施設研究ニュース

2026年7月号

レール断面形状を考慮した効率的な削正計画の策定法

1.はじめに

 レール削正は,主にレールの疲労層を除去して材料寿命を延伸するために行う通過トン数を基準とした削正(以下,通トン削正)と,波状摩耗発生区間に対する削正(以下,凹凸削正)を目的として実施されています.これらのレール削正では,レール断面形状や波状摩耗の発生状況に応じて適切な削正パス数を設定し,レール削正車の運用計画(以下,削正計画)を策定することが望ましいと考えられます.
 従来のレール削正計画システム(以下,RGS)は,削正パス数が一律であることを前提としており,レール状態に応じた柔軟な計画策定が困難でした.そこで本研究では,レール断面形状や波状摩耗の発生状況に応じて適切な削正パス数を選択できるよう,RGSを改良しました1).さらに,過去の年間レール削正実績とRGSで策定した削正計画を比較検証し,本システムの有用性を確認しました.

2.レール断面形状に応じた削正パス数の設定手法

 レール削正車は,グラインディング方式の場合,複数の削正砥石を備えており,現地のレール断面形状に応じて砥石の角度や押し付け圧力,削正パス数を設定する必要があります.削正パス数は,レール削正車が同一箇所を通過する回数であり,これを低減できれば削正効率の向上が期待できます.しかし,長大な区間にわたるレール断面形状を人手で把握し,削正計画に反映することは容易ではありません.
 そこで本研究では,図1に示す削正パス数を選択するための削正マトリックスを提案しました.図1の縦軸はレール波状摩耗の凹凸量を表しており,横軸はレール断面形状の扁平度(以下,レール扁平度)を示しています.レール扁平度は,経年に伴うレール頭部の摩耗により断面が扁平化した状態を表す指標です.レール凹凸量は,これと高い相関を有する軸箱加速度により評価する方法が用いられます.一方,レール扁平度については,軌道検測車等による連続的なレール断面形状データから算出する方法に加え,通過トン数や敷設年月,曲線半径等から統計的に推定することも有効です.削正計画の段階では,この削正マトリックスの各要素に対応する削正パス数をあらかじめ設定し,現地の状況に応じて使い分けることで,簡便かつ合理的な計画立案が可能となります.なお,削正パス数に対応するレール扁平度およびレール凹凸量の閾値は,線区条件や削正車性能に依存するため,これらの条件に応じた設定が必要です.

3.レール断面形状を考慮したRGSの開発

 RGSは,通過トン数や軸箱加速度などを用いて,削正が必要なロット(軌道延長を主に100mごとに分割した区間)を選定し,施工日数やレール削正車の運用条件を考慮して,効率的な削正計画を策定するシステムです.本システムでは従来,全てのロットにおいて削正パス数が一律であることを前提として削正計画を策定していました.そこで本研究では,前章に示したレール断面形状に応じた削正パス数の設定手法を組み込み,図2に示すように,削正候補ロットにおいて必要パス数を設定できるようRGSを改良しました.これにより,各ロットの必要パス数を満たしつつ,削正延長を最大化する削正計画の策定が可能となりました.

4.改良型RGSを活用した削正計画の策定

 ある線区を対象として,過去の年間レール削正実績と比較する形で,RGSを用いて削正計画を試算しました.試算にあたっては,削正候補ロットから,通トン削正ロットを優先的に選定し,残った日数において軸箱加速度が大きいロットから凹凸削正ロットを選定しています.図3に,削正パス数の設定条件の違いによる年間レール削正延長の比較結果を示します.本図では,①実績,②従来(削正パス数を一律6パスとする計画),③本手法(レール断面形状に応じた削正パス数を設定する計画)の3ケースについて,削正延長を比較しています.①実績および②従来のケースでは,削正パス数を一律6パスとしているため,削正延長はいずれも約35,000 mにとどまっています.一方,③本手法のケースではレール断面形状に応じて削正パス数を4パスまたは6パスから選択することで,同一の計画日数において削正延長が約41,500 mとなり,①実績および②従来のケースに比べて約1.2倍に増加しました.この結果から,削正パス数をロットごとに最適化することで,同一の施工条件下においても削正延長を拡大できることが確認され,削正計画の効率化が図られていると考えられます.

5.おわりに

 レール断面形状に応じて適切な削正パスパターンを選択できるようにRGSを改良し,レール削正の実績との比較によって削正計画が効率化されていることを確認しました.本システムの活用により,限られた運用条件の中でも削正延長を増加させることが可能となり,効率的な削正計画の策定に寄与するものと考えられます.

