施設研究ニュース

2021年11月号

線路下横断工法の地盤影響解析法

1.はじめに

 現在,踏切解消のために線路下横断トンネル工事が数多く実施されています.この工事では「線路下横断工法」と呼ばれる特殊トンネル工法が採用されています.この工法では安全な列車走行を確保するため,内部の掘削に先立ち複数の角形鋼管を挿入して,軌道防護を行いながらトンネル断面を構築するという特徴があります(図1).
 本稿では,模型実験における地表面変位量と土中応力変化の関係から,線路下横断工法において簡易に地表面変位を予測できる数値解析法を構築したので紹介します.

2.模型実験の概要

 現場に近い施工過程を再現するため,1/4スケールの角形鋼管(高さ・幅:200mm)を実際に掘進する模型実験を実施しました(図2).
 小土被り条件を再現するため土被り200mm(1D,D:鋼管高さ)とし,地盤材料には含水比1.0%に調整した珪砂7号を相対密度80%目標として締め固めました.含水は地盤にみかけの粘着力をある程度付加させるためであり,軟弱な地表面付近を想定して含水量を設定しました.
 鋼管発進側の土槽壁面から500mm離れた位置に計測断面(図3)を設け,地表面変位を計測するとともに,土中の弾性波トモグラフィを実施し,得られた地盤内の弾性波速度分布を,式(1)を用いて土中応力の変化率βに換算しました1)

ここに,β:応力変化率,VP0 :初期状態(掘削前)のP波速度,VP :着目時点のP波速度,m :係数

 トンネル掘削では一般に,掘削で生じるゆるみ領域と,それより上部の土圧を周りの地山へ伝達するアーチ状の応力集中域が形成されます.これは「グラウンドアーチ」と呼ばれ,これが働くことにより地盤の安定性が高まり,地表面の沈下は小さく収まるとされています2).そこで,地表面変位量と土中応力変化から地中のグラウンドアーチの形成状況と沈下の関係を調べました.

3.グラウンドアーチの形成状況と沈下の関係

 図4に掘進の過程,図5に横断方向の地表面変位分布を示します.図6はトモグラフィ解析および式(1)から土中応力の変化率を整理したもので,この結果から計測断面に到達するまでは土中にアーチ状の応力集中域が形成されているのに対し,通過後はそれが消失していることがわかります.一方で,図5に示すように掘進が進むにつれて鋼管直上が最大となる地表面の沈下が見られ,計測断面に到達するまでよりも計測断面を通過した後のほうが沈下は大きいことがわかります.

4. 地表面変位を予測する数値解析法の提案

 模型実験の結果を踏まえ,グラウンドアーチの有無を考慮した地表面変位の数値解析法を検討しました.まず,ゆるみ高さの計算式として,既往の文献例えば2)を参考に粘着力等の影響を考慮し,以下の式(2)のように整理しました.

ここに, h:ゆるみ高さ, α:影響幅, φ’:粘着力等の影響を考慮した換算内部摩擦角

ここに,L :掘削長,W :掘削幅

 式(2)と掘削長や鋼管幅を変えた複数の模型実験で得られた最大沈下量との関係を比較した結果を図7に示します.この結果から,土被りがゆるみ高さの1.5倍以上となる場合に沈下が減少しており,これがグラウンドアーチ形成の境界と考えられました.
 そこで,土被りとアーチ高さの大小関係に基づき応力解放率を修正することにより地表面沈下量の予測精度を向上させる手法を検討しました.山岳トンネルの解析では,刃口通過時に20%,通過後に20%解放されることが知られていますが,今回は刃口通過時において応力解放率20%で地表面変位量が一致する変形係数を求め,この変形係数で地表面変位量が一致する応力解放率を求めました.通過後の応力解放率を40%とした結果を図8に示します.
 実際のメカニズムは,断面内で異方解放となるなどによる影響が考えられ,この詳細法はこれまでに文献3)等で紹介しているところであり,アーチ形成時の応力解放率を超えることはありませんが,汎用解析ソフトで実施できる方法として応力解放率を一律変更する場合には,20%付加すれば再現できる結果となりました.
 以上より,図9に示すようにアーチ高さと土被りを比較し,グラウンドアーチが消失する段階で20%の応力解放率を付加すれば簡易に解析できる結果が得られました.

