施設研究ニュース

2025年12月号

曲線部を考慮したバラスト軌道のまくらぎ間隔拡大の手引き(案)

1.はじめに

 近年,特に地域鉄道のバラスト軌道において,走行安全性確保のためのPCまくらぎ化や,保守管理コスト低減の一環で,既設のバラスト軌道のまくらぎ間隔を拡大するニーズがあります.これに対し,鉄道総研では過去に行った研究開発の成果に基づき,まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計法を提案しました1).これは,鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造(以下,軌道構造標準)を補完する位置づけで,既設線のバラストや路盤条件,管理レベルなどの供用条件を反映し,特に軌道の高低変位進み量,レール曲げ応力,レール締結装置の安全性,レール締結装置の連続不良による軌間拡大を個々に検討し,まくらぎ間隔拡大の可否を総合的に判断するものです.
 検討項目のうちレール曲げ応力については,軌道構造標準と同様に列車から伝達する鉛直荷重(輪重)に対して発生するレール底部曲げ応力(以下,レール応力)を対象に検討を行います.しかし,実際の軌道では曲線中で輪重に加えて水平方向荷重(横圧)が作用する一方,前述の設計法は曲線で発生する横圧の影響を十分に考慮したものではありませんでした.
 今回,研究開発の一環で曲線中のレール応力の解析的算定手法を提案し,実軌道で測定したデータとの比較によりその妥当性を検証しました.本稿ではこの研究成果と,成果を反映した曲線部に適用可能な「バラスト軌道のまくらぎ間隔拡大の手引き(案)」についてご紹介します.

2.曲線中のレール応力の推定方法の提案

 レール曲げ応力の推定は,軌道構造標準に示された性能照査法に従って,以下の手順で行います.
① 検討する軌道の構造条件や設計軸重等に対する設計変動曲げ応力σrdを推定し,これを設計応答値とする.
② レールの疲労設計曲線(S-N 線図)を用いて,設計耐用年数に対応する設計疲労強度frdを推定し,これを設計限界値とする.
 ここで,設計変動曲げ応力は,直線条件の場合は簡便な連続弾性支持モデルで算出することが多い一方,曲線条件ではレール左右の対称性等が異なるため,有限要素法(以下,FEM)を用いて算定することが妥当だと考えられます.そこで,まくらぎ上の両レールを模擬した軌きょうのFEMモデルを用いて解析しレール応力を算定する手法を提案しました.図1に解析モデルの概要を示します.レール,まくらぎをソリッド要素とし,まくらぎ15本分の軌きょうを構成しています.レール下面とまくらぎ上面間には鉛直・水平方向のばねを,レール上面と拘束点間には鉛直方向のばねを,それぞれ設定し,まくらぎも鉛直・水平方向のばねで支持しています.設計変動曲げ応力の観測点は,レール頭部に輪重・横圧を作用させた場合に荷重作用断面の外軌側のレール底側部(レール応力・外側)としました.

3.実測による解析的算定手法の妥当性検証

 提案したレール応力の解析的算定手法の妥当性を検証するため,変動輪重係数や変動横圧係数で影響を考慮している軌道変位や浮きまくらぎ,頭頂面凹凸が極力発生していない営業線の曲線で,車両が通過した際の輪重,横圧,レール応力を測定し,解析結果との比較を行いました.ここでは軌間外・内側で発生するレール応力を平均して整理したものを「レール応力—平均」とし,横圧のみの影響を評価するため,レール応力・外側からレール応力—平均を引いたものを「レール応力—差分」として整理しました.
 図2に各輪軸通過時の輪重とレール応力—平均のピーク値の関係を示します.輪重とレール応力—平均はほぼ線形関係を示しており,急曲線の横圧作用下においても横圧の影響を無視し,レール応力—平均を輪重によって発生する鉛直曲げによるレール応力として表すことができます.また,FEM解析結果は,測定結果より得られた輪重とレール応力の関係と同様な傾向を示しており,同じ輪重の場合に最大10%程度の違いでした.
 図3に各輪軸通過時の横圧とレール応力—差分の関係を示します.輪重による鉛直曲げの影響がほぼなくなり,横圧による影響のみを強く影響したものとなっています.また,FEM解析結果は,測定結果と良好に一致しており,この手法により横圧作用時のレール応力の応答を推定できることが分かりました.
 以上の結果により,提案した曲線中のレール応力の解析的算定手法の妥当性を確認しました.

