施設研究ニュース

2023年3月号

車輪/レール間の接触面圧低下を図ったゲージコーナき裂対策

1.はじめに

 在来線の半径600~800mを中心とする曲線外軌に敷設した熱処理レールにおいて,ゲージコーナき裂の発生が確認されています.先行研究1)より,車輪/レール間の接触面圧を低下することで,き裂の発生を抑制することが期待できます.本研究では,摩耗進展によって車輪/レール形状がなじむ点に着目し,曲線外軌にレール摩耗形状を適用することで,ゲージコーナき裂の起点となる微小き裂の発生を抑制する手法について検討しました.

2.き裂発生評価

 車輪/レール接触状態から,き裂の発生を評価することは非常に重要です.先行研究1)において,レール頭頂面に発生するシェリングやきしみ割れの発生を評価する指標として,以下の式で与えられる疲労指数(FI:Fatigue Index)による指標が提案されています(以下,「FIモデル」とします).

 ここでFIは疲労指数,FxならびにFyはそれぞれ車輪/レール間の縦クリープ力ならびに横クリープ力,Fzは車輪/レール間の接触力です.また,ksはレール鋼のせん断強度,p0は最大接触面圧です.FIモデルでは,式(1)で与えられる疲労指数の値が高いほど,き裂発生リスクが高いと判定します.本研究では,このFIモデルに基づき,レール表面におけるき裂発生を評価しました.

3.レール締結装置の脱落検知手法の精度

 レール締結装置検出モデルの検出精度を検証するため,営業線において約2.8km 間の疑似床下画像(まくらぎ4000本分)を用いて検出率を算出した結果, レール締結装置の検出率は99.6%以上であることを確認しました.なお,検出率を算出する際は,図5に示すようにレール締結装置がバラストに埋まっている箇所やあらかじめ撤去されている箇所については「外的要因による未検出」,敷設されたレール締結装置を検知しなかったものを「未検出」として分類し,外的要因の数量は除外しました.図6に,検出したレール締結装置の位置を図示した例を示します.図6より,レール締結装置は概ね0.6m 間隔で並んでおり,1m以上の間隔がある箇所がレール締結装置の脱落箇所であると推定できます.この手法を用いて脱落箇所の推定を行い,図5に示した「外的要因による未検出」箇所を脱落箇所と仮定して疑似床下画像から目視で抽出した脱落箇所と比較することで,本手法の検知精度を検証しました.その結果,本手法は,目視で抽出した脱落箇所71 箇所を全て検知することができました.

4.車輪/レール接触解析

 前章で実施した摩耗進展解析により予測したレール摩耗形状について,Simpackによる車輪/レール接触解析を実施し,き裂発生への影響を評価しました.
 車輪/レール接触解析は前章と同様,営業線においてゲージコーナき裂の発生が確認された半径800mの曲線区間を対象に実施しました.ただし,円曲線区間の外軌については,JIS60kg設計形状(摩耗進展解析の更新回数:0)ならびに前章での摩耗進展解析より得られた15ケース(更新回数:1~15)のレール摩耗形状を適用した,合計16モデルを構築して実施しました.
 はじめに,円曲線外軌に適用したレール断面形状における車輪/レール間の接触面圧について,解析結果を図3に示します.レールの摩耗が進展するにつれて,車輪/レール間の接触面圧は減少する傾向が確認できます.
 次に,2章に記述したFIモデルを適用し,レール摩耗形状がき裂発生に及ぼす影響について評価しました.適用したレール断面形状別に,算出した疲労指数の結果を図4に示します.摩耗進展によりレール断面形状が変化するにつれて,疲労指数の値は減少していることが確認できます.これは,摩耗進展により車輪/レール形状がなじみ,車輪/レール間の接触面圧が低下したことが主な要因です.
これらの結果より,ゲージコーナき裂の発生が確認される曲線外軌において,敷設直後のレールを初期削正し,レール断面形状を人工的に摩耗形状とすることで,車輪/レール間の接触面圧低下が図られます.そしてレール敷設直後における,車輪とのシビアな接触状態を回避することができます.その結果,ゲージコーナ部におけるき裂発生を軽減できることから,ゲージコーナき裂の発生を低減する効果が期待できます.

