施設研究ニュース

2022年4月号

シールドトンネル標準と山岳トンネル標準の改定

1.はじめに

 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(国土交通省令第151号)」が2001年に仕様規定から性能規定に移行したことを受けて,鉄道トンネルについても,学識経験者,鉄道事業者等からなる委員会が設置されて性能照査型設計法の導入について検討が進められてきました.鉄道トンネルの設計については,これまで,鉄道構造物等設計標準(開削トンネル),同(シールドトンネル),同(都市部山岳工法トンネル)の通達によることとされていましたが,令和3年4月1日付けで,「鉄道構造物等設計標準(トンネル)」(以下,トンネル標準)として改訂通達されました.改訂の経緯,トンネル標準の構成と内容,開削トンネルに関する部分は,施設研究ニュース2021年6月号でご紹介いたしました.ここでは,シールドトンネル,山岳トンネルに関する部分についてご紹介いたします.なお,共通する部分についても再度紹介いたします.

2.トンネル標準の構成

 トンネル標準は表1のように4編構成とし,第Ⅰ編で,施工法や形状等によらず,すべての鉄道トンネルを包括する調査,構造計画および性能照査の原則を定め,第Ⅱ編~第Ⅳ編で,第Ⅰ編を満足する具体的な方法のうち標準的な方法を示しています.なお,設計標準の冊子としての構成は,ユーザーが使いやすいよう,図1に示すように,代表的な3工法について,第Ⅰ編と対応する第Ⅱ編~第Ⅳ編のそれぞれとからなる構成となっています.表2に各編の目次構成を示します.各編の目次構成は,既に性能照査型設計法に移行している他の設計標準に極力合わせました.

3.シールドトンネルの改定の要旨

 改訂後のシールドトンネルの設計標準は,トンネル標準の「トンネル・シールド編」となり,第Ⅰ編と第Ⅲ編から構成されます.シールドトンネルの設計に性能照査型設計法を導入するのにあたり,構造解析モデルなどは従来の方法を引き継ぐことにし,必要な追加検討を行いました.以下,改訂の要旨を紹介します.

①性能照査の方法
 トンネル標準では,第Ⅰ編に要求性能と照査指標の例が示されており,これらすべての性能項目に対して限界状態に達しないことを照査することが原則となります.ただし,一部の性能項目については一定の前提条件を満足する場合に限定すれば,その照査を満足することが明らかであり,構造解析を行わなくても,照査を満足するとみなせるものもあります.そのため,それぞれの性能項目に対して照査方法を整理することが効率的な設計作業を行う上で重要であり,一般的な設計条件のシールドトンネルについても,表3のように直接照査の要否をそれぞれの性能項目に対して整理しました.

②側方土圧係数の見直し
 応答値の算定では,鉛直土圧,側方土圧,水圧等の作用を考慮することになります.ここで,側方土圧については鉛直土圧に,地盤のN値により定まる側方土圧係数を乗じることになります(図2)が,これまでの設計事例や施工結果を踏まえて表4のように側方土圧係数の一部見直しを行いました.これにより,覆工の設計の適正化が図られることが期待されます.

③大断面トンネルにおける応答値の算定法の見直し
 シールドトンネルの設計では,図2のように地盤とトンネルとの相互作用を地盤ばねでモデル化しており,半径方向の地盤反力係数は,トンネルの半径に反比例するとする,Muir Woodの理論解式を用いて算出します.近年,大断面のシールドトンネルが増加していますが,この場合,計算される地盤反力係数が小さくなります.一方で,覆工の存在により,大断面シールドトンネル等においても変形は抑制されると考えられることから,変位レベルが小さいときに地盤反力係数が過小評価されすぎないように,一般的なシールドトンネルの幅である半径5mを超える大断面シールドトンネル等では,地盤修正係数ρgkを導入して地盤反力係数を補正できるようにしました(図3).この地盤反力係数の補正により,応答値算定の適正化が図られることが期待されます.

4.山岳トンネルの改定の要旨

 改訂後の山岳トンネルの設計標準は,トンネル標準の「トンネル・山岳編」となり,第Ⅰ編と第Ⅳ編から構成されます.以下,改訂の要旨を紹介します.

