施設研究ニュース

2017年7月号

プレキャストパネルと高強度繊維補強モルタルによる鉄道高架橋柱の耐震補強工法

1.はじめに

 鉄道RC構造物の耐震補強は、新幹線、都市部の橋脚、高架橋を中心に進められており、近年では、施工スペースの確保が困難な狭隘部や、早期開放が必要とされる店舗利用箇所での施工が増加しています。また、近年、建設業就業者数の減少や建設技術者、技能労働者の高齢化が顕在化しており、鉄道RC構造物の耐震補強工事においても、生産性の向上を図る必要があります。そこで、(公財)鉄道総合技術研究所,東急建設(株)および(株)ホクコンは、狭隘部等の施工困難箇所に適用かつ、施工箇所の早期開放、施工の省力化を可能とする耐震補強工法の開発を共同で行っています。本稿では開発した耐震補強工法の概要について報告します。

2.工法概要

 本工法は、耐震補強のプレキャスト化を目的に、プレキャストパネル(以下、パネル)と高強度繊維補強モルタル(以下、モルタル)を用いた耐震補強工法です。図1に本工法の補強を構成する部材、図2に施工手順を示します。本工法は、2種類のL型の接続鋼材(type-S、type-D)、接続ボルト、パネルおよびモルタルから構成され、接続鋼材にパネルをボルト接合し、所定の径および強度区分の接続ボルトにて閉合することでパネルを既設柱の周囲に配置します。その後、パネルを埋設型枠として、既設柱との隙間にモルタルを充填させることで既設柱と一体化させる工法です。補強鉄筋の組立、型枠および脱型作業を省略することで、施工の省力化および短期施工を図り、パネルを柱周囲に4分割とし、ボルト接合とすることにより、大型重機、溶接作業を必要とせず、狭隘部での施工を可能としています。

 本工法にて使用するモルタルは、厚さ35mmを標準とした鋼繊維補強モルタルであり、現場での練混ぜを想定したプレミックス製品です。パネルは厚さ15mmを標準としたレジンコンクリート製です。接続鋼材には、内側(既設柱側)にナット溶接を行うことで、外側からのボルト接合が可能な構造としています。本工法は、補強の目的をせん断補強、じん性補強としています。補強の目的がせん断補強の場合、既設柱の周囲に接続鋼材type-Sを配置し、じん性補強の場合は、既設柱の塑性ヒンジ区間は接続鋼材type-D、それ以外の区間はtype-Sを配置する仕様としています。

3.載荷試験による補強効果の確認

(1) せん断耐力の確認

 せん断耐力の確認には、無補強RC梁および本工法にて補強した補強RC梁を用いた静的載荷試験を実施しました(写真1)。図3に試験体のせん断力‐変位関係を示します。図3に示す補強RC梁の試験体は接続鋼材type-Sを用いて補強を行っています。本工法にて補強することで、せん断耐力が向上することを確認しました。また、鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)1)を参考に、既設柱の帯鉄筋、接続鋼材およびモルタルを修正トラス理論におけるせん断補強材として累加したせん断耐力の算定値を超過することを確認しています。

(2)変形性能の確認

 変形性能の確認には、本工法にて補強した実大補強RC柱を用いた正負交番載荷試験を実施しました(写真2)。図4に試験体の荷重‐変位関係を示します。図4に示す補強RC柱の試験体は、塑性ヒンジ区間に接続鋼材type-D,それ以外の区間にtype-Sを用いて補強を行っています。本工法にて補強することで,せん断破壊型の試験体を曲げ破壊型へ移行できることを確認しました。また、実験値は、既存鉄道コンクリート高架橋柱の耐震補強設計指針2)に示される鋼板巻き立て補強の算定式により算出した骨格曲線を包含しており、既往の算定式により評価できることを確認しています。

4.おわりに

 本稿で報告した耐震補強工法は,東急建設(株)、(株)ホクコンと共同研究にて、設計・施工指針を取りまとめています。本工法に関するご質問および内容に関する不明な点がございましたら、コンクリート構造研究室までお問い合わせください。