〈参考文献〉

1) 福王翔,桑野玲子:ベンダーエレメント法を用いた弾性波測定による模型地盤内応力の推定,生産研究,Vol.64,No.4,pp.623-627,2012
2) 村山朔郎,松岡元:砂質土中のトンネル土圧に関する基礎的研究,土質工学会論文報告集,12(2),vii,1972
3) 西山和宜,仲山貴司,岡野法之,富樫陽太:エレメント推進工法における地盤変位の予測法,施設研究ニュース,No.320,2017

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 板谷創平
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 仲山貴司

融雪災害危険度評価システムの災害事例への適用

1.はじめに

 冬期に積雪の多い線区では,春先の融雪によって生じた融雪水が地中に浸透することで,斜面崩壊が発生することがあります(以下,融雪災害とする).その対策として,気温などに基づく巡回警備の強化や融雪期における雨量規制値の引き下げなどが行われてきましたが,これまで,融雪災害の危険度を直接評価し,対策の要否等を判断する手法はありませんでした.そこで,融雪量を指標として,融雪災害の危険度を評価するシステムを開発しました.本稿ではシステムの概要と災害事例における適用結果について紹介します.

2.融雪災害危険度評価システムについて

 融雪災害は,2つの過程を経て不安定化した地盤が崩壊することで発生します(図1).

①  気温,日射,風,降水による融雪の促進と融雪水(雨水)の地盤への浸透
②  浸透した水による地下水位の上昇や土壌の高含水化による地盤の不安定化

 このような過程において,地盤に浸透して保水されている水の量(実効融雪量)が多くなると,斜面が不安定化します.また,斜面の積雪が多いと斜面は崩れやすくなります.
 そこで,このような斜面の不安定化メカニズムを考慮した危険度評価手法を開発しました1).この手法では,評価地点の実効融雪量と積雪深を1時間ごとに計算します.そして,予め対象地域の気象データから計算した実効融雪量と積雪深の再現期待値(何年に一回起こる現象なのかを示す指標)と比較することで危険度を評価します.図2に,上記の手法を用いた融雪災害危険度評価システムの表示画面を示します.図中に2年,4年,8年の再現期待値を示していますが,この値を,例えば警備,徐行,運転中止というような対策の実施判断における閾値として利用することが考えられます.

 融雪災害危険度評価システムは,初期設定時に評価地点の情報(例:緯度経度,標高)を入力することで,その後近傍の気象データから自動で評価地点の実効融雪量,積雪深,再現期待値の計算が行われ,融雪災害危険度を評価できます.本システムは部内外のサーバとサーバ内のアプリケーションで構成されており,複数地点や各種気象データも参照可能です.

3.融雪災害事例における本システムの適用例

 本システムを融雪災害と考えられる事例(表1)に対して適用した例を示します.これらの災害の発生年1月1日から発生日の24時までの評価結果を図3に示します.

(a)【case1】
 本事例は線路の切土斜面が崩壊した事例です.発生当日には実効融雪量が急上昇し8年の再現期待値を上回っていることが分かります.発災は実効融雪量が最大となってから7時間後でした.
(b)【case2】
 本事例は鉄道トンネルの坑口近傍斜面が崩壊した事例です.発生1日前から実効融雪量は上昇し続け,発生日には8年の再現期待値を上回っています.なお,本事例の発災時刻は不明でした.
(c)【case3】
 本事例は鉄道沿線の自然斜面が崩壊した事例です.発生1日前から実効融雪量が上昇し,8年の再現期待値を上回っています.発生日も上昇を続け,実効融雪量が最大となった時刻に発災しました.

4.まとめ

 本システムを用いた計算結果では,少なくとも発災の数時間前に実効融雪量が高まって8年の再現期待値を超えていることが分かりました.本システムを用いて,実効融雪量と積雪深を監視することで,発災前に列車の運行を停止するなどの措置を講ずることができると考えられます.今後,更なる精度向上と融雪災害以外(雪崩など)にも適用可能なシステムの開発を目指していきます.

