施設研究ニュース

2022年11月号

非金属材料を主材料とした
レール締結構造の実現可能性検証

1.はじめに

 レール締結装置はまくらぎ等の支承体上にレールを固定するための部材であると同時に,レールに流れる電流がまくらぎへ漏えいしないように一定の電気絶縁性を有しています.しかし,飛来物,湿潤環境下でのちりやほこりの堆積などの影響によって電気絶縁性が低下し,信号電流や帰線電流が漏れ出ることにより,軌道回路の不正落下や,鋼桁との地絡によるアーク放電の発生を原因とした発煙事象などの輸送障害が発生した事例が報告されています.また,レール締結装置の構成部材は一般的に大部分が金属製であるため,導電性が高いことから,電気絶縁性の確保は構造的に限界があると考えられます.
 そのような背景から,レール締結装置の電気絶縁性に起因する輸送障害の発生リスクを限りなくゼロにすることを目的として,非金属材料を主材料としたレール締結構造の実現可能性の検証を実施しました.本稿では,繊維強化樹脂材料のレール締結装置を開発し,その新規レール締結構造の性能確認試験を実施したので,ご紹介いたします.

2.非金属材料の適用性検討および開発品

(1)非金属材料の適用性検討

 新規レール締結構造の開発にあたっては,既存のレール締結装置の構成部材を非金属材料に置き換えることを前提として,置き換えた際に電気絶縁性向上の効果が高いと考えられるレール支持部(タイプレート)および締結ばねへの非金属材料の適用性検討を実施しました.検討対象は,接触面積が大きく摩擦力による耐横圧性能が期待できるタイプレート式レール締結装置とし,中でもスラブ軌道で多くの敷設実績を有する直結8形締結装置(図1)を基本とすることにしました.適用する非金属材料の種別は,金属材料と同等の引張強度を有することから,ガラス繊維強化プラスチック(GFRP),ガラス短繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP),炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をそれぞれ選定しました.
 タイプレートについては耐横圧性能が要求されるため,高い機械的強度を有するFRTPとGFRPの採用を検討しました.また,締結ばねについてはばね特性の実現性が要求され,さらに耐腐食性による機能向上が期待できることからCFRPの採用を検討しました.選定した材料を表1に示します.これらの材料については,部材形状を想定した要素試験および構造解析を実施し,レール締結装置に必要な耐荷重性能を有することを確認しました.

(2)開発品

 以上の検討を踏まえ開発した新規レール締結構造の試作品を図2に示します.試作品は2種類で,それぞれGFRPおよびFRTPをタイプレートに適用し,CFRPを締結ばねに適用しています.締結ばねはボルト・ナット締結とし,形状は端部を曲面に成型した板状で,レールの高低調整に対応しています.またタイプレートは通常直結8形締結装置に使用される絶縁板の機能が統合されており,形状・寸法については既存の軌道スラブ上の埋込栓位置で締結可能なものとし,互換性を確保しました.

3.性能確認試験

(1)二方向載荷試験

 開発品に対して,営業線への敷設可能性の検証として,鉄道構造物等設計標準・軌道構造に準拠した性能確認試験を実施しました.この性能確認試験で想定した軌道条件を表2に示します.静的二方向載荷試験で取得した,CFRP製締結ばね,GFRP製タイプレートおよびFRTP製タイプレートの発生応力の最大値は,敷設環境等の影響による材料強度の変化を考慮して提案した設計基準値を下回りました.また,動的二方向載荷試験後,ボルト・ナットのゆるみは生じておらず,緩解後の構成部材の外観についても異状は認められませんでした.

(2)電気絶縁抵抗試験

 電気絶縁性の向上効果の確認のため,現行品である直結8形と開発品の比較を行いました.図3に絶縁抵抗試験の結果を示します.開発品の絶縁抵抗値は,ちりやほこりが堆積し湿潤状態という電気絶縁性の観点から非常に厳しい環境を模擬した汚損状態(0.1%食塩水を時雨量100mm程度で散布)で最も低くなりましたが,現行品の10倍以上の値を示しました.
 以上の試験結果より,表2の軌道条件において提案したレール締結構造が営業線へ敷設可能な性能を有することが明らかになり,新規レール締結構造の実用化の見通しを得ました.

