施設研究ニュース

2018年12月号

吊り長さの短い駅舎天井の耐震改修工法

1.はじめに

 高架下駅等では,天井吊り長さ(天井懐高さ)を十分確保できないものの,天井裏への設備配管等のスペースを確保することは通常高さの天井と同様に求められます.この場合,天井技術基準1)の一般的な耐震化手法である斜め部材(耐震ブレース)では,天井裏空間を塞ぐために適用が困難な場合や,取付け角度が適用範囲外となる場合があります(図1).一方,吊りボルト等の天井下地材を溝形鋼等の準構造部材で構成する手法もありますが,高架橋への準構造部材用アンカーの施工や天井レベル調整等の施工が困難であり,工費が高価となる課題がありました.そこで,吊り長さの短い駅舎天井に対して,施工性が高くかつ天井裏空間スペースを遮蔽しない耐震改修工法を開発しました.

図1 吊り長さの短い天井における耐震化の課題

2.改修工法の概要

 耐震改修工法の概要を図2に示します.これは一般的な小径の鋼管を補強材として用い,吊りボルトを覆うように鋼管を設置した後に,鋼管下端をナットにより締付けたものです.これにより鋼管には吊りボルトを反力とした初期圧縮軸力が導入され,吊り元である高架橋と鋼管を接触させ,地震時に天井に作用する水平力に対して鋼管の支圧力により抵抗することを期待しています.また,吊りボルト上部の補強により相対的に下部のハンガー部分が弱点となることを防止するため,耐震ブレース設置時にも用いられる従来のハンガー補強材である金具RPと,ハンガー部分の回転抵抗のために追加野縁受けを設置しています.これらの構成部材は安価で施工が容易であり,天井裏空間を僅かに遮蔽する程度で済むため,吊り長さの短い天井への適用に対して有効です.

3.実験による耐震効果の確認

3.1 実験概要
 この耐震改修工法の耐震効果を検証するため,構造実験を実施しました.補強材である鋼管は,角パイプ□25mm×t1.6mmを用いました.実験因子は,吊り長さが300mmと450mmの2パターン,加力方向が野縁受け方向と野縁方向の2パターンであり,試験体数は合計4体です.試験体の一覧を表1に,天井の仕様を図3に示します.天井の仕様は各試験体共通であり,角パイプの長さが吊り長さに応じて異なっています.吊りボルトの締付けトルクは,実際の天井施工時に管理が困難であることを考慮して,スパナ等により導入できる通常のトルク値15Nmを実験上の管理値としました.
 加力は,加力冶具を天井スパンドレルにボルトとナットにより止めつけ,加力冶具を介して正負交番に水平載荷しました.載荷スケジュールは天井技術基準を念頭に,0.45kN(水平震度0.5G相当),0.9kN(1.0G),1.5kN(1.65G),2.0kN(2.2G),3.0kN(3.3G)のそれぞれの荷重時変位を正負3サイクル載荷した後に,正側片方向に変形角1/10まで載荷しました.

3.2 実験結果
 水平荷重-水平変位の関係を図4に示します.各試験体とも繰り返しによる耐力低下を引き起こさず,また,その後の載荷では剛性は低下したものの荷重が上昇し続け,層間変形角1/10まで大きな耐力低下は生じませんでした.なお,野縁受け方向の吊り長さ300mmの試験体は水平変位20mm付近の時点でわずかに荷重低下を引き起こしたため,載荷を途中で取り止めましたが,荷重低下後の荷重は上昇傾向でした.試験体毎に比較すると,剛性および耐力は,野縁方向の方が野縁受け方向よりも大きく,また,吊り長さ300mmの試験体の方が450mmに比べて大きい傾向でした.
 繰り返し載荷部分を拡大した水平荷重と水平変位の関係を図5に示します.吊り天井の設計において想定される最大の設計荷重2.0kN(=設計震度2.2G×天井重量0.9kN)に対しても,繰り返しによる荷重低下が生じないことから,本工法の耐震性能は高いことが分かりました.

表1 試験体一覧

図3 天井試験体(野縁受け方向加力)

図4 水平荷重-水平変位関係(全体)

図5 水平荷重-水平変位関係(繰返し載荷部拡大)

4.おわりに

 吊り長さの短い天井に対して鋼管による耐震改修工法の概要を紹介し,本工法の耐震性能が高いことを構造実験により明らかにしました.

