施設研究ニュース

2022年6月号

列車前方画像を用いた木まくらぎの劣化度判定システムの開発

1.はじめに

 木まくらぎ構造を主体とする線区では,木まくらぎの腐朽によってレールを十分に締結できなくなり,軌間内脱線が発生する場合があります.このため,曲線を中心に木まくらぎの個別状態管理や連続不良本数管理が行われていますが,膨大な本数のまくらぎを目視で検査する労力は鉄道事業者にとって大きな負担です.そこで,市販のビデオカメラで撮影した列車前方画像から,画像処理により疑似的な床下画像を生成し,その画像にディープラーニングを適用して木まくらぎの検出と劣化度判定を自動で行うシステムを開発したので紹介します.

2.列車前方画像を用いた木まくらぎ劣化度判定システムの概要

 列車前方画像を用いた木まくらぎ劣化度判定システムの概要を図1に示します.本システムでは,低コストかつ容易な手法で撮影を行うため,市販の4K解像度以上のビデオカメラと吸盤式の固定マウントを用いて列車前方の窓(車内)から軌道を撮影します.その後,事務所において,取得した列車前方画像に木まくらぎ劣化度判定アルゴリズムを適用して,まくらぎ1本毎に劣化度を自動判定します.自動判定の結果は,状態確認用のビューアや表形式の検査台帳において,まくらぎ1本毎に劣化度に応じた色による分類形式で出力されるため,鉄道事業者は木まくらぎの連続不良箇所を視覚的かつ容易に把握できます.また,本ビューアは画像拡大や測長の機能を備えているため,レール締結装置やバラストの状態確認にも活用することができます.

3.木まくらぎ劣化度判定アルゴリズム

 本アルゴリズムは,①列車前方画像の床下画像化処理,②画像の位置推定,③Deep Learningによる木まくらぎ劣化度判定で構成されます.
まず,①列車前方画像の床下画像化処理では,台形の2次元画像を長方形に変換する射影変換2)という画像処理手法を用いて,図2に示すように列車前方画像を床下画像の様に俯瞰した画像(疑似床下画像)に変換します.この変換処理では,解像度の良い画像手前のまくらぎを変換対象とし,かつ,縦横比を実形状に合わせることで,現場に近い敷設状態の画像を作成します.
 次に,②画像の位置推定では,作成した疑似床下画像に図3に示すブロックマッチング法を適用して,撮影フレーム間の列車の移動量を求めます.ただし,この方法により求まる移動量は画像に外乱等があると誤差が生じるため,既知である画像を撮影区間長を活用して各フレーム間の移動量を補正することで,撮影した画像のキロ程を推定します.
最後に,③ディープラーニングによる木まくらぎ劣化度判定では,ディープラーニングにより図4に示す判定標準(劣化度A1~D,未判定,PC)に基づいた劣化度判定モデルを構築し,これを疑似床下画像に適用して木まくらぎの検出と劣化度判定を行います.現在の木まくらぎ劣化度判定モデルは,約37万本のまくらぎ(劣化度情報の内訳はA1:61本,A2:21,329本,B:68,520本,C:78,779本,D:164,036本,未判定:12,812本,PC:23,450本)を学習しました.本アルゴリズムによる木まくらぎの検出と劣化度判定結果の例を図5に示します.

4.本アルゴリズムの劣化度判定精度の検証結果

 本アルゴリズムを営業線の車上から撮影した約16,000本の木まくらぎの画像に適用した結果,まくらぎの検出率は99.5%(バラスト等でまくらぎ表面が顕著に覆われている条件を除くと100%)であることを確認しました.また,保線技術者が画像から判定した劣化度(4段階)と本アルゴリズムが判定した劣化度を比較した結果,図6に示すように90%以上の精度で木まくらぎの劣化度を自動判定できることを確認しました.ここで,不良なまくらぎを良好なまくらぎと判定した割合は7%程度ありますが,危険側の誤判定が3本連続で起こる確率を踏まえると,軌間内脱線のリスクが高くなる3本連続不良箇所を見逃す可能性は低いと考えられます.

5.おわりに

 本研究では,市販のビデオカメラで撮影した列車前方画像から,画像処理とディープラーニングを用いて木まくらぎの検出と劣化度判定を自動で行うシステムを開発しました.本システムは,4段階に分類した木まくらぎの劣化度を90%以上の精度で自動判定できることから,有用性は十分に高いと考えられます.今後は,本システムの現場における活用法の提案をして実用化に取り組むと共に,その他軌道部材への適用について,検討を進めていく予定です.

