施設研究ニュース

2017年6月号

鉄骨造旅客上家の耐震診断指針

1.はじめに

 特定鉄道等施設の地震に対する安全性を向上させるための耐震補強の実施について努力義務を課す耐震省令が平成25年4月1日から施行になり、旅客上家がその対象となりましたが、既存旅客上家の耐震性能評価方法が定まっていませんでした。そこで、既存鉄骨造旅客上家に対して、構造形態や構造種別に応じた耐震性能の評価方法を検討し、鉄道事業者における今後の耐震診断業務で運用可能な耐震診断指針を整備しました。
 本稿では、検討した内容および指針の概要について報告します。

2.検討概要

 鉄道事業者等による検討会(メンバー:JR、民鉄、鉄道運輸機構、鉄道総研)を構成し、指針に向けた諸課題についての検討・議論を行いました。
 以下に主な検討項目についての概要を示します。

2.1 旧国鉄標準タイプ旅客上家の耐震性能評価

 旧国鉄では「昭和44年度版旅客・貨物上家標準図」および「昭和58年度版小型旅客上家標準図」において設計された旅客上家が140パターンあり、架構形状は表1のように分類されます。これらの旅客上家の標準図から建築物の耐震改修の促進に関する法律に準拠した耐震診断(以下、耐震改修促進法)を実施しました。その結果、旧国鉄標準タイプ旅客上家のほとんどは耐震診断基準を満足することがわかりました。そのため、現地調査で設計標準との整合性を確認することによって診断不要とできる可能性が高いことがわかりました。また、旅客上家に特徴的な柱梁接合部の構造性能評価を実施しており、これらと類似する旅客上家における柱梁接合部の評価事例として取りまとめました。

表1 架構形状
表1 架構形状

2.2 高架上家における応答増幅評価

 高架上家は高架橋の上部に建設されるため、高架上家に作用する地震力の設定には高架橋との連成による応答増幅を考慮する必要があります。このような応答増幅の評価法として、一般建築物ではAi分布(地震層せん断力係数の建築物の高さ方向の分布、i は層であり、1が高架橋、2が高架上家)が用いられており、算定方法には略算法と精算法があります。高架橋と高架上家のように鉛直方向の質量や剛性が大きく異なる場合には、精算法を用いないと危険側の評価になる可能性があることがわかっていました1)が、精算法の算出過程は煩雑でした。そこで、高架上家の特徴を考慮した応答増幅の簡便な評価法を提案しました。具体的には、高架橋と高架上家を図1に示す2層構造物としてモデル化し、高架橋に対する高架上家の質量比、固有周期比を用いてA2の定式化を行いました(図2(a))。定式化にあたっては、高架上家と高架橋の共振領域に幅を持たせる(図2(b))ことで、固有周期比の推定誤差に対して安全側に評価可能な式としました。

図1 高架駅の質点系モデル
図1 高架駅の質点系モデル
図2 高架上家耐震診断用A2
図2 高架上家耐震診断用A2

3.耐震診断指針の概要

 以上の検討結果等を踏まえて、鉄骨造旅客上家の耐震診断指針を作成しました。指針の全体構成を図3に、概要を以下に示します。

図3 指針の全体構成
図3 指針の全体構成

(1)適用範囲

 想定される大規模地震時に既存鉄骨造旅客上家の倒壊を防ぐ性能を確保することを目的とした耐震診断に適用します。

(2)基本方針

 地平上家と高架上家を対象とします。地平上家は、過去の地震による構造被害事例が少なく復旧対応が高架上家に比べて容易であること、架構形態が一般建築物に比べて軽微で単純であること等の理由から、診断手法は耐震改修促進法に準拠しなくてもよいとしました。
 一方、高架上家では、高架橋との連成を考慮した高度な診断が要求されることから、耐震改修促進法に準拠した耐震診断によることとしました。
 以上を踏まえた耐震診断のフローを図4に示します。