4.おわりに

 今後は本研究で得られた知見を活かしてより実用性の高い締結装置を開発するため,絶縁性のさらなる向上とともに敷設コストの低減を図る予定です.

謝辞

 本研究は,東レ株式会社,東レ・カーボンマジック株式会社および株式会社日本コンポジット工業との共同研究による成果が含まれています.

執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 松尾淳史 担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 弟子丸将     材料技術研究部 防振材料研究室 鈴木実,枡田吉弘

劣化の種類に応じたれんがトンネルの補修工法

1.はじめに

 明治時代に建設された鉄道路線のトンネル覆工は,その材料としてれんがあるいは石が使用されており,現在も多くのれんがトンネルが供用されています.れんがトンネルは基本的に経年が100年以上となっており,中には劣化の進行により補修が必要となっているものも存在します.
 れんがトンネルにおける進行性を有する劣化現象としては,煤煙による目地やせ,凍害等によるれんが母材のはく落があります.
目地やせの補修としては,セメント材料を目地に充填するポインチングが従来から適用されています.ただし,夜間高所上向きでの作業となり,施工速度が上がらないことが課題となっていました.
 凍害によるはく落対策としては,内巻工をすれば効果は大きいですが,過大な対策となることもあるほか,一般に建築限界外余裕の小さい単線れんがトンネルでは適用が難しいこともあり,軽微な被害箇所への低コストで内空支障が小さな工法が必要とされていました.
 本稿では,これらの課題解決に向けて開発した工法として,エポキシ樹脂目地充填工法による目地やせ対策,軸力導入型バサルト帯板接着工法によるれんが母材のはく落対策について紹介します.

2.目地やせに対する補修工法(エポキシ樹脂目地充填工法)

 先述の通り,現状の目地やせ対策は,セメント材料によるポインチング工法が一般に適用されていますが,セメント材料の可使時間上,少量ずつの練り混ぜが必要で,少しずつ指やヘラに材料を取り,目地に押し込んで充填する必要があり,施工速度が上がらないという課題がありました.
 そこで鉄道総研では,エポキシ樹脂を目地に充填する工法について,性能および施工速度を確認しました.使用するエポキシ樹脂材料としては,上向き施工でも液垂れせずに施工性が良く,湿潤面へも施工可能で,アンカー等の定着用樹脂として長期にわたる施工実績により材料としての安定性が確認されている,比較的高粘度のエポキシ材料であるコニシ株式会社のE230Gを選定しました.性能確認試験の結果,当該エポキシ樹脂をセメント材料に塗布することで,目地やせの原因となる酸や凍結融解繰り返しに対して抵抗性が大幅に向上することを確認しました.以降,本稿においては,E230Gをエポキシ樹脂と記載します.
 図1にエポキシ樹脂による目地充填を試行している状況を示します.専用のガンで施工ができ,先端のミキシングノズルにより,2液が混合され目地に充填できます.先端より出たエポキシ樹脂はマヨネーズ程度の粘性であり,液垂れせず,指で均すことで表面を整形できます.
 エポキシ樹脂目地充填の試験施工を,2つの廃線れんがトンネルのアーチ部で実施し,良好な仕上がりと施工性を確認しました.なお,これらの箇所は,いずれも,30mm以下の深さの目地やせ箇所で,漏水は認められない箇所です.本工法は,漏水のある箇所には適用できませんが,漏水量と目地やせとの相関は必ずしも高くなく,実体として,漏水のない目地やせ箇所が多く存在します.
 これらの試験施工の結果より,エポキシ樹脂目地充填工法(開発工法)の工費,施工速度を算出し,セメント材料によるポインチング(従来工法)と比較しました.算出の条件および算出結果を図2に示します.従来工法では,少量ずつの練り混ぜ,押し込み充填が必要であったのに対して,開発工法では,専用のガンより吐出される樹脂を指で軽く整形すれば良く,施工速度が向上します.よって,材料費は開発工法の方が高くなるものの,施工速度が速くなり,工費を33%削減可能という結果となりました.施工速度は目地の状況等にも大きく影響を受けますが,今回想定した条件下では,エポキシ樹脂目地充填工法を適用することで,補修の低コスト化が図れるものと考えられます.
 ただし,エポキシ樹脂は紫外線に弱いため,坑口部付近での施工は適しません.また漏水がある箇所での施工も適しません.

