として使用しているガラス繊維マットの入手が困難となったため,これに代わる継続的に入手可能な代替品の選定が求められています.本稿では,その代替候補の選定を行うとともに,従来品および代替候補品で補強したCA補修材の供試体に対する重錘落下試験および曲げ載荷試験を実施し,曲げ破壊に対する性能の比較を行いましたので,その結果を紹介します.

2.補強材の代替品

 従来品および代替品の補強材を表1および図1に示します.代替品の選定に際しては,国内で流通している製品であること,形状が短繊維状のものではなくマット状あるいはメッシュ状であること,耐アルカリ性を有していることを条件に選定を行いました.耐アルカリガラス繊維マット(以下,従来品という)は線状のガラス繊維をマット状に不規則に積層した構造,道路舗装用ガラスメッシュ(以下,代替品という)はガラス繊維を格子状に組み合わせた構造となっています.また,目付量は従来品が625g/m2,代替品が396g/m2となっています.

3.試験の概要

(1) 供試体の概要

 A社およびB社の2社の配合によるCA補修材(いずれも曲げ強度2.8N/mm2)を型枠内に注入し,高さ50mm×幅100mm×長さ400mmの供試体を作製しました.各供試体には図2に示す通り円筒状に巻いた補強材を挿入し,各試験用に表2に示す層数の供試体を用意しました.なお,作製した供試体は温度20℃,湿度65%の恒温室で14日間養生しました.

(2) 重錘落下試験

 重錘落下試験は,供試体を支点間距離300mmの支持台に置き,重量3.34kgの弾丸状の鋼材の重錘を初期高さ10cmから5回落下させ,供試体の破壊が見られなかった場合は10cmずつ落下高さを上昇させ,各高さ5回ずつ落下させる方法で行いました(図3).なお,落下高さは90cmを上限とし,90cmでの落下回数は30回を上限としました.試験の終了点は,CA補修材が破断し供試体が破壊した場合または落下高さ90cmで落下回数30回まで破壊に至らなかった場合としました.なお,式(1)により破壊エネルギー(累積)を求めました.
破壊エネルギー(N・m)=重錘質量(kg)×重力加速度(m⁄s2 )×累積落下高さ(m) ・・・式(1)
 各試験ケースの3回平均の破壊エネルギーの比較結果を図4に示します.A社,B社ともに代替品4層以上の場合で従来品の3倍以上と大きく上回る結果となりました.これは重錘落下時の衝撃荷重によりCA補修材にひび割れが生じたのち,従来品は速やかに繊維が破断し供試体が破壊に至ったのに対し,代替品は試験終了まで繊維が破断することなく衝撃荷重に抵抗したためと考えられます.

(3) 曲げ載荷試験

 曲げ載荷試験では三等分点曲げ試験を実施し(図5),荷重-変位関係から中央変位12mmまでの破壊エネルギーを算出しました.載荷速度は1.0mm/minとしました.
 補強材なし,従来品3層,代替品3層および代替品4層の3回平均の荷重-中央変位関係を図6に示します.いずれの場合も2~3kN程度でひび割れが発生しましたが,従来品はその後緩やかに荷重が増加し,最大荷重に達したのち補強材の繊維が破断し,急激に荷重が低下しました.代替品も同様にひび割れ発生後緩やかに荷重が増加し最大荷重に達しましたが,A社の場合は3層,4層いずれの場合もその後緩やかに荷重が低下しました.一方B社の場合は最大荷重に達したのち荷重が低下したものの,従来品よりも高い荷重を維持しました.なお,2社いずれも中央変位12mmに至るまで補強材の繊維が破断することはありませんでした.また,代替品5層および6層についても試験を行った結果,最大荷重は代替品4層以上の場合でA社,B社ともに従来品3層を上回る結果となりました.つづいて,各試験ケースの破壊エネルギーを図7に示します.破壊エネルギーで比較すると,代替品3層以上でA社,B社ともに従来品を上回る結果となりました.これは,最大荷重に達したのちの荷重の低下の程度が代替品の方が小さかったためと考えられます.

4.おわりに

 本稿では,軌道スラブてん充層の額縁補修用CA補修材の補強材の代替品の曲げ破壊に対する性能確認試験を行った結果を紹介しました.今後はスラブ軌道各部補修の手引き1)を改訂することを計画しており,補強材として道路舗装用ガラスメッシュを加え,4層以上を挿入することを標準とする予定です.

