施設研究ニュース

2023年1月号

レール破断部通過時の軸箱加速度の特徴

1.はじめに

 無線式列車制御システムの普及に伴い,維持管理コストの大きい軌道回路を使用せず列車の位置を検知することができるようになりつつあります1).一方で,軌道回路を撤去するためには,軌道回路の代替となるレール破断検知システムを構築する必要があります.本研究では,安価な装置を使用した車上式のレール破断検知システムとして,軸箱加速度による方法について検討することとし2),レール破断部を通過した際の軸箱加速度に関する周波数の特性を調査しました.

2.レール開口部の走行試験

 レール破断部を通過した際に得られる軸箱加速度の特徴を調査するために,鉄道総研の構内試験線においてレール開口部の走行試験を実施しました.締め固められたバラスト軌道の曲線部に図1のようなレール開口部を設置し,軸箱支持装置に加速度計を取り付けた試験車両を走行させ,走行中に得られる軸箱加速度を取得しました.開口部はまくらぎ間の中心に設置し,開口量は0,30,70mmの3段階です.試験車両はこの開口部を速度10~40km/hで走行しました.図2,3にレール開口部および同じ軌道上の継目部(凹凸無し,遊間10mm)通過時の軸箱加速度の波形,図4にそれらの振幅スペクトルを示します.波形を見ると,両者とも,車両通過に伴う衝撃的な形態となっていますが,振幅スペクトルを見ると,レール開口部においてはレール継目部と比較して顕著に25Hz付近の周波数成分が大きくなっていることが分かります.レール開口部および継目部の波形に対して30Hzのローパスフィルタ(LPF)を適用し,その最大値をプロットすると図5のようになります.レール開口部については開口量が大きくなるほど低周波成分の最大値が増加する傾向にあることが分かります.また,30HzのLPF処理を施すことで,開口部のみを検知できる可能性があることが分かりました.

3.レール開口部通過時の軸箱加速度の特徴に関する考察

 軸箱加速度は,軌道と車両が一体となって運動する際の振動を反映していると考えられます.いま,そのような軌道と車両が連成する振動を表現するために,図6のように軌道と車両の各部位をばねと質点で結合した簡易なモデルを考えます.軌道はよく図6右上に示すようにレールを梁で,その梁を軌道パッド等のばねが離散支持する力学モデルで表現されますが,振動に寄与する軌道の範囲を表す「有効長3)」を使えば軌道を単一の質点として扱うことができ,有限要素法のような複雑な計算なしに振動の特徴を考えることができます.有効長は定数β=(k/4EI)(1/4)(kは軌道ばね係数,EIはレールの曲げ剛性)を用いて,一般部についてはレールである梁が連続,開口部については不連続であるという仮定の下,ばねと質量それぞれについて表1の通り計算されます3).一般部と開口部で有効長が異なるのは,梁の連続/不連続によって軌道のたわみ形状が異なるためです.表2,3に示す軌道と車両の条件を入力し,図6の質点のうち,輪軸,レールおよびまくらぎが一体となって振動する固有振動数を求めると,表4の通り,開口部においては26Hzとなり,レール開口部通過時には一般部(48Hz)より低周波の振動が励起される可能性を示唆しています.ここで,改めて表1を見ると,軌道の有効長は,レール開口部においてはレール一般部の1/4になっています.レール破断による軌道ばね係数の低下が質点モデルを用いた場合には有効長の低下として表現され,その結果として振動系の固有振動数が低下し,軸箱加速度のピーク周波数が小さくなると考えられます.

4.おわりに

 レール開口部の走行試験および軌道と車両の連成振動を表現する力学モデルを通して,レール開口部通過時の軸箱加速度には,一般部と比較して低周波成分が多く含まれることが分かりました.ここで得られた知見を参考にし,レール継目部の状態評価手法としての適用可能性およびレール損傷検知への活用についても検討します.

参考文献

1) 北野隆康,岩本功貴,中村一城:無線式列車制御システムへのビームフォーミング技術の適用,鉄道総研報告,Vol.35,No.10,pp.29-34,2021 2) 細田充,相澤宏行,山本隆一:軌道回路に代わるレール破断検知システム,鉄道総研報告,Vol.36,No.3,pp.17-22,2022 3) 佐藤裕, 軌道構造と振動との関係についての理論的考察, 鉄道業務研究資料, Vol.13, No.8, pp.200–224,1956

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 相澤宏行 担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田充,山本隆一     

