施設研究ニュース
2026年6月号
まくらぎ直結軌道用固定クロッシングの弾性支持構造
1.はじめに
分岐器の固定クロッシング(以下,「クロッシング」)(図1)では,レールからレールへの車輪の乗り移りによって衝撃的な荷重が発生し,乗り移り箇所には落ち込み(図2)が生じています.なお,ここでいう落ち込みとは,塑性変形等により恒常的に生じるものです.特に,新幹線のまくらぎ直結分岐器(以下,「直結分岐器」)(図3)のクロッシングでは,バラスト分岐器と比較して落ち込みが大きく,その交換周期が短いものが散見されています.そこで,落ち込みの低減を目的として,直結分岐器に適用できるクロッシングの弾性支持構造を開発しました.
2.落ち込みの要因推定
直結分岐器のクロッシングの落ち込みがバラスト分岐器よりも大きくなる要因について,①現地調査による落ち込みの傾向の把握,②車両走行解析による乗り移り箇所に作用する輪重の把握,③重錘落下試験によるクロッシングの材料である高マンガン鋼の塑性変形特性の把握等を行い,検討した結果,以下のことがわかりました.
・直結分岐器はバラスト分岐器と比較して局所的な落ち込 みが生じている傾向がみられる(図4).
・局所的な落ち込みに起因して,直結分岐器の乗り移り箇所にはバラスト分岐器と比較して大きな輪重が作用する(図4).
・敷設初期を想定した設計形状のクロッシングに作用する輪重について,直結分岐器とバラスト分岐器を比較すると,乗り移りの衝撃は同程度である
が,その後の変動に差が生じる(図5).
・上記輪重変動の差により,直結分岐器のほうがバラスト分岐器よりも局所的な落ち込みが形成され,その結果,直結分岐器のほうが大きな輪重が作
用する(図5).
これらから,直結分岐器の落ち込みのほうが大きくなる要因は,①支持構造の違いにより乗り移りの衝撃後の輪重変動が大きくなる,②輪重変動によりレール表面に局所的な落ち込みが生じる,③それにより衝撃荷重が大きくなる,④荷重により落ち込みがさらに進展するためと考えられます.
このことから,落ち込みの抑制対策として,開発品はクロッシングの下を弾性支持することにより,輪重変動をバラスト分岐器と同程度に抑制することとしました(図5).
3.弾性支持構造
開発品は,弾性材をクロッシングの下に配置し,板ばねと座金でクロッシングを締結した2重弾性締結構造です(図6).弾性材は前章の検討結果から,輪重変動をバラスト分岐器と同程度に抑制するように設計しました(図5).また,まくらぎ交換をすることなくタイプレートの交換のみで置き換えることが可能です.なお,既設線への適用の際に,既設の締結構造から開発品への交換範囲が小さく済むように,クロッシング全締結に適用するのではなく,乗り移り周辺の6締結にのみ適用することとしました(図7).この範囲に敷設することで,クロッシング全締結に敷設した場合と同等の輪重変動となることを走行解析で確認しています.
4.試験敷設による効果検証
新幹線の片開き分岐器において開発品の試験敷設を行い,一晩の作業時間帯内である3時間半程度で,既設の現行品から開発品への交換を問題なく施工できることを確認しました.また,敷設後1年の落ち込みは,過去に同箇所に敷設したものの半分程度に低減されており,バラスト分岐器と同程度であることを確認しました(図8).
5.おわりに
新幹線のまくらぎ直結軌道用固定クロッシングの弾性支持構造を開発しました.引き続き開発品の追跡調査を実施し,その効果を確認するとともに,敷設拡大を図っていきます.
執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 清水紗希
担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 岡本啓
車輪フラットにより発生するPCまくらぎの動的応答
1.はじめに
車輪の空転,滑走等により車輪踏面に発生する楕円形の擦跡(以下,車輪フラット)は,車両走行時の車輪回転に伴う周期的な振動により乗り心地を悪化させるとともに,大きな衝撃荷重の発生により車両部材および軌道部材に悪影響を及ぼすことが知られています.本稿では,車輪フラットを有する車両が走行した際のPCまくらぎ等の軌道部材の動的応答を評価可能な解析手法を構築したので紹介します.
2.解析手法の概要
本手法では,車両をマルチボディ,軌道を有限要素でモデル化します.また,車輪/レール間の接触計算に車輪フラットに相当する車輪凹凸形状を考慮することで,車輪フラットを有する車両が走行した際の軌道部材の動的応答を計算します.以下に概要を示します.
