施設研究ニュース

2021年8月号

営業線における既設線省力化軌道用路盤改良の試験施工

1.はじめに

 バラスト軌道の保守低減を目的として,首都圏では図1に示すTC型省力化軌道(以下,省力化軌道)が導入されていますが,初期に施工された箇所では約20年が経過しています.その多くは良好な軌道状態を保っているものの,一部の省力化軌道では軟弱な路盤上に敷設されており,雨水の排水不良等と相まって沈下が生じ,供用後数年で修繕が必要な状態となっています1).軟弱路盤への対策として路盤改良が有効であると考えられますが,省力化軌道の施工および路盤改良は夜間の作業間合いで行う必要があります.そのため,従来の締め固めを必要とする路盤置換工法やセメント安定処理工法では,一晩あたりの施工延長が短くなり,施工費が非常に高くなることから実施されていませんでした.
 そこで,本研究では軟弱路盤上で新たに敷設する省力化軌道を対象に,従来の路盤改良工法よりも施工効率が高いグラウト充填路盤改良工法(あと充填方式)を開発しました2)(図2).
本報では,営業線において省力化軌道と同時に路盤改良を適用した試験施工の内容について報告いたします.

2.試験施工の概要

 本試験施工では、省力化軌道に噴泥が生じていて,軌道変位進みが大きくなっていた箇所において、省力化軌道を撤去した後に路盤改良層および新たな省力化軌道の敷設を行いました.施工延長は18.6m(上下線各9.3m)です.施工時間は0:30~4:30の4時間で,厚さ350mmの路盤改良を施工しました.
 事前検討において,施工時間を考慮して,路盤置換え作業(図2(a)~(c))の一晩あたりの施工延長を4.65mとしました(計4日間).グラウト充填作業(図2(d))は,一晩あたりの施工延長を9.3mとしました(計2日間).
 図3に試験施工の状況を示します.路盤材の置換え作業では,路盤部にグラウト材を充填するまでの期間,新バラストに置き換えた路盤改良部の沈下を極力小さくする必要があります.そのため,改良範囲の新バラストを路盤改良厚の1/2(175mm)ごとにタンピングランマで念入りに締め固めました.
 グラウト充填作業では,施工延長9.3mに対する充填時間は,充填装置1セット(充填性能:約400L/min)で1時間程度でした.

3.路盤改良効果の検証

 図4に下り線の高低変位の経時変化を示します.同図より,省力化軌道の路盤改良前(2019.11-2020.8の間)の高低変位進みは,0.025mm/日でした.路盤置換え後のバラスト軌道の状態(路盤充填前の6日間)が0.052mm/日,路盤充填後(路盤充填後の6日間)のバラスト軌道の状態が0.027mm/日であり,路盤充填により48%程度低減しました.さらに,路盤充填後からてん充道床充填までの高低変位進みの平均値(路盤充填後から54日間)は0.005mm/日となりました.
 路盤改良後の省力化軌道(2021.1.9)の高低変位が-4.9mm,充填2ヶ月後で-5.0mmであり,高低変位進みは0.002mm/日程度となりました.検証期間が短いものの,軌道状態が悪化していた路盤改良前と比較すると、高低変位進みが1/10以下に改善しました.

4. おわりに

 試験施工より,問題なく既設線省力化軌道と同時に本路盤改良工法が施工可能であることを確認しました.路盤改良効果は,高低変位進みが路盤改良前の1/10以下に改善しましたが,検証期間が短いため今後も経過観察を行う予定です.

〈参考文献〉

1)北条重幸:第二期TC型省力化軌道工事の取組み,新線路,Vol.57,No.7,pp.8-11 2003.
2)伊藤壱記,桃谷尚嗣,木次谷一平:既設線省力化軌道と同時に施工可能な路盤改良工法の開発,鉄道総研報告,Vol.34,No.4,pp.41-46,2020.

軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 伊藤壱記
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 桃谷尚嗣,景山隆弘

沿線の建物環境の影響を考慮した風速評価

1.はじめに

 強風時の運転規制は,規制用風速計(以下,風速計と記します)の観測値に基づいて実施されています.風速計は規制区間を代表する強風箇所に設置されているのが通例ですが,一方で規制区間内の地形や建物の分布といった沿線環境は多様であるため,必ずしも風速計で観測する風が規制区間全域で同様ではありません.このため,防風柵の設置範囲や規制用風速計の新設・移設箇所を検討するような場面では,沿線環境を考慮した風速の空間分布を細かく評価することが必要となります.規制区間の上流側遠方から吹き込んでくる風がおおよそ一様だとすると,区間内の風速の差異は①地形による増減効果,②建物による減風効果の2つからもたらされると考えられます(図1).そこで、上流側から一様に吹き込んでくる平均風速をVin,地形による風速の増減効果を表す係数をAlnd(以下,地形係数と記します),建物による風速の効果を表す係数をBbld(以下,建物環境係数と記します)とすると,任意の地点での平均風速Vobsは式(1)で表されます.