<参考文献>

  • 1) 国土技術政策総合研究所,建築研究所:建築物における天井脱落対策に係る技術基準の解説(平成25年10月版),2013

執筆者:構造物技術研究部 建築研究室 清水克将
担当者:構造物技術研究部 建築研究室 山田聖治

局所的強雨における鉄道沿線の流出・氾濫影響評価手法

1.はじめに

 近年増加している短時間で局所的に発生する強雨によって,都市部において鉄道沿線の河川が氾濫し浸水する事象が懸念されています.そこで,本研究では,流出・氾濫解析を用いて浸水する箇所をリアルタイムに予測し,この結果を運行管理に利用する手法の開発を目指しています.本稿では,この手法の概要とその解析精度の検討内容について紹介します.

2.流出・氾濫解析モデルの概要と解析条件

 流出・氾濫解析の計算における一連の流れを図1に示します.まず,数値標高モデル(以下,DEMという)上に,断面形状を再現した河川をモデル化します.河川の流域は河川をモデル化することで定義され,DEMをもとにした地形の傾斜に沿って水が河川へ流れ込む範囲となります.この流域に任意の降雨を与えると,その雨水は分布型流出モデル1)により地形の傾斜に沿って対象河川に流れ込みます(①流域解析).河川への雨水の流入量から河川流量と水位を一次元不定流により逐次計算し,河川流量が増加して河川水位が堤防高を超えると越流すると判定します(②河川の解析).越流した氾濫水が地表面を流下し,拡散あるいは湛水する現象は二次元不定流解析2)によって求められます(③氾濫解析).

図1 流出・氾濫解析のイメージ図

3.高精度数値標高モデルによる計算事例との比較

 ここでは,過去に河川氾濫による浸水被害があった鉄道沿線を解析対象エリア(図2)とし,同エリアに図3に示す東海豪雨(H12年9月発生:総雨量589mm,時間最大雨量114mm)を作用させ,DEMのメッシュサイズをパラメータとした流出・氾濫解析を実施しました.解析結果の評価として,最もメッシュサイズの小さい条件の解析結果を現実に近い値と仮定し,この結果を基準としてメッシュサイズを大きくした場合の解析結果の差異を比較し,許容できる精度を検討しました.基準とした解析のメッシュサイズは1m(以下,1mメッシュという)とし,さらに実際の建造物等の高さを表現した数値表層モデル(DSM)を用いました(図4).
 図5に, 1m(基準),25m,50mおよび 100mメッシュの解析結果について図2中のA部分を拡大して示します.背景にグレースケールで表示している地形は全て1mメッシュのDEMであり,図中の赤破線は地形の高低差が大きい境界部分を示しています.また,図中には参考として同箇所の航空写真(Google Earthより抜粋)を示します.
 基準となる1mメッシュの結果をみると,建物と建物の間の道路,幅員の広い道路部分およびグラウンド等の範囲が浸水しており,最大浸水深1.0~2.0mの結果が広く分布しています.航空写真および背景に表示するDEMの形状と浸水範囲を比較すると,建物を考慮した浸水域となっていることが分かります.5mメッシュをみると,建物が考慮されていないことからその用地に浸水範囲が広がり,それに応じて最大浸水深は0.5~1.0mと浅くなることが分かります.しかし,河川を中心とする浸水範囲端部までの広がりの大きさとその形状は1mメッシュと大きな差はなく,全体の浸水範囲としてはほぼ一致する結果となりました.25mメッシュも5mメッシュよりも精度は粗くなりますが,ほぼ同様の傾向となりました.一方,50mメッシュ以上では土地が高いところまで浸水するなど,背景のDEMと矛盾する浸水範囲がみられ(図中B部分),また最大浸水深の分布もばらつきが顕著になっています.
 以上のことから, 1mメッシュの解析結果を最も現実に近い値と仮定した場合, 25mメッシュ以下であれば最大浸水深はやや浅めに評価されますが,浸水範囲は概ね一致することが分かりました.

4.まとめ

 本稿では,今回の解析対象エリアにおいて 1mメッシュの解析結果と比較して,25mメッシュ以下の条件では最大浸水深はやや低めに評価されるものの浸水範囲は概ね一致することを確認しました.
 本報告の内容の一部は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災技術の強化」(管理法人:JST)により実施したものです.

 本研究では,地中深く埋まる橋脚について,土被り部の地盤が橋脚の破壊形態に及ぼす影響を評価するとともに,免震構造を活用した地震対策法が有効に機能する土被り厚の条件について報告しました.本研究は橋脚諸元および地盤条件を仮定して行ったものであるため,今後は,橋脚諸元や地盤条件を変更した条件で検討を行い,これらの影響について評価していきたいと考えています.