参考文献

1)A. Ekberg and E. Kabo:Fatigue of railway wheels and rails under rolling contact and thermal loading -an overview, Wear, 258, pp.1288-1300, 2005
2)辻江正裕, 吉岡亜陸, 水谷祐貴, 曄道佳明::マルチボディダイナミクスによるレール摩耗形状予測モデルの構築と妥当性の検証, 日本機械学会論文集, Vol.83, No.854, 2020

執筆者,担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 辻江正裕

等価せん断スパン法によるRC杭頭部のせん断耐力評価

1.はじめに

 鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)の棒部材の設計せん断耐力Vydは,集中荷重を受ける単純支持下の矩形RC梁の実験結果に基づいています.令和5年版の改訂1)では,RC棒部材にせん断補強鉄筋を多量に配置しても,想定したせん断補強効果が得られないため,Vydの算定において,pw・fwyd / f’cd≦0.1(pw:せん断補強鉄筋比,fwyd:せん断補強鉄筋の設計引張降伏強度,f’cd:コンクリートの設計圧縮強度)として,Vydの値に上限を設けるように見直しています.一方,従前の杭頭部の配筋ではpw・fwyd / f’cd>0.1となる事例も多くありました.
 また,RC杭は,図1に示すように地盤反力(分布荷重)を受け,杭頭部が固定されることから,上述の棒部材の設計せん断耐力Vydよりも大きいせん断耐力を示す傾向にあります.そこで,杭頭部のせん断耐力を合理的に算定する方法を検討しましたので,その内容について紹介します.

2.RC杭の事例調査結果

 図2に,近年設計された,一般的な条件におけるラーメン高架橋および橋脚における杭径Dとpw・fwyd / f’cdの関係を示します.杭頭部(ここでは,杭頭2D区間)において,pw・fwyd / f’cd>0.1となり,地中部においては,pw・fwyd / f’cd<0.1となる傾向がみられます.Vydを用いた照査による場合,杭頭部では諸元の変更が必要となります.

3.RC杭頭部のせん断耐力の評価

 図3に,三次元非線形有限要素解析の概要を示します.本解析では杭とスタブをソリッド要素,鉄筋を埋込み鉄筋要素でモデル化し,材料非線形性を考慮しました.杭に作用する地盤反力を含めた外力は,強制荷重でモデル化しました.具体的には,事例の慣性力設計における曲げモーメント分布の形状や,せん断スパン(杭頭から曲げモーメント反曲点までの距離)aと杭径Dの比a/Dを再現できるように,荷重の大きさを決定しました.
 図4に,解析で得られたせん断力の最大値Vana とVydの比較の例を示しますが,VydはVanaを過小に算定していることがわかります.図5に示す最小主応力分布の例では,杭頭から反曲点位置を結ぶように,圧縮ストラットが形成されています.また,杭頭の圧縮縁のコンクリートの圧縮破壊後に水平荷重の増加が鈍化しており,設計せん断圧縮破壊耐力Vddで想定されるような破壊形態であると推定されます.
 原子力指針3)では土圧を受ける床版や側壁に対し,等価せん断スパンを用いたVddによる照査法(等価せん断スパン法)が示されています.以上の解析で得られた耐荷機構や破壊形態から,杭頭部のせん断耐力の評価に,等価せん断スパン法が適用できるとしました.

4.等価せん断スパン法によるRC杭頭部のせん断耐力

 図6に,提案する等価せん断スパン法の概要を示します.杭頭から反曲点までの杭頭部のせん断耐力は,この距離を等価せん断スパンa1とし,a1を用いたVddによって算定します.また,照査に用いるせん断力は,深さa1/2の位置での値とします.なお,反曲点以深では Vydを適用します.
図7に,深さa1/2の位置でのVanaと等価せん断スパン法(Vdd)との比較の例を示します.図4と比較すると,等価せん断スパン法を適用することで,せん断耐力の算定精度を向上できることがわかります.図8に,せん断力に関する照査の試算例を示します.pw・fwyd / f’cd>0.1となる杭部材を対象としました.pw・fwyd / f’cd=0.1上限を考慮した Vydを適用した場合,照査値が1.0より大きくなるものがありますが,等価せん断スパン法の適用により,せん断耐力や考慮すべきせん断力を合理的に評価できたことで,1.0より小さくなりました.

5.まとめ

 近年設計された,一般的な条件におけるラーメン高架橋および橋脚のRC杭頭部に対し,非線形有限要素解析に基づき,耐荷機構やせん断耐力を明らかにしました.そして,等価せん断スパン法の適用によって,RC杭頭部のせん断耐力の算定精度が向上することを示しました.様々な地盤条件に対し引き続き試算を行い,本手法の適用範囲を検討したいと思います.

参考文献

1)鉄道総合技術研究所 編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物) 第Ⅲ編 コンクリート構造, 丸善, 2023.
2)北川晴之,中田裕喜,渡辺健,田所敏弥:分布荷重を考慮した RC 杭頭部における耐力の解析的評価,コンクリート工学会年次論文集,Vol.43,No.2,pp.409-414,2021.
3)土木学会原子力委員会:原子力発電所屋外重要土木構造物の耐震性能照査指針・マニュアル・照査例(2018年版),原子力土木シリーズ3,2018.