リアルタイムハザードマップシステムの連続稼働試験

1.はじめに

 降雨に起因する災害へのソフト対策の一つとして,わが国の鉄道では降雨に対する運転規制が用いられています.これは,駅等に設置された雨量計において規制値を超える雨量が観測された場合に,列車の徐行や運転中止などの措置をとる方法で,これにより豪雨時の鉄道の安全が確保されています. しかし,局地的な豪雨は雨量計の設置間隔より狭い範囲で発生することがあり,駅等の雨量計で十分に捕捉できない可能性が考えられます.また,運転規制により駅等で列車の運転が抑止された後,その周辺で冠水等が生じると,列車が影響を受ける可能性が考えられます.  これらの課題に対して,鉄道総研では,鉄道沿線の中小河川を対象とするリアルタイムハザードマップシステムを提案しています1)(図-1).このシステムは,外部機関から配信を受けた降雨予測値等を用いて浸水・氾濫解析を行い,もし浸水・氾濫の発生が予測された場合には,列車の安全な停止位置を解析して提案するシステムです.得られた結果は地図上に表示され,ユーザーはインターネット経由で閲覧できます.また,降雨予測値等は10分ごとに最新のデータに更新され,その都度一連の解析を実施しており,ユーザーはリアルタイムに解析結果を得ることができます. 本システムを用いた稼働試験を実施し,解析時間等を確認しました.また,浸水・氾濫解析について予測値と実測値を比較し,解析精度の検討を行いました.本稿では,これらについて報告します.

2.浸水・氾濫解析の概要

 本システムでの浸水・氾濫解析では数値標高モデルを用いてコンピュータ上に地形を再現し,降雨から浸水・氾濫発生までを図-2に示す3ステップで解析します2).1つ目のステップは,降雨が地表面の傾斜に沿って流下して河川に流入するまでを対象とした解析です.2つ目のステップは,河川内の流れの解析です.この解析で得られる河川水位が,河川堤防の高さを超過する場合に越流が発生すると判定します.その際,3つ目のステップとして,越流した水が地表面の傾斜に沿って広がる浸水・氾濫に関する解析を実施します.

3.稼働試験

 箱形断面の橋りょうを対象として,応力測定および固有値解析により,レール継目での衝撃が鋼橋の各部材に与える影響を調べました.応力測定では,疲労き裂が多く発生している縦リブ・横リブ交差部を対象としています.その結果,本橋りょうにおいては,レール継目有りでは,比較的低い周波数である桁全体のたわみや床組のたわみに加えて,高い周波数(350Hz以上)で横リブが大きく振動していることを明らかにしました(図5)

4.精度検証

 解析精度の検証例として,流域Bにおいて,浸水が生じた降雨事例を対象とした再現解析結果を図-4に示します.図では,流域内の河川の水位の実測値と,解析値を比較しています.この図から,解析値は実測値をよく再現しており,降雨発生後に河川水位が上昇し,その後低下する結果が得られていることが分かります. また,解析で得られた浸水範囲を図-5に示します.図では,国土地理院が空中写真等から推定した浸水範囲3)と比較しています.図から,解析結果は,国土地理院による浸水範囲とよく一致していることが分かります.

5.おわりに

リアルタイムハザードマップの稼働試験を実施し,解析時間が5分未満であることを確認しました.また,浸水・氾濫解析が,実測値等をよく再現していることを確認しました.引き続き,豪雨災害に対する鉄道の強靭化に向け,ハザードの予測,評価,表示・伝達方法等の改良を進めます. 本報告の内容の一部は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災技術の強化」(管理法人:JST)により実施したものです.

参考文献

1) 浦越拓野:降雨量予測値を用いた豪雨時鉄道減災システム, 施設研究ニュース,No.344,pp.3-4,2019. 2) 馬目凌:局所的強雨における鉄道沿線の流出・氾濫影響評価手法,施設研究ニュース,No.340,pp.3-4,2018. 3) 国土地理院:令和元年(2019年)10月の低気圧に伴う大雨に関する情報,https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/ R1_10gatsuheavyrain.html,2022年10月24日閲覧. 4) 中小河川計画検討会:中小河川計画の手引き(案), 1999.

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 浦越拓野 担当者:防災技術研究部 地質研究室 河村祥一     防災技術研究部 地盤防災研究室 渡邉諭,馬目凌,深野雄三

新たな試験を用いたのり面工安定性評価手法

1.はじめに

 鉄道沿線の切土のり面に施工されたのり面工(吹付モルタル工・張コンクリート工)では経年に伴う変状や崩壊が発生することがあります.これらの原因を把握して健全性を評価するためには,のり面工背面の地山の風化状態を把握することが重要となります.一方,鉄道沿線の膨大な数の斜面を対象とする場合には,簡便な調査により評価可能な方法が求められます.そこで,のり面工背面地盤の風化の進行による土砂化の程度やその深度などを把握する手段の開発を目的として,作業性がよくかつ安価に実施できる原位置試験として,簡易動的コーン貫入試験(以下,既往試験という)を応用した「自由打撃貫入試験」を開発するとともに,この試験結果からのり面工の安定性を評価する手法を提案しました.

