施設研究ニュース

2024年7月号

構造物診断用非接触振動測定システム 「UドップラーⅢ」

1.はじめに

 これまで鉄道総研では,橋りょうや高架橋などの検査を目的とした振動測定作業の効率化・安全化を目指して,構造物診断用非接触振動測定システム「Uドップラー」を開発し,技術の普及を図ってきました.この度,新システムである「UドップラーⅢ」を開発,製品化しましたので,同システムの主な仕様と改良点,ユーザビリティー確認試験結果を紹介します.

2.Uドップラーとその適用対象

 Uドップラーはレーザーのドップラー効果を利用して遠隔位置から構造物などの振動を測定できるシステムで,構造物振動測定作業時に多大な労力を要する高所や線路近接箇所へのセンサ類の設置・撤去を省略することができます.また,屋外で長距離の非接触測定を実施する場合,風や地盤振動によって非接触センサ自身に揺れが生じて測定精度が低下しますが,Uドップラーはこの自己振動の影響を補正する機能を有しており,屋外環境においても常時微動レベルの微小な振動を非接触で検出できます1)
 それぞれ2007年,2016年に製品化したUドップラーⅠおよびUドップラーⅡ(図1)は,既に鉄道事業者,建設・地質コンサルタント,国内外の大学等研究機関などに数多く導入され,橋桁の動的たわみ測定,高架橋や橋脚の固有振動数推定を主たる適用対象とし,防音壁や電車線柱等の付帯構造,岩盤斜面,建築,遺跡などの調査にも活用されています(図2).

3.新システム「UドップラーⅢ」

 測定性能やユーザビリティーを高めたUドップラーⅢの外観写真を図3,主な仕様を表1に示します.高周波数の振動の測定を要する部材の物性・高次振動モード推定や,より振幅の大きな現象へのUドップラー適用についての要望が増えたため,応答周波数範囲を最高8kHz,測定速度範囲を±2m/sに向上しました.また,補正センサに高精度な3軸センサを採用し,自己振動及び角度の補正性能を高めました.さらに,反射レーザーが最大となるフォーカスを自動的に探索するレーザーのオートフォーカス機能を加え,手動でのフォーカス調整作業を不要にしました.
 収録ソフトウェアの画面を図4に示します.基本操作を従来システムと統一した一方,使用性向上のため,従来はセンサとPCの両方で設定する必要があった測定レンジなどをPCのみで設定可能にしました.PCの設定がセンサに自動反映されるため,センサとPCの設定不一致による測定ミスがなくなります.レーザーのON/OFFやオートフォーカスもPCから操作できます.よく実施する測定の設定を記憶・再現するプリセット機能も追加しました.センサ-PC間通信機能では,無線通信の安定性を高め,有線通信をUSB接続から長尺ケーブルを使用可能なLAN接続に変更しました.バッテリーには,センサとPCの両方を8時間以上稼働させられる汎用電源を採用しました.

4.ユーザビリティー確認試験

 Uドップラー測定作業に長けた建設コンサルタント技術者によるUドップラーⅢのユーザビリティー評価を実施しました.大阪モノレール株式会社殿の協力を得て,2径間連続のモノレール桁(桁長55m)上をモノレール車両(4両編成)が通過する際の動的たわみをUドップラーⅢと従来システムで同時測定しました.測定対象橋りょうと測定状況を図5,測定結果を図6に示します.測定位置が列車進行方向2径間目の支間中央であるため,まず1径間目への車両進入時に約2mm上反り,2径間目通過時に約4mm下方にたわむ波形が得られ,UドップラーⅢと従来システムの測定結果の一致が確認できました.UドップラーⅢの使用性については,「収録・解析ソフトの使用感は以前と変わらず,短時間のレクチャーでUドップラーIと同等の測定結果を得られた」,「オートフォーカス機能の追加,通信機能の向上,UドップラーⅠに対する小型・軽量化などによって大幅に使用性が向上した」という評価が得られました.

5.おわりに

 UドップラーⅢは,2023年度末より鉄道事業者等への導入が進んでいます.今後も,新たな適用ニーズの発生や周辺技術の進歩に応じて,検査手法の開発やシステムの改良に取り組みます.

