施設研究ニュース
2026年9月号
トンネル検査における打音調査の支援システム
1.はじめに
鉄道トンネルの維持管理1)では,これまで熟練検査員による目視や打音調査が行われ,安全性が確保されてきました.しかし,近年の労働力人口の減少に伴い,検査員の確保や検査・診断精度の維持が課題となっています.そこで筆者らは,デジタル技術を活用してトンネル検査精度を確保しつつ省人化を図ることを目的とし,打音調査が必要な箇所(要打音箇所)の抽出技術,トンネル覆工壁面への要打音箇所および打音結果の投影技術を統合させたトンネル検査支援システムを開発しました.
2.要打音箇所の抽出
要打音箇所の抽出は,トンネル覆工壁面画像から取得した変状等の情報をメッシュ単位で整理し,要打音度算出式により評価することで行いました.図1に要打音箇所の抽出フローを示します.まず,壁面画像に対してAIによる変状抽出を行い,ひび割れおよび漏水等の変状,チョークによる浮きの記録位置を取得しました.ひび割れについては形状解析を行い,ひび割れ形状(閉合・交差・平行)を取得しました. 次に,壁面画像上に1 mメッシュを作成し,各メッシュ内のひび割れ量を表す指標としてTCI(Tunnel Crack Index)2)を算出しました.また,各メッシュにおいて,ひび割れ形状,漏水およびチョークの有無,打継目近傍かどうかを判定し,それぞれの条件をフラグとして整理しました.
3.トンネル覆工壁面への要打音箇所・打音結果の投影
既往研究において,現地確認すべき変状が抽出された要注意箇所をトンネル壁面に投影する「要注意箇所投影装置」が提案されています3).本研究では,この投影技術を基盤として,AIにより抽出した要打音箇所および打音結果を覆工壁面に直接投影できるようシステムの改良を行いました.トンネル覆工壁面への要打音箇所および打音結果の投影技術の全体概要を図3に示します.本技術では,要打音度ヒートマップを覆工壁面に投影するとともに,Bluetoothによる位置測位技術を用いてハンマー位置を取得しました.また,打撃音をワイヤレスマイクで収録し,打音データをメルスペクトログラム画像に変換して入力とするAI判定モデルにより清音・濁音を自動判定しました.これにより,打音位置・結果を壁面に投影し,メッシュに対応付けて記録できるようにしました.
4.実現場における検証
実現場において,開発したトンネル検査支援システムの検証を行いました.検証時の要打音度ヒートマップおよび打音結果の投影状況を図4に示します.抽出された変状および要打音箇所がトンネル覆工形状に合わせて壁面に投影され,打音結果も投影装置のビューアに即時反映されることを確認しました.本検証により,要打音箇所を明確に示すとともに打音結果を即時反映することで,効率的な打音検査が実施可能であることを確認しました.
謝辞
本研究の一部は国土交通省の交通運輸技術開発推進制度 JPJ002223 の助成を受けたものです.
参考文献
1) 鉄道総合技術研究所:平成19年1月 鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編) トンネル,2007.1 2) 海瀬忍,伊藤哲男,八木弘,水野希典,前田洸樹,進士正人:トンネル覆工の定量的な健全度評価手 法に関する検証,土木学会論文集F1(トンネル工学),Vol.74,No.1,pp.1-14,2018. 3) 山下雄大,仲山貴司,野城一栄:トンネル壁面画像を用いた検査支援システムの開発および改良,地下空間シンポジウム論文・報告集,Vol.31,2025.
執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 木下果穂
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 嶋本敬介
低強度安定処理工法の沈下抑制効果に関する追跡調査
1.はじめに
バラストの経年劣化が進行したバラスト軌道では,特に噴泥区間やレール継目部において沈下が発生しやすく,保守多投入箇所となっています.これらの箇所では,低コストで施工可能であり,かつ沈下抑制効果が長期間持続する対策工法の確立が求められています.これまでに,噴泥区間やレール継目部などにおける劣化バラストの沈下対策として,低強度安定処理工法1)を開発し,現地適用を進めてきました.本工法の補修材は,2022年度の適用開始から2026年3月現在までに,まくらぎ本数として累計18,000本分を超える数量が事業者において使用されています.このうち,2022~2023年度に500本分以上の補修材が適用された箇所を対象にヒアリングを実施した結果,多くの箇所で沈下抑制効果が一定期間持続していることがわかりました.一方で,ヒアリング対象とした500本分以上の適用箇所のうちの3%程度では,その効果が限定的でした.そこで本稿では,低強度安定処理工法を適用した箇所を対象に軌道検測データの分析および現地調査を実施し,その結果から得られた本工法の効果の持続性などの知見と適用上の留意点について報告します2).
