車両ニュースレター

2018年10月号

[クローズアップ]構造物ヘルスモニタリングと車両

1 振動測定による構造物の検査

 筆者が専門とする鉄道の施設分野では,振動測定による構造物検査手法が研究・実用化されてきました。走行列車などを加振源として構造物の振動を測定し,その振幅や固有振動数等を指標として,構造物の健全性を評価します。
 
 振動測定による構造物検査では,センサの設置・撤去に手間取り,高所や線路近傍の作業も要するので,我々は作業の効率化・安全化のために遠隔非接触測定技術を適用しました。非接触測定装置としてレーザドップラー振動計に着目し,屋外での大型構造物測定用に改良した非接触振動測定システム「Uドップラー」(図1)を開発しました。同装置は,レーザ照射で1m~100m程度遠方の構造物の振動を測定できます。

図1 UドップラーⅡ

2 鉄道橋の動的たわみと列車荷重

 図2のように,橋りょう下方に設置したUドップラーで,列車通過時の鉄道橋のスパン中央にレーザを照射して振動(速度)を測定し,その値を積分してたわみ(変位)を求めます。鉄道橋では,列車の乗り心地や走行安全性に関するたわみの限界値が,橋のスパン長,車両の種別・速度毎に規定されており,たわみ量の測定値と限界値の比較によって健全性を評価できます。
 
 図3に鉄道車両による活荷重の模式図を示します。列車が鉄道橋上を通過する際には,概ね一車両分の荷重が一定周期で鉄道橋に順次作用します。作用周期は車両速度で変化し,低速時には長周期,高速時には短周期になります。この作用周期が鉄道橋の固有周期に一致すると「共振」が発生する場合があります。

図2 たわみの非接触測定

図3 走行列車による連行荷重

 図4に示す2つのたわみ波形は,同一橋りょう上を同一編成の列車が異なる速度で走行したときのたわみ波形です。(a) 非共振波形が,橋上の車両重量による準静的なたわみ成分と,ほぼ一定値の衝撃振動成分の和であるのに対し,(b) 共振波形では,橋上に車両が進入する度に振幅が増大し,列車通過後も桁の上方へのアップリフトが生じて自由振動が継続します。共振現象は,列車の乗り心地や走行安全性,鉄道橋の劣化への影響が懸念され,早期の検出と対策が必要です。

 共振が発生すると,図5のように,橋りょうのスパン中央を先頭車両が通過するときより最後尾車両の通過時の方が車両の鉛直応答が増大します。この変化を先頭車両と最後尾車両で計測し,共振発生橋りょうを車上から検出する手法の研究にも取り組んでいます。

図4 鉄道橋の動的たわみの測定波形例

図5 共振発生時の先頭と最後尾車両の応答変化

3 おわりに

 構造物ヘルスモニタリングの分野では,荷重やセンサとしての車両の寄与に大いに期待しています。車両分野と構造物分野の効果的な連携によって,今回ご紹介したような車両を活用した構造物の評価や,逆に構造物モニタリングによる車両の評価も行えると考えています。安全な鉄道の実現のために,今後も協力・連携した技術開発を実施できれば幸いです。

鉄道力学研究部 部長 上半文昭

【研究&開発】駆動力変動による編成内の車体前後振動解析

1 はじめに

 鉄道は他の交通機関と比較して車輪 / レール間の転がり摩擦が小さく,エネルギー利用効率が非常に高いものの,滑りやすいという特性があります。ひとたび車輪が滑ると,そのままでは大きな駆動力や制動力を発揮できません。そこで,電気車では主に電動機回転速度や回転加速度情報を用いて空転・滑走を検知しており,これらを効果的に用いことで電車けん引力の向上を目指した空転再粘着制御方法が開発されています。
 
