第326回 鉄道総研月例発表会

日時 2019年01月16日(水) 13:30〜17:15
場所 東京 日本工業俱楽部 大会堂
主題 地震・防災技術に関する最近の研究開発

プログラムと発表内容

13:30~13:45
地震随伴事象に対する被害最小化に関する研究開発

地震対策としては、強震動に対する取組みが最も重要である。鉄道地震工学研究センターでは早期地震警報や耐震補強、地震情報の提供等多くの研究開発を行っている。最近では、地震随伴事象(地表断層変位や津波、複数回地震)による被害等が報告されている。地震随伴事象に対しては、未解明な部分も多いことから、現行の耐震設計では、明確な性能照査の対象としておらず、構造計画等により被害を最小化することが求められている。そこで、本発表では、地震随伴事象に対する取組みについて報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.9 「地震随伴事象に関する対策の研究開発動向」
 鉄道総研報告 Vol.31 No.7 「時間的・分野的にシームレスな地震対策の実現を目指した技術開発」

発表者
鉄道地震工学研究センター 研究センター長 室野 剛隆

13:45~14:05
地域係数を導入した震央距離推定手法の高精度化

現在使用されている単独検知点による震央距離推定手法では、震源・伝播・サイト特性の影響による推定のばらつきが存在する。そこで、P波警報の精度を向上させることを目的として、そのばらつきの主要因を理論と数値シミュレーションから分析し、主要因が地殻構造の不均質性にあることを明らかにした。地殻内不均質性の地域係数を導入した本手法は、従来法であるB-Δ法、C-Δ法と比較して、震央距離の推定精度が格段に向上することが示されたので、本発表ではその結果を報告する。
 鉄道総研報告 Vol.31 No.7 「P波伝播の地域性を考慮した早期地震警報の高精度化手法」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震解析研究室 副主任研究員 津野 靖士

14:05~14:25
構造物の耐震性能を考慮した地震時点検基準値の設定方法

各鉄道事業者では、地震後に点検の必要性を判断するため、地震の揺れの強度を表す指標に対してしきい値(点検基準値)が定められていることが多い。しかし、この値は一般的に過去の地震被害に基づき経験的に定められているため、構造物の耐震性能が考慮できない。そこで、高さ等のパラメータを変化させた構造物群と過去の観測地震動を用いて構造物の損傷評価を実施することにより、構造物が損傷する際の揺れの指標値(損傷下限値)を評価し、これに安全率を考慮することで、点検基準値を設定する方法を報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.9 「構造物の耐震性能を考慮した地震時点検基準値の設定」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 主任研究員 川西 智浩

14:25~14:45
大地震における表層地盤の応答評価手法

レベル2地震を対象とした構造物の耐震設計を行う場合、地盤の大ひずみ領域までの変形特性を適切に考慮した地盤応答解析を実施する必要がある。しかし、従来の変形試験では適切な変形特性が得られない場合がある。そこで、地盤の変形特性や液状化特性を適切に評価可能な土の変形特性試験方法を提案し、適切な地盤応答解析を実施可能とした。また、数値モデル化自体が不要なハイブリッド地盤応答試験装置も開発した。これらにより、大地震時の正しい表層地盤挙動評価が可能となったので報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.9 「耐震設計における適切な表層地盤応答評価法の構築」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 主任研究員 井澤 淳

14:45~15:05
鉄道構造物における危機耐性の定量評価法

「鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計(平成24年9月)」では、想定以上の地震に対しても破滅的な被害に繋がらないような性質として危機耐性を導入している。しかし、現状では、各鉄道構造物の危機耐性を定量的に評価する手法が存在しないため、危機耐性の対策を推進するにあたって、対策優先箇所の抽出や、抽出した箇所で行う対策項目の選定を定量的に実施できない。そこで、本発表では、各鉄道構造物に対して危機耐性を定量的に評価する手法を開発したので報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.9 「地震時の鉄道構造物における危機耐性評価法の構築」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震動力学研究室 副主任研究員 田中 浩平