〈参考文献〉

1) 佐藤亮太,高柳剛:AMeDASデータを利用して融雪期の斜面の安定性を評価する,RRR,Vol.77,No.1,pp.28-31,2020

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 辻滉樹
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 高柳剛

低温時のロングレール保守作業制限の合理的な設定法

1.はじめに

 在来線のロングレール区間では,冬季低温時の軌道保守に対して,表1の様に作業制限(以下,「作業制限」と称します)を課すのが一般的です.ただし,表1は1983年の改正案1)を基本としており,作業の機械化や保守計画の効率化が進む近年の状況を十分想定していません.そこで,本研究では,冬季低温時の保守作業が軌道に及ぼす影響を把握し,論理的な根拠に基づく作業制限の評価法を開発しました.なお,本研究では,表1のなかでも特に制限が厳しく,作業の平準化の支障となっている赤枠の保守作業(道床交換等の道床による軌きょうの支持がなくなる作業等)を主な対象として検討しました.

2.低温時作業に伴うレール内方変位とレール軸力の変化の評価

 表1はレールの曲線内方への変位(以下,「レール内方変位」と称します)防止の観点から決められています.また,そのレール内方変位によってレール引張軸力が低下することで,夏季に圧縮軸力が増加し,座屈に対する安全余裕度が低下する懸念があります.本研究では,冬季に道床交換作業を行った際のレール内方変位とレール軸力の変化を現地測定して影響を確認しました.その結果,作業前後のレール軸力の変化量は想定より小さいものの,道床交換時にレール内方変位が生じ,レールが元の位置に戻らず,作業後にレール内方変位が残留することが分かりました.このため,数値シミュレーションを用いて,これらの影響を確認しました.表2にレール軸力の変化量の最大値を温度差に換算した換算付加温度でまとめた結果,表3にレール内方変位の最大値,表4にレール内方変位を10 m弦通り変位に換算した結果をそれぞれ示します2)

3.評価法の提案

 低温時作業では,レール内方変位と付随するレール軸力の変化に対して制限値を設ける必要があり,その制限値は鉄道事業者の技術的判断で設定可能です.本項では制限値の一例(以下,「目安値」と称します)を設定して整理します.
 図1に作業制限を適用する際の評価フローを示します.フローでは,施工条件を初期設定した後,隣接構造物等の有無に応じて表3を参照して内方変位の制限を設定し,許容温度低下量が後述する図2の範囲内であるかを照査します.各ステップで必要に応じて施工計画を見直し,最終的に表2を参照して換算付加温度を記録するフローとなっています.図2は施工延長5~20mの場合の制限値の一例として,表2に示す換算付加温度が3.5℃以下,表3に示す内方変位の最大値が50mm以下となり,表4に示す10m弦通り変位が5mm~20mm以下となる範囲を「許容温度低下量」と称して,曲線半径毎に図化したものです.図2より,提案する作業制限は曲線半径の増加に伴い,現行の作業制限を緩和する傾向を示しています.

4.おわりに

 本研究では,冬季低温時の保守作業に伴うレール内方変位とレール軸力の変化を定量評価し,低温時の保守作業制限の評価法を開発しました.今後は,鉄道事業者が円滑かつ柔軟に作業制限を適用できるよう,施工条件から作業の可否を自動判定するプログラムを開発していく予定です.

〈参考文献〉

1)家田仁:ロングレール敷設区間における保守作業制限の改正(案)および解説,鉄道線路,Vol.31,No.8,pp.18–22,1983.
2)玉川新悟,西宮裕騎,纐纈智也:冬季の道床交換作業がロングレール軌道に及ぼす影響のFEM解析と低温時作業制限の提案,日本機械学会論文集,Vol.87,No.898,2021.

執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 西宮裕騎
担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 玉川新悟,纐纈智也,山岡大樹

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:辻江 正裕 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学】