施設研究ニュース

2021年4月号

既設鋼桁・橋台形式橋梁の一体化による耐震対策

1.はじめに

 鋼鉄道橋梁は明治より架設され始め,供用後50年以上経過した橋梁数が現存橋梁数の半数を超えます.そのため補修・補強,さらに架け替え等の措置を必要とするものが今後増加することが予想されます.橋梁の架け替えでは,仮線の構築や仮設桁・仮設橋台等の構築を要し,横取り方式においても仮設架台等を要するなど,工期が長く費用が膨大となるうえに,施工のための用地が必要となります.そこで,架け替えを行わず鋼鉄道橋梁の延命化・耐震化を行うことを目的として,鋼桁・橋台・盛土の一体化よる耐震補強工法を開発しました.この耐震補強工法を既設盛土一体化補強工法と呼びます.本工法が実橋梁に適用されたので紹介致します.

2.既設盛土一体化補強工法の概要 1)

 本工法は,老朽橋梁の延命化・耐震化を目的として,鋼桁・橋台間を鉄筋コンクリートで一体化し,橋台・背面盛土間では地山補強材により一体化することで,常時・地震時の機能向上を図るものです.特に地震時に対しては,橋梁のラーメン構造化により反対側の橋台背面盛土の受働抵抗を期待でき,また構造的弱点である支承部をなくすことで,耐震性が格段に向上します.図1に施工手順を示します.

3.既設盛土一体化補強工法の適用事例 2),3)

 対象の橋梁は1927年に架設された橋長22.0mの上路プレートガーター橋です.下部工は直接基礎形式の重力式橋台で,橋台く体は無筋コンクリートでした.鋼桁等には経年による大きな劣化等は見られませんでしたが,耐震診断を行ったところ,L2地震に対する耐震性能が満足しない結果となりました.また,仮に損傷を受けた場合,橋台前面を道路に,線路側面は住宅で囲まれているため復旧作業が著しく困難となることが予想されることから,耐震対策を実施することとなりました.耐震補強工法の選定にあたっては,架け替えとの比較が行われましたが,狭隘な場所に位置することから本工法が選定されました.
 補強の概要を図2に示します.対象橋梁では一時的に橋台前面を占用する必要はあるものの,補強材を橋台前面から打設し,橋台く体と接合することで補強効果の増大を図りました.また,橋台く体が無筋のコンクリートであったため,鋼棒挿入工法による補強を実施するとともに隅角部のコンクリートとの一体化を行いました(図3).
 ただし,夜間列車間合いでの施工可能な時間が非常に短いため,隅角部のコンクリート打設に関する課題がありました.つまり,一晩でコンクリートの打設時間と隅角部を剛なラーメン構造とするための硬化時間の確保です.速硬性コンクリートを用いることになりましたが,打ち込みに必要な流動性保持時間の確保,ならびに打ち込み完了後から2時間30分で圧縮強度18N/mm2以上発現することが設計の観点から求められました.そこで,高流動コンクリートを基準とし,速硬性混和材を使用しましたが,打設当日の気温等の条件を加味して試験施工を重ね,必要とされる条件を満たすことを事前に確認致しました.コンクリートの打設は上下線の起終点方の支承部それぞれで,計4日行いました.
 打設完了後のコンクリートの検査を行った結果,ひび割れ等の発生は確認されませんでした(図4).また列車通過時の桁のたわみ量を施工前後で比較しましたが,補強後の桁中央部のたわみ量は1/2~1/3程度となっており,一体化されていることが確認されました.

4.おわりに

 本工法を当該橋梁に適用することで,一般的な工法である架け替えと比較してコスト,工期,施工スペースなどの制約面で優位となりました.また付加的な効果として,列車通過時の騒音低減効果も確認でき,多様な面から鉄道構造物の効率的な維持管理に貢献できたと言えます.ただし,既設構造物の補強を検討する際には,対象とする構造物の現存性能や補強レベルの違いによって設計や施工法が大きく変化するため,今後も鉄道事業者様が適用を検討される場合には,サポートさせて頂きたいと考えております.
 本研究の一部は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

参考文献

  • 1) 神田ら:鋼桁・橋台・盛土一体化による旧式橋梁の耐震補強,鉄道総研報告,Vol.26,No.4,2012
  • 2) 岸田ら:小田急小田原線 旧恩田川橋梁における耐震補強工事の施工計画-補強盛土一体化橋梁(インテグラル橋りょう)工法の採用-,土木学会第73回年次学術講演会,VI-760,2018
  • 3) 岡本ら:小田急小田原線 旧恩田川橋梁における耐震補強工事の施工報告既設盛土一体化橋梁(インテグラル橋りょう)工法の施工-,土木学会第74回年次学術講演会,VI-871,2019