 一方で,列車の加減速中の駆動力や制動力の変動は,車両の前後振動を引き起こすことがあり,これと連成して生じるピッチング運動に伴う軸重変動によって粘着限界力が低下し,空転や滑走を起こすことが考えられます。電車けん引力の向上と編成内前後振動の低減を両立させる電動機制御法を構築するには,電気・機械系の振動を考慮しつつ,駆動力と編成内前後振動の関係を解明することが必要不可欠です。

 こうした検討に数値解析を活用すれば,車輪の空転や滑走など,現車では実施しにくい条件を模擬することができます。一方で,実現象の測定結果と比較して,数値解析結果の信頼性を判断することも必要です。
 
 鉄道総研では,自動連結器に作用する力(以下,自連力と呼びます)の検討を目的として,編成車両の上下・前後方向連成運動の数値解析手法が開発されています。今回の記事では,この数値解析モデルに変動する駆動力を与えた場合の車体前後振動加速度について,現車試験結果と数値解析結果を比較し,数値解析の有効性について検討した結果をご紹介します。

2 数値解析の概要

 数値解析では,鉄道車両の各部位を,図1(a) に示すように車体・台車・輪軸と車輪に分けて考えます。これらの部位をそれぞれ剛体(変形しない物体)として取り扱い,相互に1次ばねや2次ばねで結合することで車両モデルが構成されます。

 車両同士を繋ぐ連結装置モデルは,図1(b) に示すように連結装置を代表する集中質量とこれを挟む2つの緩衝器から構成されます。
例として,緩衝器変位±32mmの条件における緩衝器の変位・荷重特性を図2に示します。ゴム緩衝器の復元力はゴムパッドの圧縮変形による非線形ばね力が支配的であり,発生する力の大きさは緩衝器の圧縮や引張の行程に依存します。また,連結棒と緩衝器を接続する十字継ぎ手には取付公差があるため,これを考慮した隙間(以下,遊間と呼びます)を,力が発生しない領域として設けることで模擬しています(図2拡大図の原点近傍)。

 このような緩衝器の特性を解析上で再現することで,緩衝器の挙動を数値解析で表現することが可能となります。

図1 数値解析モデル

図2 緩衝器の変位・荷重特性

3 現車試験の概要と数値解析条件

 現車試験にて,図3に示す4号車を先頭とした4両編成の電車に,変動する駆動力を与えた時の車体前後振動加速度と自連力を測定しました。
 
 供試車両間の連結部には半永久連結器が使用されていたため,遊間は連結器と緩衝器間の十字継ぎ手取付公差に相当する全振幅約2mmが妥当と考えました。数値解析ではこれに摩耗を考慮し,原点近傍に2.2mmの遊間を設定しました。

図3 現車試験編成図

4 現車試験結果と数値解析結果の比較

 遊間有りと無しの場合の数値解析結果を現車試験結果と比較します。
 
 現車試験では,図4(a) に示す駆動力が各車両の駆動軸で測定されました。図の灰色網掛け領域では,意図的に1秒周期で変動する駆動力を2号車のみに与えています。この条件のもと,現車試験で測定された自連力波形を図4(b), (c) に灰色の点で示しています。なお0から1秒の間における現車試験3,4号車間の自連力が一定値(約5kN)となっていますが,これは試験開始直前に連結装置が引張状態になっていたためと考えられます。この現車試験の駆動力を車輪回転トルクとして用いることで数値解析を実施しました。図4(b), (c) では,遊間ありの場合となしの場合について,数値解析結果で得られた自連力波形を赤色と黒色の実線でそれぞれ示しています。数値解析結果を見ると,0秒から4.2秒(初めの自連力ピークが現れる時刻)に至るまでは自連力波形が現車試験と良く一致しているものの,遊間なしの場合の数値解析結果は,例えば図4(b) の6.5秒以降で自連力極大・極小値の生じる時刻について現車試験結果と差異が認められます。一方,遊間ありの場合は6.5秒以降も自連力ピークが現れる時刻について現車試験結果と数値解析結果が良く一致していることがわかります。
 また,図5は,図4と同じ現車試験と数値解析結果について,車体の前後加速度を各号車ごとに示したものですが,加速度についても遊間を設定した方が現車試験と一致する傾向にあることが確認できます。
 