2.低強度安定処理工法の概要
低強度安定処理工法は,つき固め位置のまくらぎ脇においてバラストを掘削し,補修材(超速硬セメントと高分子材料の混合材)を散布した後,バラストを埋め戻し,タイタンパを用いた従来のつき固め作業を施工することで,まくらぎ下のバラストを安定処理する工法です(図1).これにより,劣化したバラスト道床の強度を増加させ,沈下を抑制することを目的としています.本工法の主な特徴を以下に示します.
・施工直後からバラストの沈下抑制効果が期待でき,昼間の作業間合いにおける施工も可能
・安定処理後のバラストに対しても,タイタンパを用いた従来のつき固め作業の再施工が可能
・新品のバラストへの交換や発生バラストの廃棄をともなわないため,道床交換の1割程度のコストで施工可能
3.低強度安定処理工法の沈下抑制効果が持続した事例
本工法を施工してから2年半程度が経過した箇所を対象として,施工前後の軌道検測データを整理しました.追跡調査No.1(一般部)は,ハンドタイタンパ(以下,HTT)を用いた施工箇所です.当該箇所のバラストは劣化指数FI3)(20%以上が劣化の判定)が36%と高く,バラストが劣化していました.施工前(従来のつき固め作業から1ヵ月後)の高低変位が-16mmであったのに対して,本工法の施工32カ月後では-1mmでした(図2).追跡調査No.2(レール継目部)は,マルチプルタイタンパ(以下,MTT)を用いた施工箇所です.FIは35%と高く,バラストが劣化していました.施工前(従来のつき固め作業から1ヵ月後)の高低変位が-4mmであったのに対して,本工法の施工29カ月後では+4mmでした(図3).以上の結果から,本工法を所定の施工方法に従って適用した箇所では,施工後2年半程度が経過した時点においても,沈下抑制効果が持続していることを確認しました.
4.沈下抑制効果が限定的であった事例
沈下抑制効果が限定的であった箇所を対象として,施工前後の軌道検測データを整理しました.追跡調査No.3(一般部)およびNo.4(レール継目部)は,HTTを用いた施工箇所です.施工前は両箇所とも噴泥が発生しており,FIはNo.3が43%,No.4が39%と高く,バラストが劣化していました.ここで,施工当日は複数箇所で本工法が施工されており,No.3では補修材が不足したために,所定量を散布できませんでした.その結果,施工前(従来つき固め作業から2ヵ月後)の高低変位がNo.3で-8mm,No.4で-10mmに対し,施工2ヵ月にはそれぞれ-10mm,+3mmとなり,No.4では沈下抑制効果が発揮されましたが,No.3では十分な沈下抑制効果は得られませんでした(図4).これは,まくらぎ下のバラストが十分に安定処理されなかったためと考えられます.そのため,適切に補修材を計量して,必要量を確保することが重要です.
追跡調査No.5(一般部)および追跡調査No.6(レール継目部)は,MTTを用いた施工箇所です.施工前は噴泥が発生しており,FIはともに41%と高く,バラストが劣化していました.これらの箇所では,同一日に本工法が施工され,道床の掘削を行わずに道床表面に補修材を散布した状態でMTTによるつき固め作業が実施されました.その結果,施工前(従来つき固め作業の2ヵ月後)の高低変位がNo.5で-17mm,No.6で-19mmに対し,施工2ヵ月後にはそれぞれ-11mm,-18mmとなり,十分な沈下抑制効果は得られませんでした(図5).この要因として,MTTによるつき固め作業時に補修材が道床表層付近にとどまり,まくらぎ下のバラストと補修材が十分に混合されなかったため,安定処理による強度が不足した可能性が考えられます(図6).そこで,追跡調査No.7(一般部)では,道床表層に散布した補修材を用いた方法は必ずしも推奨されないものの,まくらぎ下のバラストを十分に安定処理する方法として,つき固めツールの間隔を散布箇所の直上まで狭めた状態で補修材の散布位置に挿入し,補修材をまくらぎ底面位置まで落とし込んだ後につき固め作業を行う施工方法を検討しました(図6).その結果,施工前(従来つき固め作業の1ヵ月後)の高低変位が-12mmであったのに対し,施工9ヵ月後には-4 mmとなり,一定の沈下抑制効果が確認されました(図7).