4.手引き案の作成と今後の活用について

 妥当性を確認したレール応力の算定法を採用することで,従来,曲線部のレール応力への影響を安全余裕で考慮していた手法に代えて,レール応力の実態を反映した検討が実施可能となり,曲線を含めたバラスト軌道のまくらぎ間隔拡大の可否の検討が実施できます。鉄道総研では,この検討方法を多くの鉄道事業者でご活用いただけるよう,「バラスト軌道のまくらぎ間隔拡大の手引き(案)」(以下,手引き案)を取りまとめました。この手引き案は以下の内容から構成されます.
 ・検討項目と条件 ・軌道変位進み量の検討 ・レール締結装置の検討 ・レール曲げ応力の検討
 ・レール締結装置の連続不良による軌間拡大の発生に関する検討 ・まくらぎ間隔拡大の可否
本稿発行後,この手引き案は鉄道総研の鉄道技術推進センターの会員用ウェブサイト(https://www.rtri.or.jp/tecce/sui/sin/loginForm.jsp)に掲載され,会員の皆さまに対して意見照会を行います.なお,まくらぎについては別途検討が必要です.

参考文献

1)弟子丸将,山岡大樹,伊藤壱記,清水紗希:まくらぎ間隔拡大に対応したバラスト軌道の設計法,鉄道総研報告, Vol.36,No.3,pp.23-28,2022.3

執筆者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 弟子丸 将
担当者:軌道技術研究部 レールメンテナンス研究室 細田 充

橋りょうの非線形挙動が地震時走行安全性に与える影響

1.はじめに

 鉄道の地震時走行安全性は,車両と構造物をモデル化した動的解析により評価できますが,この解析には高度な技術と多くの作業が必要です.そのため,設計実務では図1に示すノモグラムを用いた簡易照査手法1)が広く利用されています.これは地盤種別,構造物の固有周期に対して算出されたスペクトル強度SI(応答値)と限界スペクトル強度SIL(限界値)を比較することで,走行安全性を確認する手法です.この時,設計地震動(L1地震動)に対して構造物は線形挙動することが前提となっています.
 一方で,2023年改訂の鉄道構造物等設計標準(コンクリート構造)第Ⅱ編 橋りょう2)では,構造物が非線形化した場合にも適用可能な走行安全性の簡易評価手法3)が新たに示されています.そこで本稿では,この新しい評価手法を用いて,構造物の非線形挙動が走行安全性に与える影響を確認した結果4)を紹介します.

2.検討条件および方法

 本検討では,表1に示す調整桁で接続されたラーメン高架橋を対象に,非線形動的解析によって走行安全性を評価しました.構造物の特性は表2の範囲で変化させ,評価には図2に示す非線形挙動時にも適用可能なRSIによる方法3)を用いました.このRSIは,線路直角方向の振動変位に起因する項(RSI(RSIα))と,軌道面に生じる角折れに起因する項(RSIθ)の和として定義されます.入力地震動は,L1地震動(G3地盤)を用いました.

3.非線形挙動が走行安全性に与える影響の分析

3.1 振動変位の影響

 構造物Aの降伏震度khyを変化させて振動変位の影響を評価しました.まず,構造物の非線形化程度を示す応答塑性率μを図3に示します.降伏震度khyが小さい条件では応答塑性率が1よりも大きくなり,構造物が非線形挙動をしていることが確認できます.次に,図4に示す構造物の応答加速度αrは,構造物の降伏震度khyが低いほど,つまり構造物の非線形化が進むほど小さくなっています.また,制限値αlimも構造物の非線形化により小さくなりますが,その比率から求められるRSIα(図5)は,全体として小さくなる傾向を示しました.