参考文献

  • 1)公益財団法人 鉄道総合技術研究所:スラブ軌道各部補修の手引き,2015年12月

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 早川容平
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 髙橋貴蔵,三澤祥文,桃谷尚嗣

道床砕石の吸水時の物性

1.はじめに

 道床バラストに使用される砕石は,最低3年に1度の頻度で,その品質を調べ,求められる性能を満たしているかを確認されています.この品質を調べるための試験を石質試験と呼び,図1の各試験から構成されています.これらの試験は,吸水耐圧強度試験を除けば,基本的に乾燥状態の試料を用いて実施されます.吸水耐圧強度は,バラストの使用環境を考慮して,湿潤状態で一軸圧縮試験を実施することで求められます.様々な岩石における,乾燥時の一軸圧縮強さに対する吸水耐圧強度の比と吸水率との関係を図2に示します.ほとんどのケースにおいて,比が1を下回っており,湿潤時に一軸圧縮強さが低下することが分かります.
 このように,岩石の個としての強度が湿潤時に低下することが分かっていますが,岩石の集合である砕石としての強度が,乾燥状態と吸水状態でどのように異なるかは明確にされていません.そこで,本稿では,乾燥した状態と,水分を含んだ状態とで,砕石の物性がどのように異なるかを調べた結果を報告します.

2.吸水率の経時変化

 吸水状態の岩石を試験に用いるにあたり,浸水時間と岩石が含む水分量の関係を調べました.ここでは,岩石中の水分量について,「岩石自体の重さ」に対する「岩石が含んだ水の重さ」の割合を示す吸水率の変化について報告します.図3には,110℃で24時間乾燥させた岩石を浸水させた場合の,岩種毎の吸水率の経時変化を示しています2),3).浸水を開始してから急激に吸水率が増加しており,乾燥した岩石への水の浸透にはほとんど時間がかからないことが分かります.また,図4には,4週間以上浸水させた岩石を水から引き揚げ,空気中で乾燥させた場合の,岩種毎の吸水率の経時変化を示しています2),3).乾燥時の吸水率の変化は,吸水時の吸水率の変化と比べると緩やかです.また,150時間経過後もある一定量の吸水率を保っており,完全に乾燥するまでには時間が掛かることを示しています.石質試験では,吸水耐圧強度試験や吸水率試験は98時間の浸水後に試験を実施します.図3からは浸水98時間後では,吸水率の変化は微小となっているので,岩石を十分に吸水させるためには,概ね妥当な時間設定と考えられます.

3.吸水時の岩石の強度

 吸水状態の砕石を用いて圧縮粉砕試験を実施し,吸水時の砕石としての強度を調べました.このとき,吸水時間は2章の試験結果から,98時間としました.圧縮粉砕試験は,内径220mm,高さ280mmの鉄製容器に砕石を詰め,25kN/minで最大500kNまで載荷し,載荷により砕石がどの程度粉砕されたかを調べる試験です.図5に圧縮粉砕率の考え方を示します.圧縮粉砕率は,試験前の粒径加積曲線で囲まれる面積Fvと,試験後の粒形加積曲線で囲まれる面積Fnの差Fn-Fvを,Fvに対する百分率として求めます.図6に,安山岩の自然乾燥させた砕石と98時間浸水させた砕石について,圧縮粉砕試験前と後の粒度分布の変化を示します2),3).この粒度分布をもとに圧縮粉砕率を計算すると,乾燥状態では19.7%,湿潤状態では24.5%となります.これは,湿潤時には,より砕石が粉砕されやすいことを示しています.
 以上の結果は,砕石が水を含んだ際には,強度が低下する傾向にあることを示しています.したがって,実際の使用環境におけるバラストの強度を十分な安全性を考慮して評価するためには,吸水による岩石の強度低下の影響を考慮する必要があると考えられます.

4.おわりに

 本稿では,岩石の吸水率と砕石の物性に関する試験結果を紹介しました.現在の石質の基準が決められてからおよそ50年が経過し,バラストを取り巻く環境は当時と変化しています.今後も,バラストの品質の評価について検討を続けたいと考えています.