15:05~15:25
危機耐性を高める自重補償構造および倒壊方向制御構造

将来発生が危惧される大規模地震に対して、破滅的な被害を防止する「危機耐性」が求められている。本発表では、危機耐性を向上させる具体的な構造として、大損傷時に桁を支持する自重補償柱を別途設け、完全な倒壊を防止する「自重補償構造」、および倒壊が生じたとしても、住居や復旧ヤード等の方向への倒壊を防止することで人命損失を回避しながら構造物の回復力を高める「倒壊方向制御構造」を紹介する。これらのコンセプトや載荷試験・解析による効果検証、既設・新設構造への適用を想定した試設計等を報告する。
 鉄道総研報告 Vol.31 No.7 「時間的・分野的にシームレスな地震対策の実現を目指した技術開発」
 鉄道総研報告 Vol.32 No.9 「高架橋の危機耐性を向上させる倒壊方向制御構造の振動台実験」

発表者
鉄道地震工学研究センター 地震応答制御研究室 室長 豊岡 亮洋

15:25~15:40
休 憩

15:40~15:55
気象災害対策に関する最近の技術開発

我が国の鉄道防災を進める上では、切迫する巨大地震と激甚化する気象災害、設備の老朽化、少子高齢化による就労人口の減少等の課題と向き合わなければならない。本発表では、これらの課題の実状を示した上で、鉄道総研で現在進めている雪氷災害、豪雨災害、強風災害、火山災害等を対象とした防災技術の開発状況について、その概要を報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.7 「自然災害対策の課題と取り組み」
 鉄道総研報告 Vol.31 No.5 「融雪期の斜面災害に対する管理手法」

発表者
防災技術研究部 部長 太田 直之

15:55~16:15
雪粒子の移動を考慮した降雪分布推定手法の開発

除雪作業等は、沿線の積雪や降雪状況や降雪予測をもとに要否を判断して実施されるが、降雪情報は、地上観測点も少なく、地上観測からきめ細かい情報を得ることが難しい。そこで、レーダーデータで得られる上空の降雪状況(降水強度)、上空での風の情報、また地上での気象観測データを用いて、上空や地上で風による降雪粒子の移動を考慮した降雪分布の推定手法を開発した。本発表では、開発したモデルについて紹介するとともに降雪事例の計算による再現性比較を行った結果についても報告する。

発表者
防災技術研究部 気象防災研究室 副主任研究員 宍戸 真也

16:15~16:35
局地的豪雨時の鉄道沿線の流出・氾濫解析の精度検証

近年の地球規模の気候変動により、短時間で局地的に記録的な豪雨が発生する事象が増加している。そこで本研究では、局所的豪雨の発生時を対象として、数十分から数時間先の気象予測値を外力条件として氾濫・浸水ハザードを推定し、この情報を運行管理にリアルタイムに利用する手法の開発を目指している。本発表では、ハザードの推定に用いる流出・氾濫解析手法の概要と、この手法を用いた場合の氾濫域の評価として許容できる数値地形精度の検討結果について報告する。

発表者
防災技術研究部 地盤防災研究室 主任研究員 渡邉 諭

16:35~16:55
事例研究に基づく大規模斜面崩壊の規模ならびに発生時の降雨量

近年、局地的な強雨による大規模な斜面崩壊が多発しているが、発生する可能性のある箇所を地形・地質条件からある程度予測することは可能になってきている。しかし、被害予測に必要な崩壊が発生するタイミングや崩壊規模を推定することは依然として困難である。本発表では、過去の大規模な斜面崩壊の事例を調査し、大規模な斜面崩壊の規模や、崩壊の発生と降雨との関係について検討した結果および今後の展開について報告する。
 鉄道総研報告 Vol.32 No.7 「事例研究に基づく大規模な斜面崩壊の発生規模および降雨量の検討」

発表者
防災技術研究部 地質研究室 主任研究員 長谷川 淳

16:55~17:15
老朽化吹付工の補修・補強工法

切土のり面には表面保護工として吹付工が施工されることがあり、近年、老朽化した吹付工の維持管理が問題となっている。吹付工の老朽化の原因には、吹付工自体の劣化、吹付工と背面地山の密着性の低下などが考えられるが、特に背面地山の風化を原因とする場合には斜面自体が不安定化しており、変状が生じて最終的に斜面崩壊に発展する可能性がある。今回は、背面地山が風化している老朽化吹付工に対して、吹付工自体の補修だけではなく地山の補強もできる新たな補修・補強工法について報告する。
 技術基準図書 「老朽化吹付のり面の補強工 設計・施工要領  − 吹付受圧板工法 FSCパネル −」
 RRR Vol.75 No.10 「老朽化した吹付のり面を補修する」

発表者
防災技術研究部 地盤防災研究室 副主任研究員 高柳 剛