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮

レール頭部補修工法における残存きずへの対処方法

1.はじめに

 シェリングきずに対してレール頭部きず補修工法を適用する場合,事前の超音波探傷検査により水平裂長さ,横裂深さを測定し,設計上の切取り形状と重ね合わせることで適用の可否を判断します.しかしながら,実際には,例えば横裂深さが超音波探傷検査の結果を上回り,切取り面に横裂が残存することになるケースも考えられます.このような場合,残存した横裂箇所を部分的に研削した後,補修することになりますが部分的な研削による補修溶接部への影響についてはこれまで明らかになっていません.そこで,きずの取り残しを想定して部分的に研削を施した補修溶接試験体を準備し,各種試験に供することで,強度への影響を確認しました.

2.試験体作製条件

 本検討では,実作業を想定し,研削形状2パターン,研削深さ2パターンの計4パターンを設定しました.また,研削箇所は,最も溶込み量が少なくなる切取り中心から20mm位置とし,溶込み量に及ぼす影響を確認しました.表1に試験体の研削条件,図1に部分研削後の切取り部外観および研削後の断面形状を通常の断面形状(破線)と併せて示します.研削形状は局所型および船底型の2パターンとしました.局所型は残存きずのみをグラインダで研削した場合を想定し,船底型は残存きずを研削した後,その周囲を滑らかに仕上げた場合を想定しています.また,研削深さは,超音波探傷検査の検査精度を考慮し,5mmおよび10mmとしました.トレースした断面形状より,局所型は研削深さを5mmから10mmに増加しても研削範囲はほぼ変わりませんが,船底型は研削深さに比例して研削範囲が大幅に拡大することがわかります.そのため,船底型では研削深さが深くなるほど研削作業に時間を要します.
 ここでは,上述の各パターンで切取り形状を拡大したJIS60kg普通レールに対してレール頭部きず補修工法を適用した試験体を作製し,各種試験を実施しました.

3.試験結果

(1) 超音波探傷試験

 作製した溶接試験体に対して,45°斜角探触子による頭頂面からの一探触子法および頭部二探触子法による超音波探傷試験を実施しましたが,いずれの試験体においても有害と判定されるきずエコーは検出されませんでした.

(2) 縦断面マクロ観察

 溶接試験体に対して,ライザー側15mm位置(最も溶込みの少ない領域)における縦断面マクロ観察を実施しました.図2に断面観察位置および縦断面マクロ観察結果を示します.なお,図中の実線で切取り部の断面形状,破線で溶込み境界部を示します.いずれの補修溶接部においても,研削形状によらず研削した箇所の溶込み量が減少する傾向が認められます.特に局所型10mmの研削では当該箇所においてほとんど溶込み量が得られていなません.一方,船底型に研削した場合には,最低でも2mm程度の溶込み量が得られています.

(3) 静的曲げ試験

 断面マクロ観察結果を基に,船底型10mmの条件で作製した試験体3体に対して,静的曲げ試験を実施しました.静的曲げ試験は,1mスパン中央集中荷重による3点曲げとし,試験体数は60kg普通レール3体としました.また,破断姿勢は頭頂面に引張応力が作用する頭部下向き(HD)としました.図3に試験結果および破断面例を示します.試験に供した試験体3体はいずれも60kg普通レールにおけるテルミット溶接部の曲げ破断基準値(HD:1100kN-13mm)を上回り,破断面上には有害と判定される溶接欠陥等は認められませんでした.
 以上の結果より,10mm深さまでであれば,船底型となるように研削することで,実用上問題のない強度を確保できることを確認しました.

4.まとめ

 上記の検討結果より,船底型となるように研削することで十分な強度を持つことを確認しました.なお,補修施工の際は,事前の超音波探傷検査によりきずの存在位置を正確に把握すること,施工後の仕上り検査を確実に実施することが肝要となります.

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 伊藤太初
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 山本隆一,寺下善弘

塩害環境下における経年PCまくらぎの性能評価

1.はじめに

 PCまくらぎが我が国に本格的に導入されてから60年近くが経過しています.これまでPCまくらぎは変状が発生したらその都度交換する取替部材として扱われてきたため,現在のところ定量的な健全度判定基準や交換基準は存在しないのが実態です.このようなことから,筆者らは今後新たな維持管理体系の構築のため,経年PCまくらぎの実態調査や性能評価を進めています.本稿ではそのうち,海沿いの塩害が特に厳しいと想定される線区に敷設された経年PCまくらぎを対象とし,各種性能評価試験により耐荷力評価を行った結果を紹介します.