 以上から,トルク変動に起因するような車体前後振動を数値解析で模擬する場合には,遊間を考慮することで数値解析結果と実現象が高精度に一致することがわかります1)。

図4 現車試験と数値解析結果の比較

図5  車体前後振動加速度の比較

5 おわりに

 現車試験と数値解析の車体前後振動解析結果を比較した結果,連結装置の十字継ぎ手部分の遊間を適切に設定することで,高精度に両者が一致することが確認されました。
 本数値解析手法を用いれば,車輪に入力される様々なトルクパターンに対する車体前後振動の予測が可能となります。

 今後は,本来の自連力検討のみならず,車体前後振動を考慮した電動機制御系の設計などに活用していきたいと
考えています。

 また,現車試験の実施に多大なご協力を賜りました,西日本旅客鉄道株式会社の関係各位にお礼申し上げます。

参考文献

1) 坂本,山下:「駆動力変動を考慮した編成内の車体前後振動シミュレーション」,総研報告,Vol.32,No.8,2018

車両構造技術研究部 車両運動 副主任研究員 坂本 裕一郎

【研究&開発】鉄道総研における燃料電池鉄道車両の開発

1 はじめに

 鉄道総研では,非電化区間を走行するディーゼル車両の代替や,電化計画区間・低頻度運行電化区間の架線レス化,最終的には通勤路線の架線レス化への活用を目的に,排気がクリーンでエネルギー変換効率の高い燃料電池と蓄電池を組み合わせてハイブリッド化した ,燃料電池鉄道車両の開発を行っています。

 本稿では , これまでに開発してきた燃料電池鉄道車両の課題と実用化に向けた開発状況について紹介します。

2 燃料電池鉄道車両の開発

 国内の鉄道では,全路線の約4割は電化されておらず,このような区間では主にディーゼルカーが走行しています。ディーゼルカーは,化石燃料である軽油を燃料とすること,排ガスや騒音・振動が大きいこと,またブレーキ時に回生動作が行えないなどの課題があります。これらの課題に対し,ディーゼル発電機,モーター,電力変換装置,蓄電池を搭載して回生動作を可能とし,燃料消費量の削減とエネルギー効率の向上,また排ガスや騒音・振動の低減を図ることを目的としたディーゼル・蓄電池ハイブリッド鉄道車両が開発され,いくつかの路線で実用化されています。しかし,将来的には化石燃料を用いず,再生可能な水素を燃料に用いて走行が可能な燃料電池鉄道車両の実用化が期待されています。

 燃料電池は,水素を燃料として,空気中の酸素と反応させて発電を行います。エネルギー変換効率が高く,また発電時のCO2排出がなくクリーンという特長を持つため,家庭用電源のか,自動車などの移動体用電源への適用が進み,市販化が始まっています。水素は,太陽光や風力のような自然エネルギーを使って,ほぼ無尽蔵にある水から電気分解によって生成することもで
き,水素を作るところから電車で使うところまで,トータルでCO2排出量をゼロに近づけることができます。

 以上の理由から,鉄道総研では2001年に燃料電池を鉄道車両に適用するための研究開発を開始し,2006年に燃料電池試験電車を構成して,所内走行試験を行ってきました(図1)。

 燃料電池鉄道車両の主回路構成について,図2に概要を示します。燃料電池鉄道車両は,燃料電池と蓄電池を組み合わせたハイブリッド電源を持ち,この電源の直流パワーを電力変換装置で交流パワーに変換して,モーターに必要な電気を送り車両を駆動します。加速時は,燃料電池と蓄電池からモーターに電力を供給し,減速時は,モーターで発電した回生パワーを蓄電池に戻して充電します。