図4 旅客上家の耐震診断フロー
図4 旅客上家の耐震診断フロー

(3)目標性能

 想定される大規模地震での人命確保のために旅客上家の倒壊を防止できるレベルとします。地震時および地震後の上家の機能保全は保証していません。

(4)本診断

 地平上家の耐震性評価は、柱部材(柱脚含む)、柱梁接合部、地盤および基礎構造について行うこととし、設計標準として保有性能の確保が確認されている場合は、基礎調査・実態調査の実施を前提に耐震診断を省略してよいこととしています。
 一方、高架上家については、高架橋上部にあることによる地震荷重の増幅を適切に考慮して行うこととしています。耐震性能の評価は、保有水平耐力に係る指標q値と部材の靱性を考慮した耐震性能指標Is値で評価することを基本としています。

4.おわりに

 本稿では鉄骨造旅客上家の耐震診断指針について、指針作成に向けた検討内容および指針の概要について紹介しました。本指針の暫定版は既に鉄道技術推進センターにおいて公開しており、暫定版に対するご意見等を反映させた最終版は2017年6月中に公開する予定です。

【参考文献】

1) 山田聖治,武居泰,清水克将:高架橋上旅客上家の地震応答特性と耐震設計法の提案,鉄道総研報告,Vol.22,No.10,pp.23-28,2008

(記事:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将)

レール締結装置の性能確認に用いる荷重算定法の改良点

1.はじめに

 軌道部材のうち、レール締結装置はレールをまくらぎ等の支承体に固定し軌間を一定に保持する機能を有し、鉄道車両の安全な走行を供するために重要な働きを担っており、その設計にあたり鉄道構造物等設計標準(軌道構造)(以下、「軌道構造標準」)において規定された安全性や使用性といった性能の照査を満足することは勿論、要求される各種機能を満足するか確認することが重要です。

 鉄道総研では近年、性能照査や機能の把握を目的に実施してきたレール締結装置の性能確認試験の方法について、実験や解析手法による精度向上を進めてきましたが、本稿では近年の研究開発を通して得られた知見に基づくレール締結装置の性能確認試験の条件算定に関する変更点をご紹介します。

2.レール締結装置の照査に用いる新たな荷重算定法の提案

 軌道構造標準では、レール締結装置の疲労破壊に関する安全性の照査における応答値の算定に際し、構成部材の種別や材料が多岐に及ぶこと等を踏まえて、実物によりレール締結装置を構成したうえで試験により設計作用に対する応答値を算定することが規定されていますが、その方法は①レール締結装置一組に対する静的載荷試験による方法、および②実軌道を模擬した試験軌道に対する静的載荷試験による方法の二種類であり、等間隔で同一レール締結装置が連続的に敷設されている条件であれば①を、そうでない条件であれば②の方法を適用することになっています。

 このうち、①では過去に提案された弾性支承上の梁理論により荷重分散(レール圧力、レール横圧力)を、レール小返り理論によりレールの小返り角を算定し、レール小返り角を再現する荷重条件を導く従来法が適用されてきました。しかし、近年従来法に基づき算定した荷重条件を適用して載荷試験で得られるレール小返り角の実測値がレール小返り角の算定値と比較して小さく、両者に乖離が認められることが課題となっていました。

 そこで、レール締結装置周りの各種ばね特性を非線形として設定しレール締結装置一組あたりに作用するレール圧力・レール横圧力、およびレール小返りモーメントを算定可能なFEMレール小返り解析モデル(図1)を開発し、本モデルを用いた荷重算定手法(提案法)を提案しました。

 同一の軌道条件を設定し単一荷重による載荷試験の応答値を比較した結果、従来法と比較して提案法により算定したレール小返り角の方が実軌道を模擬した試験軌道の結果と良好に一致しており、提案モデルが妥当かつ精度向上を図ることが可能なものであることを確認しました(図2)。

 また、提案モデルを用いて斜角載荷試験の二軸載荷の荷重条件を算定し、これを適用して載荷した際の応答値を試験軌道による二軸載荷の応答値と比較した結果、締結ばねの応力の比較により両者がよく一致することを確認しました(図3)。これらの検討結果および過去の性能照査の実績を踏まえ、今後は先ず直結系軌道用レール締結装置の斜角載荷試験に際し、提案した小返り解析モデルを用いてレール締結装置一組に作用する荷重条件を算定し試験に適用することとしました。