<参考文献>

執筆者:防災技術研究部 地盤防災研究室 馬目凌
担当者:防災技術研究部 地盤防災研究室 渡邉諭,布川修

ベイナイトレールにおける白色層起因シェリングの予防削正に関する検討

1.はじめに

 車輪の空転や滑走に起因するレールと車輪間の摩擦熱により,レール頭頂面に硬くて脆い白色層(図1)が発生する場合があります.この白色層によりき裂が生じ,シェリングへと進展する可能性が考えられます.そのため,白色層の発生を予防することは,シェリング対策として極めて重要です.疲労層起因シェリングの抑制を狙って開発された摩耗促進型のベイナイトレールに近年,白色層の発生が確認されており,その抑制策としてレール削正が検討されています.先行研究で行った室内転動疲労試験より,ベイナイトレールにおける白色層起因シェリングの抑制策として,累積通過トン数7000万トンあたり0.1mm削正する方法1)が提案されています.しかし,営業線に敷設したベイナイトレールにおいては,過去に削正実績がなく,知見が乏しい現状にあります.  そこで本研究では,営業線に敷設したベイナイトレールにおいて,普通レールと同様のパスパターンにて削正試験および追跡調査を実施し,ベイナイトレールへの適用可能性について検討しました.その結果について紹介します.

図1 白色層起因シェリング

2.削正試験方法

 本研究では,スペノ社製8頭式レール削正車により,普通レールと同様の15パス(目標削正量:0.1mm)のパスパターンを適用し,試験を実施しました.試験箇所は,累積通過トン数は4100万トン,直線区間で白色層が発生している区間となっています.ベイナイトレールに適用した際のレール頭頂面状態について,①削正量測定(レール幅中心位置・レール断面形状),②頭頂面凹凸測定,③頭頂面粗さ測定,④頭頂面硬さ測定の4項目について測定し,ベイナイトレールの頭頂面状態を評価しました.

3.削正試験結果

(1)削正量測定
 軸心位置削正量測定器を用いて,レール幅中心位置における削正量を測定した結果,左レールは0.16mm,右レールは0.12mmであり,レール幅中心位置においていずれも0.1mm以上確保できていることを確認しました.また,削正前後のレール断面形状をMiniProfにより測定し算出した削正量測定結果を図2に示します.普通レールと同様のパスパターンでベイナイトレールを削正した結果,レール頭頂面全域にわたって目標削正量である0.1mmの削正量を確保できていることが確認されました.

(2)頭頂面凹凸測定
 図3にレール頭頂面凹凸形状をレール頭部の中心位置から長手方向に測定した結果を示します.削正前後における長手方向のレール頭頂面は,レール削正により局所的に存在していた微小な凹凸が除去できていることが確認されました.また,削正後のレール頭頂面には,局所的な凹凸は見られなかったことから,長手方向に対して一様にレール削正が実施されたと考えられます.

(3)頭頂面粗さ測定
 レール削正によって形成されたレール頭頂面の削正痕に対して,経時変化を追跡調査しました.図4に算術平均粗さ(以下,Ra)測定結果を,図5に最大高さ粗さ(以下,Rz)測定結果を示します.左右レールとも削正直後では,削正によってできた削正痕の影響により,RaならびにRzの値が高いことがわかります.一方,その後の列車通過によって削正痕は摩滅することから,RaならびにRzの値も減少しました.追跡調査より,照り面位置(GC10左・GC5右)においては,削正から3ヵ月後(累積通過トン数では約650万トンに相当)には,車輪の通過により削正痕はほぼ摩滅し,粗さ測定値が定常値になっていることを定量的に確認できました.

(4)頭頂面硬さ測定
 図6に照り面位置における硬さ測定結果を示します.削正前に行った硬さ測定より,試験箇所において発生した白色層の厚さは,白色層厚さ推定式1)より10~30μm程度であったと推定されます.試験箇所においては,深さ0.1mm削正していることから,削正前に確認された白色層は,完全に除去できたと考えられます.

4.おわりに

 本研究では,営業線のベイナイトレールにおいて,普通レールと同様の削正方法で削正試験を行い,レール頭頂面状態の測定結果から,ベイナイトレールへの適用可能性を検討しました.試験結果より,ベイナイトレールにおけるレール削正は,目標削正量を確保しており,レール頭頂面の状態についても問題ないことを確認しました.したがって,普通レールと同様の削正方法を適用できると考えられます.今後も継続的に追跡調査を実施し,白色層起因シェリングの抑制に努めて参ります.