参考文献

1) 松本麻美,田中博文,昆野修平:レール断面形状を考慮したレール削正計画策定支援システム,新線路,Vol.78,No.6,pp.21-23,2024.6

執筆者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 山縣 崚
担当者:軌道技術研究部 軌道管理研究室 松本麻美,吉田尚史

地覆一体型プレキャスト遮音壁の開発

1.はじめに

 鉄道構造物の遮音壁は高所や用地境界付近に設置され,維持管理が困難であるとともに,風雨や直射日光に曝され劣化しやすく,第三者被害の防止の観点からも高い耐久性が求められています.さらに,近年,建設労務者の不足を背景に,施工の効率化による生産性向上が求められています.そこで,新設鉄道高架橋を対象に,耐久性および施工性の向上を目的とした地覆一体型プレキャスト遮音壁を開発したので紹介します.なお,本工法は,東急建設(株),ベルテクス(株)との共同研究によるものです.

2.工法概要

 地覆一体型プレキャスト遮音壁の概要を図1に示します.本工法は,スラブから突出させた地覆埋込鉄筋の両側にプレキャストパネルを設置し,外側プレキャストパネル(以下,プレキャスト遮音壁)と軌道側プレキャストパネル(以下,埋設型枠)をセパレータで連結したのち,地覆部にコンクリートを打設することで構築します.プレキャストパネルの内側には地覆コンクリートとの付着を高めるため,付着面として凹凸部を一様に設け,プレキャスト遮音壁にはジベル筋を設置しています.従来のプレキャスト遮音壁は,現場打ちで地覆を構築した後,その上にプレキャストパネルを建て込み,アンカーボルトによる締結およびボルト孔へのグラウト注入等により地覆とパネルを接合する必要がありました.これに対し,本工法は地覆とプレキャストパネルを一体で構築するため,接合作業を簡略化することができ,施工の省力化および工程短縮が可能となります.さらに,プレキャストパネルには,塩害や凍結融解等の厳しい環境下においても高い耐久性を有することが実証されている超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いていることも特徴です.

3.静的載荷実験

 実物大試験体を用いた載荷実験1)を実施しました.図2に試験体側面図を示します.載荷方向は軌道側を正,外側を負とし,設計最大荷重に材料係数1.3と部材係数1.1を乗じた±7.72kNを目標最大荷重としました.
 図3に荷重と変位の関係を示します.いずれもプレキャスト遮音壁での曲げ破壊であり,耐力は目標最大荷重を上回りました.また,使用時の荷重においては,プレキャスト遮音壁にひび割れは確認されませんでした.要求性能を満足し,軌道側と外側両方向に対して十分な性能を有することを確認しました.

4.疲労載荷実験

 疲労特性を確認するため,在来線での適用を想定した200万回の繰返し載荷試験を実施しました.試験終了後に実施した損傷状況の確認において,ひび割れやプレキャスト遮音壁と地覆界面の剥離は確認されませんでした.図4に荷重と変位の関係を示します.1万回載荷時から若干剛性が低下しましたが,200万回載荷でも1回目に対して6.2%の低下であり,小さい範囲に留まりました.

5.遮音性確認試験

 遮音性の確認にあたっては試験室に設置した試験体を用い,JIS A 1416 「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」に準拠した試験を実施しました.写真1に試験体設置状況を示します.本工法では,隣接するプレキャスト遮音壁を突起部で重ね合わせる構造としていることから,重ね合わせ部に設置する目地材の有無が遮音性に及ぼす影響を確認しました.試験の結果,目地材を設置しない場合には所要の遮音性を満足せず,目地材を設置した場合には,所要の遮音性を満足することを確認しました.これより,本工法では適切な目地処理を行うことで,遮音壁として十分な遮音性能を確保できることを確認しました.

6.設計・施工指針(案)の作成について

 鉄道総研では,この地覆一体型プレキャスト遮音壁を多くの鉄道事業者でご活用いただけるよう,「地覆一体型プレキャスト遮音壁の設計・施工指針(案)」を取りまとめました.この指針(案)は鉄道総研の鉄道技術推進センターの会員用ウェブサイト(https://www.rtri.or.jp/tecce/sui/sin/loginForm.jsp)で公開し,会員の皆様に対して意見照会(2026年8月31日まで)を行っています.