執筆者:鉄道力学研究部  構造力学研究室 北川晴之
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 中田裕喜,渡辺健
             基礎・土構造研究室 佐名川太亮

常時微動計測を用いた洗掘の進行に伴う固有振動数の変化の把握

1.はじめに

 近年,降雨量の増加や降雨時間の長期化により,鉄道の河川橋梁での洗掘災害が頻発化しています.洗掘が進行すると橋脚基礎が不安定化し,傾斜や沈下,転倒等の被害に至る場合があり,安全輸送に甚大な影響を及ぼします.そこで,実物縮尺1/3の橋脚模型を用いて,橋脚基礎の洗掘が進行していく過程を模擬した大型模型試験を実施しました.洗掘状況は,地盤の側面流失を模擬した側面掘削実験~底面にまで侵食が進行した底面掘削実験および増水後の再堆積を模擬した再埋め戻し実験により再現しました.また,橋脚の健全度を評価する指標には鉄道の維持管理で用いられる固有振動数を用いて,固有振動数の変化から洗掘の進行過程と安定性との関係を検討しました.

2.使用した固有振動数の推定手法

 固有振動数の変化を連続的に捉える手法として,常時微動を活用した手法を用います1).本手法は,橋脚天端両端部の2か所で計測された常時微動から地盤振動を推定し,入力(推定地盤振動)と応答(計測値)のフーリエ振幅比に対して,理論解をフィッティングすることで,固有振動数を推定します(図1).最も大きなメリットは,推定した地盤振動から得られる伝達関数を共振曲線(理論解)でフィッティングすることで,作業員の経験の有無によることなく自動的かつ連続的に固有振動数を推定できる点にあります.連続計測可能な手法は,増水前後の固有振動数の変化を把握できるため,洗掘進行度合いの推定が期待できます.

3.実験概要

 図2に実験模式図を示します.洗掘が懸念されることが多い直接基礎形式を模擬した1/3模型であり,橋脚模型の上部には,上部工の荷重を模擬したプレート(約3100kg)を設置しています.
 橋脚基礎の地盤材料は稲城砂(平均粒径D50=0.32,最大乾燥密度ρdmax=1.764)を使用します.一層あたり層厚200mm,締固め度Dc=90%で密度管理しました.初期根入れは1000mmとします.また,掘削後の再埋め戻し実験の場合は,掘削した稲城砂を再利用し,締固め度Dc=85%としました.
 掘削条件は,側面掘削実験では1段階あたり200mm掘削します(図3). 底面掘削実験では根入れ長が0mmの状態から上流側を1段階あたり50mm,底面掘削率(掘削量/橋脚幅)で約4%,最大450mm,底面掘削率で約35%まで掘削します(図4).再埋め戻し実験では,底面掘削最終時から掘削深700mm,400mm,0mmの3段階に埋め戻します.

4.実験結果

 掘削状況ごとの固有振動数の変化と変化率(固有振動数の変化量/根入れの変化量)を図5に示します2).支持力が期待できる側面掘削実験では,根入れが200mm減少するのに伴い,固有振動数は約1Hz低下します.固有振動数の変化率は約0.4~0.5%の範囲で掘削深度によらず概ね線形に近い低下傾向になります.
 一方で,底面掘削実験では,底面掘削深が増加すると固有振動数は徐々に低下しますが,側面掘削時のような一定の変化率で低下していく傾向とは異なり,ばらつきのある変化率で起伏が激しい変化を示し,底面掘削率20%以降で連続して固有振動数の変化率が大きくなります.
 再埋め戻し実験では,掘削前と比較すると,固有振動数は完全に回復することなく,初期値に対して約70%の値に留まりました.そのため,洗掘により一度橋脚周囲の地盤が流失すると,減水期に上流からの砂の供給により再堆積して根入れが回復し見かけ上は安定した状態だとしても,地盤の剛性は低いままであり橋脚の安定性が大きく低下している可能性があります.

5.おわりに

 支持力が期待でき,構造物には変状が生じない側面掘削時にはその掘削高さに応じて不安定性を示す固有振動数が線形的に低下しますが,底面まで掘削が進行した場合,急激に固有振動数が低下,すなわち不安定化が急激に進行する可能性があります.固有振動数の常時モニタリング手法を用いることで,洗掘の進行過程を捉えることが可能となり,適切な列車運行や増水時の現地確認を実施できます.なお,本技術開発は「国土交通省 交通運輸技術開発推進制度(JPJ002223)」の助成を受け,実施しました.

参考文献

1)欅健典・湯浅友輝・内藤直人・渡邉諭(2018):橋脚天端両端部の微動計測による橋脚基礎地盤の洗掘に対する健全度評価手法,地盤工学ジャーナル,Vol.13,No.4,pp.319-327
2)入栄貴,藤原将真,渡邊諭(2022):橋脚基礎の洗掘に伴う連続的な固有振動数の変化に関する実験的検討,第63回地盤工学シンポジウム,1-3.1

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 入栄貴
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 渡邉諭

発行者:中村 貴久 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:小西 亮太 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 コンクリート構造】