<参考文献>

1) 糸井謙介,坪川洋友,長峯望,合田航,加藤爽:列車前方画像を用いた木まくらぎ検査手法の精度向上,J-Rail2021,2021.12

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 坪川洋友
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 加藤爽
    情報通信技術研究部 画像解析研究室 長峯望,合田航,前田梨帆

ラーメン高架橋の上層横梁の耐力算定方法

1.はじめに

 鉄道構造物として一般的なビームスラブ式RCラーメン高架橋の上層梁は,スラブを突縁としたT形断面となります.現行の鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)では,下側引張となる場合の曲げ耐力は,スラブに有効幅を設定したT形断面として算定しています.一方,せん断耐力や上側引張となる場合の曲げ耐力は,スラブを無視した矩形断面として算定しています.柱の降伏が先行する場合,曲げモーメントやせん断力に対する破壊の照査では,スラブを無視することで安全側の評価となりますが,上層梁の降伏が先行する場合や,上層梁の破壊形態の判定では,各耐力を精度良く算定することが重要です.また,既設構造物の耐震診断においても,スラブの影響を考慮することができれば,上層梁の補強量を減らすことができます.本検討では,ラーメン高架橋の上層横梁を対象に,非線形有限要素解析を用いて,地震時の破壊形態や,曲げ耐力およびせん断耐力に対するスラブの効果を評価し,上層横梁の破壊形態の判定方法を提案しました.なお,本稿で示す方法は,スラブの軸方向鉄筋の定着長が確保されていることが前提となります.

2.ラーメン高架橋の上層横梁の破壊形態1)

 一般的なラーメン高架橋を対象に,上層横梁の軸方向鉄筋量とせん断補強鉄筋量をパラメータとした解析を行い,上層横梁の破壊形態を検討しました.本検討では,上層横梁に着目するため,接合部および柱から下部の部材のコンクリートおよび鉄筋を弾性として,解析を行いました.
 最大主ひずみコンターの解析結果を図1に示します.曲げ破壊ケースは,引張突縁を無視した現行の方法では曲げ破壊形態と判定されるケースであり,解析においても,上層横梁の両端で曲げひび割れが大きく開口し,曲げ破壊を示していることがわかります.一方,せん断破壊ケースは,曲げ破壊ケースよりも上側の梁軸方向鉄筋量およびせん断補強鉄筋量を少なくしたケースであり,現行の設計では上側引張となる断面で曲げ破壊形態と判定されますが,解析では,スパン中央で斜めひび割れが生じて,せん断補強鉄筋が降伏し,せん断破壊を示しました.

3.上側引張となる上層横梁の曲げ耐力の算定方法

 上層横梁の上側引張となる断面の曲げモーメントに対するスラブの効果を解析により検討しました.2.の解析において,梁軸方向鉄筋降伏(My)時および最大曲げモーメント(Mu)時の上層横梁と中間スラブの鉄筋のひずみ分布を図2に示します.中間スラブの軸方向鉄筋にも応力が有効に伝達されていることがわかります.したがって,上層横梁の上側引張となる断面のMyおよびMuは,中間スラブに有効幅を設定したT形断面として算定してよいと考えられます.なお,本解析では,中間スラブの鉄筋の引張力と等価となる有効幅を求めると,My時は概ね2bw程度,Mu時は概ね4bw程度となりました.

4.地震時の上層横梁のせん断耐力の算定方法

 上層横梁は,両端が柱によって固定されており,地震時には概ね逆対称となる曲げモーメントが生じます.スラブの形状とせん断補強鉄筋量pw·fwyd·/·f’cdをパラメータとした解析を行い,地震時の上層横梁のせん断耐力の算定方法を検討しました.せん断耐力の解析結果を図3に示します.解析結果に基づき,両端固定支持条件の矩形梁のせん断耐力の算定式2)に,スラブの影響を考慮する係数αを導入しました.両端固定支持条件のT形梁のせん断耐力の算定式を式(1)および式(2)に示します.
  VasudT=Vsd+α·Vod (1)
  α=1+0.38×(bf/bw-1)5/4×(tf/h)5/3×(pw·fwyd)1/3 (2)
ここに,bf:突縁幅(有効幅),bw:梁幅(腹部幅),tf:突縁厚,h:梁高さ,pw:せん断補強鉄筋比,fwyd:せん断補強鉄筋の設計引張降伏強度.ただし,bf/bw≦6.7,0.16≦tf/h≦0.35,pwfwyd≦0.1f’cd

5.上層横梁の破壊形態の判定方法

 2.の解析の結果,上層横梁の両端(上側引張側と下側引張側)で曲げ耐力の差が大きい場合,片側で曲げモーメントが曲げ耐力に達した後も,モーメント反曲点が移動することがわかりました.スラブおよび曲げモーメント反曲点位置を考慮し,破壊形態の判定に用いるVmuを式(3)により求めることで,破壊形態の判定結果が現行の方法よりも解析での破壊挙動に近い結果が得られました(図4).
  Vmu = (|Mu +|+|Mu -|)/L (3)
ここに,|Mu +|:曲げ耐力(下側引張),|Mu -|:曲げ耐力(上側引張),L:純スパン.

6.おわりに

 ラーメン高架橋の上層横梁の耐力算定および破壊形態の判定で,スラブの効果を考慮する方法を示しました.本稿で示した方法は,今後,手引きや照査プログラムに反映する予定です.