①設計標準の適用範囲の拡大
 現在,山岳トンネルの覆工およびインバートの設計は,都市部に建設されるトンネルについてのみ,「都市部山岳標準」により行われています.都市部のトンネルについては,土被りの比較的小さい未固結または低固結度の土砂地山中に建設されることが多いこと,トンネルに近接した工事による影響が考えられることなどを踏まえ,都市部山岳標準に基づき,覆工およびインバートは防水型のRC構造として設計することとなっています.
 一方,山岳部のトンネルについては,設計標準が整備されておらず,トンネルの覆工およびインバートは,RC構造として設計計算を行う坑口部や,それが適用できない特殊地山の場合等を除き,あらかじめ定められた仕様である標準設計を適用することにより行われています.
 鉄道システムは,様々な種類の構造物から構成される線状のシステムであり,構造物の性能は定量的に明示されるとともに,性能を評価する基準も同一であるべきと考えられるため,今回の改訂にあたり,山岳部のトンネルについても,第Ⅳ編の適用範囲に含めるものとしました(図4).
 現在,ほとんどの山岳トンネルは,NATMにより施工されています.山岳トンネルの構成要素として,支保工(鋼製支保工,吹付けコンクリート,ロックボルト等),覆工,インバートがあります(図5).ここで,支保工は,トンネルの安定に必要不可欠なものですが,一方で,地山を直接照査することは困難であり,地山の安定に寄与する支保工においても性能項目や限界値を設定して照査する方法等はないことから,実績のある仕様を基に掘削工法や支保工を検討し,掘削,支保時の観察・計測により,①変形が収束していること,②支保工が破壊していないこと,③過大な変形が発生していないこと等を確認することにより安全性を担保してきました.そこで,第Ⅳ編では,地山の安定を覆工およびインバートの照査の前提として扱い,掘削工法や支保工の仕様を施工条件として提示したうえで,観察・計測により,上記①~③等を確認することをもって,覆工およびインバートの照査の前提が満足されるとみなしてよいこととしました.これを受け,表2に示したように,第Ⅳ編には,第Ⅱ編,第Ⅲ編にない,「第4章 地山の安定に関する検討」の章が加えられています.

② 覆工およびインバートの設計法の取り扱いの整理と適合みなし仕様
 適用範囲を広げるにあたり,覆工およびインバートの設計法の取り扱いを整理しました.図4に,地山条件別の覆工およびインバートの構造と設計法を併せて示していますが,大きく分けて,条件①:自重以外の外力が想定される場合,条件②:完成後に地山から変位を受けることが想定される場合,条件③:上記以外 の3つに分類できると考えられます.それぞれの具体例として,条件①:坑口部,小土被り部(含 都市部)等,条件②:膨張性を有する地山 等,条件③:坑口部から中に入り,風化した表層の影響が小さくなり十分安定した地山 等が挙げられます.鉄道山岳トンネルは多くの区間が条件③に該当すると考えられますが,条件③では,無筋コンクリート構造として,自重に対して問題ないことを確認することによれば良いと考えられるため,「適合みなし仕様」を定め,これを用いて設計を行うこととしました.あわせて,一般的な設計条件の山岳トンネルについても,表3と同様に,直接照査の要否をそれぞれの性能項目に対して整理しました.
 現状の整備新幹線の山岳トンネルでは大部分の区間において覆工およびインバートの標準設計が用いられていることと過去の設計との整合も考慮し,標準設計を適合みなし仕様として定めました(図6).覆工の適合みなし仕様は,地山の変形が収束してから覆工を施工することを前提とし,条件③の場合に用いることができます.なお,インバートの適合みなし仕様は,上記に加えて,軌道面の隆起のおそれがない場合(条件については表5に該当しないことを確認することによってよい),かつ軌道面の沈下の恐れがない場合に適用することができます.

5.おわりに

 本稿では,シールドトンネル・山岳トンネルの設計標準の改訂内容について紹介しましたが,新しいトンネル標準により新技術の導入が促進されるとともに,耐久性を有し,かつ維持管理のしやすいトンネルが建設されることを期待します.
 最後に,「鉄道構造物等設計標準(開削トンネル)に関する委員会(委員長:小山幸則 立命館大学 客員教授)」,「鉄道構造物等設計標準(シールドトンネル)に関する委員会(委員長:赤木寛一 早稲田大学 教授)」,「鉄道構造物等設計標準(山岳トンネル)に関する委員会(委員長:朝倉俊弘 京都大学 名誉教授)」において審議を重ねていただいた委員の方々に,深甚なる謝意を表します.なお,これら一連の検討は国土交通省委託による鉄道の技術基準整備のための調査研究の一環として実施されたものです.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 野城一栄
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 津野究

騒音の左右差を用いたレール破断検知手法

1.はじめに

 無線式列車制御(CBTC)による信号システムの導入が進み,軌道回路によらないレール破断検知手法が求められています.車上式のレール破断検知手法については,軸箱に設置した加速度計で取得した軸箱加速度を用いる方法1)などが提案されていますが,車体装荷のセンサでレール破断を検知できれば車両運用上より簡便なシステムを構築できます.そこで,車体装荷のマイクを用いて車上騒音からレール破断を検知する手法を検討しました.

