施設研究ニュース

2025年4月号

高架橋上における既設新幹線省力化軌道の開発

1.はじめに

 積雪寒冷地を通過する新幹線のバラスト軌道では,高速走行中の列車からの落雪によるバラストの飛散を防止するためにバラストスクリーン(図1)が敷設されています.軌道保守を行う際,バラストスクリーンの撤去復旧が必要となるため,保守コストが増加しています.
 バラスト道床の沈下を解消する方法の一つとして,バラストの隙間にセメント系グラウト材を充填することでプレパックドコンクリート道床とする既設線省力化軌道(以下,省力化軌道)に更新する方法が在来線を対象として実用化されています1).新幹線においても,省力化軌道に更新することで,落雪によるバラストの飛散を防止できるものと期待されています.
 そこで,本研究では,新幹線の高架橋上を対象とした省力化軌道を開発しました(図2).本報では,プレパックドコンクリート道床に対する性能照査の方法を紹介します.

2.プレパックドコンクリート道床の強度特性

 図3にプレパックドコンクリートの曲げ疲労試験の結果を示します.同図には,曲げ破壊試験で得られた曲げ強度の他,曲げ強度3.1MPaを基に推定した曲げ疲労強度2)も示しています.試験で得られたプレパックドコンクリートの曲げ疲労強度は,推定値と比較して同等もしくはやや大きくなりました.この結果から,普通コンクリート用の曲げ疲労強度の算定式2)を用いることで,プレパックドコンクリートの曲げ疲労強度を安全側に評価できることを確認しました.

3.プレパックドコンクリート道床の性能照査

3.1 性能照査の概要

 プレパックドコンクリート道床の性能照査においては,設計耐用年数を50年,17両編成の列車が一日60編成通過する条件(破壊回数7446万回)としました.プレパックドコンクリート道床の性能照査における要求性能および性能項目は,「鉄道構造物設計標準・同解説 軌道構造」3)に準じて,破壊および疲労破壊に関する安全性,外観および損傷に関する使用性を対象としました.安全性の照査に係るプレパックドコンクリート道床の限界値は,破壊に対して曲げ破壊強度,疲労破壊に対して曲げ疲労強度としました.なお,プレパックドコンクリート道床の供用時にひび割れの発生を許容しないことから,ひび割れ幅を限界値とする外観および曲げ破壊強度を限界値とする損傷に関する使用性については,性能照査を省略しました.表1に性能照査における要求性能および性能項目とともに,後述する照査結果についても示します.

3.2 性能照査の結果

 性能照査に用いる応答値は,列車荷重で生じるプレパックドコンクリート道床下面の曲げ応力度であり,FEM解析により求めました(図4).なお,ここでは既設のバラストマット上に省力化軌道を敷設することを前提としています.応答値の算出では静止輪重に変動輪重係数を乗じて動的な成分を考慮しました.本検討では,国内で想定される最高速度360km/hに対する破壊の性能照査に用いる変動輪重係数については,既往の研究4)を参考に,3.2としました.また,列車速度360km/hに対する疲労破壊の性能照査に用いる変動輪重係数については,アスファルト路盤の設計で用いられているロングレール区間用の速度衝撃率の設定方法5)を参考に,2.1としました.

 FEM解析より,静止輪重85kN(2台車分)で生じるプレパックドコンクリート道床下面の曲げ応力度は0.40MPaでした(図5).曲げ応力度に対して変動輪重係数,作用係数および構造解析係数を乗じると,表1に示した通り,破壊に関する設計応答値(IRd)が1.41MPa,疲労破壊に関する設計応答値(IRd)が0.84MPaとなります.また,破壊に関する設計限界値(ILd)に用いる曲げ強度の特性値は3.1MPaになります.曲げ強度の特性値に対して材料係数および軌道部材係数で除すと,表1に示した通り,破壊に関する設計限界値(ILd)である設計曲げ強度が2.16MPa,疲労破壊に関する設計限界値(ILd)である設計曲げ疲労強度が1.16MPaとなります.