3.れんが母材のはく落対策工法

 トンネルからのはく落対策として,鉄道総研では,バサルト帯板接着工法を開発し,これまでに現場に適用してきました.バサルト帯板接着工法は,玄武岩を繊維状に加工したバサルト繊維を樹脂で帯板状に成形したFRP帯板を接着剤でトンネル覆工に接着し,アンカーと固定金具により固定する覆工コンクリートのはく落対策工です.
 一方で,バサルト帯板接着工法は,アーチ部にアンカーを多数施工するため,アンカー自体の維持管理を継続的に実施する必要があるという課題がありました.また,れんが覆工においては煤煙等の汚れをディスクサンダー等で取り除こうとしても削りカスが残り,接着剤による付着力が十分に確保できない場合があるという課題も存在しています.
 そこで鉄道総研では,アーチ部アンカー数の削減や,付着力の乏しいれんが覆工においても耐荷性能が発揮できることを目的に,従来のバサルト帯板接着工法の改良工法として,軸力導入型バサルト帯板工法を開発しました.図4に標準型のバサルト帯板接着工法と軸力導入型バサルト帯板接着工法の比較を示します.軸力導入型はバサルト帯板を積層構造とし,軸力を導入して覆工面に押さえつけ,両端部をアンカーで固定することにより,標準型よりも積極的に覆工面を支持する効果を有することが期待されます.また,接着だけでなく,軸力,端部のアンカーでも荷重を保持するため,仮に接着力が失われた場合にもある程度の効果を発揮することが期待されます.

4.おわりに

 れんがトンネルは,その大部分が建設から100年以上経過しており,今後とも適切に補修しながら安全に,長く使用する必要があります.今後は,本稿で紹介した補修工法の実用展開を進めていくことで,れんがトンネル長寿命化,維持管理の低コスト化に貢献していきたいと考えています.なお,バサルト帯板接着工法はれんがトンネルに限らず,コンクリート覆工のはく落対策にも適用可能な工法です.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 嶋本敬介 担当者:防災技術研究部 地質研究室 浦越拓野     構造物技術研究部 トンネル研究室 野城一栄

列車高速走行時における
桁式高架橋区間の地盤振動の現象解明

1.はじめに

 列車走行により沿線に生じる地盤振動は,その大きさ次第では環境上の問題となることがあります.過去に行われた軟弱地盤上のラーメン高架橋区間における速度向上試験時の地盤振動では,当該区間の営業速度を大きく超えた列車高速走行時に,従来見られなかった4Hz前後の低周波数帯域が増大する現象が報告されています1).今後更なる列車速度の向上を検討していくうえで,構造物や地盤の条件によっては,低周波数帯域の地盤振動が増大する現象が問題になると想定されます.
 そこで,現状の営業速度を大きく超える列車高速走行時に低周波数帯域の地盤振動が増大する現象を解明するため,数値シミュレーションによる検討を行いました.その結果,対象とした桁式高架橋区間では,①列車速度を280km/hから398km/hに向上することで列車走行による加振力のピーク周波数が3.15Hz帯域から4~5Hz帯域にシフトすること,②シフトした加振力のピーク周波数と構造物・地盤の周波数応答関数のピーク周波数(4.5Hz)が近接することにより,上記の現象が生じたと報告しました2).
 本稿では,列車走行による加振力のピーク周波数と構造物・地盤の周波数応答関数のピーク周波数が近接することにより,構造物や地盤でどのような事象が起きて低周波数帯域の地盤振動が増大したのか把握するため,引き続き数値シミュレーションによる検討を行いましたので報告します.

