車両ニュースレター

2022年7月号

[クローズアップ]大型低騒音風洞建設から四半世紀

 鉄道総研が,鉄道の空力音,空気力学的諸課題の研究開発を目的として,滋賀県坂田郡米原町(現,米原市)に大型低騒音風洞(以下,米原風洞)を建設(1996年6月完成)してから四半世紀が経過しました。1990年代の始めは,国鉄が民営化された直後で,本州3社では今後の新幹線の高速化に向けた機運が高まっていた時代でした。高速化のためには,車両をはじめとして様々な分野で,克服しなければならない研究開発課題がありましたが,その一つが,列車の高速走行時に風を切ることにより発生する空力音の低減でした。空力音の実験には風洞そのものから発生する騒音(暗騒音)が低い風洞設備が必要でした。鉄道総研では,空力音の低減を含む鉄道の空気力学に関連する研究開発に寄与できる風洞の仕様を決定し,米原風洞を完成させました(図1)。
 米原風洞は,鉄道の研究開発のために特別に設計され,実験目的に応じて,開空間に風を吹かせる開放型測定部と,壁面で仕切った空間に空気を流す密閉型測定部の切り替えができます(図2)。開放型測定部は,最高風速:400km/h,大きさ:幅3m×高さ2.5m×長さ8mで,実機のパンタグラフの実験ができ,風洞の暗騒音は75.6dB(300km/h)と低く抑えられています。密閉型測定部は,最高風速:300km/h,大きさ:幅5m×高さ3m×長さ20mで,測定部が長く,また,車両の床下の流れを再現する装置を装備しています。
 車両の高速化において沿線環境を悪化させないための空力音低減の研究開発では,風洞内で車体や集電機器からの空力音を音源探査装置で測定することで,その音源や周波数を明らかにし,効果的な低減対策を効率的に開発できます。また,車両に作用する横風の研究開発では,風洞測定部内に車両(模型)とともに地上構造物を設置し,自然風を再現した風洞実験(図3)を実施することで,横風が車両におよぼす空気力を精度良く測定し,車両の安全な走行への取り組みに寄与しています。その他にも,安定的な集電を行うためのパンタグラフの揚力の研究や,高速車両の省エネルギー化に繋がる空気抵抗低減,空力ブレーキの研究開発など,鉄道に関わる様々な目的の風洞実験を実施してきました。
 米原風洞は,完成以来25年にわたり,大きなトラブルもなく,毎年200日を超える風洞実験を実施し,鉄道の研究開発に貢献してきました。完成から20年目の2016年には,心臓部であるモーターの更新を行うなど,常に風洞設備の維持メンテナンスを行うことで,安定的な稼働を続けています。今後も,鉄道の研究者がより良い成果を得られるように,また,その成果が鉄道事業者に活用頂けるように新たな計測方法の導入や数値計算とのコラボレーションなど,風洞自身が進化してゆくことで,鉄道の研究開発に寄与していきます。

図1 大型低騒音風洞の全景

図2 大型低騒音風洞の測定部

図3 自然風を再現した横風の風洞実験(密閉型測定部)

研究開発推進部 風洞技術センター 所長 井門 敦志

[研究&開発]列車走行時の窓開けによる車内換気量の評価

1 はじめに

 通勤型車両内の感染症対策のうち,「密閉」対策のひとつとして窓開けによる車内換気があります。窓を開ければ車内の換気が良くなることは経験的にわかっていますが,走行する鉄道車両の換気量に関する知見は多くはなく,車内の換気量を定量的に評価することが求められていました。
 そこで,走行時の窓開けによる車内換気量を予測できる数値シミュレーションツールを開発しました。また,各種条件下の換気量の計算結果を整理し,換気量の簡易予測式を提案しました。