<参考文献>

1) 中村麻美,中田裕喜,渡辺健,田所敏弥:ラーメン高架橋上層横梁のスラブを考慮した破壊形態の評価方法,コンクリート工学年次論文集,Vol.44,2022
2) 公益財団法人鉄道総合技術研究所:RCラーメン高架橋梁のせん断耐力算定式,施設研究ニュース,No.374,pp.1-2,2021.10.1

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中村麻美
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田裕喜,渡辺健

加速度モニタリングによる既設橋りょうの構造性能評価

1.はじめに

 既設橋りょうの維持管理では一般に目視による検査のみが行われており,列車走行性,疲労等の構造性能を精度良く評価するためには,定期的なたわみや鉄筋の応力といった定量的なデータを計測する必要があり,労力・経費増大が課題となっていました.本稿では,加速度モニタリングによる既設橋りょうの構造性能評価を実現する(図1)ために,列車通過時の加速度波形からたわみ波形へ積分するアルゴリズム1),たわみ波形から内部鉄筋の応力波形へ換算するアルゴリズムを開発した成果を紹介します.

2.単純支持橋りょうの加速度積分によるたわみ波形の復元方法

 実測された加速度から変位応答波形を復元することを考えた場合,加速度の実測波形には,橋りょうの純粋な応答以外にもノイズが混入します.このノイズには,測定対象とする列車荷重以外の風や地盤振動等の外乱に起因するもの,電源や測定機器の特性によるもの等があり,特に低周波なノイズは変位波形への積分に大きな悪影響を及ぼします.本研究で開発した加速度積分によるたわみ波形の復元方法は,測定された加速度波形の低周波のごく一部のみを振動理論による波形で置き換える手法です.この際,単純梁の橋りょうと鉄道車両の軸配置を既知とした外力特性を利用した理論モデルを仮定します.
 図2に,列車通過時の応答変位の補正として,橋りょうのスパン10 m,列車速度300 km/h,ノイズが比較的大きい場合の例を示します.本図は,列車通過時の変位の正解が得られている理論モデルの加速度に対してノイズを付加して,提案手法の精度を検証した数値実験の例です.
 変位の時刻歴に着目すると,変位の正解波形(灰色)と提案手法による補正波形(赤線)が一致していることが分かります.提案手法は,波形の最大値だけでなく形状を正確に再現できることから,疲労のように振幅と繰り返し回数が評価対象となる場合に有効です.一方で,黒点線は従来の直接積分による波形であり,長周期のノイズにより時刻の経過と共にシフトが発生し,正しい変位波形が得られていないことが分かります.最下段の変位スペクトルでは,線形梁理論による変位スペクトル,および検証用加速度波形を直接積分して得られた補正前の変位スペクトルを示しています.特に0.2Hz程度以下の領域において,ノイズの増幅により両者の差が大きくなる傾向が見られます.一方で,0.8~5Hz程度の領域では両者が概ね一致しておりこの領域ではノイズの影響を受けにくいことがわかります.本手法ではこの領域における特徴を利用して,列車荷重の大きさ(輪重)に関するパラメータを決定します.
 その他の条件についても数値実験による網羅的な検証により,列車速度が150km/h以上の場合,一般的なノイズの大きさで最大応答変位を概ね5%以下の精度で推定可能であることを明らかにしています.

3.たわみ測定による鉄筋応力波形の推定方法

 コンクリート桁の主桁には,曲げひび割れが発生することがあります.曲げひび割れ箇所の鉄筋では,局所的に応力が増加する非線形挙動を示しますが,本研究では,これに等価線形化した梁理論を適用しました.この方法は,詳細な断面計算をせずに鉄筋と中立軸の距離等を考慮して,変位をスカラー倍することで鉄筋応力波形を推定します.
 図3に列車通過時の鉄筋応力の推定例を示します.本例では,実RCスラブ桁(スパン8.7m,桁高0.5m,バラスト軌道,顕著な曲げひび割れ有り)を対象として,鉄筋のはつり出しによるひずみ測定とリング式変位計によるたわみ測定を同時に実施しています.図から,鉄筋応力とスパン中央変位の関係において実測値と推定値が一致していることがわかります.また,鉄筋の応力波形が得られますので,疲労の評価に必要となる応力振幅および繰り返し回数を求めることが可能となります.

4.まとめ

 本研究では,コンクリート桁について疲労破壊や列車走行性等の構造性能の定量的な状態監視に基づく維持管理の実現を目的として検討を行いました.小型で常設可能な加速度モニタリングに本アルゴリズムを適用することにより,橋りょうのたわみに対する乗り心地等の列車走行性,鉄筋応力による疲労破壊等の評価を実現しました.これらの方法は,1秒以下の高速計算が可能で,従来の逆解析によるたわみの評価方法と比較して500倍程度の高速化を実現しており,モニタリングデータをリアルタイムに処理できます.

<参考文献>

1) 徳永宗正,池田学,吉田幸司:実測加速度積分による列車通過時の単純支持橋りょうの変位応答波形の復元, 土木学会論文集 A1 (構造・地震工学),Vol.78, No.1, pp.47-60, 2022.

執筆者,担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正

発行者:荒木 啓司 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:相澤 宏行 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 レールメンテナンス】