5.おわりに
本稿では,劣化バラストの沈下対策である低強度安定処理工法の適用箇所を対象として,沈下抑制効果に関する追跡調査の結果を報告しました.本成果をもとに更新された道床交換判定マニュアルが,鉄道総研の鉄道技術推進センターより2026年3月に発行されました.
参考文献
1)中村貴久:低強度安定処理工法を適用したバラスト軌道の沈下抑制効果に関する事例分析,第81回年次学術講演会,土木学会,VI-222,2025. 2)景山隆弘,中村貴久:劣化したバラストの沈下を抑制する低強度安定処理工法,日本鉄道施設協会誌,vol60,pp.619-622,2022. 3)Selig, E.T.:Ballast for heavy duty track. In: Track Technology, Proceedings of a Conference organized by the Institute of Engineers (ICE) , Nottingham, pp.245–252.,1985.
執筆者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 中村貴久
担当者:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 川崎直哉,高橋俊丞,柴田孝之
鉄道橋りょう・高架橋の地震時回転挙動の把握
1.はじめに
地震時には,橋りょうや高架橋に水平方向の振動だけでなく,構造物の上面が傾く「回転挙動」も生じます.この回転挙動は,構造物上に設置された電化柱などの付帯設備の地震応答に影響するため,適切に把握することが重要です.電化柱の耐震設計では,構造物の回転角θと水平変位δの比である「回転水平比kθ」が用いられています(図1).しかし,構造形式や基礎・地盤条件,周波数依存性,大規模地震時の構造物の損傷等が回転水平比kθに与える影響は十分に整理されていませんでした.そこで,これらの影響を整理しましたので,その概要を紹介します.
2.構造形式による回転水平比kθの違い
基礎固定条件,構造高さh,桁と柱の質量比がmrである単純な単柱橋脚(図2(a))に対して,回転水平比kθを理論的に導出しました1).その結果を式(1)に示しますが,回転水平比kθは構造高さhに反比例することが分かります.
3.回転水平比kθに影響を与える要因
続いて,基礎・地盤条件が回転水平比kθに与える影響を整理しました2).単柱橋脚を対象とした解析結果の一例を図4に示しますが,kθ×hは約0.7となり,基礎固定とした条件より回転水平比kθが小さくなることが分かります.これは,地中部では回転変形よりも水平変形が生じやすく,構造物全体の水平変位に占める回転変形の割合が小さくなるためです. 次に回転水平比kθの周波数依存性について示します.解析結果の一例を図5に示しますが,低振動数では回転水平比kθは概ね一定ですが,高振動数では大きくなる傾向があります.このため,高架橋上に存在する振動数の高い付帯設備などでは,構造物の回転挙動の影響がより顕著になる可能性が考えられます.
最後に,部材の塑性化が回転水平比kθに与える影響を確認しました.図6に示すように,柱や梁,杭などの部材の塑性化に伴って回転水平比kθは複雑に変化するものの,最終的にkθ×hは単柱橋脚で1,ラーメン高架橋で0に近づくことが確認できます.これは図7に示すように,単柱橋脚では柱脚ヒンジによる回転挙動が卓越すること,ラーメン構造では柱の上下端が損傷することで梁が水平を保つような変形が卓越するためです.
4.おわりに
橋りょう・高架橋の回転挙動に着目し,構造形式や基礎・地盤条件,部材の塑性化が回転水平比kθに与える影響について紹介しました.今後も引き続き検討を深度化させることで,将来的には付帯設備の設計の合理化や回転挙動の観点で適切な構造形式の実現に結び付けることを目指します.
参考文献
1) 山下大輝,坂井公俊:鉄道橋りょう・高架橋の地震時回転挙動に関する基礎的検討,土木学会論文集,Vol.81,No.13,24-13533,2025. 2) 宇田周平,山下大輝,坂井公俊:橋りょうの高さ・地盤条件・非線形性が地震時回転挙動に与える影響把握のための解析的検討,土木学会論文集,Vol.82,No.13,25-13332,2026.
執筆者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 山下大輝
担当者:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 宇田周平,野口岳輝
発行者:嶋本 敬介 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:杉本 英治 【(公財) 鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 土構造】