2.レール開口部走行時の車上騒音のモデル

 図1に示すように車体の左右に2つの騒音計を設置し,音圧レベルを同期収録することを考えます.一般にレール破断は左右レールのいずれか片側で発生します.よって,片側のレールが開口している箇所を列車が走行した場合,レール開口部側の車体で観測される音圧レベルは,開口部の反対側で観測される音圧レベルよりも大きくなります.レール開口部側の車輪がレール開口部を通過した時に発生する騒音は,レール開口部からの距離に応じて減衰します.ここでは騒音源が点音源であると仮定すると,点音源から放射された音響エネルギーは半球面状に広がるため(図2),半自由空間内の騒音源から距離r離れた場所で観測される騒音レベルLp(r)は
Lp(r) = Lw - 20log10r - 8 (1)
と表されます2).ここに,Lwは騒音源(レール開口部で発生する衝撃音)のパワーレベルです.レール開口部に対してレール継目部のように両レールが騒音源となる場合は,車体の左右で観測される音圧レベルの差が小さくなると考えられます.
 図3に床下騒音の伝搬の様子を示します.いま,レール開口部を通過したことを想定し(図3(a)),レール開口部側,すなわち得られた音圧レベルが大きい方の音圧レベルをLp1,もう一方をLp2とします.まず,レール開口部自体が発生する騒音レベルLwは未知であることから,騒音源から距離r1離れたレール開口部側で得られた騒音レベルLp1=Lp(r1)を用いて式(1)からLwを算出します.Lwと距離r2が分かれば式(1)からLp(r2)(開口部のないレール側のマイクで距離減衰のみ考慮して予測される音圧レベル)が算出されます.距離減衰の理論は半自由空間を仮定していますが,実際の車両には床下機器が設置されているため,これらが音の伝搬を阻害します.そのためLp2(開口部のないレール側のマイクで観測される音圧レベル)はLp(r2)よりも小さくなると想定されます.一方,継目部を通過した際(図3(b))には,開口部のない側のレールにも騒音源が存在するため,開口部側の騒音レベルは開口部側レールからの騒音と開口部のないレール側からの騒音が重畳した結果となります.よって,Lp2はLp(r2)よりも大きくなると想定されます.したがって,左右マイクで得られた音圧レベルを用いて,Lp2p(r2)ならレール開口部, Lp2>Lp(r2)なら継目部を通過したと判断することが可能であると考えられます.

3.レール開口部走行試験による検証

 鉄道総研所内試験線においてレール開口部走行試験を行いました.バラストラダー軌道上の片側レールに開口量0mm,100mmのレール開口部を設け,車体に騒音計を設置した車両で時速10km/h,20km/h,30km/hで走行しました.騒音計は車体の左右に軌道中心に対してほぼ線対称の位置の床下に設置しました.図4にその様子を示します.比較のため,同じ軌道上の一般部と継目部においてもデータを収録しました.
開口量0mm,100mmの開口部,および一般部と継目部の通過時に2つのマイクで得られた音圧レベルを図5に示します.
 一般部と継目部の通過時には両騒音計の値の差が小さい一方,開口部通過時には両騒音計の差が大きいことが分かります.試験で得られた音圧レベルを使用し,開口部および継目部通過時のデータを対象に2章の手法を適用しました.その結果を図6に示します.図中の赤四角はLpで,赤四角と同じ距離rにおける式(1)の曲線の値がLp(r2)です.開口部通過時はLp2< Lp(r2),継目部通過時はLp2>Lp(r2)となっていることが分かります.試験した約30試番のうち,1試番のみ継目部をレール開口部と誤判定しましたが,それ以外は正常にレール開口部を判定できました.

4.おわりに

 車体の左右に設置した2つの騒音計と騒音の距離減衰の理論を用いてレール開口部と継目部を区別できる可能性が示されました.今後は,誤判定の原因を究明し,検知精度向上を目指す必要があります.

参考文献

1) 相澤宏行,細田充,山本隆一,列車通過時にレール開口部に発生する軸箱振動加速度の特徴,土木学会第74回年次学術講演会,2019.
2) 日本音響学会,騒音・振動(上),コロナ社,pp. 130 – 148,1992.
3) 末木健之,北川敏樹,川口二俊,レール継目部から発生する衝撃音の騒音・振動特性評価,鉄道総研報告,Vol. 30,No. 7,pp. 5 – 10, 2016.