図1 解析モデルの概要
図1 解析モデルの概要
図2 従来法と提案法による応答値の比較
図2 従来法と提案法による応答値の比較(9形レール締結装置)
図3 応答値の比較例(直結8形,軌間内側・下ばね)
図3 応答値の比較例(直結8形,軌間内側・下ばね)

3.レール継目部用のレール締結装置の荷重条件の検討

 前章に示した②の試験軌道による方法でレール継目部に適用するレール締結装置の性能照査を行う場合、設計作用としてレール締結装置の設計作用(ごくまれに発生するA荷重、しばしば発生するB荷重)を直接試験軌道に載荷し、締結ばね応力やレール変位といった応答値を算定します。ここで、レール継目部に適用するレール締結装置については、継目部走行時の衝撃を考慮した設計作用の補正が必要ですが、軌道構造標準には明記されていません。
 そこで今回、荷重条件の補正方法について検討を行い、同じく軌道構造標準に示され実績のあるレール継目部の照査に用いる設計作用の算定方法を参考に、レール締結装置の設計作用の補正方法を提案しました。これは、継目部における速度衝撃率の考え方を導入し荷重の割り増しを行うというものです。なお、速度衝撃率は以下の式で表されます。

i=1+0.5V/100  ここに、i:速度衝撃率,V:走行速度 [km/h]

 一般部を想定した試験軌道による載荷試験では、静止輪重に変動係数(表1)を乗じて作用の特性値を算定し、さらに作用係数を乗じて設計作用を算定します。
 一方、継目部を想定した試験軌道による載荷試験の場合、A荷重相当の設計作用は、静止輪重に曲線半径に応じたA荷重の変動輪重係数および変動横圧係数を乗じて作用の特性値を求め、さらに(速度に応じた速度衝撃率)/(A荷重の変動輪重係数)および作用係数を乗じて算定することとしました。B荷重相当の設計作用は、静止輪重に曲線半径に応じたB荷重の変動輪重係数および変動横圧係数を乗じて作用の特性値を求め、さらに作用係数を乗じて算定することにしました。

 一例として、在来線で静止輪重が75[kN]、走行速度が100[km/h]、曲線半径が600[m]以下の曲線の継目部に適用するレール締結装置の設計作用のうち、A荷重については表1より変動輪重係数1.3、変動横圧係数0.8であることから、設計作用の鉛直および水平方向成分は次に示すように算定されます。

鉛直方向成分:75 [kN]×1.3×(i/1.3)=112.5 [kN],水平方向:75 [kN]×0.8×(i/1.3)=69.2 [kN]

表1 変動輪重・横圧係数
表1 変動輪重・横圧係数

4.今後の展望

 今回ご紹介したレール締結装置の性能確認試験の条件算定に関する変更点については、実際の性能照査において既に一部適用を開始しています。軌道技術研究部(軌道構造)では、レール締結装置の性能確認試験の精度向上の一環として、引き続き設計荷重の考え方を含めたレール締結装置の斜角載荷試験の荷重条件の見直しについての研究開発を進めてまいります。

(記事:軌道技術研究部 軌道構造研究室 弟子丸将)

目視に基づくRC構造物の鉄筋腐食速度の推定法

1.はじめに

 供用中の鉄筋コンクリート(以下、RC)構造物の劣化を予測するには、コンクリート中の鉄筋腐食速度を評価することが重要です。従来、鉄筋腐食速度は、鉄筋のはつり出しから腐食後の断面積を計測して推定した値とするか或いは短期の暴露試験等を基に評価された値としていました。しかし、鉄筋のはつり出し等の労力が必要であること、短期の暴露試験等で得られた値では様々な環境条件下に曝される供用中のRC構造物の劣化を再現できないといった課題がありました。そこで、供用中のRC構造物を対象として、従来必要であった鉄筋のはつり出しを必要とせず、目視に基づき、実環境下での鉄筋腐食速度を推定する方法を提案しました。また、推定した鉄筋腐食速度を基に、鉄筋腐食速度に影響を及ぼす因子を分析し、鉄筋腐食速度への影響が最も大きい雨がかりを考慮した鉄筋腐食速度を提案しました。