参考文献

1)(公財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造),2004

2)(公財)鉄道総合技術研究所:既存鉄道コンクリート高架橋柱の耐震補強設計施工指針,2013

(記事:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 笠倉亮太)

杭基礎による入力損失効果の簡易な算定手法

1.はじめに

 杭基礎を有する構造物では、地震時において地盤‐杭基礎系の動的相互作用により入力損失が生じることが知られています。入力損失とは、剛性を有する基礎が周辺地盤の動的な挙動を拘束することで、構造物に入射される地震動が自然地盤における地震動より小さくなる現象です。この入力損失を耐震設計に考慮することで、地震作用が低減でき実現象に即した合理的な構造物設計が可能となります。しかし、静的解析法を用いた耐震設計において、入力損失を合理的に評価する手法はなく、設計実務においては入力損失の影響は考慮されていないのが実情です。このような背景を踏まえ、鉄道構造物に多く採用されている杭基礎構造物における入力損失を静的解析法に導入可能な手法を開発しました。本稿では評価手法の概要および実橋りょうを対象とした地震作用の低減例を紹介します。

2.入力損失効果の評価手法

 入力損失は、自然地盤の地震応答に対する基礎構造物の応答の比(以下、有効入力係数η)を算定することで評価することができます。1-ηは入力損失であり、実際に構造物に入射される地震動の自然地盤からの低減倍率を表わします。入力損失は、地震時における自然地盤の挙動による地盤と杭基礎の相互作用により発現することから、本手法では自然地盤の挙動を固有値解析により作用力として表現し、地震作用による基礎構造物の応答を応答変位法により評価します。評価手法の詳細な手順を下記および図1に示します。

Step1

 自然地盤をモデル化し、固有値解析を実施することで、各モード次数における自然地盤の固有振動数および固有モード形状を算出します。

Step2

 固有値解析から算出した各固有モード形状を地盤変位と仮定して、応答変位法を用いて基礎構造物に作用させることで基礎構造物の変位応答を算出します。

Step3

 Step2から算出した基礎構造物の変位量を作用させた自然地盤の変位量で除すことで、各モード次数の固有振動数に対する有効入力係数ηを算出します。

Step4

 各固有振動数の有効入力係数ηを直線補間し振動数領域における有効入力係数ηを算定します。

 なお、Step1の固有値解析では耐震設計における構造物の振動数帯である3次モードまでを考慮します。また、本手法は、応答変位法の概念を用いた手法であり設計実務への適用性が非常に高い手法です。

3.評価手法による地震作用の低減例

 前述の評価手法を用いて算定した有効入力係数η(入力損失)を考慮した地震動を使用して所要降伏震度スペクトルを作成することで、耐震設計で使用する地震作用を低減することができます。そこで、本章では、実橋りょうを対象に評価手法による地震作用の低減例を示します。

(1)検討の概要

 検討で対象とした構造物は、9本(3×3)の完全支持杭を有する一般的な鉄道橋りょうです。杭の諸元は、杭長21.0m、杭径1.0m、杭間隔3.0mとしました。また、地盤条件は、G3地盤(普通地盤)相当の多層地盤を想定しました。このような条件において、評価手法を用いて算定された有効入力係数ηを図2に示します。

 所要降伏震度スペクトルの作成には、別途著者ら1)が開発したランダム振動論を活用した所要降伏震度スペクトルの補正手法を使用しました。また、対象地震動は、鉄道の耐震基準に示される設計地震動(L2スペクトルII G3 地盤)および短周期成分が卓越する2011年の東北地方太平洋沖地震における築館における記録を用いました。

(2)入力損失を考慮した所要降伏震度スペクトル

 上記条件により算出した所要降伏震度スペクトルを図3に示します。同図には、入力損失を考慮した場合と考慮ない場合の両方のスペクトルを示しています。図から明らかなように、いずれの結果においても、所要降伏震度スペクトルの低減は、短周期において顕著に表れています。一方、入力地震動による違いを見てみると、設計地震動に比べ短周期が非常に卓越した東北地方太平洋沖地震では、入力損失により短周期成分がカットされ、波形全体に与える影響が大きくなることから、短周期の構造物の応答を低減させていることが分かります。