2 窓開け走行時の流れの数値シミュレーション

 計算対象は,通勤型車両3両編成としました。車両モデルを図1に示します。換気量を評価する車両は2両目です。車内は,ロングシートと荷棚をモデル化しています。評価対象の2両目の窓は,左右それぞれ3箇所あり,窓幅を2.07mとしました。車両モデルは定員160人とし,乗車率50%は80人乗車,乗車率100%は160人乗車です。また車内には,空調機モデルを車両天井部に設置しました。空調機モデルは,2列のライン状の吹出口,その2列の吹出口の間に位置する送風機,車両の中央付近に位置する吸込口の3つで構成されています(図2)。なお,本研究における空調機モデルでは,車内の空気を循環する機能のみを有し,新鮮外気の導入は考慮していません。
 シミュレーションでは,計算領域を格子状に分割して流れを計算します。ここで用いた計算格子の分布は,車両近傍領域で格子間隔20mmの一様等間隔格子とし,車両から離れるに従って計算格子間隔が広くなる直交不等間隔格子(総計算格子数は約3億)としました。
 計算ケースのパラメーターは,列車速度(72km/h(20m/s),45km/h(12.5m/s)),乗車率(0%,50%,100%),空調機(なし,あり),窓開口高さ(350mm(窓開口面積4.26m2),170mm(窓開口面積2.04m2))としました。これらの組み合わせとして,各種条件変更に対する影響評価で必要と判断した合計10ケースを計算条件としました。
 流れの数値シミュレーションには,時々刻々と変化する車外および車内の空気の流れの様子を精度良く再現できる計算手法であるラージ・エディ・シミュレーションとよばれる方法を用いました。計算の実行には鉄道総研のスーパーコンピューター(CRAY製,XC50)を用い,1ケースあたり約9日間の計算時間を要しました。

図1 車両モデル

図2 空調機モデル(下向き風速(水色), 上向き風速(紫色))

3 車内換気量の評価方法

 流れの数値シミュレーションから得られる車内の空気の流れをもとに換気量を評価します。本研究では,車内の114箇所で1秒間に40個の仮想粒子(流れに追従する質量ゼロの粒子)を発生させて,車内の粒子の個数の時間変化を調べることで換気量を求めました。車内で発生させた粒子は車内の空気の流れに追従し,ある時間の経過後には,窓から車外に流出されます(図3)。この流出されるまでの時間が短いと換気がよいと評価できます。

図3 窓開けによる車内換気の様子

4 車内の流れの様子

 列車速度72km/h,空車,空調機なしの計算条件について,瞬時の流れの様子を図4に示します。図4(a)では,床面付近の水平面,窓開口部の水平面,車端付近の鉛直面における流速の大きさ,図4(b)では,車両幅中心の鉛直面における流速の大きさを示しています。これらの時間変化を動画で観察すると,窓から流入する流れは進行方向後ろ側の車端まで流れ,車端で床面に向かう下降流となり,床面付近では進行方向前側に向かう流れとなります。つまり,車内全体を循環する大きな流れが形成されます。このような流れは,混雑時の条件でも同様に確認できました。

図4 車内の流れの様子(列車速度72km/h, 空車, 空調機なし)

5 車内換気量の評価結果

 各種条件に対する換気量への影響は次の通りです。
(1)換気量は窓開口面積にほぼ比例する(図5(a))
(2)換気量は列車速度にほぼ比例する(図5(b))
(3)混雑度が換気量に及ぼす影響は大きくない(図5(c))
(4)空調機の気流が換気量に及ぼす影響はほぼない(図5(d))
 なお,シミュレーションにより得られた換気量は,実測値とおおむね対応することを確認しています。

図5 各種条件変更に対する換気量の評価結果

6 車内換気量の簡易予測

 シミュレーション結果より,換気量は,窓開口面積および列車速度にほぼ比例することがわかりました。また,車内の状況(混雑度,空調機の気流の存在)は換気量に大きな影響を与えないこともわかりました。そこで,換気量の簡易予測式として, 式(1)を提案しました。

 Q = α × S × U              (1)
(Q:換気量[m3/s], S:窓開口面積[m2], U:列車速度[m/s])

係数αは実測もしくはシミュレーションから決めます。参考までに,本シミュレーション(乗車率0%・空調なし) 結果から得られた係数は,α=0.026 です。
 換気量の予測例を次に示します。窓幅1.2m,窓開口高さ10cm,窓枚数6枚(1車両あたり)とし,列車速度70km/h で走行した場合を考えます。換気量の簡易予測式より,当該車両の窓開けによる換気量は0.36m3/s となります。そして,車内空気体積(ここでは,114m3)を換気量で割ることで,車内の空気が約5~6分に1回入れ替わるということが予測されます。

7 おわりに

 本研究により,走行時の窓開けによる車内換気量の定量的な予測ができるようになりました。つまり,車内の空気流の様子を含めた詳細な検討には数値シミュレーションを用い,換気量の概算値の予測には簡易予測式を用いればよいということになります。このような車内換気の定量的な知見は,鉄道利用者への安心材料の提供に活用できると期待されます。

参考文献

1)中出孝次ほか:列車走行時の窓開けによる車内換気量を評価する,RRR,Vol.78,No.9,pp.4-7,2021.