2.地盤振動の数値シミュレーション

2.1.解析方法

 数値シミュレーションでは,文献2でも使用した解析モデルおよび解析方法を用いました.解析モデルを図1に示します.高架橋を3次元FEM,地盤を薄層要素法でモデル化しました.円柱橋脚(P2,P3)に挟まれた桁(T2)のスパンは49m,それ以外の桁(T1,T3,T4)はスパン33mです.軌道はスラブ軌道です.基礎の形式は円柱橋脚部分が杭基礎,それ以外の壁式橋脚部分(P1,P4,P5)が直接基礎です.
 高架橋の材料物性値はT4の曲げ1次モードの固有周波数が現地調査結果の4.52Hzとなるように設定しました.また,地盤の物性値は現地調査結果から推定したS波速度構造(図2)に基づいて設定しました.高架橋と地盤の減衰比は全て2%に設定しました.列車走行による加振点は高架橋のスラブ上にある左右の各レール締結装置の位置としました.締結装置間隔は0.625mであり,片側に241点ずつ,計482点です.加振範囲は約150mです.地盤振動の評価点はP4の中心から橋軸直角方向に9.5m離れた位置としました.

2.2.列車走行による加振と桁の曲げ1次モードの関係

 構造物・地盤の周波数応答関数のピーク周波数とスパン33mの桁における曲げ1次モードの固有周波数が概ね一致していることから,周波数応答関数のピークはスパン33mの桁の曲げ1次モードに対応していると考えられます.そこで,列車走行による加振と桁の曲げ1次モードの関係ついて検討しました.
 列車走行による桁の挙動を把握するため,列車速度398km/hにおけるT2とT3のスパン中央の鉛直変位を図3に示します.また,これらのフーリエスペクトルを図4に示します.図3の赤枠部分において,共振によりT3の変位が増幅していることがわかります.さらに,図4からT3の共振周波数は4.5Hzであり,加振力のピーク周波数(4.42Hz) とT3の曲げ一次モードの固有周波数(4.59Hz)の共振であることがわかります.
 このことから,列車走行による加振力のピーク周波数と構造物・地盤の周波数応答関数のピーク周波数が近接することにより,列車走行による加振とスパン33mの桁の曲げ1次モードの共振が起きていることを確認できます.

2.3.桁の共振と地盤振動の関係

 上記の共振により低周波数帯域の地盤振動が増大したのか確認するため,制振装置である動吸振器を各桁に設置して桁の曲げ1次モードの共振を抑制したときの地盤振動の変化について,図1の解析モデルを対象に検討を行いました.動吸振器の質量は各桁の質量の1%とし,各桁の曲げ1次モードの固有周波数に合わせてチューニングをしました.動吸振器は桁の曲げ1次モードの振幅が最大である桁の中央に設置しました.
 まず,動吸振器の有無におけるT3のスパン中央の鉛直変位を図5に示します.赤枠部分の列車通過後の自由振動だけでなく,青枠部分の列車走行による強制振動でも動吸振器による共振の抑制を確認できます.これは同じスパンであるT1とT4でも確認できました.次に、動吸振器の有無における評価点の振動加速度レベルを図6に示します.4~5Hzの低周波数帯域で10dB程度の振動低減効果を確認できます.このように,桁の曲げ1次モードの共振を抑制することで,低周波数帯域の地盤振動が低減されたことから,対象区間における低周波数帯域の地盤振動が増大する現象の主な原因は列車走行による加振とスパン33mの桁の曲げ1次モードの共振であることを確認できました.

3.おわりに

 今回の知見を用いて,列車高速走行時に対応した地盤振動の対策工の検討を進めます.

参考文献

1) 岩田直泰・横山秀史・芦谷公稔:新幹線高速走行時の地盤振動特性,地盤環境振動の予測と対策の新技術に関するシンポジウム,地盤工学会,2004.   2) 野寄真徳・横山秀史・權藤徹:3列車高速走行時における地盤振動の数値シミュレーション,施設研究ニュース,No.356,pp.5-6,2020.

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 權藤徹 担当者:防災技術研究部 地質研究室 横山秀史 野寄真徳

発行者:中村 貴久 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】 編集者:竃本 倫平 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 気象防災】