 このように,ディーゼルエンジンに比べてエネルギー変換効率が高い燃料電池を用い,さらに蓄電池を併用して電力のリサイクルを行うことでエネルギー効率が向上し,ディーゼルカーに比べて省エネルギーとなります。

図1 車載した燃料電池により所内試験線を走行中の燃料電池試験電車

図2 燃料電池鉄道車両の主回路構成とパワーの流れ

3 実用化に向けた燃料電池プロトタイプ車両の開発

 鉄道総研では,燃料電池試験電車を用いて,これまで約10年間に渡る所内走行試験の中で,燃料電池や車両のエネルギー効率,燃費の評価1),また燃料電池の劣化評価2) を行い,おおむね,燃料電池が鉄道車両の電源に適用できる見通しを得ました。 

 しかし,開発当時,燃料電池は技術的に成長期で大型であり,車両床下への搭載は困難であったため客室内に搭載していました。したがって,実用化に向けて燃料電池を車両床下に搭載できる程度に小型化するとともに,通勤路線の架線レス化への活用も見据え,燃料電池の高出力化を図る必要がありました。

 そこで,勾配や走行距離などの走行条件に応じた燃料電池出力を算定するため,実在する路線条件の中から,平坦・短距離な線区条件と,急こう配・長距離な線区条件を選定し,エネルギーシミュレーションにより,それぞれの線区に求められる燃料電池出力を算出しました。この結果,平坦・短距離線区を電車並みの加速で走行するためには180kW程度が必要であり,急こう配・長距離線区では300kW程度が必要という目安を得ました。これをもとに,車両の艤装検討を行った結果,平坦・短距離線区を想定した180kWの燃料電池システムであれば,床下搭載が可能という結論を得ました。

 現在は車両の床下搭載が可能な小型・軽量の燃料電池などの開発を進めるとともに,従来は燃料電池と同様に客室内に搭載していた電力変換装置などの小型化にも取り組んでいます(表1,図3)。2019年度中に燃料電池プロトタイプ車両の構成と走行開始を目標とし,最終的に通勤路線の架線レス化への活用を目指していきたいと考えています。

図3 燃料電池プロトタイプ車両の構成

表1 燃料電池プロトタイプ車両の主な仕様

4 まとめ

 本稿では,鉄道総研における燃料電池鉄道車両の開発目的と開発状況について紹介しました。
 
 約10年間に渡る所内走行試験により,燃料電池が鉄道車両の電源に適用可能な見通しを得ました。また,エネルギーシミュレーションにより,平坦・短距離線区と急こう配・長距離線区でそれぞれに要求される燃料電池出力の目安を得ました。今後,実用化に向けて,客室空間を確保し,電車並みの加速が可能なプロトタイプ車両を実現し,技術的なステップアップを図っていきたいと思います。

参考文献

1)小川,山本,長谷川,古谷,長石,秦,燃料電池車両の開発,RRR,Vol.67,No.7,pp.2-5,2010
2)米山,山本,小川,構内走行試験による燃料電池の耐久性評価,鉄道総研報告,Vol.27,No.5,pp.47-52,2013

車両制御技術研究部 水素・エネルギー 副主任研究員 小川 賢一

【解説】トンネル内走行時の高速列車の変動空気力(下)

1 はじめに

 トンネル内走行時の高速列車の車体には左右方向の変動空気力が発生します。この変動空気力は車両動揺に影響し,新幹線の高速化においては乗り心地の面から重要な課題になります。トンネル内車両動揺を低減し快適な乗り心地を確保するため,現在までに,現象解明および低減対策に関する研究開発が実施されてきました。

 ここでは,主として空気力学的な側面について,この問題に対するこれまでの研究開発の経過と得られた知見を紹介します。
 
 本研究紹介は,前号と今号の2部構成となります。前号では,トンネル内車両動揺現象の特徴 (現車試験結果) について述べました。今号では,現象解明の研究について紹介します。