 規制区間内に風速計を多点展開して観測を行えば,①地形による増減効果と②建物による減風効果の両方の影響を含んだ,Vobsを直接評価できます.しかし,観測に要する時間的,経済的コストの観点から,沿線風速を評価したい全ての区間でこれを実施することは困難です.そこで,風の流れ場を解く数値解析モデルを利用し,沿線の周辺地形を再現した計算を行うことで,容易かつ安価に①地形による増減効果を考慮した風速を評価することが可能となります.ただし,沿線の建物まで解像して計算するためには数mの解像度が必要となるため,数値解析モデルでも②建物による減風効果まで評価することは計算資源の観点から容易ではありません.高見ら(2021)1)は,新潟エリア(新潟,松浜,新津,巻アメダス)と千葉エリア(千葉,船橋アメダス)を対象に,観測データと数値解析モデル2)の計算結果の差異を分析することで、数値解析モデルで表現できていない建物による風速の減風効果を評価しました.本稿では,この建物環境による風速の減風効果を,建物情報から簡易的に評価する方法について解説します.

2.建物の階数・面積情報を用いた指標

 本研究では、建物情報として、建物代表点での階数・面積情報((株)ゼンリン 建物ポイントデータ)を利用しました.図2に船橋アメダス(図の中心)周辺の建物の階数分布を例示します.図からわかるように,評価点によっては建物の分布は均一ではない可能性があるため,風向ごとに上流側の建物の粗密や高さを表現する指標が必要となります.本研究では,単位面積当たりの平均建物高さを表す幾何学的粗度3)を指標として用いました.幾何学的粗度Hiは,風速計の設置高度h[m]に対して100倍の距離以内で,任意の方位に対して±45°の範囲内の建物を対象に,式(2)で求められます.なお,建物高さは1階あたり3.0mとしました.

3.建物による減風効果と幾何学的粗度の比較

 数値解析モデルが地形による風速の増減効果を十分に考慮できていると仮定すると,式(1)のVin×Alndが計算結果と対応します.基準とする風速計の設置地点での平均風速をV0,同地点での地形係数をA0,建物環境係数をB0としてV0=Vin×A0×B0と表し,式(1)との比を取ると式(3)のように整理できます.

 式(3)のVobs/V0は2地点で観測した平均風速の比に,Alnd/A0は数値解析モデルで計算された風速の比に相当します.観測値から求めたVobs/V0,数値解析モデルの計算結果から求めた Alnd/A0を式(3)に適用すると,2地点間の建物環境係数の比(数値解析モデルで考慮できていない建物による減風効果の比)Bbld/B0を抽出することが出来ます.そこで、前述のアメダス(新潟エリアと千葉エリア)の隣り合う2点のうち,強風の発生頻度が高い方を基準点(V0),発生頻度が低い方を比較点(Vobs)として,Bbld/B0を地点ごと,風向ごとに計算しました1).これと,2章で述べた幾何学的粗度の比較点(Hi)と基準点(H0)の差(Hi-H0)を比較しました(図3).同図より,幾何学的粗度の差が小さいところでは建物環境係数の比は1に近く,大きいところでは建物環境係数の比が小さくなっており,風上側の建物環境の差に応じて建物環境係数の比が変化していることが確認されました.これにより,建物環境係数の2地点間の比は幾何学的粗度の差を用いて負の指数関数(図3の赤点線および式(4))で近似しました.

 以上より,数値解析モデルで計算される地点間の風速の比(Alnd/A0)と,建物の階数・面積情報から計算できる幾何学的粗度の差(Hi-H0)を用いて,地形による風速の増減および建物による風速の減風の両方の効果を考慮した,規制間内の任意地点の風速風速計の風速(Vobs)と規制用風速計の風速(V0)の比を式(5)で評価することが可能となりました.