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 相澤宏行
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田充,山本隆一

道床振動加速度測定のワイヤレス化の試み

1.はじめに

 バラスト軌道の沈下・劣化が局所的に急進する箇所では,様々な対策工法や新たな軌道構造が導入されますが,それらの導入効果を評価する際に軌道各部の動的応答を測定することがあります.例えば,列車走行時のまくらぎ直下の道床振動加速度を測定する場合,まくらぎ下部に埋設した加速度センサのケーブルをバラスト層内に這わせ,線路脇のデータロガーに接続します1).このため,図1のようにケーブル類が保守通路を支障するだけでなく,センサ埋設後のタンピング作業中に断線することも(稀ですが)あります.
一方で近年,加速度センサの無線化,小型化が進み,欧米では道床表面の振動測定に無線加速度センサを用いた事例もあります2) .しかし,無線加速度センサをバラスト層内に埋設し,測定データを電波による伝送で取得した事例は見当たりません.
 そこで,鉄道総研で開発された既存の920MHz帯の無線加速度センサ3) を用いて,図2に示すように,①電波によるデータ伝送,②測定データのSDカードへの記録,を試みたので紹介します.

2.無線加速度センサ

 今回用いた無線加速度センサは,図3に示す通り,振動を測定する加速度計,測定データを伝送する無線機,測定データを記録するSDカード差込口から構成され,バッテリ(単3電池3本)により動作します.また,測定制御プログラムにより,スリープ時間や振動検知の閾値を設定することが可能です.この無線加速度センサのサイズは,長さ130mm,幅60mm,厚さ25mmです.センサの諸元を表1に示します.
 従来,加速度センサをまくらぎ直下に埋設する場合,アルミ等の筐体で保護して列車通過荷重に耐える強度を確保していましたが,本検討では,無線によるデータ伝送を行うため,電波を遮蔽しない樹脂製の筐体(図4)を製作しました.

3.所内試験線における検証

(1) 試験方法:鉄道総研日野土木実験所において,新幹線バラスト止め区間を想定した試験環境を構築しました(図5).当該試験環境において,埋設した無線加速度センサの測定データを無線で伝送可能か検証するため,線路脇に設置した受信機で受信信号強度(以下,RSSI)を測定しました4)
(2) 試験条件:センサと受信機の距離dyを1.0m,1.5m,2.0m の3通り(図5),バラスト充填のあり・なし(図6)の組合せで試験をしました.
(3) 試験結果:各試験条件のRSSIの測定結果の平均値および最大最小値の範囲を図7に示します.
 まず,いずれの条件でも表1に示した最低受信感度-105dBmを大きく上回ることが確認できました.
 また,バラスト充填のあり・なしの影響を平均値で比較すると,バラストありでRSSIが下がる傾向が明らかです.
 更に,バラストなしの場合は最大最小値の差が小さく,横軸のdyの増加に伴いほぼ線形にRSSIが減少するのに対して,バラストありの場合は最大最小値の差が大きく,dyとの相関性も不明瞭です.
 これは,センサと受信機の間にバラスト層およびバラスト止めが介在することにより,電波の伝搬路が安定しないことを示唆しています.これにより,バラスト止め区間でセンサと受信機の距離dyが2m程度となる条件では,最大20dB程度の減衰を想定する必要があるといえます.  

4.おわりに

 道床振動加速度測定の無線化に向けて,バラスト層内に無線加速度センサを埋設し,データ伝送が可能か検証した結果,バラスト止め設置区間でも,保守通路幅を想定した2mの離隔距離で,測定データの受信が可能であることを確認しました.
 なお,実線での測定を想定した場合,センサのサイズや測定データ量(サンプリング間隔や測定時間)を目的に合わせて最適化する必要がありますが,測定精度は加速度計の機種を交換することでカスタマイズが可能です.

参考文献

1) 相川明,実軌道測定に基づくバラストに加わる衝撃荷重とその減衰特性,鉄道総研報告,Vol.27,No.4,pp. 41 – 46,2013.
2) D.Milne, et.al,Measuring Acceleration of Ballast Particles at Track Level,Proceeding of the 3rd Intl. Conf. on Railway Technology,Research Development and Maintenance,2016.
3) 野末道子,岩澤永照,流王智子,川村智輝,川﨑邦弘,岩城詞也,鉄道環境におけるWi-SUNセンサネットワークの活用,鉄道総研報告,Vol.32,No,5,pp. 17 – 22,2018.
4) 栗田いずみ,岩本功貴,流王智子,河野昭子,羽田明生,中村一城,バラスト軌道における道床加速度計測の無線化の検討,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.25,CD-ROM,2021.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 河野昭子
担当者:情報通信技術研究部 通信ネットワーク研究室 流王智子、岩澤永照、岩本功貴、栗田いずみ

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:木次谷 一平 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道・路盤】