2.目視に基づく鉄筋腐食速度の推定法

 本推定法で必要な調査項目は、かぶり、中性化深さ、鉄筋径の他、かぶりコンクリートのはく落面積です。かぶり、中性化深さ、鉄筋径は、鉄筋腐食の要因の推定など本推定法での用途以外においても必要な調査項目です。そのため、本推定法用に新たに必要な調査項目は、かぶりコンクリートのはく落面積のみとなります。かぶりコンクリートのはく落面積は、基本的に目視で調査が可能です。

 本推定法は、目視で得られるはく落面積を基に、鉄道構造物等維持管理標準・同解説(以下、維持管理標準)に示す劣化予測モデルを用いて逆解析により鉄筋腐食速度を推定します。まず、鉄筋腐食による劣化を対象とするため、軸方向鉄筋や帯鉄筋など腐食する可能性のある鉄筋の直上にメッシュを作成します。1メッシュが実環境に暴露された鉄筋とコンクリートから成るRC試験体と捉えることができ、メッシュ数だけ試験体があるとみなせます。次に、メッシュ毎に、目視に基づき、かぶりコンリートがはく落しているかを判定します(図1①)。次に、メッシュ毎に、目視に基づき、かぶりコンリートがはく落しているかを判定します(図1①)。一方で、メッシュ毎に、劣化予測を行い、目視調査時点ではく落と予測されるかを判定します(図1②)。ここで、ポイントとなるのが、劣化予測モデル中の鉄筋腐食速度をパラメータとすることです。そして、図1①と図1②のはく落面積を比較し(図1③)、劣化予測から得られたはく落面積(図1②)が、目視から得られたはく落面積(図1①)と同等となるように、鉄筋腐食速度を推定します(図1④)。

図1 目視に基づく鉄筋腐食速度の推定法
図1 目視に基づく鉄筋腐食速度の推定法

3.雨がかりを考慮した鉄筋腐食速度の提案

 様々な環境条件下に曝される供用中のRC構造物の劣化を予測するには、鉄筋腐食速度への影響が大きい因子を選定し、汎用的な鉄筋腐食速度の推定式を構築することが重要です。例として、中性化により劣化が生じたラーメン高架橋の柱を対象として、鉄筋腐食速度に及ぼす各因子の影響について検討した結果、かぶり、中性化残り、中性化深さが小さいほど、鉄筋腐食速度は大きい傾向でした(図2)。ただし、雨がかり等による滞水跡が目視で確認できるような箇所とそれ以外の箇所を比べると(図2中の滞水跡有・無)、かぶり、中性化残り、中性化深さが鉄筋腐食速度に与える影響は小さいことがわかります。そのため、鉄筋腐食速度を評価するには、雨がかり等による滞水跡の有無を考慮することが最も重要であると考えられます。維持管理標準では、滞水跡有無に関わらず鉄筋腐食速度は、3.0×10-3mm/年としていますが、これらの結果より、鉄筋腐食速度は、滞水跡有の場合に3.5×10-3mm/年、滞水跡無の場合に1.5×10-3mm/年とすることを提案しています。これにより、従来の劣化予測では、湿潤状態と比べ、乾燥状態である方が先にコンクリートがはく落すると予測されるため、現地の状況を再現できていませんでしたが(図3)、提案した雨がかりを考慮した鉄筋腐食速度を用いた劣化予測では、現地の状況を再現できることを確認しています(図4)。

図2 鉄筋腐食速度とかぶり,中性化残り,中性化深さ,滞水跡有無の関係
図2 鉄筋腐食速度とかぶり,中性化残り,中性化深さ,滞水跡有無の関係
図3 従来の劣化予測結果
図3 従来の劣化予測結果
図4 提案した鉄筋腐食速度を用いた劣化予測結果
図4 提案した鉄筋腐食速度を用いた劣化予測結果

4.まとめ

 提案した推定法で得られた鉄筋腐食速度は、個別検査における健全度判定の深度化、補修・補強の優先度や実施時期の設定など維持管理計画の策定等に活用できると考えています。本研究が維持管理業務の一助となれば幸いです。

(記事:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 轟俊太朗)

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