3.2 角折れの影響

構造物A, Bの降伏震度khyhyおよび構造物Bの固有周期Tを変化させて,角折れの影響を評価しました.角折れ応答値θrを図6に示します.これより,構造物Bの固有周期が1秒から変化するほど,つまり構造物Aとの固有周期の差が大きくなるほど角折れθrが大きくなることが分かります.その一方で,構造物A,Bの降伏震度khyが小さくなる,つまり構造物が非線形化しても角折れ応答値θrはそれほど変化しない結果となりました.
その結果,応答値θrと制限値θlimとの比率であるRSIθの結果(図7)も固有周期の変化の影響が大きく,降伏震度の変化の影響は小さい結果となりました.

3.3 RSIへの影響

 RSIαとRSIθを合わせたRSIの結果を図8に示します.まず,構造物Aの固有周期を1.0秒,構造物Bを0.9秒とした場合(図8(a))では,構造物の降伏震度khyが小さく,非線形挙動をする場合でも,線形時のRSIとほぼ同程度であり,大きな差は認められません.また,構造物Bの固有周期を0.6~1.4秒で変化させた結果(図8(b))を見ても,構造物の非線形化の程度によらずRSIはそれほど変化していません.これらの結果から,今回のように隣り合う構造物間で降伏震度khyが同一となる条件の範囲では,構造物の非線形挙動は地震時走行安全性に大きな影響を与えないことが確認されました.

4.おわりに

 本検討では,構造物の非線形化が地震時走行安全性に与える影響を評価しました.その結果,今回の検討条件では,構造物の非線形化が車両の走行安全性に与える影響は限定的であることが確認されました.今後は,より多様な地震動や構造物を対象とした検討を進め,設計実務を見据えた簡便な走行安全性評価手法の構築を図ります.

参考文献

1) (公財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計),丸善出版,2012.
2) (公財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造),丸善出版,2023.
3) 徳永宗正,成田顕次,後藤恵一:鉄道構造物の大規模地震を想定した地震時走行安全性の簡易評価手法,土木学会論文集A1(構造・地震工学),Vol. 76,No. 2,pp. 376-394,2020.
4) 中原祐介,徳永宗正,成田顕次,坂井公俊:橋りょうの非線形挙動が地震時走行安全性に与える影響に関する基礎的検討,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol. 29,No.1,pp. 109-116,2025.

執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 中原祐介
担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 坂井公俊
    鉄道力学研究部 構造力学研究室 徳永宗正,成田顕次

構内用軌道部材状態検査装置の試作

1.はじめに

 近年,鉄道輸送の安全性を一層高めるために,軌道部材の適切な管理がこれまで以上に重要視されています.特に,駅間などの一般軌道区間においては,営業列車に搭載可能な車上搭載型の検査装置が開発され,省力化や効率化が進められています1).一方で,車両基地や駅構内における軌道部材については,分岐器などにおいて多様な軌道部材が存在するため,依然として目視による検査が主流となっています.こうした課題を踏まえ,車両基地や駅構内においても効率的な軌道部材検査を実現することを目的として,手押し式の構内用軌道部材状態検査装置の開発を進めています2)
 本稿では,本装置で取得した画像データから検査対象となる軌道部材を自動で検知するモデルを構築し,その検知精度を検証した結果を報告します3)

