施設研究ニュース

2019年3月号

線路下カルバートを対象とした施工事例分析に基づく部材寸法の傾向分析

1.はじめに

 近年,交通渋滞の緩和のための踏切の除却や河川氾濫防止のための河川改修などのリニューアルを目的として,線路をアンダーパスする地下構造物の建設が数多く実施されています.その施工事例は踏切道改良促進法(1961年)の制定から現在に至るまでの間で1200件以上に及び,今後も増加していくものと考えられています.この背景には,国土交通大臣が指定する緊急に対策が必要な踏切が数多く残されていること,近年の豪雨災害のために河川や水路の改修の要望が高いことなどがあります.
 そこで,本報では,設計の効率化に資する情報を提供することを目的に,鉄筋コンクリート構造かつボックス形式の線路下カルバート(図1)の施工事例に対して,部材寸法の傾向分析を行った結果を示します.

2.分析対象とした施工事例

 これまで,線路下カルバートの施工事例調査を1999(平成11)年度と2014(平成26)年度の2回にわたり実施し,構造形式や施工法,部材諸元等の詳細が確認できる339事例を収集しております(表1).このうち,ボックス形式であること,また,特殊な条件(鉄道との交差角が60°未満の場合あるいは杭付きの場合など)に該当しないものを選定し,189事例に対して傾向分析を実施しました.

3.傾向分析結果

 傾向分析では,線路下カルバートの部材厚と設計の与条件である内空幅,内空高さ,土被りとの関係を整理しました.以降では,これらのうち各部材で傾向が見られたものを示します.

(1)上床版厚の傾向

 内空幅と上床版厚の関係を図2に示します.線路下カルバートは,内空幅が大きくなるに伴い,同じ作用下でも上床版に発生する断面力が大きくなることから,一般には,内空幅が大きくなるに合わせて上床版厚は厚くなる傾向を示すものと考えられます.図2では,内空幅が3m以上の場合にこの傾向がみられ,0.8/10~1.1/10の範囲となる事例が大半を占めることがわかります.一方,内空幅が3m未満の場合には内空幅に関わらず100~300mm程度となっていることがわかります.

(2)側壁厚の傾向

 上床版厚と側壁厚の関係を図3に示します.線路下カルバートは不静定構造物であるため,上床版厚と側壁厚の比率が保たれているものと考えられます.図3では,上床版と側壁はほぼ同じ厚さとなっていることがわかります.

(3)下床版厚の傾向

 上床版厚と下床版厚の関係を図4に示します.下床版は上床版への作用と線路下カルバートの自重を地盤反力として受けるほか,地下水による揚圧力を受ける場合があるため,上床版と同等またはこれ以上の部材厚が設定されているものと考えられます.図4では,下床版厚は内空高が大きくなるにつれて上床版厚よりも大きくなることがわかります.内空高が3m以上では,ばらつきはありますが,下床版厚が上床版厚+100mmの事例が多くみられました.

(4)中壁の傾向

 内空高と中壁厚の関係を図5に示します.なお,この整理についてはボックス形状が1層2径間から1層4径間である66事例を対象としました.図5では,中壁厚は内空高によらず500mmの事例が多いことがわかります.

4.まとめ

 内空幅が3m以上の傾向をまとめると,収集事例では次のような部材寸法が多く設定されていることがわかりました.
①上床版厚=内空幅×0.8/10~1.0/10
②側壁厚=上床版厚
③下床版厚=上床版厚+100mm
④中壁厚=500mm