鉄道力学研究部 計算力学 室長 中出 孝次

[リポート]WCRR2022に参加して-in イギリス・バーミンガム-

1 はじめに

 2022年6月6日から10日までの5日間,第13回世界鉄道研究会議(13th World Congress on Railway Research,WCRR2022)がイギリスのバーミンガムで開催されました。今回この会議に参加する機会をいただきましたので,その概要を紹介します。

2 会議の概要

 WCRR は,1994年にフランス・パリで開催された第1回を皮切りに,2~3年毎に開催されており,今回で13回目となります。今回の会場はイギリス・バーミンガムの国際コンベンションセンター(The International Convention Centre, ICC)です(図1)。すぐ脇を運河が流れ,近くにはバーミンガム美術館が建つ,美しい街並みの賑やかな場所です。
 今回の会議の概要を表1に示します。今回の会期の前日までエリザベス女王の即位70年記念の祝賀行事があり,会期中も街の至るところにユニオンフラッグが掲げられていました。
 1日目の夜に会場ホールでウェルカムレセプションが行われた後,2,3,4日目には口頭発表形式もしくはポスター形式での個別セッションのほか,各日ともPlenary Sessionがパネルディスカッション形式で開催されました。また,個別セッションと並行してProfessional Growth Programme,Masterclassesという講座も開かれました。各セッション間や夜には参加者同士の交流を深める時間が多く設けられました。
 Plenary Sessionでは,鉄道の研究開発がどのように役立っているか,今後どのような研究開発が必要になるか,ポストコロナにおける鉄道の在り方の展望等についての議論が行われました。

図1 会場を運河側から望む

表1 会議の概要

3 セッション内容

 Professional Growth ProgrammeおよびMasterclasses,個別セッションの一部を紹介します。

3.1 Professional Growth ProgrammeとMasterclasses

 Professional Growth Programmeでは,バーミンガム大学, 英国鉄道安全標準化機構(RSSB),オックスフォード大学の産学連携コンサルタント企業OXENTIAの各組織により,研究を遂行するにあたって必要となるツールやテクニック等が紹介されました。Masterclassesは9講座開講され,筆者の参加したクラスはイギリスの鉄道業界の産学連携組織であるUKRRIN(The UK Rail Research and Innovation Network)が主催したものでした。この講座では,車両の振動抑制技術の開発や貨車の状態監視システム開発,営業車での軌道検測技術の開発等の取組みについて紹介されました。

3.2 車両関係のセッション

 車両関係のセッションは口頭発表形式,ポスター発表形式のいずれのセッションでも開催されました。一例を表2に示します。著者はポスター発表形式のセッションでボギー角操舵システムについての発表を行い,聴講者との意見交換を行いました。また,表2のうち「列車のブレーキと低粘着」,「車両の保守と設計」を聴講しました。「列車のブレーキと低粘着」では,滑走防止制御や落ち葉やレールの濡れ等に起因する粘着低下を再現するシミュレーションモデルの構築等に関する発表が5件ありました。「車両の保守と設計」では,車軸や車体の疲労寿命予測に関する発表が2件ありました。また,CBMや保守の省力化に関する発表は,車両分野に限らず多くありました。

表2 車両関係のセッションの例

4 テクニカルビジットについて

 テクニカルビジットは11コース設定され,筆者が参加したマクラーレン・アプライド・テクノロジーズのコースでは, F1で培われた最先端技術を他の業界に展開する取組みを紹介されました。
 バーミンガムからバスで2時間半ほど揺られ,まず訪れたのはロンドンの郊外にあるマクラーレンテクノロジーセンターです。ここには歴代のF1出場車やトロフィー,スポーツカー等が展示されています。また,マクラーレンの生産工場があり,全て受注生産という自動車製造の様子も見学しました。日本の自動化された自動車工場とは全く異なり,ほとんどの工程が人の手を介して行われています。マクラーレンでは現在,年間約3000台の車を生産しているそうです。
 テクノロジーセンターから数km離れたところにあるのが次の目的地,マクラーレン・アプライドです。ここでは,F1で培った技術を鉄道にどのように生かしているのか,解説がありました。F1に使用されている通信装置の例が示され,特に鉄道に応用できるものとして,レースで培った技術を生かした耐環境に優れたインバータやアクティブアンテナなどの説明がありました。鉄道の通信技術に対しても,マクラーレンの構築したプラットフォームを展開するとのことでした。