参考文献

  • 1) 大島洋志,中林好範:道床バラストの石質基準および試験法の改正に関す研究—附.道床バラスト仕様書に基づく過去20年の成績—,鉄道技術研究所速報,No.75-154,pp.1-205,1975
  • 2) 河村祥一,川越健:乾湿によるバラストの圧縮粉砕率の違いに関する基礎的検討,日本応用地質学会平成30年度研究発表会講演論文集,pp.111-112,2018
  • 3) 川越健,河村祥一:鉄道の道床バラストに用いられる岩石の物性とその吸水時の変化,第47回岩盤力学関するシンポジウム講演集,pp.74-79,2020

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 河村祥一
担当者:防災技術研究部 地質研究室 川越健,長谷川淳,西金佑一郎

近年の保守用車の荷重実態調査

1.はじめに

 鉄道橋りょうは,旅客や貨物を輸送する車両のみでなく,軌道や電力設備等の維持管理を目的とした車両(以下,保守用車)も走行するため,保守用車に対する照査も必要である.照査を行う場合は,実際の軸配置,軸重および速度をもとに行うのが望ましいが,簡易には当該橋りょうの設計時の列車荷重と比較する方法もある.近年の保守用車は様々な車両があるが,それらがどの程度の荷重か調査した事例がない.そこで,本資料では,保守用車に対する照査を行う際の参考資料になることを目的に,近年の保守用車について標準列車荷重の相当値を算出して荷重の実態を調査した.

2.保守用車の種類

 JR各社に比較的重量の大きいと思われる保守用車の情報を頂き,これを調査対象とした.表1に,対象とした約50車両の内訳を示す.内訳は,新幹線用と在来用で分け,更に用途で,レール削正などの保線作業車,架線延線などの電気作業車,トンネル覆工などの土木作業車の3つに分類した.

3.標準列車荷重相当値の算出方法

 保守用車は,軸配置や軸重が種類によって大きく異なるため,直接比較できるようにするため,標準列車荷重の相当値を算出した.図1に,標準列車荷重である,EA荷重,M荷重,H荷重の軸配置を示す.EA荷重は機関車,M荷重は電車や内燃動車,H荷重は新幹線をモデル化した荷重である.なお,新幹線をモデル化した他の荷重としてP荷重もある.
 本検討で用いた標準列車荷重の相当値は,保守用車の軸配置および軸重によって単純梁に生じる最大の曲げモーメントまたはせん断力と,同じ断面力を生じさせる標準列車荷重の軸重値である.例えば,M相当値は式(1)により算出される.
 ここで,Mは曲げモーメント,Vはせん断力を示す.添字の保守用車はこれによる断面力,M-18は標準列車荷重M-18による断面力を表す.相当値は,曲げモーメントとせん断力から算出される相当値の大きい方としている.M相当値は,在来線用の各保守用車について,スパン1m~50m(0.01m刻み)について式(1)により算出した.式(1)と同様に,新幹線用の保守用車についてH相当値とP相当値,すべての保守用車についてE相当値を算出した.

4.保守用車の標準列車荷重相当値の傾向

 図2に,各保守用車について,スパンと標準列車荷重相当値の関係を示す.図は,保守用車を,保線作業車,電気作業車,土木作業車毎に色分けし,同種の車両で重量の重い車両や特徴的な車両に車種名を示している.
 図2(a)はM相当値を示しているが,全体の傾向として,スパン10m以下の短い領域においてM相当値は最大値を示す.これは,牽引車と作業車のように同一車両で編成されていない場合の特徴で,先頭の重い牽引車のみが載荷されるスパンの短い領域で相当値が高くなることが理由である.図2(b)にH相当値,図2(c)にP相当値をそれぞれ示すが,新幹線用の保守用車では,レール運搬車や道床交換車など車両数が多いものでは,スパンが長い領域で最大値となる傾向を示す.なお,H相当値やP相当値がかなり大きい値のものもあるが,これらについてN荷重の相当値を算出したところ最大でもN-16程度であり,これまで設計に用いられているN荷重以下である.
 図2(d) は全保守用車のE相当値を示すが,スパン10m以下で最大値を示す傾向がある.図には,A荷重であるA-17のE相当値も示しているが,スパンが短い領域ではスパンとE相当値の関係はA荷重と概ね同じ傾向を示し,今回対象とした保守用車の相当値はいずれもA-17以下である.また,スパンが長い領域では,E相当値はスパンに対する変動が小さい.このことから,保守用車を現行の標準列車荷重で表現する際はEA荷重を用いることが可能と考えられ,今回対象とした保守用車はEA-17で包含されることがわかった.

5.まとめ

 本資料では,保守用車に対する照査を行う際の参考資料になることを目的に,近年の保守用車について標準列車荷重の相当値を算出して荷重の実態を調査した.なお,現行の設計標準では作用の種類の一つに「軌道作業車荷重」があるが,近年多種多様な保守用車があるため,今後「保守用車荷重」に名称が変わる予定である.

執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 成田顕次
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田学

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:木次谷 一平【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道・路盤】