施設研究ニュース

2024年4月号

コンクリート部材のひび割れと非構造部材の寄与を考慮した桁の曲げ剛性の算定手法

1.はじめに

 高速鉄道における列車運行速度の向上,PRC,SRC桁等の低剛性桁の普及等により,実橋りょうにおいて,主桁の曲げひび割れによる剛性低下に起因する列車通過時の共振現象が確認されています.
 列車通過時の共振現象による動的応答増幅を精度良く予測するためには,コンクリート部材にひび割れが発生した後の,再載荷時有効剛性EIeqr(図1参照)を想定する必要があります.一方で,従来の設計標準1)においては,図2で概念を示すコンクリート部材の曲げひび割れ発生に伴う剛性低下や非構造部材の剛性寄与の取り扱いに関して具体的な方法は示されておらず,衝撃係数の算定時には従来から全断面有効剛性が用いられてきましたが,この適用範囲等は明確化されていませんでした.さらに,主構造の曲げ剛性に少なからず影響を及ぼす構造物上の非構造部材の寄与は,その種類や形状,配置等に依存して大きく変化することから,近年の鉄道橋りょうで実際に用いられている軌道形式,高欄形状等に即した実設計で適用可能な桁の曲げ剛性の評価方法が求められていました.
 本稿では,列車通過時のコンクリート桁の再載荷剛性に対して,コンクリート部材のひび割れや軌道等の非構造部材が及ぼす影響に関する検討結果と,これに基づくコンクリート桁の再載荷時剛性の評価方法について紹介します2)

2.列車通過時のコンクリート桁の再載荷時曲げ剛性の算定方法

 コンクリート桁や合成桁等でひび割れの発生の有無や,線区によって非構造部材の種類や形状が異なります.これらの違いを主構造との一体性を表す有効係数という統一した指標を用いて,簡易な断面計算から算定する方法を提案しました2)
 図3に,再載荷時有効剛性EIeqr算定の概要を示します.EIeqrは,ひび割れの発生や繰り返し載荷に伴う剛性低下および非構造部材の剛性寄与を考慮して算定します.EIeqrは式(1)により設計での簡便性を考慮して平面保持の仮定に基づき算出します.
 ここで,Ei:各部材のヤング率,Ai:各部材の断面積,Ii:各部材図心軸回りの断面二次モーメント,yi:スラブ上面からの各部材図心までの距離,e:ひび割れと非構造部材を考慮した場合の平均的な図心位置です.有効係数λiは表1に示すように断面を構成する各部材iに存在するひび割れ,非構造部材の影響を加味する低減係数です.RC,PRC部材等,主構造に曲げひび割れによる剛性低下が予想される場合,実験結果の概ね下限を示す経験式によりλを算定します.PC部材や鋼部材等のように主構造の剛性低下が発生しない部材はIeqr=Igとします.
 非構造部材に対しては,供用期間に渡って主構造と一体性が確保できる構造詳細が成立する場合には有効断面に見込めると考えられます.路盤コンクリートおよび軌道スラブは,主構造の剛性への寄与が大きい部材であることから,設計で考慮することが合理的です.ただし,非構造部材種別に応じた有効係数λを考慮します.
 表2に,再載荷時有効剛性EIeqrの推定手法の妥当性を示します.ここでは,顕著な共振現象が発生しているPRC桁 (Lb=29.2m)を対象として試計算を行い,提案手法の妥当性を検証しました.非構造部材は,現地測定に近い条件を設定しました.実測結果は同一の標準設計の10橋程度の時系列データの多数の実測結果の範囲で,2.42~4.5Hz程度の範囲です.列車速度が260km/hの場合,2.89Hzとなると1次共振が発生します.表から,再載荷時有効剛性EIeqrと全断面有効剛性EIgの比の実測値は最小で0.7程度であり,提案法により非構造部材とひび割れをそれぞれ考慮することで実測の最小程度の固有振動数およびEIeqr/EIgを適切に評価できていることが分かります.EIeqr/EIgの実測値は最大で2.4程度であり,提案手法で非構造部材のみを考慮した1.27より大きい値を示しているが,これはコンクリート材料のヤング率や路盤コンクリートの厚さが個体ごとに異なることなどが影響しています.主構造のヤング率を1.3倍,路盤コンクリートの厚さを300mmと仮定すると4.2Hzとなり,実例と近い値となります.

3.まとめ

 本稿では,衝撃係数およびたわみの算定の際のコンクリート桁の曲げ剛性の評価方法に関する検討結果を紹介しました.コンクリート桁の維持管理や設計実務に有効活用していただければ幸いです.