図1に車両の力学モデルを示します.車両は軌道側の動的応答を適切に評価する上で必要最低単位であると考えられる半車両分をモデル化しています.本車両モデルでは,半車体,台車枠,輪軸を剛体と仮定し,これらをばねとダンパで結合して構築しています.車両の走行は各剛体に進行方向(x方向)の強制変位を与えることで表現しています.
図2に軌道の力学モデルを示します.レールおよびまくらぎは梁要素でモデル化し,軌道パッドおよびバラストを表現したばねとダンパを接続しています.
車輪/レール間の接触は鉛直方向のみを考慮しています.その計算にはペナルティ法を用い,接触計算点は各車輪中心直下の1点としました.ここで,本接触モデルにより車輪フラットを考慮する場合,図3に示すように実際の接触点と計算上の接触点にずれが生じることになります.そのため本手法では,車輪フラットの幾何学形状から計算される車輪中心の軌跡を車輪凹凸形状として入力することで,1点接触での車輪フラットの影響を考慮可能としています.車輪フラットは任意の大きさのものを任意の輪軸(ただし,左右の車輪で同じ大きさ)に対して設定可能です.図4に車輪フラット長75mmの場合の車輪中心の軌跡を示します.
3.解析手法の妥当性検証
前述した解析手法の妥当性を検証するために,人工的に車輪フラットを設けた試験列車による走行試験結果1)との比較を行いました.走行試験は,60kgレールとPCまくらぎ(品形:3PO,43本/25m)が敷設された直線ロングレール区間を対象に実施されたもので,車両通過時のレールとまくらぎの曲げモーメントが測定されています.走行車両の静止輪重は約45kN,車輪に人工的に設けられたフラットの長さは75mm,走行速度は10~60km/hです.この走行試験を再現するため設定した解析諸元を表1に示します.
図5に走行試験結果と解析結果の比較を示します.本図はレールとまくらぎについて車両速度ごとの最大曲げモーメントをプロットしたものです.図より,各車両速度で走行試験と解析結果が概ね一致していること,両者とも20~30km/h程度の低速域で応答ピークが生じていること,それ以上の走行速度では速度が上昇するにつれて応答が減少することを確認できます.これより,本解析手法が車輪フラット発生時の軌道部材の動的応答を適切に評価可能であると判断できます.
4.衝撃輪重の特性とPCまくらぎの動的応答
図6に車輪フラットによる最大輪重と車両速度の関係を示します.図より,レールおよびまくらぎの応答と同様に,車両速度20km/hでピークが生じ,速度が上昇するにつれて最大輪重が一旦は減少しますが,40km/hからは再び増加に転じることが確認できます.
図7に車両速度ごとの輪重の時刻歴波形を示します.図より,輪重の作用時間は6msec以下であり,その波形性状としては作用時間1msec程度と5msec程度の波形の重ね合わせで構成されていること,車両速度が上がるにつれて1msec程度の成分が卓越し,その作用時間は短くなることが分かります.
図8に車輪フラット長がまくらぎの曲げモーメントに及ぼす影響を示します.車輪フラット長が大きくなるにつれてまくらぎの応答も大きくなることが確認できます.特に車輪フラット長が50mm以上になるとまくらぎの応答が急激に大きくなり,車輪フラット長75mmの場合では車輪フラットが無い場合と比較して9.0倍の応答が発生しています.この応答は3POまくらぎの設計ひび割れ発生モーメントを上回るものですが,設計曲げ耐力には達していないことが分かります.
5.おわりに
本稿では,車輪フラットを有する車両が走行した際のレールやPCまくらぎ等の軌道部材の衝撃応答を評価可能な解析手法を紹介しました.今後は本手法を用いて,車両および軌道に関する各種パラメータがPCまくらぎの動的応答に及ぼす影響を定量化していきます.
執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 後藤恵一
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 渡辺勉
浸透水の影響を受ける伏びを有する盛土の沈下予測
1.はじめに
鉄道盛土には,排水や導水を目的とした伏びが多く埋設されていますが,経年による伏びの損傷によって軌道変状や陥没が発生し,列車運行に影響を及ぼす事例が報告されています.図1に示すように列車の繰返し荷重等の影響により伏びが破損すると,直上の盛土の一定領域で土砂の流出が生じると考えられます.その上で,地下水位の上昇あるいは伏びを流れる管内水の影響によってこの領域が拡大し,場合によっては軌道の沈下や陥没の発生につながると考えられます.このような伏びに対して浸透水が与える影響を把握するとともに,軌道の沈下予測手法を構築し,軌道への影響度を伏びの諸元に基づいて判断できるチャートの作成を行いました.