参考文献

1)松田充弘,黒岩俊之,松谷英和,中田裕喜:UFC板を用いた地覆一体型遮音壁の構造性能に関する実験的研究,コンクリート工学年次論文集,vol.48,2026

執筆者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 伴野由佳
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 髙澤昂生,中田裕喜

橋上駅を対象とした効率的な地震挙動推定手法の開発

1.はじめに

 耐震補強等の地震対策を効率的に進めるには,路線全体の中で優先度の高い箇所を事前にスクリーニングすることが有効です.そのための手段として,鉄道総研では鉄道土木構造物を対象に「鉄道地震災害シミュレータ」1)を開発し,等価1質点による簡易な解析モデルを用いた全線の地震被害推定を実現しています.さらに,一般的な橋りょう・高架橋を対象に,地震挙動に大きく影響する諸元のみから,等価1質点モデルの構築に必要な情報を効率よく推定する「インベントリ法」2)が同シミュレータに導入され,効率的な挙動評価を実現しています.しかし,橋上駅等の線路上空建築物は,同シミュレータに実装されておらず,地震挙動の支配パラメータも明らかでなかったことからインベントリ法の適用外でした.
 そこで本稿では,線路上空建築物に対しても同シミュレータを適用して,地震被害が相対的に大きいと想定される駅の抽出(図1)を可能にすることを最終目標とし,偏心の小さい2層橋上駅を対象に,地震挙動を効率的に推定する手法を開発したので報告します.具体的には,等価1質点による簡易な解析モデルを用いて構造物全体を代表する地震応答を評価する手法と,橋上駅の地震挙動に大きく影響する諸元を優先的に取得し,等価1質点モデルの構築に必要な情報を効率よく推定する手法から成ります.

2.簡易モデルを用いた地震挙動評価手法

 本評価手法に用いる等価1質点モデルのばねに設定する荷重-変位関係を,図2に示します.具体的には,詳細な解析モデル(骨組モデル)における全体系の荷重-変位関係を簡便に再現できるように,初期勾配や,初降伏点等の損傷発生点を用いたトリリニアモデルで設定しました.
 本評価手法の検証のため,均等スパンで部材諸元が各構面で同一の橋上駅を対象に,等価1質点モデルで動的応答を求め,骨組モデルを正解値として比較しました.例として2階床変位を図3に示しますが,等価1質点モデルの挙動は骨組モデルの挙動を概ね再現でき,等価1質点モデルの妥当性を確認しました.

3.効率的な挙動評価のための諸元の取得優先度

 等価1質点モデルの構築に必要な情報である,トリリニアモデルの折れ点を効率的に推定するため,橋上駅の地震挙動に大きく影響する諸元を,感度分析により明らかにしました.各諸元に入力する値は,実在する2層橋上駅の設計図書の調査から得られる各諸元の統計的な変動を基に設定しています.
 感度分析の結果を図4に示します.横軸の感度は地震挙動の変動の大きさ,縦軸は橋上駅の各諸元を感度の大きい順に並べ替えたものです.同図より,線路階以下の部材・スパン・地盤に関する情報や基礎梁の有無等が地震挙動に大きく影響することがわかりました.またこれらの諸元を優先的に取得することで,評価対象駅の地震挙動把握の信頼性や精度を効率的に高められると考えられます.
 最後に,提案した取得優先度の検証のため,基礎梁の無い実駅(線路方向)を対象に,複数の地震波に対して動的解析を行い,設計図書から取得する情報量の多寡が推定精度に与える影響を調べました.
 検証結果を図5に示します.図4の青で示した諸元(感度の上位10項目程度)を取得した場合は,最大応答についてはほぼ正解に近い値を示した一方,塑性率(最大応答変位/降伏変位)については誤差が約20%でした.これに対し,同図の緑で示した諸元(青で示した諸元も含めて上位20項目程度)も追加で取得した場合は,塑性率の誤差は約10%にまで減りました.これより,取得する諸元を全諸元の中から優先度の高いものに限定しても,作業量に見合った精度で地震挙動を評価できました.

4.おわりに

 本稿では地震挙動を効率的に推定する手法として,等価1質点モデルおよび取得優先度を提案しました.今後は,推定手法の適用範囲の拡大や,実務に配慮した取得優先度の最適化等に取り組む予定です.

参考文献

1)本山絋希ほか:鉄道地震災害シミュレータの開発,鉄道総研報告,Vol.30,No.5,pp.5-10,2016
2)小野寺周ほか:インベントリ—法による橋りょう・高架橋の被害推定法,鉄道総研報告,Vol.33,No.12,pp.29-34,2019

執筆者:構造物技術研究部 駅空間研究室 谷嶋航
担当者:構造物技術研究部 駅空間研究室 清水克将,土井一朗
    鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 坂井公俊

発行者:嶋本 敬介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:津山 雅徳 【(公財) 鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 地盤防災】