参考文献

1)国土交通省鉄道局監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004
2)国土交通省鉄道局監修・鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2023

執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 池田学

FEMによるき裂を有するレールへのガイド波伝播シミュレーション

1.はじめに

 シェリングに代表されるような,水平裂より下に進展したレール頭部横裂(以下横裂とします)はレール探傷車による検知が難しく,手作業によるレール頭部側面からの超音波探傷検査により管理するのが一般的です.しかし人手による作業である上に摩耗したレールや踏切部などでは検査が難しく,新たな検査手法の確立が求められています.鉄道総研では,非接触でレール長手方向に伝播させる超音波(ガイド波と呼びます)によるレールの損傷検知手法の開発を進めています1).そこでガイド波の受信応答による横裂の検知可能性を検証するため,非接触で超音波の送受信を行うFEM解析モデルを作成し,横裂を有するレールに対するガイド波伝播シミュレーションを行いましたのでご紹介いたします.

2.スリット入りレールモデルを対象としたシミュレーション

 レール頭部に発生する横裂に感度良く反応する超音波の条件を把握するため,レール頭頂面から深さを変えて横断面方向にスリットを挿入し,スリット深さの違いによる受信強度の変化を評価しました.解析には超音波解析ソフトウェアComWAVE2)を用い,図1のようにレールに対し非接触で超音波を送受信するFEM解析モデルを作成しました.入力周波数は100,150,200kHzの3種類として解析を行い,受信波形例を図2に,波形の最大値をピーク強度としてスリット深さ毎のピーク強度の変化をまとめたグラフを図3に示します.スリットの深さに応じて波形の振幅は減少し,入力周波数を200kHzとした場合に比べ,150kHzの場合は10~30mm,100kHzの場合は20~50mmのスリット深さの変化により大きくピーク強度が減少することが分かりました.これよりレール破断に至る前に管理上検知すべき横裂深さが20mm以上であることを踏まえると,周波数100~150kHzのガイド波が横裂の検知に適している可能性が高いと言えます.

3.水平裂・横裂が混在したレールモデルを対象としたシミュレーション

 レール頭頂面から5~10mm程度の深さに発生する水平裂と区別して横裂が検知可能か検証するため,図4のような水平裂や横裂を模擬したき裂をレールモデル内に挿入し,シミュレーションを行いました.今回の解析では2章で得られた結果からガイド波の入力周波数を100,120kHzの2種類としました.入力周波数100kHzの超音波が水平裂と横裂に到達した時点でのレール表面変位の変化状況を図5に示します.最初に伝播する数波がこれらのき裂により遮られている様子が確認できます.同様にほぼすべての波がき裂を透過した後の超音波伝播の様子を図6に示しますが,全体的に伝播する波数が増加し,そのうち先頭の数波の変位が水平裂や横裂が存在する場合では大きく減少していることが分かります.そこで得られた受信波形(図7)のうち最初の約3波分のみを抽出するゲートを設定し,ゲート内でのピーク強度を比較しました(図8).入力周波数を100kHzとした場合では,き裂が水平裂のみの条件に比べ,水平裂と横裂が混在した条件ではピーク強度が減少し,0.6程度の閾値を設定することで,水平裂より下に進展した深さ20mm以上の横裂を検知できる可能性が高いと言えます.一方,120kHzとした場合では,横裂の有無によるピーク強度変化が非常に小さいため,横裂の検知は難しいと言えます.ただし水平裂や横裂の形状や位置により,横裂の検知に最適なガイド波の周波数は変化する可能性も考えられるため,さらなる検証を続けていく予定です.

4.おわりに

 水平裂や横裂を模擬したき裂を挿入したFEMレールモデルを用いたガイド波伝播シミュレーションにより,ガイド波の受信応答の変化から水平裂より下に進展した深さ20mm以上の横裂を検知できる可能性が高いことが分かりました.引き続き今回作成したレールへのガイド波伝播シミュレーションモデルを用いて様々な条件で解析を行い,ガイド波によるレール頭部横裂検知システムの開発を目指していく予定です.

参考文献

1) 細田充:非接触空中超音波によるレール破断検知手法の検討,施設研究ニュース,No.358,pp.1-2,2020
2) 伊藤忠テクノソリューションズ,ComWAVE,超音波解析ソフトウェア,engineering-eye:https://www.engineering-eye.com/ComWAVE/index.html(参照日:2023年6月23日)

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 小納谷優希
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田充

トンネル盤ぶくれのメカニズム判定と危険度評価方法

1.はじめに

 盤ぶくれは山岳トンネルにおいて特に注意を要する変状です.盤ぶくれのメカニズムは,既往研究1)ではスクイージングとスウェリングに大別されており,前者は路盤下に分布する地山強度比(土被り圧に対する一軸圧縮強さの比)が小さい岩石が塑性化することで,後者は岩石に含まれるスメクタイト等の粘土鉱物が吸水膨張することで盤ぶくれに至るメカニズムです.しかし,実際にはこの判別は難しいうえ,維持管理上の対応においてはこのメカニズム区分が活用されていません.そこで,維持管理に有用なメカニズム区分と,その判定方法および盤ぶくれの危険度評価方法を検討しました.