参考文献

1) 上半文昭:構造物診断用非接触振動測定システム「Uドップラー」の開発,鉄道総研報告,Vol.21,No.12,pp.17-22,2007.

執筆者:鉄道力学研究部 上半文昭
担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正,北川晴之

トンネル壁面の画像を用いた検査支援システム

1.はじめに

 鉄道トンネルは,戦前または高度経済成長期に建設されたものが多く,建設から50年以上経過したものが大半を占めています.そのため,定期検査の周期や方法は古くから体系化され,経験豊富な技術者による定期検査のもと維持管理がなされてきました.しかしながら,今後は少子化に伴い熟練技術者の減少が見込まれており,デジタル技術の活用が重要と考えられています.そこで,鉄道トンネルの定期検査業務の高速化と省力化を図るため,2つのデジタル技術を開発しましたので,紹介します.

2.健全度自動判定システム

 1つめの技術は,図1に示す「健全度自動判定システム」です.撮影したトンネル壁面画像からAIで変状を抽出して,現地で目視確認すべき要注意箇所を特定するとともに,抽出した変状を判定マトリックス(図2)と照合して健全度の判定を行うことができるアプリケーションです.
 ひび割れを検出するAIは既に構築・実用化されているため,本研究では,その他の変状(鉄筋露出や錆汁,漏水,析出物等)を抽出するAIを新たに構築しています.教師データには,鉄道総研がこれまでに蓄積してきた変状画像を用い,アノテーションはトンネルの専門技術者が実施しました.また,判定マトリックスは鉄道構造物等維持管理標準・同解説(トンネル)1)に掲載している健全度の判定基準の例をもとに作成したものであり,現場の特情に合わせ変更も可能です.実際の検査台帳との比較から,図3のように画像上の変状を90%以上の精度で抽出できること,現地確認前に健全度のトレンドを捉えられることを確認しています.
 現状の検査では,壁面画像への変状のマーキングをはじめとする検査台帳の整理作業は人手によるのが一般的ですが,本システムを用いることで,人の作業はシステムが出力した結果の確認と修正のみになるため,業務の高速化と省力化が期待できます.

3.要注意箇所投影装置

 2つめの技術は、図4に示す「要注意箇所投影装置」です.健全度自動判定システムで特定した要注意箇所の位置を,現地で投影できる移動式のプロジェクションマッピング装置です.要注意箇所を赤く塗潰したメッシュをトンネル断面形状に合わせて補正し,トロ台車の走行に合わせて連続して投影していくことができます.予めトンネル形状を入力しておくことで,図5のように様々なトンネル形状で正しく投影できることを現地にて確認しています.また,従来検査と本装置を用いた検査の作業時間を10m区間で比較したところ,現地確認作業の速度を約2倍に向上できることが明らかになりました.
 トンネル壁面の画像を確認することでも健全度はある程度想定できますが,これを確定するためには現地での目視確認が必要になります.現状,注視すべき要注意箇所の現地照合は紙資料等で行うことが一般的ですが,本装置を用いることで,要注意箇所の現地照合が容易になります.

4.まとめ

 鉄道トンネルの定期検査業務の高速化と省力化のため開発した, 2つのデジタル技術を紹介しました.今後は実用展開を進めるとともに,要注意箇所投影装置についてはトロ台車以外にも搭載できるようマルチマウント化を進めていきます.

参考文献

1)(公財)鉄道総研:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(トンネル),研友社,2007.

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 仲山貴司
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 野城一栄,石井貴大

鉄道橋りょう・高架橋の地震時冗長性の定量評価法

1.はじめに

 鉄道構造物の耐震設計1)では,設計を上回る事象に対して破滅的な被害に繋がらないため「危機耐性」を有することが望ましいとされています.これを受けて,鉄道構造物における危機耐性の評価法も提案しています2)が,概念的なものであり,設計実務において適用可能な定量評価法は確立されていません.そこで,危機耐性の性能項目のひとつである冗長性に着目して,鉄道橋りょう・高架橋を対象とした地震時冗長性の定量評価法を提案3)したので,その概要とラーメン高架橋の試算例を紹介します.