 本研究では建物による風速の減風効果に着目して,それを簡易的に評価する方法を開発しました.一方で,ビル風のように建物によって風速が増加する効果などは考慮できていません.今後,建物の形状まで解像した数値解析モデルの計算や観測を通じて,本手法の適用性を検証していく予定です.

〈参考文献〉

1) 高見和弥, 荒木啓司, 福原隆彰: 建物による減風効果を考慮した沿線の風速評価手法, 鉄道総研報告, Vol. 35, No. 1, pp.5-10, 2021.
2) 内田孝紀,大屋祐二:風況シミュレータRIAM-COMPACTの開発-風況精査とリアルタイムシミュレーション-,ながれ,Vol.22,No.5,pp.417-428,2003
3) 近藤純正:地表面に近い大気の科学ー理解と応用ー,東京大学出版会,2000.

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 高見和弥
担当者:防災技術研究部 気象防災研究室 荒木啓司,福原隆彰

簡略軌道モデルを用いた分岐器走行シミュレーション

1.はじめに

 非接触振動測定による構造物検査のさらなる低コスト化・高度化を目的として,ビデオカメラを用いた構造物振動の多点同期測定システムを開発し,構造物検査への適用を試みましたので,測定手法と測定結果例を紹介します.

2.ビデオカメラによる振動測定

 ビデオカメラを用いた動的画像計測システム(図1)は,ビデオカメラで撮影した動画から計測対象の動的挙動をデジタル画像相関法で算出します.デジタル画像相関法は,計測対象を撮影したデジタル画像情報をもとに,表面の模様を輝度情報のパターンとして取り扱い,図2に示すように,移動または変形する前後の二画像間での位置の探索を行って,画像内の任意の点の変位の大きさと方向を求める手法です.
 計測システムのハードウェアは,高解像度,高フレームレート(4K:266fps,FHD:935fps,HD:1384fps)のビデオカメラと,撮影画像データを高速かつ大容量で収録できるロガー,それらを制御するPCで構成しました.なお,ソフトウェアは,パナソニックシステムソリューションズジャパン(株)の「変位計測ソフトウェア」を元に,構造物検査に適用させるための改良を施して作成しました.
 ビデオカメラによる振動測定では,カメラが揺れると撮影画像中の被写体に見かけの動きが生じてしまうので,高精度な測定を行うためには,風などの外乱によるカメラ振動の影響を補正する技術の適用が不可欠です.そこで,撮影画像中から実際には動いていない点を自動的に見つけ出して,その不動点と測定点の相対変位を求めることでカメラの揺れによる誤差を補正する手法を開発・適用しました.
 また,従来の変位計測ソフトウェアでは,測定画像中の測定点近傍の何らかの標尺物を利用して,画像解析で得た画像中の変位量を構造物振動の実振幅に変換する必要がありました.そこで,設計図書の部材寸法または簡易な測量結果を画像解析の際に撮影画像に2次元的に反映させて,ビデオ撮影画像中の任意点の振動を容易に実振幅で測定できるよう工夫しました.

3.長大橋のたわみ測定・全体挙動把握

 長大橋各部の列車走行中の振動測定を実施しました.図3は,ビデオカメラによる動的画像計測システムを用いて列車通過時の長大橋の時々刻々変化する全体挙動を測定・可視化した結果例です.図中の矢印は各測定点の変位ベクトルで,列車が載った桁が下にたわみ,主塔は列車が載っている桁側に若干傾き,反対側の桁が上反る様子が確認できます.測定事例では,橋梁からおよそ170m離れた位置から測定しましたが,支間中央たわみの値は桁直下からUドップラーで測定した値に対して誤差5%程度であることが確認できました.

4.橋りょう支承部の微小挙動測定

 ビデオカメラ計測による支承部変状調査手法の開発に向けて,支間34mの鋼橋の支承部を対象として現地測定を実施しました.支承部に測定用のターゲット等は一切設置せず,支承近傍(測定距離1m)から測定を行いました.図4は,橋りょう上を貨物列車が通過した際の支承近傍の変位の測定結果を示しており,0.1mm以下,0.1°以下の微小挙動を検出することができました.このような測定を定期的に実施することで,支承の損傷による振動増大や可動部の固着などの早期発見が可能になります.

 また,図5のような条件で,15m離れた位置から支承変状の検出を試みました.支間8.5mの橋梁を支える同一橋台上の支承2基のうち,変状が発生した支承1基の検出を試みた実証試験です.図6に示す測定結果から,変状支承の鉛直変位が,隣接する無変状支承より増大していることが確認でき,遠隔位置からの非接触測定で,支承部の変状を検出できる可能性があることが確認できました.