2.事例分析に基づく盤ぶくれメカニズム区分

 完成後に盤ぶくれが発生した26トンネル1)の地質,盤ぶくれ延長,建設時内空変位,岩石試験結果等を公表文献から収集,整理しました.その結果,断層破砕帯等の地質の弱部で発生する事例と,新第三紀の泥岩や凝灰岩で発生する事例が多いことがわかりました.また,前者の事例は延長が比較的短く,掘削時内空変位が大きいのに対し,後者の事例では逆の傾向でした.
 主なメカニズムとして,前者の事例は元々強度の低い地山を掘削したことにより,後者の事例はスレーキング(乾燥とその後の吸水により岩石が細片化する現象)に伴い地山の強度が低下したことにより,それぞれスクイージングによる盤ぶくれが生じたと想定されます.このように地質の違いに着目して盤ぶくれメカニズムを2つに区分し,前者を「強度不足」,後者を「強度低下」と称しました(図1).

3.盤ぶくれのメカニズム判定および危険度評価方法

 重回帰分析により,専門的な知識を要さずに前章の盤ぶくれメカニズムを判定する方法を検討しました.まず,図1のメカニズムに関する項目として地質,地山強度比,一軸圧縮強さ,スレーキング指数,スメクタイト含有量,掘削時内空変位,掘削時切羽湧水の7項目を説明変数の候補として選定し,トンネル調査事例の文献等からこれら7項目からなるデータを13セット(A~M)作成しました.このうちB~Hは実際に盤ぶくれが生じた箇所です.次に,A~Mの箇所に標準的なインバートのトンネルが施工された場合に盤ぶくれが発生する可能性を筆者らが合議し,過去の盤ぶくれ事例等を踏まえた経験に基づき100点満点で評価しました.この点数を「盤ぶくれ危険度(総合)」と称します.さらに,盤ぶくれの発生における「強度不足」と「強度低下」の寄与の割合を,合計が1となる重み付け係数で評価し,「盤ぶくれ危険度(総合)」と各係数の積をIA:盤ぶくれ危険度(強度不足),IB:盤ぶくれ危険度(強度低下)と称し,これらを目的変数としました.重回帰分析の結果,次の式が得られました.
 IA=-1.2×GN+0.13×d+20 (1)
 IB=9.8×Sl-18×w+30 (2)
 GN:地山強度比,d:掘削時内空変位[mm],Sl:スレーキング指数(0~4),w:掘削時切羽湧水(1~4)

 上記の式に含まれる説明変数は,各盤ぶくれ危険度に特に寄与する項目と考えられます.また, を盤ぶくれ危険度(総合)と評価します.A~MのIA+IBの計算値は,筆者らが評価した盤ぶくれ危険度(総合)を高い適合度で再現しています(図2).また,実際に盤ぶくれが生じた箇所のIA+IBは50点以上と計算されたことから,50点以上が算出された箇所は盤ぶくれの危険性が高い地山と評価することとします.さらに,IAとIBを比較してIAの方が十分大きい場合は「強度不足」が,IBの方が十分大きい場合は「強度低下」が主たる盤ぶくれメカニズムと判定します.

4.維持管理への活用方法の提案

 図1の盤ぶくれメカニズムに応じた維持管理時の調査・計測・対策方針の策定フロー案を図3に示します.盤ぶくれが疑われる変状に対して,施工記録等からのデータおよび3章の提案式を用いて盤ぶくれ危険度の評価とメカニズムの判定を行い,その結果から変状する可能性がある区間を推定し,その区間を対象とした計測,対策の計画を策定します.なお,「強度低下」と判断されてロックボルト等の対策を実施する場合には,スレーキングに伴う変状の促進を防ぐため,施工時に地山の含水比を極力変化させないことが重要です.

5.おわりに

 盤ぶくれメカニズムの新しい区分と,その活用案を紹介しました.本稿の提案式は,今後の盤ぶくれ事例の蓄積等を踏まえ改良を行いたいと考えています.

参考文献

1) 嶋本敬介,野城一栄,小島芳之,磯谷篤実:含水比変化に着目したトンネルの盤ぶくれメカニズムの推察,土木学会論文集F1,Vol.76,No.1,pp.34-48,2020

執筆者:防災技術研究部 地質研究室 西金佑一郎
担当者:防災技術研究部 地質研究室 浦越拓野
    構造物技術研究部 トンネル研究室 嶋本敬介

発行者:柴田 宗典 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:対馬 銀河 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 建築】