2.鉄道橋りょう・高架橋の地震時冗長性の考え方と定量評価法の概要

 冗長性は本来「余分なもの」,「重複している」といった意味を持つ言葉です.土木・建築分野では,限界状態に対して余裕を持たせる「余裕度」と部材などの繋がりに着目した「並列性」の2つの観点で整理されます4)が,本検討でも,その考え方に沿って地震時冗長性を評価することとします.
 鉄道橋りょう・高架橋の地震時冗長性の定量評価法のイメージを図1に示します.まず,通常の耐震設計で評価される設計限界変位に対して,P-Δ効果によって構造物が水平方向に釣り合いが取れずに崩壊するときの変位を用いて,「余裕度」を算定します(図1の①).次に,鉛直部材がせん断破壊等の不測の事態で機能不全になった場合を「部材消失」と捉え,部材消失の組合せごとに余裕度を算定します(図1の②).ここで,鉛直部材の消失の組合せによっては自重状態で崩壊する場合もありますが,その場合の余裕度はゼロと考えます.このような部材の消失による余裕度の違いは「並列性」に相当する性能といえます.最後に,部材消失本数ごとの余裕度の平均を総和することで,地震時冗長性に関する定量的な指標である冗長性指標Sを算定します(図1の③).なお,詳細な説明は省略しますが,各作業については,通常の耐震設計で行う作業量程度で実施可能な実務的な方法を構築しています3)

3.ラーメン高架橋を対象にした地震時冗長性の試算例

(1) 検討ケースの基本情報

 表1に示す6ケースのラーメン高架橋の地震時冗長性の試算例を紹介します.CaseA~Eは同じ配筋,断面寸法等の条件で径間数のみが異なり,CaseFはCaseEを基に上層梁の断面寸法,配筋だけを変えたケースです.対象高架橋の例としてCaseEの側面図,断面図を図2に示します.また,上層梁(Type1,Type2)の断面図を図3に示します.Type2はType1に比べて断面寸法や鉄筋量を増やし,断面耐力と断面剛性を向上させることで,自重状態で崩壊しにくい条件とします.また,地盤条件は同一とし,鉄道の耐震設計1)においてG3地盤(普通地盤)に分類される条件とします.
 各ケースの振動特性(等価固有周期Teq,降伏震度kheq)および変形性能(設計限界変位δn)と標準L2地震動(スペクトルII)に対する応答変位を図4に示します.本図より,各ケースは振動特性,変形性能,標準L2地震動に対する応答値が同程度であることがわかります.すなわち,現設計において,各ケースは同程度の耐震性能と評価されます.

(2)地震時冗長性の試算結果

 図1の方法を用いた地震時冗長性の試算結果として,部材消失列数と余裕度の整理結果の例(CaseA,CaseE,CaseF)と全ケースの冗長性指標Sを図5に示します.CaseA~Eを比べると,径間数が多い(鉛直部材本数が多い)ほど,鉛直部材が消失した場合にも「並列性」の効果が期待できるため,冗長性指標Sが大きくなります.また,CaseEとCaseFを比べると,同じ径間数でも上層梁の耐力が大きく,鉛直部材が消失した場合に自重で崩壊しにくい方が,冗長性指標Sが大きくなります.
 ここで示した結果は限られた条件での例ですが,提案手法を用いることで,地震時冗長性を定量評価できるといえます.また,現設計では同程度の耐震性能と評価される構造物でも,地震時冗長性の観点から差異が存在する場合があることがわかります.

4.おわりに

 鉄道橋りょう・高架橋の地震時冗長性に関する定量評価法の概要とラーメン高架橋の試算例を紹介しました.今後は,構造形式やL2地震動に対する性能が異なる構造物を対象とした地震時冗長性の試算を行い,鉄道橋りょう・高架橋の耐震性能の目指すべき方向性などを整理する予定です.

参考文献

1) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計,丸善出版,2012.
2) 室野剛隆,田中浩平,齊藤正人,坂井公俊,豊岡亮洋:鉄道構造物の耐震設計における危機耐性の定量評価法の提案,土木学会論文集A1,Vol. 75, No. 3, pp. 336-349,2019.
3) 和田一範,坂井公俊,高橋良和:鉄道橋りょう・高架橋における冗長性の定量評価法の提案,第16回日本地震工学シンポジウム,2023.
4) 日本建築学会:建築構造設計における冗長性とロバスト性,丸善出版,2013.