5.おわりに

 測定用ターゲット等を設置することなく,遠隔位置から構造物振動を多点同期測定できるシステムを開発し,構造物検査への適用性を検証しました.今後は,計測システムのハードウェア構成やソフトウェアの操作性を向上し,技術の普及を図りたいと考えています.なお,本研究の一部は,国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

執筆者:鉄道力学研究部         上半文昭
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田学,松岡弘大

鋼管杭頭結合部の部材設計の考え方と設計プログラムでの取扱いに関するお知らせ

1.はじめに

 鉄道構造物における鋼管杭とフーチングとの杭頭結合部は,原則的にはアンカー鉄筋で杭とフーチングを結合する方法(第1法)(以下アンカー鉄筋差し込み方式)を用いることになっています1).このときの杭頭結合部は仮想RC断面として設計が行われますが,これに関する基準類2),3)や設計プログラムの取扱いについて,いくつかお問い合わせをお受けしました。そのため本稿では,設計実務上の取扱いについて整理するとともに設計プログラムでの取扱いについてお知らせ致します.

2.アンカー鉄筋差し込み方式のモデル化と拘束効果

 地震時の静的非線形解析に用いる結合部のモデル化は,図1に示すように,中詰めコンクリート部のうち1.0D分(D:鋼管外径)を剛域とした上で,杭頭部の材端回転ばね(M-θ関係)により結合部の変形性能を集約して仮想RC断面としてモデル化します.仮想RC断面のM-θ関係は,図2に示すようなY点,M1点,M2点を通るトリリニアモデルにより表現します.この骨格曲線上の各点における耐力ならびに伸出し量の算定においては,下に示す式により鋼管による拘束効果を考慮した中詰めコンクリートの設計圧縮強度f’cckを用いて算定することとしています.

このモデルを用いることで,各折れ点での耐力を精度よく評価できることが確認されています4).一方で,伸出し量(θy,θm1)算定時の拘束効果の影響については,変形性能の評価に与える影響は限定的であること,フーチング側の伸出し量については拘束効果の影響が小さいと考えられること,また拘束効果を考慮しないことで構造物全体の剛性を若干低く評価するため走行安全性の照査に対して安全側の設定になることなどを勘案し,一般に設計実務における伸出し量(θy,θm1)算定時については拘束効果を考慮しなくてもよい(すなわち,f’cckをf’ckとして伸出し量を算定してもよい)としました.参考として,拘束効果の考慮の有無によるモデル化と部材実験4)との比較結果を図3に示します.高軸圧縮や引張力を受ける極端な軸力下ではありますが,伸出し量算定時の拘束効果の考慮の有無(青線と赤線)であまり変わらないことがわかります.
 なお,今回紹介した鋼管杭頭結合部の取扱いに関しては,推進センターHPにて近日公開する杭体設計の手引き(第2版)(案)5)の中においても解説を追記する予定です.

3.設計プログラムでの取扱い

 鋼管杭頭結合部に関する設計プログラム(JR-SNAPならびにVePP-HS)の使い方の詳細については,別途ユーザーの皆様に近日中に通知いたしますので,併せてご参考頂ければ幸いです.

〈参考文献〉

1) 国土交通省監修鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物,2012
2) 国土交通省監修鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 鋼とコンクリートの複合構造物,2016
3) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説【基礎構造物】(平成24年版)杭体設計の手引き,2015
4) 江口聡,谷口望,濱田吉貞,神田政幸,平田尚,木下雅敬:鋼管杭と橋脚基礎の接合部モデルの提案,鉄道総研報告,第18巻第4号,2004
5) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説【基礎構造物】(平成24年版)杭体設計の手引き(第2版)(案),2021(鉄道総研推進センターHPにて公開予定)

執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室   佐名川太亮
担当者:鉄道力学研究部  構造力学研究室     池田学
    構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田裕喜
             鋼・複合構造研究室   小林裕介

経年PCまくらぎの耐用期間の検討

1.はじめに

 PCまくらぎが我が国に本格的に導入されてから60年程度が経過していますが,設計耐用年数である50年を超えても,現在のところ安全性上問題なく使用されています.一方,PCまくらぎは変状が発生したらその都度交換する取替部材として扱われてきたため,定量的な健全度判定基準や交換基準が存在しないのが実態です.このため,筆者らは経年PCまくらぎの実態調査や性能評価を進めていますが,今後の計画的な維持管理体制の構築のためは,経年PCまくらぎの耐用期間についてより具体的な検討を開始する時期を迎えていると考えています.そこで本稿では,JIS E1201(以下,JIS)に示される曲げ試験結果等をベースとした経年PCまくらぎの耐用期間を定量的に評価した事例をご紹介します.