執筆者:構造物技術研究部 トンネル研究室 仲山 貴司
担当者:構造物技術研究部 トンネル研究室 岡野 法之

S型弾性直結軌道用の線ばね形レール締結装置の検討

1.はじめに

 鉄道総研が開発したS型弾性まくらぎ直結軌道(以下,「S型弾直軌道」)に適用するレール締結装置について,その基本的な特性であるレール締結装置のレール支持ばねおよびまくらぎ支持ばねは過去に開発したD型弾性まくらぎ直結軌道(以下,「D型弾直軌道」)と同一となっています.したがって,適用条件が同一であればD型弾直軌道用レール締結装置として性能照査を実施した板ばね形レール締結装置をそのままS型弾直軌道用レール締結装置として適用可能です.しかし,軌道の保守管理の省力化の観点から,近年鉄道事業者では弾性まくらぎ直結軌道の線ばね形レール締結装置のニーズが高まっています.このような背景をふまえ,鉄道総研では,S型弾直軌道への線ばね形レール締結装置の適用の可能性を検討してきました.本報告では,表1に示す軌道条件のS型弾直軌道において適用する線ばね形レール締結装置として選定したe1883形レール締結装置(座面式)について,軌道構造設計標準に基づく疲労破壊に関する安全性の照査を実施した結果を紹介します.

2.性能確認試験と評価

2.1 ふく進抵抗力試験

 図1にレール締結装置の外観を示します.線ばね形レール締結装置は,レールの高さとクリップの押え点高さでふく進抵抗力が決まります.そこで,最適な高さを求めるために,レール押え点高さを条件とするふく進抵抗力試験を実施しました.e1883形レール締結装置(座面式)の軌道パッドの厚さは当該レール締結装置で一般に用いられる10mmを使用し,レール押え点高さを調整する筒形インシュレータの設定ダイヤルを±0mm,+2mm,+4mmの3パターンに設定しました.図2にふく進抵抗力試験の状況を示します.本試験では表2に示した要領で試験用レールにレール長さ方向の荷重を載荷し,荷重とレール長さ方向の変位からふく進抵抗力を求めました.表3に試験結果を示します.ここで,直結系軌道におけるロングレール縦荷重の目標値である10(kN/m/軌道)より求まるS型弾直軌道の1締結当たりの必要なふく進抵抗力は3.75 kNです.したがって,筒形インシュレータの設定を+2mmにしたときに,必要なふく抵抗力の値に対して±20%以内に収まり,最も適切な値を得られることが分かりました.

2.2 静的載荷試験および動的載荷試験

 前節に示した締結状態,すなわち,筒形インシュレータの設定を+2mmとした場合のレール締結装置の疲労破壊に関する安全性の照査として,2方向の静的載荷試験および動的載荷試験を実施しました.性能確認試験の荷重条件は表1に示した条件および各種ばね定数等を鉄道総研が所要するFEMの非線形レール小返りモデルに入力して算定しました1).図3に試験の状況および算定した試験条件を示します.静的載荷試験において,締結ばねの発生応力および発生ひずみを耐久限度線図により照査した結果,いずれの測点とも第2破壊限度および第2へたり限度以内に収まっていました(図4).また,レール頭部左右変位量は,最大4.3mmであり,在来線軌道におけるレールの頭部左右変位量の設計限界値7.0 mm以下でした.
 また,動的載荷試験では繰り返し100万回の荷重載荷を実施しました.その結果,試験中にレール左右変位,上下変位,レール小返り角に顕著な変動はなく,100万回の載荷後に部材の外観確認を行ったところ顕著な異常は認められませんでした.
 以上の結果よりe1883形レール締結装置(座面式)は,S型弾直軌道に適用する線ばね形レール締結装置の要求性能である疲労破壊に関する安全性を満足することを確認しました.

3.まとめ

 本稿では,S型弾直軌道の敷設条件において,e1883形レール締結装置(座面式)が筒形インシュレータの設定を+2mmとしたときに適切なふく進抵抗力が得られること,および疲労破壊に関する安全性の照査を満足することを確認しました.なお,一部鉄道事業者において実軌道の急曲線部に適用された同形のレール締結装置で楔形インシュレータの摩滅が原因と推定される軌間拡大の事例が報告されていることから,本レール締結装置の適用区分については,適用する軌道条件と摩滅の発生の可能性の関連性を考慮しながら引き続き検討を進める予定です.

<参考文献>

1) 弟子丸将,玉川新悟,野口雅人:レール締結装置の性能確認に用いる荷重算定法の改良点,施設研究ニュース,No.322,2017.6.1.