2.物体検知精度の検証方法

 図1に示す開発中の構内用軌道部材状態検査装置を用い,在来線駅構内の分岐器(10番内方・8番片開き)で撮影した「画像データセット①」に対してラベル付け(アノテーション)を行い,教師データセットを作成しました.ラベル付けには,図1中の(a) 正面カメラで撮影した606枚の画像を使用しました.
 次に,この教師データを用いて物体検知手法 YOLOX4)により物体検知モデルを構築しました.構築したモデルを,「画像データセット①」とは別の日時および場所で撮影した分岐器(8番片開き)の(a) 正面カメラの「画像データセット②」に適用し,背向・対向の双方を通過した際の軌道部材の自動検知を行いました(図2).赤色枠が継目,黄色枠がプレート類,青色枠が木まくらぎ,黄土色枠がクロッシングの自動検知の例を示しています.
 自動検知対象の軌道部材については,継目,PCまくらぎ,レール締結装置(線ばね),クロッシング,ヒール部,木まくらぎ,プレート類(床板・座金・タイプレート),レール締結装置(板ばね),およびレールの絶縁材の9カテゴリに分類し,自動検知の結果と正解データ(アノテーション)を比較することにより,各カテゴリの検知精度を検証しました.
 具体的には,自動検出結果の矩形とアノテーションによる正解矩形との重複度(IoU:Intersection over Union)に対して 0.5 の閾値を設定し,True Positive(TP:正しく検出された数),False Positive(FP:誤って検出された数),False Negative(FN:検出されなかった数)を判定しました.これらを用いて,適合率(Precision:検出した対象のうち,どの程度が正解であったかを示す指標)および再現率(Recall:正解となる対象をどの程度検出できたかを示す指標)を式(1),式(2)のように定義します.

3.物体検知精度の検証結果

 図3に,フレーム番号360番の検出結果を例として示します.この画像において,プレート類(黄色)はTPが9,FPが0,FNが1であり,適合率および再現率は式(1)および式(2)により適合率が1.0,再現率が0.9と算出されます.
 各カテゴリの適合率と再現率は,30フレームごとに抽出した計136フレームについて算出し,その平均値を表1に示します.表1より,適合率は0.58~1.00と概ね良好である一方,再現率は0.16~0.87とカテゴリによってばらつきがあることがわかります.クロッシング,木まくらぎおよびプレート類(床板・座金,タイプレート)は,適合率および再現率ともに良好な結果を示しました.なお,プレート類については,床板・座金やタイプレートが敷設されていない犬くぎ締結のまくらぎとレールの交差部分を誤ってプレート類として検知する事例が確認されました.この対策としては,犬くぎ締結のまくらぎを別カテゴリとして分類することや,教師データにおけるタイプレートの画像を増やすことが考えられます.

4.まとめ 

 開発中の構内用軌道部材状態検査装置によって取得した画像データに対して構築した物体検知モデルを適用し,物体検知の精度を検証しました.その結果,分岐器の主要な部材であるクロッシング,木まくらぎおよびプレート類(床板・座金,タイプレート)は,適合率・再現率ともに良好な結果であり,物体検知モデルにより高精度に検出できると考えられます.今後は,物体検知モデルの精度向上を図るとともに,物体検知と他の手法を組み合わせた異常検知方法の検討も進めてまいります.

参考文献

1)渡邊綾介,吉田尚:JR東日本の在来線保線部門における線路設備モニタリングの実用化,インフラメンテナンス実践研究論文集,Vol.1,No.1,p.312-321,2022
2)清水惇,合田航,松戸悠:分岐器部における軌道部材状態検査装置の試作,第31回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集(J-RAIL2024),SS2-7-1,2024
3)河西拓哉,清水惇,松戸悠:構内用軌道部材状態検査装置を用いた軌道部材検知精度の検証,令和7年度土木学会全国大会第80回年次学術講演会,VI-1378,2025
4)Megvii-BaseDetection: YOLOX, GitHub, https://github.com/Megvii-BaseDetection/YOLOX(参照 2025-03-19)

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 河西拓哉
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 清水惇,松戸悠

発行者:田中 博文 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:成田 顕次 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 構造力学】