2.経年PCまくらぎの性能評価試験

2.1 試験方法

 図1に対象PCまくらぎを,表1にコンクリートの諸元をそれぞれ示します.JIS E1201に規定される3号および6号プレテンション式のPCまくらぎを対象としました.3号まくらぎは直線および半径800m以上の曲線に,6号まくらぎは半径800m未満の曲線に用いられます.敷設個所は海岸線から100~150m離れた位置の4線区です.また,経年は40年以上のものをサンプルとしました.
 表2に試験項目を示します.外観調査,曲げ試験(JIS E1201),PC鋼より線の腐食状況の調査,コンクリート中の塩化物イオン濃度測定を実施しました.なお,PCまくらぎから採取したコア供試体より中性化深さを測定しましたが,中性化は見られませんでした.

2.2 試験結果

①外観調査 図2に外観調査の結果を示します.主な変状は,底面の曲げひび割れ,長手方向に連続する縦ひび割れ,端部におけるPC鋼より線の腐食でした.曲げひび割れは列車からの衝撃荷重,縦ひび割れはアルカリ骨材反応やエトリンガイトの遅延生成などが原因と考えられます.また,ほぼすべてのPCまくらぎの端部でPC鋼より線の腐食とそれに伴う錆汁が見られました.これはPCまくらぎの製造時にモルタルなどで端面の防錆処理を行っていますが,それらが経年により剥がれ,PC鋼より線が露出したためと考えられます.なお,このモルタルは厚さが数mmであり,PC鋼より線の方がモルタルよりも先に腐食して膨張したためにモルタルが剥がれた可能性も考えられます.
②曲げ試験 図3に曲げ試験の結果を示します.横軸を累積通過トン数,縦軸をJIS E1201の曲げ試験を行った際の最大荷重としました.限られたサンプル数ですが,同図より,塩害環境下のPCまくらぎの曲げ試験結果は,ひび割れの有無に関わらず,一般環境の試験結果のばらつきの範囲内に概ね収まることが分かります.ただし,一般環境の試験値に比べると最大荷重が低い傾向にあるため,既往研究1)で提案されているマクロな視点で耐用期間を決定する場合には,95%信頼区間の下限値を目安にする方が望ましいと考えられます.具体的には,3号まくらぎでは15億トン,6号まくらぎでは20億トンが目安となります.
③PC鋼より線の腐食状況調査 図4にPC鋼より線の腐食状況の例を示します.図より,PC鋼より線はPCまくらぎの端部から最大で700mmの範囲で断面減少を伴わない錆が部分的に発生していること,PCまくらぎ中央部では見られないことなどが分かります.端部を中心に腐食が見られるのは,図2(c)のようにPC鋼より線が端部で露出したことが原因の1つであり,鉄筋コンクリート構造物などにおいて一般的に見られるコンクリート表面からの塩化物イオンの浸透による鋼材腐食とは異なる腐食形態であると考えられます.
④塩化物イオン濃度測定試験 図5に、海岸線から100m程度に位置する線区1および線区2の測定結果を例示します.図より,PCまくらぎの最小かぶり25mmの位置における塩化物イオン濃度が鉄道構造物等設計標準・同解説(鉄道標準)に示される塩化物イオン濃度の制限値1.2kg/m3,コンクリート標準示方書(学会示方書)に示される式からコンクリートの水セメント比を0.35として算出した鋼材腐食発生濃度2.35kg/m3を超えており,PC鋼線が腐食しやすい環境下にあることが分かりました.

4.まとめ

 今回の評価により,海岸線から100~150mの位置に敷設された経年40年以上のPCまくらぎであっても曲げ耐荷力については問題はなく,直ちに交換の必要はないと考えます.ただし,塩化物イオン濃度が高くPC鋼より線は腐食しやすい環境下にあり,今後PC鋼より線の消失などによりPCまくらぎの耐荷力の低下が懸念されるため,交換時期は一般環境よりも早く設定することが望ましいと考えます.

参考文献

  • 1) 渡辺勉,曽我部正道:営業線に敷設された経年PCまくらぎの耐荷力評価,日本鉄道施設協会誌,Vo.64,No.4,pp.49-52,2018

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 後藤恵一,軌道力学研究室 箕浦慎太郎

発行者:小林 裕介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:相澤 宏行 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 レールメンテナンス】