執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 和田一範
担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 坂井公俊

分岐器の保守管理に関する調査研究

1.はじめに

 分岐器は,構造が複雑であり構成部材も多いことから保守管理に多大な労力を要しています.一方,鉄道事業者における分岐器の保守管理の実施方法やその課題は各社で様々であり,これらの保守管理の実態を詳細に調査した事例はみられません.そこで,分岐器の保守管理の実態を明らかにし,保守管理の合理化および省力化に向けた知見の共有を図るため,保守管理の方法やその課題について,鉄道総研が運営する鉄道技術推進センターの会員にアンケートおよびヒアリング調査を行いました.本稿では,その結果の一部について紹介します.

2.アンケート調査

(1)調査概要

調査時期:2022年10月~2023年2月
調査対象:鉄道技術推進センターの会員のうち,第1~第3種の鉄道事業者の141社
回収数:83社から回収

(2)アンケート項目

 アンケート項目は表1に示すとおり分岐器敷設状況,各検査の検査内容,分岐器の不具合事象の内容および分岐器保守管理の課題・取り組み・要望といった全般の内容としました.

(3)調査結果の一例

 図1に本線における軌道変位の検査周期に関する結果を示します.図1の結果はJRとJR以外,JR以外は分岐器の敷設台数300台以上,敷設台数100台以上300台未満,敷設台数100台未満の計4グループにグループ分けを行い集計したものになります.JRでは4回/年の頻度で軌道変位検査を実施しているのに対して,他のグループでは1回/年もしくは2回/年の検査頻度の割合が高くなっており,JRとその他のグループで検査の実施頻度に違いがあることがわかりました.また,JR以外のグループにおいて,敷設台数300台以上では4回/年の検査頻度が敷設台数300台未満と比較して高くなっている一方,敷設台数100台未満では1回/年の検査頻度が約70%を占めていました.これらのことから,JR以外のグループでは分岐器の敷設台数により検査の実施頻度に違いがあることがわかりました.
 図2に不具合事象の発生内訳を示します.不具合事象は,転換不能が41%,レール損傷が39%,レール以外の部材損傷が17%,その他が3%であり,不具合事象の80%が転換不能もしくはレール損傷であることがわかりました.

 図3に転換不能の発生原因,図4,図5にレール損傷および部材損傷の発生位置を示します.転換不能の発生原因について,異物等の外乱を除く55%は油切れや密着不良,転てつ機,軌道部材不良などの設備に起因するものであり,管理方法の見直しや構造改良等により防止できる可能性が示唆されました.また,レール損傷の発生位置について,48%がトングレール,34%がクロッシングであり分岐器特有のレールで多くの損傷が発生している一方で,18%が基本・リード・主レールで損傷が発生していることがわかりました.部材損傷の発生位置について,40%が継目板,30%が継目板ボルトおよびヒール部のボルトで発生しており,継目関連の部材損傷に苦慮していることがわかりました.

3.ヒアリング調査

(1)調査概要

 アンケートの回答を得た83社のうち,10社を対象に個別のヒアリング調査を実施しました.表2にヒアリング調査における質問項目を示します.

(2)調査結果の一例

 分岐器の不具合事象を鉄道技術推進センターの会員間で共有可能とすることで,保守管理方法の見直しや省力化に向けた取り組みを支援することを目的に,ヒアリング調査の結果をもとに分岐器の不具合事象の内容についてとりまとめを行いました.図6に分岐器の不具合事象の一例を示します.この事例は整備基準値内で軌道変位を管理しているものの,分岐器前端継目が低く,トングレール先端が基本レールに対して高くなっていたため転換不能が生じたもので,通常の保守管理を行っていても不具合が発生したものになります.この事例の対策として,分岐器後端継目に段違いが発生している場合,トングレール底部と床板の隙間の測定が行われています.

4.おわりに

 本稿では,分岐器の保守管理の方法やその課題について,アンケートおよびヒアリング調査を行った結果の一部について紹介しました.アンケートおよびヒアリング調査結果の詳細は鉄道技術推進センター会員HPにて公開する予定です.今後は,得られた知見をもとに分岐器の保守管理の合理化および省力化に関する取り組みを支援していきます.

執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 細見章人
担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 塩田勝利

発行者:後藤 恵一 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:久河 竜也 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地質】