5 その他

5.1 イギリスの鉄道に乗車して

 現地滞在中にロンドン地下鉄の複数の路線に乗車しましたが,Mansion Houseという駅は職員が足りないため終日閉鎖していました。他にも運休や閉鎖中の駅の情報がたくさん掲示されており,定時運行で定評のある日本の鉄道との違いを感じさせられました。
 バーミンガム~ロンドンで乗車した特急列車(Avanti West Coast社が運行)は指定席でしたが,各座席にはどの駅から予約が入っているか常に表示され,空いている指定席には自由に座ることができます。事前予約チケットはQRコードで,自動改札機もしくは係員の端末で読み取ります。

5.2 エリザベスライン開業

 2022年5月24日,ロンドン地下鉄エリザベスラインが開業しました。エリザベスラインはヒースロー空港への直行便も運航しており,イギリス到着日にロンドン中心街へ移動する際に乗車したのはこのエリザベスラインの車両でした(図2)。ロンドン市内の交通機関はOyster Cardという共通IC カードでお得に利用することができます。現地で新規発行してみると,エリザベスラインの車両のシートの柄の特別なデザインのカードが発行されました(図3)。

図2 真新しいエリザベスラインの車両

図3 通常デザイン(左)と特別デザイン(右)のOyster Card

5.3 格段に進んだキャッシュレス社会

 イギリス社会は日本よりも格段にキャッシュレスが進んでおり,著者は現地滞在中に一度も現金を取り出すことがありませんでした。日本ではカードリーダーに差し込むことが多いクレジットカードも,イギリスでは非接触決済が主流となっており,タッチ決済対応のクレジットカードもしくはスマートフォンは必携です。

6 おわりに

 Covid-19が猛威を振るい,通常よりも煩雑な手続きを経ての海外渡航となりました。また,昨今の世界情勢により,航空機のルートが大幅に変更され,往路はアラスカ,グリーンランド経由(北回りルート),復路は中東経由(南回りルート)という,イギリス往復で地球を一周するものでした。航空機で過ごす時間が通常より長くなり,体力を要する出張となりましたが,約1週間有意義な時間を過ごすことができました。今後もこのような機会に積極的に海外発信ができればと考えています。
 次回のWCRRは,2025年にアメリカ・コロラド州で開催が予定されています。

車両技術研究部 車両運動 研究員 天野 歩

[研究室紹介]車両振動研究室

 車両振動研究室では,数Hz 以下の車両振動から数十kHz の車内騒音を対象に,車両に生じる振動や騒音を低減し,より快適な車内環境を実現することを目指して研究開発に取り組んでいます。
 振動低減に関する取り組みでは,効率よく振動を抑えて乗り心地を良くするために,車体の振動特性の解明が必要です。近年では,高速化などにともない,より高い周波数における車体振動が増加する傾向にありますので,高い周波数領域での車体の振動特性にも着目されることが増えてきています。車両振動研究室ではICT技術を有効活用した試験システムによる振動特性の解明や,得られた知見を活かした振動低減対策の開発にも積極的に取り組んでいます。
 また,振動低減対策を効率的に検討するには高精度な数値解析モデルが必要です。そのため,これまでにも車体や要素部品などに対し,有限要素法(FEM)モデルやニューラルネットワークモデルなど様々なモデル構築をしてきました。変位依存性緩衝ゴム1)やアクティブマスダンパ1)など,新たな振動低減デバイスの検討・開発の効率向上や性能向上に活用しています。
 制御により車両の上下振動を低減する取り組みも実施しています。これまでに可変減衰上下動ダンパを用いた上下制振制御システム2)を開発し,クルーズトレインなどで実用化しました。さらに,このダンパを高速車両向けにカスタマイズし,可変減衰軸ダンパと組み合わせることで,車体の弾性振動だけでなく,車体上下剛体モードやロールモードの振動を同時に低減させて,さらなる鉄道車両の乗り心地向上を目指しています。
 騒音低減に関する取り組みでは,車内の快適性に対する要求が高くなる一方で,車両の高速化・軽量化が進み,車内の静粛性の確保が難しくなりつつあります。車内騒音は,新幹線と通勤車両,また走行速度や走行区間によってもその特性が逐次変化することなど,騒音源や伝搬経路によりそれぞれ必要となる騒音低減対策が異なります。このような車内騒音を効率的に低減するためには,騒音源や伝搬経路,車内騒音に対する車内各部位の寄与度を正確に把握することが重要です。車内騒音特性を把握するとともに,吊り床構造3)のような床板からの放射音を低減する新たな床構造の開発や,透過音や車両搭載機器から発生する音を対象とした圧電材料を用いた騒音低減システム4)など,新しい対策法の研究開発も進めています。
 以上のように,車両振動研究室では振動特性の解明や騒音の特性把握から,車両や要素部品のモデル化,制振・制音デバイスや台車関連技術の開発などにも力を入れて取り組んでいます。また,最近では台車枠動的応力予測のような車両の保守省力化に寄与する研究開発も進めています。これらの研究開発は,鉄道総研内で保有している複数の試験車両や試験装置(図1)も活用しながら多角的に進めています。
(本試験設備の整備の一部は国土交通省鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました。)