 以上より,各性能項目における照査結果は表1に示した通り,破壊に関する性能照査の結果が0.72,疲労破壊に関する性能照査の結果が0.79となります.したがって,開発した本省力化軌道を構成するプレパックドコンクリート道床は,破壊および疲労破壊に関する安全性を満足することを確認しました.

5.おわりに

 高架橋上のバラスト軌道を省力化軌道に更新する際に,本成果を活用いただければ幸いです.

参考文献

1)北条重幸:第二期TC型省力化軌道工事の取組み,新線路,Vol.57,No.7,pp.8-11 2003.
2)(財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物,pp.114,1999.
3)(公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造,2012.
4)高橋貴蔵,桃谷尚嗣,伊藤壱記,長沼光,及川祐也,鈴木実,鈴木浩明:寒冷地に対応した既設新幹線バラスト軌道の開発,鉄道総研報告,Vol.28,No.6,2014.6.
5)(財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物,2007.

執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 伊藤壱記
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 高橋成汰,高橋貴蔵

狭隘箇所に適用可能な補強土擁壁の背面施工法

1.はじめに

 鉄道では,ジオテキスタイルを敷設した補強盛土と剛な壁面工を一体化した剛壁面盛土補強土擁壁(RRR工法)(以下,「補強土擁壁」と称す)が,普及しています.営業線や民家・道路等に近接した狭隘箇所での施工では,足場を設置するための施工スペースが十分に確保できず,補強土擁壁の壁面施工が困難でした.そこで,本研究では足場を不要とするため,盛土背面側から壁体を構築する背面施工法を開発したので,その概要を紹介します.

2.現行の施工法の概要と課題

 補強土擁壁は,補強盛土の前面に剛な一体壁面工を適切に構築することが重要であり,補強盛土と壁面を定着させるために裏型枠は取付けないで壁面コンクリートを打設しています.施工手順は,図1に示すように,STEP1:基礎工を施工し,STEP2:補強材を巻き込んだ仮抑え材(土のう・溶接金網)を設置し,その仮抑え材と補強材の抑え効果により鉛直な補強盛土を構築します(図1(a)).盛土の沈下が収束した後に,STEP3:補強盛土の前面に足場を設置し,STEP4:壁面構築として,型枠を設置し,その後コンクリートを打設します(図1(b)).この施工手順により,補強盛土が先行構築されるため,壁面は盛土の沈下の影響を受けない機構となっています.なお,足場は型枠の設置のみならず脱型作業時にも必要となります.

 面型枠の構造を図2に示します.型枠のセパレータは,基礎工に建て込まれたL形鋼に溶接固定されています.さらに,盛土側の外型枠固定用金具がL形鋼に溶接固定されることで,型枠は,L形鋼を介して盛土側から支持されています.足場を用いない背面施工では,補強盛土構築後に型枠を設置する現行の施工手順が適用できません.型枠を背面側から施工することで足場を用いずに施工できますが,この際に補強盛土と型枠を同時に構築する必要があります.現行の固定方法の場合,何も対策せずに補強盛土と型枠を同時に施工した場合には,図2に示すように,盛土の沈下に伴いL形鋼を介して型枠が変状するという課題がありました.

3.背面施工法について

 上記課題を解決するために,小型で軽量な埋設型枠と開発した沈下許容部材を用いて,背面盛土側から補強盛土と型枠を同時並行に構築する施工法を提案します.埋設型枠は,幅800mm,高さ400mm,厚さ30mmで重量20kg/枚と小型かつ軽量であり,盛土背面側からの小型バックホウ・人力での施工が可能です.
 図3に埋設型枠を用いた背面施工法の手順を示します.STEP1:基礎工を施工し,STEP2:補強盛土の施工と同時に埋設型枠を立ち上げ,補強盛土と型枠を構築します.埋設型枠の設置は盛土背面側から行います.補強盛土の沈下が収束したのちに,STEP3:コンクリートを打設し,補強盛土と壁面の定着を図ります.