2.対象PCまくらぎ 

 図1に対象PCまくらぎを示します.本稿では,JISに規定される曲線用の6号PCまくらぎ(6PR)を対象としました.表1に経年別の本数を示します.それぞれ異なる線区の経年PCまくらぎ104本を対象としました.なお,これらのPCまくらぎには,凍害や塩害などの材料的な変状は見られないものを選定しました.

3.検討方法

 PCまくらぎの力学的性能を評価するため,下記の2つの試験を実施しました.

①JISに規定される曲げ試験

 図2にJISに規定される曲げ試験の概要を示します.PCまくらぎの力学的性能の評価のため,レール位置断面の正曲げ試験とまくらぎ中央断面の負曲げ試験を実施しました.載荷スパンは700mmです.この試験はPCまくらぎ製造直後の性能確認のための製品試験ですが,この試験以外にPCまくらぎの力学的な性能を定量的に評価でき,かつ適用実績が豊富な試験が存在しないため,本研究ではこの試験方法を準用することにしました.なお,図中の曲げ保証荷重とはひび割れを生じてはならない荷重,曲げ破壊荷重とは曲げ破壊してはならない荷重です

②コンクリートコア圧縮強度試験および静弾性係数試験

 PCまくらぎを構成するコンクリートの力学的性能評価のため,JIS A1108のコンクリートコア圧縮強度試験およびJIS A1149の静弾性係数試験を実施しました.円柱供試体の直径はPC鋼より線と干渉するため50mmとし,高さは100mmとしました.

4.検討結果

 図3および図4に曲げ試験結果をそれぞれ示します.横軸を経年と通トンで示しました.図より,すべてのPCまくらぎのひび割れ発生荷重は曲げ保証荷重Pcrを上回ること,最大荷重については正曲げ試験において1本のPCまくらぎを除いて曲げ破壊荷重Puを上回ることなどが分かります.また,通トンの増加とともに最大荷重が低下する右肩下がりの傾向が認められますが,経年については,今回のサンプルではその傾向が見られないことが分かります.

 図5および図6にコンクリートコアの圧縮強度試験結果と静弾性係数試験結果をそれぞれ示します.ここでは,曲げ試験において経年に伴い最大荷重が減少する傾向が見られなかったことから,通トンに着目した結果のみ示します.同図には,PCまくらぎのコンクリートの設計基準強度49.1N/mm2と鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物に示される設計基準強度に対応した静弾性係数の標準値33kN/mm2を示しました.図より,圧縮強度は大半のサンプルは設計基準強度を上回るものの,設計基準強度を下回るものも一部見られました.また,静弾性係数は33kN/mm2を中心に,大きくばらつくことが分かります.

5.PCまくらぎ(6PR)の耐用期間の目安の提案

 図7に4章の評価結果に基づく経年PCまくらぎ耐用期間の目安を示します.ここでは,レール位置断面の正曲げ試験における累積通トンと載荷荷重(最大荷重)の関係に基づき提案しました.その理由としては,①図3から図6に示した結果より,経年の増加とともにひび割れ発生荷重及び最大荷重が低下する傾向が見られなかったこと,②まくらぎ中央断面の負曲げ試験ではJIS規格値を下回る結果が見られなかったこと,③圧縮強度および静弾性係数試験の結果はあくまでコンクリートコアを対象とした要素試験の結果であり,PCまくらぎ全体の性状を示す指標とは言い切れないことなどです.以上より,本稿で対象とした具体的な耐用期間の目安は,①曲げ試験結果の下限値をベースとした場合は累積通トンで20億トン,平均値をベースとした場合は30億トンとなりました.

6.まとめ

 本稿ではJISに規定される曲線用の6号PCまくらぎを対象に,累積通過トン数に基づく定量的な耐用期間の目安を提案した事例を示しました.5章で耐用期間として示した具体的な累積通過トン数を超えても直ちに安全性上の問題となるわけではありませんが,交換計画の策定等の目安になると考えます.本稿の検討事例がPCまくらぎの計画的な維持管理の一助となれば幸いです.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田学,後藤恵一

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:成田 顕次 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 構造力学】