執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 足立博哉
担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 弟子丸将

雪崩巡回時の着眼点

1.はじめに

 積雪地域では,融雪期に雪崩などの斜面災害が発生する危険性が高くなります.雪崩の発生要因には,素因である地形・植生条件と,誘因である気象・積雪条件とが挙げられます.雪崩発生の危険性を把握するためには,無積雪期に沿線の地形・植生の調査から雪崩が発生しやすい斜面を抽出し,冬期に積雪や気象状況の変化に着目して調査することが重要です.本稿では,雪崩が発生しやすい気象条件や積雪期の調査時期の着眼点について紹介します.

2.雪崩の分類と発生しやすい気象・積雪条件

2.1 雪崩の分類

 雪崩は,積雪層内をすべり面とする『表層雪崩』(図1 ①)と,積雪底面をすべり面とする『全層雪崩』(図1 ②)に分類できます.いずれも,滑動しようとする力(駆動力)がそれを妨げようとする力(支持力)を上回ったときに発生します1).表層雪崩の場合には,積雪層の間における駆動力と支持力との関係であり,全層雪崩の場合は,積雪底面と地表面との関係です.

2.2 雪崩が発生しやすい気象・積雪条件

 駆動力増加条件と支持力低下条件の主なものを表1に示します.
表層雪崩の主な発生要因として弱層(支持力低下)が挙げられます.弱層には,積雪表面に形成されるあられ層や表面霜層,積雪層内に形成されるしもざらめ雪層などの種類があります.これらの弱層は,支持力が小さいため,その上に多量の雪が積もったときに表層雪崩発生の危険性が高くなると言えます.ただし,表層雪崩は顕著な弱層形成がなくとも発生する場合があるため,短時間で多量の降雪があった場合(駆動力増加時)には注意が必要です.
全層雪崩は一般に積雪のグライド(滑雪)の結果として発生します.グライドは,地表面に接している積雪底面が融解し,水膜の形成等で滑りやすくなると起こるため(支持力低下),融雪の進行や降雨により積雪底面の含水率が増加するとグライド速度は速くなると考えられます.このため,平均気温が0℃を上回るような日が続いた場合や,降雨が記録されたときには注意が必要です.

3.雪崩巡回時の着眼点

 雪崩巡回時の着眼点について,ここでは3例を紹介します.

①雪庇の成長(図2 ①)

 雪庇の崩落が雪崩を誘発することがあります.雪庇の成長量は崩落の目安となるため,調査時には,成長の程度や崩落予兆(部分的に崩落しているなど)を観察することが大切です.また,線路沿線から見通せない斜面の稜線付近の雪庇は,ヘリコプターによる空中巡回等により十分に確認する必要があります.

②クラック(雪割れ目)の発生(図2 ②)

 斜面積雪のクラック(雪割れ目)は,斜面の積雪が下方にグライドすることで発生します.クラックの存在はただちに雪崩の発生につながるものではありませんが,斜面積雪の駆動力が支持力を上回っている状況にあると考えられます.斜面積雪のグライド量が一日あたり10~20cm以上となるとクラックが生じ,1~2m程度となると雪崩の危険性が高まるため,その変化に注意することが大切です.また,降雪の直後には一時的にクラックが目視できなくなったりする場合があるので普段からクラック発生位置を把握しておくことが重要です.

③雪崩対策工の埋没(まきだれ)(図2 ③)

 柵などの雪崩対策工が積雪に埋没している場合は,対策効果が望めないため,その状況を確認する必要があります.また,柵上部の“まきだれ”の落下は,雪庇の崩落と同様に,雪崩発生を誘発する可能性がありますので,その成長量にも注意が必要です.

4.おわりに

 雪崩が発生しやすい気象条件や巡回時の着眼点の一例を紹介しました.これらの条件がそろった場合に必ずしも雪崩の発生に至るとは限りませんが,こうした状況を日頃から把握しておくことが重要です.

<参考文献>

1) 日本雪氷学会北海道支部編(1991)『雪氷調査法』p.47, 北海道大学図書刊行会.

執筆者:防災技術研究部 気象防災研究室 佐藤亮太
担当者:防災技術研究部 気象防災研究室 飯倉茂弘,鎌田慈,宍戸真也
            塩沢雪害防止実験所 高橋大介