 背面施工法では,補強盛土と型枠を同時に構築する必要があるため,これらの同時施工を可能にする解決策を検討しました.施工時には型枠に対して,風荷重やコンクリート打設時の側圧が型枠の水平方向に作用します.補強盛土と型枠を同時に施工した場合には,これらの水平荷重に加えて,図2に示した補強盛土構築時に発生する沈下による影響も生じます.これらの影響を考慮して,図4に示すように,L形鋼に対して水平方向には固定しつつ,鉛直方向にはスライド可能な構造を持つ沈下許容部材を開発しました.沈下許容部材は,L形鋼に側面から簡易に設置でき,通常使用される外型枠固定用金具の先端部(型枠側)に沈下許容部材の端部(盛土側)を溶接固定することで接続します.これにより,水平方向に作用する荷重には,沈下許容部材が補強盛土を反力として抵抗することで壁面の変位を抑えつつ,沈下許容部材がL形鋼に沿ってスライドすることで盛土の沈下に一定量の範囲で追随可能となり,型枠と盛土の同時施工が可能です.

 埋設型枠と沈下許容部材を使用して,背面施工法の施工の実現性を試験施工により確認しました.図5に試験施工の様子を示します.試験体の寸法は,高さ2.4m,幅2.0m,奥行2.0m,埋設型枠は千鳥配置としました.図6には,補強盛土完成時の埋設型枠の設置精度を示します.ここでの型枠設置精度とは,壁面の設計位置からのずれ量として整理しました.型枠に対する鉄道構造物としての明確な基準は定められていませんが,目安として設計位置に対する±5mmの精度を図中に黒破線で示します.5mm程度の変動に抑えられており,一定の精度で埋設型枠を設置できていることを確認しました.

 以上より,開発した沈下許容部材と脱型不要な軽量埋設型枠を併用することで,背面側から型枠と補強盛土を同時に施工でき,足場が不要となるため,狭隘箇所での施工が可能となります.

4. おわりに

 沈下許容部材と軽量埋設型枠を併用した背面施工法に関して,2024年改訂版のRRR工法の設計・施工マニュアル1)ならびに材料マニュアル2),積算マニュアル3)に記載しています.本改訂マニュアルが狭隘箇所での補強土擁壁の施工に役立てば幸いです.

参考文献

1)RRR工法協会:RRR-B 工法(剛壁面盛土補強土擁壁工法)設計・施工マニュアル,令和6年10月,2024
2)RRR工法協会:RRR工法による補強盛土工法 材料マニュアル,令和6年11月,2024
3)RRR工法協会:RRR-B工法(剛壁面盛土補強土擁壁工法)標準積算マニュアル,令和6年11月,2024

執筆者:鉄道力学研究部 計算力学研究室 倉上由貴
担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 中島進

広域斜面における降雨時脆弱箇所の抽出手法と斜面からの流出量に関する基礎検討

1.はじめに

 近年の気候変動に伴う豪雨の激甚化によって,鉄道沿線で発生する自然斜面や切土斜面の崩壊などの降雨災害の頻発化が想定されています.これらを未然に防ぐためには,鉄道沿線の斜面とそれに隣接する鉄道盛土の安定性を適切に評価し,事前に脆弱部分を把握することが必要です.そこで本研究では,実際に斜面崩壊が発生した自然斜面を対象として鉄道総研で開発した斜面安定性評価1)プログラム(SWB)を用いて斜面の脆弱部分の抽出を試みました.また,斜面から鉄道盛土への雨水の流出量についても検討しました.

2.解析モデルの概要

 SWBでは,降雨時に発生する斜面表層の崩壊に対する安定性を評価することができます1).まず,解析領域内の斜面表層を要素に分割し,この要素を一定の層厚をもつ地盤要素として設定します.この要素間の水の流れを計算し,各要素の飽和度から地下水位を求め,地下水位に応じた各要素の斜面の安定性を無限長斜面の安定計算の考え方に基づき時間的に連続して算出します.