2.伏びを有する盛土での試掘と試験の実施
実際に伏びが埋設されている鉄道盛土を対象として,試掘を行うとともに,各種調査・試験を実施しました.対象とした盛土の概要を図2に示します.本伏びでは過去の全般検査で変状(ひび割れ)が確認されており,また管内水の水位は概ね図中に示す位置にあることを確認しました.
本伏びにおいて,試掘を行いながら深度および伏びからの離れを変え,盛土の施工管理で用いられる小型FWD試験によるK30値の測定と,地盤材料の採取とその試料を使った粒度試験を行いました.K30値の測定結果を図3に示します.深度3mにおいて深度2mと比較するとK30値が低下していることが確認されました.その低下は線路方向に伏びに近い位置ほど顕著であり,深度3mで低下のなかった位置でのK30値と比較すると5割程度の値となっていました.
図3中の黒および赤で示した測点で試料採取を行い,粒度試験を実施した結果を図4に示します.伏びに近い深度3mの粒度分布は深度2mのものと比較して,砂分(図中赤色の範囲)および細粒分(図中青色の範囲)の割合が減少していることが確認され,その減少は伏びに近い位置でより大きくなっていることがわかりました.伏びに近い位置ほど砂分および細粒分が減少しており,小型FWD試験でのK30値の低下に大きく関係していると考えられます.
3.模型実験による地盤反力係数の低下量の把握
地盤反力の低下をより詳細に把握するために,模型実験を実施しました.実験模型の概要を図5に示します.地盤内には頂部に5mm幅の開口部を有する伏び模型を設置し,管内が満水となる状態で水を流し地盤内へ水が流入する状況を模擬する流水試験と,地盤内に地下水位を貯め開口から管内に水が流入する地下水上昇試験の2種類の試験を実施しました.この試験を実施しながら,地表面において列車荷重を模擬した鉛直荷重を載荷し,得られた荷重と変位の関係から地盤反力係数を算定し,時間の経過と共に試験を繰り返すことで地盤反力の低下の把握を試みました.
2種類の試験で得られた地盤反力係数の低下を図6に示します.管内の流水よりも地盤内の地下水位の方が地盤反力の低下に大きくつながっていることが確認され,初期の地盤反力係数の1割程度まで低下することが確認されました.また,流水の影響についても地盤反力の低下は最大で5割程度にまで及ぶことがわかりました.
4.数値解析手法の構築と影響度判定チャート
ここまでの検討を踏まえ,浸透水に起因した伏びの軌道変位への影響予測として地盤反力の低下を考慮する手法を構築しました.その概要を図7に示し,以下のステップで地盤反力係数を算定します.
STEP1:ゆるみ領域上端を境界として地盤を2層(境界下側:第1層,上側:第2層)に分ける.
STEP2:第1層上面の地盤反力係数比を,伏び端部を起点に90°の斜面があると仮定して求める.
STEP3:第2層上面のある位置にまくらぎを想定し,端部から30°の範囲に応力が伝播するとして,第1層上面の地盤反力係数比を平均化する.
本手法を用いて管径および土被りを変えて軌道の沈下量を算定し,沈下量の閾値を6mmおよび10mmとして,図8に示すように影響小・中・大の3区分としたチャートとして整理しました.管径や土被りが増加すると,軌道への影響大の範囲が大きくなる傾向となってます.図中には鉄道事業者が有する伏びと,過去に鉄道盛土で陥没災害を招いた伏びについてもプロットしました.浸透水の寄与度が大きい場合のチャートではほとんどの陥没事例が軌道への影響大と判定された範囲で発生しており,作成したチャートが過去の陥没災害を捕捉できています.また,別途地盤反力の低下が小さくなる条件での計算も行い1),そのような場合には影響中・小の領域が大きくなることがわかりました.
5.おわりに
管内水や地下水の影響で土砂の流出が生じ,伏びを有する盛土で地盤反力が低下することがわかり,またこれを踏まえた軌道の沈下量を算定し,軌道への影響度としてチャートにとりまとめました.作成したチャートを伏びの維持管理に活用いただければ幸いです.
参考文献
1) 松丸ら:線路下小口径管の破損および浸透水に起因した鉄道盛土の沈下の簡易評価法,鉄道総研報告,Vol.40,No.5,2026.
執筆者:構造物技術研究部 土構造研究室 松丸貴樹
担当者:構造物技術研究部 土構造研究室 佐藤武斗
トンネル研究室 嶋本敬介
発行者:田中 博文 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:尾﨑 匠 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 土構造研究室】