4.おわりに

 本稿では、杭基礎構造物における入力損失を静的解析法に導入する手法について概要を紹介し、実橋りょうを対象とした地震作用の低減例を示しました。本手法は現在、静的非線形解析プログラム(JR-SNAP)に導入され設計実務で利用可能となっています。

 なお、3章では防災科学技術研究所の強震観測網K-NETおよびKiK-netで得られた記録で得られた記録を用いました。ここに、深く感謝の意を表します。

参考文献

1) 寳地雄大,室野剛隆:1柱1杭形式のラーメン高架橋の入力損失効果とその評価手法の提案,第36回土木学会地震工学研究発表会,2016.

(記事:鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 寳地雄大(現 JR 東海))

直線ロングレール区間のPC まくらぎの荷重環境の実態と設計荷重係数の提案

1.はじめに

 PCまくらぎの設計は鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造(軌道標準)に基づき行われます。設計応答値の算定においては、図1に示すように、動的相互作用解析による方法(動的解析法)と静的解析による方法(静的解析法)があります。近年では動的解析法による検討1)も行われつつありますが、PCまくらぎの設計実務においては、静的解析法が未だに主流です。静的解析法では、設計荷重に対して動的・衝撃作用の影響を考慮するために変動係数を、レール長手方向への荷重分散の影響を考慮するために分散係数を乗じることで安全側に包含することとしていますが、現在一般的に使用されているこれらの係数についてその妥当性を検討した事例はほとんどないのが実態です。
 そこで本研究では、直線ロングレール区間を対象にPCまくらぎ発生応力を測定し、使用性の照査に用いる敷設環境に応じた変動係数および分散係数の提案を行いました。なお、安全性の照査に用いる変動輪重係数については、既往の研究により十分な実証試験が行われています。

2.対象PCまくらぎ

 現地試験においては、図2のように各種ゲージを設置し、輪重・横圧およびPCまくらぎの発生応力を測定しました。今回は、鉄道事業者3社において、それぞれ大量に敷設されている土路盤上の直線区間用PCまくらぎを対象としました。その一部にはJIS-3号PCまくらぎも含まれます。3社の形状の異なるPCまくらぎに共通する条件を以下に示します。①設計輪重80kN、設計変動輪重係数2.0、設計横圧40kN、設計変動横圧係数1.5、設計分散係数0.5で設計(いずれの係数も一般的にPCまくらぎの設計で用いられる値)。②レールは50kgNレール。③現地測定実施の過去1年間に軌道整備は未実施。

3.直線ロングレール区間におけるPCまくらぎの荷重環境の実態

 図3に測定結果の例として3社中1社の結果を示します。直線ロングレール区間であり、測定横圧は設計輪重の1/4以下の値であったため、横圧に関しては記載を省略します。

 図3(a)より、同じ車種であっても列車によって輪重がばらつくことがわかります。これは車両重量や車輪踏面の凹凸形状の違いに起因すると考えられます。また、測定輪重の最大値は車種②の輪重141kNであり、変動輪重係数2.0を考慮した設計輪重160kN以内となりました。

 図3(b)には、測定輪重を測定輪重の最小値で除すことにより求めた変動輪重係数を示します。変動輪重係数は最大で1.8程度であり、すべての試番において設計変動輪重係数2.0以内となりました。

 図3(c)には、PCまくらぎのレール位置断面における正曲げモーメントについて車種②の結果のみ示します。曲げモーメントの平均値が大きい方から3本の結果のみを記載しました。同図より、デコンプレッションモーメントを超過する試番が確認されましたが、これは、図3(a)に示した車種②において141kNの輪重が測定された試番です。ただし、デコンプレッションモーメントを超える曲げモーメントが発生したとしても、PCまくらぎのコンクリートの引張強度の特性値3N/mm2の引張応力がまくらぎ断面の引張縁に生じるときの曲げモーメント以内には収まっており、PCまくらぎにひび割れや折損が直ちに発生するわけではありません。