2 変動空気力の発生要因

 現車試験により,車両に加わる変動空気力の性質が明らかにされましたが,トンネル内走行時のみに生じる空気力はどのように発生しているのかという疑問は依然として残されたままでした。この回答を得るために,さまざまな検討がなされました。その主な検討例を紹介します。

(1) 車体の左右振動が車体側面圧力変動の発生に関係する可能性,つまり自励振動の可能性について検討されました。現車試験のデータ解析,回流水槽を用いた水槽実験,編成車両の運動解析,移動境界の流体シミュレーションが行われました1) 2)

(2) 走行模型装置が開発され,列車走行によるトンネル壁と列車との相対運動が忠実に再現された実験が実施されました3)。車両模型がトンネル突入時に形成される圧力波が再現されるとともに,車体側面の圧力変動が測定されました。

(3) 風洞実験による検討が行われました (図1)。風洞実験では,風洞測定部にトンネル模型と車両模型が設置され,車体側面の圧力測定が行われました。ここで測定された圧力変動は,現車試験で得られた圧力変動の性質を良く再現しており,この風洞実験は変動空気力の現象を実験的に初めて再現できた画期的なものとなりました。さらに,列車走行を模擬する三面ムービングベルト (移動地面板だけでなく左右の側壁の移動も模擬) を用いた風洞実験,HOゲージ (縮尺87分の1)の市販鉄道車両模型を利用した長大編成車両 (10両編成) の風洞実験,トンネルを車両近傍側壁に簡略モデル化した風洞実験などが実施されました。
いずれも,現車試験の圧力変動の特徴を良好に再現しており,その特徴をもとに現象解明が進められました。そして,トンネル内で左右振動加振された車両模型を用いた風洞実験が行われ,車両の振動によって生じる空気力は大きくないことが示されました4)。

(4) 風洞実験で把握することが困難な車両周りの流れ場は,流体シミュレーションによって検討されました (図2)5)6)。シミュレーションにより,車両床下付近で発生した渦がトンネル壁と干渉し,先頭から後尾車両に向かうにしたがい車両側面全体に拡がっていく様子が示されました。この渦の移流にともない車両に変動空気力が発生するという変動空気力発生要因の仮説が提案されました。

 流体シミュレーションによる検討は,最近のスーパーコンピューターを用いた大規模数値流体解析によって深度化が進められ,上記の仮説が導かれたときと比較して,より詳細な流れ場が観察できるようになりました7)。図3では,車両床下の左右方向流速と車両側面の上下方向流速の等値線 (コンター) を示しています。図中の赤または青の領域は,凡例に示す方向の流速を意味します。これにより,明かり走行時には車両床下で左右方向に蛇 (だ)行流れが生じること,トンネル内走行時には車両床下の蛇行流れが車両側面 (トンネル壁に近い側)にまで拡がること,この蛇行流れによって圧力変動が生じることが明らかになりました。 
 そして,蛇行流れの左右方向の振幅に相当する「車体幅 + 車体高さ」を代表長さとすることにより,車体側面圧力変動の周波数特性 (300km/h走行で2Hz程度の圧力変動発生) が説明できることが示されました。
 なお,流体シミュレーションによって示唆された車両床下の蛇行流れの存在は,移動地面板を用いた風洞実験 (図4) によって検証されました8)。

図1 風洞実験
(トンネル内の車両)

図2 流体シミュレーション
(列車側面に発達する空気の乱れ)6)

図3 最近実施された大規模流体シミュレーション
(蛇行流れを示唆)7)

図4 車両床下の蛇行流れを検証した風洞実験

3 変動空気力の低減法の提案

 風洞実験により,変動空気力を低減する車両形状の検討が行われました。風洞実験において変動空気力低減効果が得られた,車両側面下部に取り付けられたフィンについて,現車試験にて実際に設置しその効果が調べられ,フィンを取り付けることによって変動空気力が小さくなることが示されまし9)。