<参考文献>

  • 1) 辻江正裕,兼松義一,松井元英,浦川文寛,名村明,陳樺:ベイナイトレールにおける白色層起因シェリングの予防削正手法の構築,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.21,No.21,pp.179-186,2017.

執筆者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 木村成克
担当者:鉄道力学研究部 軌道力学研究室 辻江正裕,陳樺
    材料技術研究部 摩擦材料研究室 西村英典,松井元英

正方形コンクリート充填鋼管柱の部材性能算定方法と設計プログラム

1.はじめに

 コンクリート充填鋼管(以下,CFT)部材の曲げ耐力,変形性能といった部材性能の評価方法に関する研究は数多く実施されており,地震時の照査方法が鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼とコンクリートの複合構造物)(以下,複合標準)1)に示されています.しかしながら,鉄道構造物を対象として実施されている研究の大半が円形断面に基づいたものであり,複合標準においては,CFT部材の変形性能の算定法は円形断面のみを対象として示されています.
 一方,矩形断面のCFT(以下,矩形CFT)柱については,円形断面のCFT(以下,円形CFT)柱よりも梁との接合がしやすいこと,また図1に示すような駅ビルなどの建築・土木一体構造においては,建築物の柱は一般に矩形(正方形)断面が多いことから,建築柱と土木構造物の柱の接合もしやすいことなど,施工性の観点から円形CFT柱よりも有利であると考えられます.
 ここでは,正方形断面のCFT(以下,正方形CFT)柱の部材性能算定方法の概略と,設計プログラムについて紹介します.

図1 建築・土木一体構造の例

2.部材性能算定方法の概略

 ここでは,複合標準に示されている円形CFT柱に対する評価法と異なる点について示します.

(1)損傷レベルの設定
 正方形CFT柱の実験の結果2),円形CFT柱と同様の損傷過程であることを確認しました.そこで,図2の複合標準に示された損傷レベルの設定を適用することとしました.曲げモーメントは,平面保持の過程を用いて算定を行っています.各損傷レベル限界点の算定方法については以下の通りとしました.

(2)損傷レベル限界点の評価方法

①損傷レベル1限界点(Y点)
 鋼管の応力-ひずみ関係はバイリニアとし,折れ点の応力は引張側,圧縮側ともに降伏強度としています.コンクリートについては,鋼管の拘束効果が円形CFT柱に比較して小さいことを考慮して,鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)(以下、RC標準)3)に示された応力-ひずみ関係を用いています.部材角θyは円形CFTと同様に算定を行います.

②損傷レベル2限界点(M点)
 塑性ヒンジ部の回転角θpmについては,円形CFTと同様に直接算定する式とし,正方形CFT柱の実験の結果から,式(1)を導出しました.パラメータは,幅厚比t/Bおよび軸力比N’/N’yとなります.

θpm=      (1)


③損傷レベル3限界点(N点)
 塑性ヒンジ部の回転角θpnについては,θpmに,M点からN点までの塑性ヒンジ部の回転角の増分Δθpを累加することで算定します.Δθpと各パラメータに顕著な相関は認められなかったため,ここでは実験の平均値Δθp=0.0129としました.

図2 CFT柱の骨格曲線と損傷レベル

3.提案した算定手法の精度

 前項に示した損傷レベルの限界点の算定方法を用い,実験値と計算値の比較を行いました.図3に,M点における算定結果の例を示しており,精度よく評価できていることが確認できます.表1に適用範囲を記載する.

図3 提案した算定手法の精度

表1 正方形CFTの非線形モデルの適用範囲

4.正方形CFT柱の設計プログラム紹介

 図4に設計プログラムの複合構造物における適用可能な部材を示します.鉄道構造物の断面性能照査支援プログラムVePPシリーズ,静的非線形解析プログラムJR-SNAPに,複合標準に準拠した,正方形CFT部材を追加しました.VePPについては2018年10月にリリースし,JR-SNAPについては近々にリリースする予定です.本プログラムが鉄道構造物の設計業務にお役に立てれば幸いです.

図4 複合構造物における適用可能な部材

<参考文献>

  • 1) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼とコンクリートの複合構造物),丸善,2016
  • 2) 網谷岳夫,池田学,井上佳樹,青木千里,山田正人:角形断面コンクリート充填鋼管柱における鋼管基部の伸び出しを考慮した変形性能評価法,鋼構造論文集,第96 号,pp. 1-15, 2017.12.
  • 3) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004

執筆者:構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室    土橋亮太
担当者:構造物技術研究部 コンクリート構造研究室  中田裕喜