図1 所内試験設備の一例

参考文献

1)瀧上唯夫,秋山裕喜,相田健一郎:車体上下振動を低減して乗り心地を向上する,RRR,Vol.77,No.5,pp.20-23,2020.
2)菅原能生,三宮大輝,宮原宏平,天野歩:1次および2次ばねの可変減衰ダンパを用いた鉄道車両の上下振動低減,第28回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集(J-RAIL2021),No. 21-72,講演番号SS1-3-3,2021.
3)朝比奈峰之,山本克也,石森章純,秋山裕喜:車内の騒音を低減する,RRR,Vol.73,No.4,pp.16-19,2016.
4)山本克也,朝比奈峰之:圧電材料を用いた車内騒音低減,RRR,Vol.62,No.12,pp.26-29,2005.

車両技術研究部 車両振動 室長 小金井 玲子

[研究室紹介]駆動システム研究室

 今年の4月に駆動制御研究室と動力システム研究室が統合されて駆動システム研究室となり,電気車・ディーゼル車の駆動システム全般を担当する研究室となりました。駆動システムという技術分野は幅広く,機械・電気・材料等の専門分野の様々な知識を融合させて研究開発に取り組んでいく必要があります。そのため,研究開発にあたっては,鉄道事業者やメーカーの皆様との連携や大学等の研究機関との共同研究を積極的に進めていきたいと思います。また,重点的に取り組む分野を選定して注力していきたいと思います。
 最近重点的に取り組んでいるのは,データ分析技術を駆使した駆動システムの状態監視や劣化評価の研究開発です。今後,鉄道をより少ない人数で運用するために,検査や保守の省力化,自動化,周期延伸等が必要となると考えられます。その一方で,ICT技術の進歩により,機器の動作時や検査時のデータを蓄積することが容易になっています。このデータを分析することで,駆動システムの状態監視や非分解での機器の劣化評価ができる可能性があります。そこで,駆動システム機器の専門知識とデータ分析技術を組み合わせた状態監視・劣化評価技術の開発を行っています。機械学習等の最新のデータ分析技術を取り入れることにも挑戦し,分解等を伴う機器の保守を極力減らしつつ,輸送の信頼性を確保するのに役立つ技術の開発を進めています。
 もう一つの重点的に取り組みたい分野としては,より高効率な駆動システムの追求があります。効率を向上することは地球環境問題や運用コスト削減の観点から重要です。また,一般に効率が高ければ発熱が少ないため,冷却用の設備や部品,通風による騒音を減らすこともできます。さらに,発熱による温度上昇が少なければ機器の劣化が進みにくく,機器寿命や信頼性の向上にもつながります。そのため,機器損失の実態把握やその低減のための設計・制御の研究に継続的に取り組んでいきたいと思います。
 また,構成機器を減らしたシンプルな駆動システムを実現できれば,それらの機器で発生していた損失が無くなり,高効率なシステムになります。さらに,車両の設計自由度が増すという利点もあります。そこで, 当研究室では,変圧器が無い交流電車(トランスレス),歯車装置の無い駆動システム(ダイレクトドライブ)等の研究開発も行っています。こういったハードウエアを大きく変える研究開発は多くのリソースと長い時間を必要としますが,そういったことに取り組めるのも鉄道総研ならではと思いますので,今後も研究開発を続けたいと思います。
 最後に,昔から継続的に取り組んでいる分野として,空転,振動・騒音,誘導障害,排ガスなどの駆動システムが発生要因で,可能な限り無くしたい事柄に対する評価手法・低減手法の提案があります。これらも引き続き重点的に取り組んでいくべき分野と考えています。
 駆動システムは基本的には列車を牽引して前進させるためのものです。研究対象の駆動システムと同様に,駆動システム研究室も鉄道技術の発展を牽引する研究室となることを目指していきたいと思います。

図1 駆動システム研究室の研究対象

車両技術研究部 駆動システム 室長 近藤 稔