 フィンのような突起物を車両から出す方法以外も検討されました。基礎的な検討ではありますが,車両側面下部からトンネル壁に向かって水平方向に空気を噴出することで,車両まわりの流れを制御する方法が検討され,風洞実験で変動空気力が低減することが確認されました10)

4 今後の課題

 現在の新幹線の営業列車速度では,トンネル内車両動揺に対する乗り心地改善は車体振動制御技術により行われていますが,将来のさらなる高速化においては,変動空気力の低減も期待されます。

 実用的な変動空気力低減法の開発を進めるためには,低減法についての定量的な把握が必要となるため,営業列車の形状を忠実に再現した検討が求められます。

 また,車両周りの流れ場の詳細な情報は低減法開発のヒントを与えてくれます。そこで,流れ場を把握しつつ低減法検討が進められる手法となる流れの数値シミュレーションが有力なツールになると考えられます。今後,台車部の複雑形状などを再現できる長大編成車両の流れの数値シミュレーションの開発が重要な課題になります。

5 おわりに

 高速列車がトンネル内を走行するときに生じる変動空気力の研究を紹介しました。本研究の最新結果より,今まで知られていなかった,編成車両周りに生じる大規模な流れの構造が示唆されました。これは,トンネル走行時には空力動揺の問題に直結します。また,車両床下の蛇行流れは明かり走行時にも生じることが示唆されました。この大規模流れは鉄道車両の床下流れの問題 (例えば,圧力変動などの環境問題,台車への着雪の問題,床下流れの空気抵抗など) に関係する可能性が考えられます。蛇行流れ現象のさらなる知見の深度化を進めつつ,有効な対策法が提案されることが期待されます。

注)本稿は「RRR Vol.73 11月号」(2016.11発行)より「鉄道技術来し方行く末」の内容を一部編集したものです。

参考文献

1) Ueki,K.,Nakade,K. and Fujimoto,H.:Lateral Vibration of Middle Cars of Shinkansen Train in Tunnel Section,Proc. 16th IAVSD Symposium,1999
2) 佐久間豊,鈴木昌弘:トンネル内走行時の中間車両に働く空気力と左右運動の解析,鉄道総研報告,Vol. 20,No. 8,pp. 41 - 46,2006
3) 芳賀昭弘,舟木豊明,下村隆行:走行模型試験装置を用いた壁面に作用する圧力変動,第 8 回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,2001
4) Nakade,K.,Suzuki,M. and Fujimoto,H.:Interaction between Vehicle Vibration and Aerodynamic Force on High-Speed Train Running in Tunnel,Proc. 18thIAVSD Symposium,2003
5) Suzuki,M.:Computational study on flow-induced vibration of high-speed train intunnel,Proc. 7th International Conference on Flow-Induced Vibration,2000
6) 鈴木昌弘,中出孝次,井門敦志:トンネル走行中の車両に加わる変動空気力を減らす,RRR,Vol. 67,No. 5,pp. 10 - 13,2010
7) 中出孝次,佐久間豊:トンネル内を走行する鉄道車両周りの流れのLES,日本流体力学会年会講演論文集,2014
8) 中出孝次,井門敦志:鉄道車両床下の非定常流れに関する風洞実験,日本機械学会年次大会講演論文集,2015
9) 鈴木昌弘,中出孝次,井門敦志:トンネル内車両動揺の車両形状変更による低減方法,鉄道総研報告,Vol. 22,No. 5,pp. 45 - 50,2008
10)酒井健太郎,中出孝次,鈴木昌弘:噴流によるトンネル内走行中の鉄道車両に加わる変動空気力制御方法の基礎的検討,第16回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,2009

鉄道力学研究部 計算力学 主任研究員 中出 孝次