 図3(d)より、連続する5本のPCまくらぎの発生曲げモーメントに基づき算定した分散係数を示します。分散係数は最大で概ね0.5程度であることがわかります。ただし、個々のPCまくらぎの支持状態における差異に起因してまくらぎごとに分散係数がばらつく結果となりました。これらの要因としては、軌道を構成する各種パラメータのばらつきの影響が考えられます。

4.動的解析法によるパラメータの影響検討

 図1に示した動的解析法を用いて各種パラメータが分散係数に及ぼす影響について検討を行いました。

 特に影響が大きかったパラメータであるまくらぎ敷設間隔、まくらぎの支持状態に関する解析結果の例を図4に示します。図4(a)より、敷設間隔が33本程度未満になると分散係数が0.5を超えること、図4(b)より、隣接するまくらぎに浮きまくらぎを想定すると分散係数は0.5を超えることがわかります。

5.まとめ

 ①PCまくらぎに作用する輪重は、変動輪重係数2.0を考慮した設計輪重160kN以内であること、設計変動輪重係数2.0は概ね妥当な値であること、②PCまくらぎの支持状態によっては、設計分散係数0.5を超過する可能性があること、などがわかりました。

 以上の結果を踏まえて、表1に設計に用いる変動輪重係数と分散係数の例を示しました。今後は走行列車の違いやレール継目部に着目した同様の検証を実施したいと考えています。

参考文献

1)渡辺ら:PCまくらぎの動的応答性状に対するレール継目部の影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.2,pp985-99,2016

(記事:鉄道力学研究部 構造力学研究室 渡辺勉)

鉄筋コンクリート構造物性能照査支援プログラム
VePP-RC/PRC(Ver.4.01~4.05)における
PC構造に対するコンクリートの縁引張応力度の限界値の修正のお知らせ

1.はじめに

 現在、鉄道総研では、「鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)1)」(以下、RC標準)に準拠した鉄筋コンクリート構造物性能照査支援プログラムVePP-RC/PRCを販売しています。このたび、VePP-RC/PRC のVer.4.01~4.05において、PC構造に対するコンクリートの縁引張応力度の限界値が適切に算定されていないことが確認されたため、Ver.4.06において、コンクリートの縁引張応力度の限界値の修正を実施いたしました。なお、PRC構造については、適切に算定されることが確認されています。

2.コンクリートの縁引張応力度の限界値の修正について

 RC標準では、PC構造における照査の前提において、永久作用と変動作用が組み合わされた場合のコンクリートの縁応力度が引張応力となる場合、設計ひび割れ強度(RC標準 解説表11.5.1に示されるコンクリートの縁引張応力度の制限値)以下に制限することになっております(RC 標準11.5(3))。しかしながら、Ver.4.01~4.05において、断面高さが2mより大きいPC構造に対するコンクリートの縁引張応力度の制限値が適切に算定されていないことが確認されました(図1 赤線)。

 プログラム修正前においては、断面高さが2mより大きいPC構造に対するコンクリートの縁引張応力度の制限値は、断面高さ2mの値が算出されておりました(図1 赤線)。すなわち、修正により断面高さが2mより大きいPC構造における縁引張応力度の制限値が減少します。最大誤差は、設計基準強度f‘ck=40N/mm2,断面高さH≧3mのケースにおいて発生し,σbl は1.3N/mm2から1.1N/mm2 に減少する結果となりました。

 PC構造においては、コンクリートの縁引張応力度の検討が断面を決定する場合がありますので、Ver.4.01~4.05で計算した断面高さが2mより大きいPC構造につきましては、適宜、照査の前提(応力度の制限)における照査値等をご確認いただけますようお願い申し上げます。

3.おわりに

 本件に関する修正版VePP-RC/PRC Ver.4.06 のリリースは、別途ユーザーの皆様に通知します。通知内容に従い、ダウンロードによるプログラム修正のほど、よろしくお願い申し上げます。

参考文献

1)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004

(記事:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 大野又稔)