3.対象斜面の概要

 対象とした自然斜面は山稜の山裾にあたり,崩壊箇所は集水地形に位置します.崩壊の要因は,雨の累積量の増加と被災直前の短時間降雨が集水したことが推定されています.崩壊発生前後の被災箇所近傍の鉄道雨量計による時間雨量は図1に示す通りです.崩壊発生時刻は降り始めから33時間後であり,災害時降雨の規模は,近傍アメダスデータを用いてガンベル法で算出した確率降雨の再現期間から,一連の降雨量の指標である12時間連続雨量で50年確率に相当します.解析に用いた地盤パラメータの値は既往の再現解析2)を基に設定しました(表1).

4.確率降雨による脆弱箇所の抽出

 設定したパラメータと2種類の降雨モデル(図2)を用いて斜面の脆弱箇所の抽出を検討しました.降雨モデルは,崩壊時の降雨の再現確率に基づき50年確率降雨とさらに降水量の多い100年確率降雨から短期型降雨モデルの式3)を用いて設定し,最大雨量後に12時間の降り止み時間を設けました.50年確率降雨を用いて得られた24時間後の安全率の分布を図3に示します.図3より,最大降水時では,集水地形である崩壊箇所のほかに,集水地形ではない急勾配箇所においても安全率1.0を下回っていることが読み取れます.この傾向は,100年確率降雨モデルにおいても同様でした.

 しかし,図4に示す安全率1.0を下回った急勾配箇所2か所と崩壊箇所の安全率の時間推移より,安全率1.0を下回る時刻はどちらの確率降雨モデルにおいても崩壊箇所が他の箇所より約1時間早く発生し,安全率1.0以下である継続時間は約1.5倍長いことが読み取れます.また,実降雨を用いた結果においては,降雨モデルを用いた時よりも顕著ではないものの,概ね同様の傾向が見られました.このことから,集水地形である崩壊箇所が他の地点よりも脆弱箇所であると推察でき,実際の降雨条件ではない降雨モデルを用いてもSWBを用いることで,集水地形に伴う脆弱箇所を抽出できると言えます.

5.斜面下方からの流出量計算

 降雨時に鉄道が受ける被害として,斜面から盛土内部へ浸透する水による鉄道盛土の崩壊も挙げられます.そこで斜面からの浸透水の影響を検討するために,集水箇所である崩壊斜面下部と,急勾配である斜面下部①,比較的対象地の中では傾斜が緩やかで集水地形でない斜面下部②の流出水量を求めました.なお,降雨条件は災害発生時の雨量としました(図1).図5に各検討箇所の位置と崩壊発生時刻である33時間目の流出水量の分布を,図6に各検討箇所の流出水量の推移を示します.図5より,斜面下部に沿って流出量が多く,特に急勾配な斜面下部に集中している傾向が見られます.図6より継続的に少量の降雨がある30時間目までは,集水地形である崩壊斜面下部と斜面下部①の流出水量は同程度ですが,斜面下部②より約1時間ピークの流出量が続く時間が長くなりました.このことから,特に急斜面と集水地形の下部において,斜面から盛土内に集中して降雨が流入してくることで,盛土の安定性に大きく影響を与えると考えられます.

6.まとめ

 本稿ではSWBにより,崩壊時と異なる降雨条件でも脆弱箇所の抽出ができることを示しました.さらに,斜面と盛土の境界部の中でも特に急斜面と集水地形の下部において流出量が多いことを示しました.今後は,上記で述べた斜面からの水の流入量を考慮した盛土の安定性評価方法を検討する予定です.

参考文献

1)浅野嘉文他:雨時における斜面表層崩壊を再現する簡易解析モデルの提案, 地盤工学ジャーナル, Vol.8, No.4, pp.579-595, 2013.
2)浅野嘉文他:広域斜面の降雨時安定性解析モデルを用いた再現解析,第50回地盤工学研究発表会, 2015.9.
3)国土交通省鉄道局監修:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物, pp.53-54, 2007.10.

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 鈴木亜季
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 高柳剛,入栄貴

発行者:後藤 恵一 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:田中 伸明 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 コンクリート構造】