2.自由打撃貫入試験の概要

 本試験は既往試験を応用したもので,試験機をのり面工の水抜き孔等を通じて横方向に貫入し,人力によって重錘(5kg)を水平方向へ繰り返し打撃し,ロッドが地盤に0.1m貫入した時の打撃回数により地盤強度に関連する試験値(Ne値)を取得するものです(図1,図2,図3).本試験の特徴として,試験者に依存する打撃速度vのバラつきを抑えるため,打撃ルールとして打撃周期S(sec/往復),打撃走行距離L(m)を一定に定めています.本試験により図4のような試験結果が得られ,のり面工背面地盤の土砂化の程度とその範囲を把握することができます.さらに詳細な試験値の取得が求められる場合には,貫入ロッドの中間部に打撃力計測センサ—を接続して,ハンマーによるロッド打撃時の打撃荷重を計測します.これにより,計測した打撃荷重と標準的な打撃荷重の関係から試験者毎に異なる打撃力を定量的に補正することができ,試験者に依存する試験結果の誤差をより小さくすることができます.

 ここで,新試験より得られる試験値(Ne値)を既往試験値(Nd値)へ換算することができれば,地盤の劣化度を判断する上で様々な既往の知見を利用することができます.そこで,風化地盤を模した地盤に対して打撃条件や先端コーン径を試験条件とした室内貫入試験を行い,この結果を基に換算理論式としてNd=0.43Neを提案しました.同理論式を用いることでNe値をNd値へ換算することができます.  上記のNe~Nd換算理論式の妥当性を検証する目的で,地質の異なる自然斜面において既往試験と新試験を実施し,両者の試験値を比較しました.(図5).現地試験から得られたNe~Ndの回帰式は,真砂土の場合はNd=0.37Neであり,関東ロームの場合はNd=0.35Neでありました.室内試験より得られた理論式と現地試験の回帰式には類似性が認められ,Ne~Nd換算理論式には一定の信頼性が得られることが分かりました.

3.自由打撃貫入試験の結果に基づいたのり面工 安定性評価手法

 自由打撃貫入試験結果からのり面工(張コンクリート工)の安定性を評価する「土砂層厚斜面安定性ノモグラム」の計算ツールを開発しました.同ノモグラムの利用においては,土砂層厚Des,斜面高さH,のり面工勾配θ,のり面工厚T,内部摩擦角φ,土砂層湿潤密度γtの現地情報に基づいて安定性の評価を行います(図6).ここで,土砂化層厚Desは自由打撃貫入試験等によって測定され,目安として,同試験より得られる換算Nd値が10以下(過去の切土のり面崩壊事例を参考に決定)となる領域をDesと判断します

 計算ツールは,上記項目に関する現地調査結果を入力することで,図7の様なノモグラムを自動的に描画します.同ノモグラムではのり面工厚T等を条件とした複数の判断基準線が示されており,判断基準線は張コンクリート工の力学的な安定性に関わる安全率Fsが同一となる組み合わせ条件の境界を示しています(図7ではFs=1.5).実用においては,φ,γtには現地の土質から類推される標準的な値を入力し,さらに現地調査に基づいて現地条件に近い判断基準線を選定した上で,現地で測定したのり面工背面の土砂化層厚Desとのり面勾配θとの関係をプロットします.この時,同プロットが選定した判断基準線に対して右上に配置された場合には,のり面工は不安定,左下の場合は安定と判断されます.具体例として図7にのり面工厚T=0.1mののり面工で実施した3箇所の試験結果を示していますが,3箇所中1箇所が不安定領域に位置することが分かります.このように現地の安定性を効率よく判断することができます.

4.まとめ

 本研究では,のり面工背面地盤の劣化度を適切かつ簡易に判定する新たな試験の開発を行い,その結果に基づいたのり面工の安定性評価を行うツールを開発しました.今後は,現地での適用試験を実施し,同手法の高精度化等現場のニーズに応じた改良を継続的に検討していきます.

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 深野雄三 担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 髙柳剛,飯久保雄太,藤原将真

発発行者:中村 貴久 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】 編集者:杉山 祐耶 【(公財) 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道管理】